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■女の子たちの夏進化(8)

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「だけど今日のセンターの子、ほんとにがっしりとした体格だったね」
「身長2m近くあったね」
「196cmらしい」
 
「ああ、あの子、元男の子だって」
「マジ?」
「正確には現在でも男の子らしい。手術はしてないから」
「うそ」
 
「でも心は女だから参加認めているんだって。市大会までは出られるけどエリア大会以上に出るには、手術して最低でも玉を取っちゃうことが必要らしい。あの子も20歳すぎたら即、玉は取るつもりらしいよ」
 
「へー。付いてても地区大会までは参加認めるんだ?」
「そのあたりの基準はけっこう国や地域で違うみたいね」
 
「ああ、その件だけど、こちらとしてはたくさん強い相手とやりたいから、ぜひ出してくださいと言った」
と高田コーチが補足する。
 
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「うんうん。こちらも歓迎」
 
「手術終えていても性別変更を認めない所もあれば、というか日本もほんの数年前まではそうだった訳だけど、本人が自分は女だといえば女だと認めてくれる所もあるみたいね」
 
「だけどその196cmの元男子センターに、うちのセンターは4人とも充分対抗していた感じがあった」
「うん、結構頑張ってた」
「3−4割取ってたよね」
 

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今回の第二次合宿・第三次合宿の間、特に雨宮先生から唐突に「明日までに曲を書いて」などという連絡が入ることは無かった。実際問題としてこの時期は雨宮先生はアメリカに逃亡中だったのである。
 
それでも初めての海外旅行に千里は大いに刺激され、この一週間、毎日1-2曲の曲を書いていた。多くはメロディーだけだが、歌詞まで自分で書いたものもある。《きーちゃん》にあちこちの写真も撮ってもらったので、その写真とメロディをもとにあとで蓮菜に歌詞を付けてもらおうと思った。
 
自分で歌詞まで書いた曲の中に『Rock'n Rocks』という曲があった。これは合宿の息抜きに《こうちゃん》と散歩した時に海岸に立ち並ぶ奇岩群を見て書いたものである。《きーちゃん》が写真も撮ってくれた。
 
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もうひとつ千里が歌詞まで書いたのは『メルボルンに吹く風』という曲でメルボルンに到着した時の印象を書いたものだが、この曲は後に『マルスに吹く風』と改題してKARIONの『大宇宙』というアルバムに収録されることになる。
 

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代表チームは毎日向こうの高校生チーム、大学生チーム、クラブチームなどと練習試合をやりつつ、基礎的な練習を重ねた。中にはかなり体格的な差のあるチームとの試合もあったが、そういう相手にこちらは主としてスピードと小回りで対抗していった。
 
合宿の初期の頃相手に体格で負けていた江美子も元々が強敵に出会うと燃える性格なので、慣れるに従って相手をうまく「動体視力で」交わして攻めていくようになった。コーチたちはやはり玲央美と江美子の2人をフォワード陣の核と考えているようで、江美子が外人選手相手に充分戦えるようになってきたのを見て、ホッとしていたようである。
 
シドニーには25日から28日まで滞在し、29日から3日間はメルボルンに移動して、そちらのクラブチームなどとの対戦をした。
 
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「どうもコーチたちの選手評価が微妙に変化してきてるね、ここだけの話」
とある日、玲央美は合宿所の部屋で千里に言った。
 
「私下がってる?」
と千里は訊いたが
 
「いや、ますます上がっている」
と玲央美は言う。
 
「協会も、千里や渚紗が、体格が大きくてフィジカルの強い外人選手相手にどのくらい実際に撃てるかというのを危惧していたみたいだけど、ふたりとも国内の試合と大差無い活躍しているから、やはりスリーというのが戦略の軸になってくると思う」
 
「玲央美は?」
「私は元々がセンターなのに、パワーフォワードあるいはスモールフォワードとして使う場合もある、とは最初から高田さんから言われていたんだげとさ」
「うん」
 
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と答えながら、なるほどー、玲央美の情報源は高田コーチなのかと思い至る。
 
「試合の状況次第ではポイントガードもやってもらうと言われている」
「こないだの合宿では、シューティングガードの位置にも入れられていたよね」
「要するに、私は便利屋ということのようだ」
「いや、12人しか使えない状況では、そういう便利屋さんが居ないと厳しい」
「N高校でいえば白浜(夏恋)さんみたいなポジションだよね」
「あの子は器用だから」
 
「フォワードでは桂華はたぶん代表入り確定したと思う」
「へー」
 
桂華は背番号的には補欠要員である。
 
「本人には言わないでね」
「誰にも言わないよ」
 
「でもそれでは誰を落とすかは悩ましい所だろうね」
「みんな凄い子ばかりだもん」
 
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「だけど全体的な傾向としては超強豪校の子の評価は下がり気味。私も含めてね。それほどでもない学校の子の評価は上がり気味。千里を含めてね」
「ふーん・・・」
 
