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■女の子たちのウィンターカップ・激戦前夜(8)

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この日はクリスマス・イブであった。
 
旭川N高校の宿舎では夕食はフライドチキンでモンブランケーキ付きであった。シャンメリーで「メリークリスマス」と言って乾杯してから食べ始める。
 
「モンブランを選んだのは、山の頂点を目指して欲しいということね」
と宇田先生が言うと
 
「高校三冠目指しますからモンブラン3個下さい」
と絵津子が言い、お代わり用のモンブランを2個追加してもらっていた。不二子とソフィアも3つ食べたが、食が細い雪子などは「あんたたち良く入るね!」と言っていた。
 
フライドチキンは大量に揚げてあり、お代わり自由なので10本20本と食べている子もいた。
 
「これ残ったら明日の朝食べられますよね?」
「今の勢いだと残らないかも」
「じゃ今夜食べよう」
 
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などと言って、結局全て無くなってしまったようである。
 

千里は食事が終わった後、お風呂タイムとなった時間帯に宿舎の外に出て貴司に電話をした。ふたりの関係は現在「友だち」ということになってはいるものの、友だち同士電話するのは別にいいよね〜などという建前でふたりは頻繁に電話している。昨夜も「初戦前の緊張を解きたいから」などと言って電話したのだが、今夜は「クリスマスイブだから」ということで電話する。
 
「初戦突破おめでとう」
「ありがとう。まあ取り敢えずこれでBEST16」
「BEST1を目指しなよ」
「うん。頑張る」
「恋人じゃなくなったからセックスはしてあげられないけど」
「ふふふ。本当は私とセックスしたいんじゃないの?」
「あ、えーっと。。。」
「今夜は彼女とデートしなくてよかったの?」
「うーん。彼女とは別れるかも」
「『別れるかも』では私は動かないからね。私との仲を復活させたかったら彼女とちゃんと別れた後で言ってよね」
「そのあたりはまた改めて」
「そうだね」
 
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「今日はこちらはシャンメリーにフライドチキンにモンブランだったんだよ」
「去年も確かそんなこと言ってたね」
「去年は鶏の唐揚げに、ミルフィーユだったかな。努力を積み重ねて行こうということで」
「そういう理由付けもいいね。僕はチョコレートケーキ2個、ケンタッキーのオリジナルチキンを2本買って来て、千里の分を陰膳にそなえてから自分の分を食べた」
 
「陰膳って私まだ生きてるけど」
「旅行中の人の無事を祈って供えたりもするよ」
「あ、そういうものか。でもケンタッキーも食べたかったなあ」
「そちらに持って行けたら良かったのだけど」
 
と貴司が言った時、貴司は目の前にあったはずのケーキとチキンが無くなっていることに気づく。あれ〜? 僕いつの間に食べちゃったっけ??と考える。
 
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一方の千里は《こうちゃん》が千里にチキンとケーキを渡すのでびっくりする。
 
「あ、このケーキ、チョコレートの味がちょっと渋いね。少し洋酒も入っているみたい」
「そうそう。チョコレートがなんか本格的な味だと思った。 って千里、もしかして今そのケーキを食べてる?」
 
「まさか」
などと言いながら千里は《こうちゃん》が貴司のマンションから取ってきてくれたケーキを2〜3口食べて『美味し〜い』と思った。
 
貴司は深く考えないことにして千里とおしゃべりを続けた。
 

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貴司は夜7時過ぎに千里と15分くらい電話で話した後、火照った気持ちを落ち着けるべく、ベッドの中で裸になって(正確には千里と電話した時既に裸になっていた)アレをいじっていた。
 
もうこれが立たないことには慣れた。11月11日に千里と会った(?)時以来射精もしていない。しかし多分千里とする時はちゃんと立つし射精できるだろうという確信があった。立たないままずっといじっていてピークに向かわない気持ちの良さが継続するのも悪くないなという気分だ。貴司はこの感覚が女性の性感に似ていることを意識していない。
 
この日はチームの練習が休みなのできっちり5時まで仕事をした。しかし貴司が5時ジャストにそわそわした雰囲気で帰るので「クリスマスデートかい?」と同僚からからかわれた。実際には貴司はショートケーキ2個、ケンタッキーを2個とワインを買って帰り、千里の分を陰膳にして、ワインを開けて乾杯し、ケーキ1個・チキン1本を食べた。その後、千里からの電話を(絶対あると思い)待っている内につい裸になり「裸待機」していたのである。
 
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その後いつの間にか眠ってしまっていたのだが、10時頃、インターホンが鳴るので起こされる。ん?と思ったら例の彼女・芦耶である。
 
「ね、終電で帰るからちょっと入れて」
と言う。
「あ、うん」
と答えて、急いで服を着ると彼女を中に入れた。ケンタッキーの箱は見付からないように台所のゴミ箱に捨てる。
 
芦耶は赤いセーターに黒いロングフレアスカートを穿いていた。最初彼女を見た時、まるでサンタクロースみたい、と思った。
 
「これ仕事が終わった後買って来た」
と言って彼女はケンタッキーのスモークチキンを2本出す。
 
「これ買うの大変だったでしょう?」
「予約しておけば良かったんだろうけど、してなかったもんだから3時間待ちだった」
「わあ、たいへんだったね」
「ううん。私待つのには慣れているから」
 
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と言ってからテーブルの上に皿が2つあり、ひとつの皿にケーキを載せていた紙があるのも見る。
 
「例の女子高生と一緒にケーキ食べたの?」
「うん・・・まあ、一緒にというか」
「彼女はもう帰ったんだ?」
「そうだね」
 
「でもそこのパンティは片付けておいた方がいいよ」
と彼女が言うので見ると、千里のパンティが落ちている!
 
