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■女の子たちのウィンターカップ・激戦前夜(4)

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「インターハイ2年連続BEST4のチームと聞いたから、少しはうちの選手たちを遊ばせてくれるかな?」
 
と向こうのキャプテン・簑島さんは言った。日本代表(A代表)にも何度も選ばれている人である。他に10番の背番号を付けている広川さんも昨年のアジア選手権では日本代表になった。
 
見ると人数が20人ちょっと居る。Wリーグのチームの登録人数は16人までなので、二軍の選手も若干連れてきたなと千里は思った。もっとも二軍の選手でも多分大学生よりずっと強い。
 
白石コーチが主審、靖子さんが副審をすることにして試合が始まった。ティップオフは向こうのセンターと揚羽で争うが、向こうがプロの貫禄でボールを確保して攻め上がってくる。
 
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しかし千里はこんなとんでもない人たち相手に第1ピリオドに出て行くメンツは最適だと思った。1年生の伸び盛りの3人が中核で、2年生の2人がそれをバックアップする。1年生の《新鋭三人組》は怖い物知らずなので、相手がトッププロと言っても、全く萎縮せずに戦っている。
 
向こうは様子見で若いメンバー中心で来たものの、彼女たちの顔が最初笑顔であったのが次第に厳しい顔に変化して行くのを感じていた。
 
絵津子がどんどん相手選手を抜いてはゴール下まで進入して得点する。相手がブロックしようとしても空中でうまい変化を見せてブロックをかいくぐる。
 
絵津子がハードタイプだとすれば不二子はむしろソフトタイプである。司令塔としてボールをうまく警戒の弱い所に供給するかと思えば自らもドリブルで切り込んでいきシュートする。そしてシュートするかと見せて絵津子や揚羽にボールを出したりするので、相手選手は不二子のそばに寄りすぎると他の選手にフリーで撃たれてしまう。
 
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そして彼女たちに警戒しすぎるとソフィアが遠距離砲で放り込む。ソフィア自身、スリーも撃てば中に飛び込んでいく展開もあるので、相手選手は先が読めないようで完璧に翻弄されてしまう。
 
第1ピリオド終わってみると、16対19と、なんとN高校がリードしていた。
 

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第2ピリオドはこちらも実質ボーダー組だし、向こうも先ほどより強い人たちが出てきたこともあり、試合はワンサイド気味になる。それでも紅鹿と耶麻都が競い合うようにリバウンドを取るし、智加は3本もスリーを決めることができたし、久美子は1度相手選手を2人も抜いてゴールを決めることができた。愛美も司令塔として頑張っていた。もっとも向こうはとても強いので点数としては30対18とダブルスコアに近い結果になった。
 
第3ピリオドでは、向こうは第1ピリオドとほぼ同じメンツで来た。どうも名誉挽回してこいということのようだ。しかし彼女らは最初永子のオーソドックスなゲームメイクに戸惑ったようであった。変幻自在な不二子、天性の勘でプレイする愛美とは全く違うタイプの基本に忠実なポイントガードなので、本当は最も対抗しやすいはずなのに「ここは当然変化してくるだろう」と思うところで変化せずに普通の動きをするので、相手は考えすぎで自滅してしまうのである。そして逆転出場を狙う結里・来未が必死にゴールを狙う。それで一時は8対14とこちらが大きくリードする展開もあったが、向こうもまた高校生に負けては自分たち自身の首がマジでやばいというので本気で反撃してくる。それで後半猛攻をして最終的には24対18で決着した。
 
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ここまでの合計は70対55である。
 

第4ピリオド、最初出てこようとしていたメンツを主将の簑島さんが呼び止めた。そして広川さんに「あんた行ってきて」と言ったようである。正ポイントガードの由良さんまで出てくるようである。もっとも主将の簑島さんや183cmの副主将・黒江さんなどはこの試合はベンチから様子眺めと決めているようで、結局最後までオンコートしないつもりのようだ。彼女らが出なければならないはめにならないよう広川さんにはピシッと決めてこいということなのであろう。
 
しかしキャプテンたちは入っていないものの、恐らくチームで次世代のトップを狙う選手たちだ。その人たちが最初から全開で来る。雪子も千里も相手から何度もボールをスティールされた。最初16対2などという物凄い点差になるのだが、ここからN高校は声を掛け合って体勢を立て直す。
 
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こちらの攻撃の時は暢子と千里がうまくコンビネーションで動いてディフェンスの穴を強引に作り出して中に進入する。リバウンドに関しては留実子はプロ相手に一歩も引かない。リングで跳ね上がったボールを上空でつかんでそのまま放り込んだりする。向こうのセンター稲原さんは180cm, 留実子も公称180cmだが本当は184cmあり、ジャンプ力も凄まじいので留実子は完全にゴールそばの空中を支配した。
 
また守備の時、相手は海音の所が明らかに穴であることをすぐ見抜く。そこでそこから攻めてこようとするのだが、N高校は逆に海音を罠に使った。そこから攻めて来ると、千里や雪子がきれいにスティールを決めたり、留実子が行く手を阻んだりする。
 
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そして千里はスリーを積極的に撃つ。
 
それで残り1分を切った時、24対16と8点差まで追い上げていた。由良さんがドリブルで攻めあがってくる。向こうはかなりマジである。雪子が突進してマッチアップ、と思わせて実は千里も同時に死角から迫っていた。千里の美事なスティールが決まる。
 
うっそー!という顔を由良さんがしていた。
 
千里はそのまま自らドリブルして向こうのスリーポイント・ラインの所まで行く。美しいフォームでシュート動作に入る。相手シューターの加茂さんが戻って来る。
 
しかし彼女は千里を邪魔しなかった。
 
千里のスリーがきれいに決まる。24対19.
 
千里のそばまで戻って来て手を出さなかった加茂さんがニヤニヤしながら千里を見る。千里はペコリとお辞儀をした。バスケットカウント・ワンスローを狙ったプレイだが、さすがにプロはこういうのには引っかからない。
 
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相手が速攻で攻めて来る。きれいに2点取る。26対19.
 
N高校側の攻撃だが、相手は強烈なプレスに来る。N高校はフロントコートにボールを進めることができず8秒ヴァイオレーション。
 
残り30秒でレッドインパルスのボールになってしまう。ややゆっくりとした攻めから広川さんが華麗にゴールを奪う。28対19.
 
残り9秒でN高校側の攻撃。千里から暢子へのロングスローイン。暢子がそのまま進入してシュートを放つも稲原さんにブロックされる。しかしこぼれ球を海音が飛び付くようにして確保。体勢を崩しながら留実子にトス。シュートするが入らない。落ちてきたボールを加茂さんがいったん確保するも、パスしようとした所を雪子がスティール。やっとこちらのコートまで走ってきたばかりの千里にパスする。
 
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千里はスリーポイントラインの所からシュートしようとする。近くに居た広川さんがブロックしようとするも、タイミングを外して撃つ。
 
直後にブザーが鳴った。
 
千里のシュートは入って28対22でこのピリオドは決着した。
 

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「98対77でレッドインパルスの勝ち」
「ありがとうございました」
 
「あんたら強ぇ〜」
と言って広川さんが最後に出ていた5人全員と笑顔で握手した。
 
「8割くらいマジになったね」
などと加茂さんも言っている。
 
まあさすがに本当の本気ではなかったのだろう。第四ピリオド最初の3分間を除いては。
 
「村山さん、あんた凄いね。3年生?」
「はい」
「大学進学?」
「一応」
「4年後に欲しい」
と広川さんは言うが
 
「むしろ来シーズンからうちに欲しいと思わない?」
と由良さんが言う。
 
「どこの大学行くの?」
「えっと千葉のC大学を受けようかと」
「バスケ部あったっけ?」
「関女の3部にいるみたいです。でも私、高校でバスケットは辞めるつもりなので」
 