嘘!?僕こんなの持ち出したっけ?? (実は《こうちゃん》の悪戯である)慌てて拾って片付けてきた。
 
「彼女のだよね?」
「あ、うん」
「それとも貴司が穿いてたんだっけ?」
「いやそういう趣味は無い」
「貴司なら女装も似合いそうだけど」
「勘弁して〜」
 
「貴司が浮気症だってのは私もだいぶ認識できてきた。それでも私は貴司が好き。今もしかしたら、その女子高生が貴司にとっては本命なのかも知れないけど、本命ではない私の身体には手を出さない貴司の性格っていいなと思う。だから私は貴司が私を好きになってくれるまで待つから」
 
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芦耶はそんなことを言うと
 
「せっかくだから食べようよ」
と笑顔で言ってスモークチキンの箱を開けた。
 
その時、貴司は「この子、可愛い!」と本格的に思ってしまった。
 

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夜8時すぎ。札幌P高校の宿舎から、秋子・月絵のふたりがこっそり抜けだしていた。この日、P高校の宿舎でもクリスマスイブということでチキンとケーキが出たのであるが少しお腹がこなれてくると、「なんか食べ足りないよね」という話になったのである。
 
それで1年生の数人で「あみだくじ」をして、この2人が買い出し係になった。見付かると叱られるのは確実なので、そっと抜け出してコンビニを目指した。チキンを30個などと注文したのでコンビニでは揚げるのに待ってと言われて15分くらい滞在した。あまり時間がかかっていると、コーチに見付かる危険が高まる。それでやっと揚げあがったものを受け取りお金を払ってお店を出たあと、2人は気もそぞろに小走りに宿舎のほうに戻る。そして宿舎の前の道路を渡ろうとした時であった。
 
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「済みません」
という声が聞こえるので秋子はそちらを見た。
 
男性の声だったのでややドキリとしたのだが、見た感じきちんと背広を着ていて紳士的な感じ。こういう人なら大丈夫かなと思い、
「何でしょう?」
と尋ねる。
 
すると彼は、いきなりズボンを下げた。
 
お股に屹立するものが見える。
 
「ぎゃー!」
と秋子も月絵も叫んで、その男から逃げるように歩道を走る。そしてふたりがその場から5mも離れたとき、ズシン!という凄まじい大きな音がした。
 
ふたりは何が起きたか分からないまま、腰を抜かしてその場に座り込んだ。
 

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向かいのホテルから多数の人が飛び出してきた。
 
「何だこれは?」
「ひでー。門も玄関も無茶苦茶」
「軍手持って来てガラス片付けて!」
「怪我人は居ないか?」
と大騒ぎになっている。
 
秋子と月絵が腰を抜かしているのを見て
「あんたたち大丈夫?」
とホテルの人が声を掛ける。
「何とか・・・」
と言って、ふたりは助けてもらいながら起き上がった。
 
そこに高田コーチが出てきた。そしてふたりを見ると
「お前ら、なんでこの時間に外に出てるの?」
と言った。ふたりは目の前が真っ暗になった。
 

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『どうやってふたりをその場から逃がしたって?』
と千里は《りくちゃん》に訊き直す。
 
『他に方法を思いつかなかったんだよ』
 
千里はやれやれと首を振った。
 
『でも危なかったんだぞ。工事現場の大きな鉄骨が落ちてきてさ。ホテルの門とか街灯が完璧に破壊されていた。道路も一時閉鎖。当たっていたら即死だったよ』
『でもお疲れさん。占ってあげた人がその直後に事故死したら私も夢見が悪いし、そして何よりも秋子ちゃんは将来日本代表とかにもなれる素材だと思うしね。(江森)月絵ちゃんもプロになると思う』
 
『だけど同じシューターなら千里のライバルになるぞ』
『ライバルだからこそ生きててもらわなくちゃ』
『そのあたりの人間の心情ってのが俺はいまひとつ分からない』
『そうだね。あと1000年も生きたら分かるかもね』
 
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25日(木)。
 
この日、旭川からチアリーダーの人たちが来てくれた。インターハイの時は10人であったが、今回は16名来ている。それにバスケ部のベンチ枠外の子も7名現地徴用されてチアの衣装を着た。23名の応援団である。
 
「ん?」
と言って千里がチアの衣装を着た子のひとりを見る。
 
「昭ちゃ〜ん?」
「恥ずかしい。見ないで〜」
 
とチア姿の昭ちゃんは言う。
 
「見ないでといっても、この試合はどうせ全国放送されるんだけど」
「え〜!? うちのお父ちゃんが見たらどうしよう」
「自分の娘のチームの試合だもん。見るかもね」
「娘?」
「昭ちゃん、あんたお父さんの娘だよね?」
 
「あ・・・そうなるのかな」
などと言って昭ちゃんは真っ赤になっている。
 
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昭ちゃんはどうもこのあたりの心構えが未熟なようである。
 
そういう訳で現地徴用されてチアの衣装を着たのは、2年生の昭子・葦帆・雅美、1年生の一恵・鶴代・亮子・安純美である。
 
また撮影係として全試合を撮影しているのが2年生の来未・結里・司紗、1年生の智加・胡蝶・可穂子・愛実・耶麻都である。機器のトラブルが起きた時のために多くの試合を2人ずつで撮影している。
 
他に2年生の夜梨子と1年生の紫苑は客席に居る白石コーチと教頭先生・山本先生の傍に付いていて細かい雑用を引き受けている。
 
この分担を決める時、部長の揚羽は(撮影係は基本的には特に勉強してもらいたいメンツなので)最初昭子を撮影係にしていたのだが、志緒が昭子と司紗を入れ替えてしまったのである。理由はもちろん昭ちゃんにチアの衣装を着せてみたかったからである!
 
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