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「嘘!?」
「いや、それはさすがに世間が許さん」
 
「私たちは村山がバスケットを辞める訳ないと言っているんですけどね」
と暢子が言うと
 
「うん、同意同意」
と広川さんも笑って言っていた。
 

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レッドインパルスのメンバーが康江さんと一緒に帰って行くが、教頭先生がそれに付いていった。おそらく食事か何かに連れていくのかなと千里は思った。
 
練習試合が終わった後は、少し自主的に練習しているように言われて、宇田先生・南野コーチ・白石コーチの3人は別室に消えた。各選手の評価を再確認しているのだろう。
 
3人は15分ほどで出てきた。3人とも厳しい表情である。激論したのではないかという雰囲気があった。
 
「ウィンターカップの選手登録ですが、先日提出したメンバー表の通りとします。入れ替えはありません」
と宇田先生が言う。
 
部員たちの間からため息が漏れた。
 
「ボーダラインの子たちはみんな頑張っていた。でも入れ替えなければならないほどの差異は認められないという結論に達しました」
と先生は補足した。
 
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恐らく単純にこの試合で見た評点だけでは逆転する者もあったのだろうが大きな差ではないとして入れ替えまでするほどではないということになったのだろう。コーチ陣としても本当に悩ましい所だ。
 

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夕食後千里は貴司と電話するのに宿舎の外に出ていたのだが、通話を終えて戻ろうとしていたら、ばったりと薫に出会う。
 
薫は誰か同年代くらいの女の子と会っていたようである。
「じゃ、また」
「うん、また」
と言って別れて彼女は帰っていった。
 
「ごめん、デートの邪魔した?」
「さすがに私は女の子には興味無いよ。ただの友だちだよ」
「あ、やはりそうだよね?」
 
薫はちょっと悪戯っぽい目をすると言った。
「もっとも今の子は男の娘なんだけどね」
「嘘!?」
「可愛かったでしょ?」
「うん。女の子だとばかり思った」
「でもあの子、いまだにカムアウトできずにいるんだよ。高校に男子制服を着て通っているし、実は昼間は女装で出歩く勇気が無いと言ってる。だから夜間外出しかしたことがないらしい」
 
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「夜間外出は危険だよ」
「うん。私もそう言うんだけどねー」
 

「今日の試合でさ、やはりコーチたちが揉めたのは結里と智加だよね?」
と薫は言った。
 
「そうなの?」
と千里は訊き直す。
 
「今日の練習試合で智加はスリーを3本放り込んだ。10分間に3本入れるというのは物凄い成績だよ」
「そうだっけ?」
「千里のスリーは非常識すぎるから比較の対象にならないけど世間的にはこれはとっても良い成績。しかもプロ相手に」
「ふーん」
「結里も2本入れた。たぶんコーチたちはこのどちらかを枠に入れるべきではないかというので揉めたんだと思う」
「・・・」
 
「結里は道大会には出ていたけど、実際問題として上位の試合ではほとんど押さえられてしまってあまり得点できなかった。スリーを撃ってもかなり外した。本人自身もこれまであまり練習には熱心じゃなかった。ところがこの1ヶ月で随分変わった。それが智加の成長のせいだと思うんだよ」
 
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「確かに智加は成長した」
 
「今まで千里という天才シューターの傍にいても、千里が偉大すぎるから目標とかにはできなかったんだよ。ソフィアはこの春から活躍してたけど純粋なシューターじゃない。いわゆるスラッシャーに近い。ところが夏過ぎから智加が成長して来て、今回晴鹿がきたことで開催したシューター教室でも智加は物凄く伸びた。それで結里も刺激されて負けるものかと頑張ったんだと思う」
 
「それはあるかもね〜」
「正直、結里は来年になったらレギュラー枠に自然に入れると思い込んでいたんだよ。そういう意味でも今回落とされたので目覚めたと思う」
 
「うん。人は挫折することで強くなるんだよ」
「まあ来年のインターハイ、正シューティングガードは当然ソフィアとして、2人目の座を巡る結里と智加の争いは激しいものになるだろうね」
 
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「私はそういうのよく分からないや」
「千里は無欲すぎるのが欠点なんだよ」
「そうかもね」
 
 
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女の子たちのウィンターカップ・激戦前夜(4)

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