「それほどでもない学校の子は、これまでその才能を充分に活かすハイレベルなチームメイトに恵まれていなかったんだよ」
 
千里は少し考えてみたものの、玲央美の言葉には直接返事ができないと思った。ただこう答えた。
 
「私、このチームでは上ばかり見ててあごが痛くなる感じだよ」
 
玲央美はまるで父のように大らかな雰囲気で微笑んでいた。
 

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この時期、東京の某スタジオでは、随分とメンバーに変動があったXANFASがやっとデビュー予定曲『さよなら、あなた』の音源制作をおこなっていた。
 
当初の4人、逢鈴・碧空・黒羽・光帆のうち、碧空は不満を訴えて脱退、黒羽は喉のポリープの手術を受けたものの、回復が遅れていて、30分歌ったら1時間は休むように言われている。日常会話にも結構困るので、いつも友人の由妃が付いている。そしてリードボーカルの逢鈴はParking Serviceに転出してしまい、歌えるのは光帆だけになってしまった。そこに新たなボーカルとして富山県から出てきた織絵が「音羽」の名前で加わった。
 
またプロデューサーである麻生杏華の意向で生バンドと組み合わせてのパフォーマンスをすることになり、Gt.織絵(音羽)、Dr.由妃、KB:黒羽というメンバーで伴奏をする。現在は音源制作段階なので、音羽はボーカルとギターの兼任だが、ギターと現在欠員になっているベースは適当な人物がいないか調査中らしい。
 
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取り敢えず現在はギターを音羽、ベースはスタジオ・ミュージシャンで鯛尾さんという30歳くらいの男性が弾いている。鯛尾さんはこれまで様々なアイドル歌手の制作やライブに関わっているということで、今回の制作ではけっこう麻生さんの相談相手にもなり、また若い光帆・音羽に歌い方のアドバイスなどもしてくれた。
 
なお、この時期光帆は音羽のことを
「思ったよりはマジメなタイプかな?」
などと思い、また音羽は光帆のことを
「思ったよりはとっつきやすいな」
などと思っていたらしい。
 

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千里たちのオーストラリア合宿は31日、メルボルンの女子高生チームとの練習試合で終了し、帰国の途に就いた。31日の夕方、いったん国内便でケアンズに移動し、そこから成田行きの便で帰る。到着は9月1日の朝である。
 
成田空港で解散式を行い、9日間の合宿を終了した。それで千里が玲央美と一緒におしゃべりしながら、羽田空港行きのバスの方に行こうとしていた時だった。
 
「そうだ。携帯のスイッチ入れとかなきゃ」
と言って電源を入れると、何だか大量にメールが入っている。その中に新島さんから「帰国したらすぐ連絡して」というのが何通もあったので千里は玲央美に断って電話してみた。
 
「おはようございます。村山です」
「千里ちゃん、今国内?」
「はい、さっき成田に着きました」
 
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「蓮菜ちゃんに聞いたけど、千里ちゃん、オーストラリア行ってたんだって?」
「はい。バスケの合宿だったんですよ」
「大変ね!実は千里ちゃんの帰国を待ってたのよ。私ちょっとアメリカまで行ってくるから」
「はい?」
 
「雨宮さんの仕事がたまってるし、あちこちから雨宮さんと打ち合わせしたいって話が来てるのに、電話にも出ないしメールにも返事しないからさ。千里ちゃんのおかげで所在は判明したから、毛利君を呼びに行かせたんだけど、あの馬鹿、うまく丸め込まれているみたいで、全く埒(らち)が明かないのよ。仕方ないから私が連れ戻しに行ってくる」
 
「それはお疲れ様です」
 
「それで帰国早々申し訳無いんだけど、あの風来坊と馬鹿を連行してくるのに一週間くらいかかると思うからさ、その間私の仕事の代行をしておいてほしいの」
 
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「へ?」
 
「日々私のメールアカウントとマンションのFAXに仕事の依頼が入るからさ。それをできそうな人に割り振って依頼を掛けて、それから納品されてきた楽曲をチェックして、内容次第では再提出要求、ちょっとした修正なら自分で直して発注元に送る」
 
「私には無理です!」
 
「他に頼れそうな人がいないのよ。(田船)美玲も(鮎川)ゆまも、今アルバム制作が佳境で全く余裕がないみたいでさ」
「私も学校があります!」
 
「そこを何とかお願い。今回は自分で曲を書くんじゃなくて、割り振りだけだからさ」
 
でも私、意図した相手に正しくメールを送信する自信無いよぉ。
 
と千里が心の中で弱音を吐いたら《きーちゃん》が助け船を出した。
『千里、私がやってやるから』
『ほんと?助かる!』
 
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「分かりました。何とか頑張ります」
と千里は答えた。
 
「ありがとう。千里ちゃん今から北海道に帰るんだっけ?」
「そのつもりでした」
「JR?飛行機?」
「飛行機です。10:40のエアドゥに乗るつもりだったんですが」
「第2ターミナル?」
「そうです」
「じゃ、羽田の第2ターミナルで会おう。資料関係渡すから。私はそのあと成田に向かう」
「ほんとにお疲れ様です!」
 

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9月上旬、大阪。
 
国体チームの練習に出た貴司は練習の観戦に来て知り合った女性と深夜のデートをしようとしていた。取り敢えずスタバで待ち合わせて、今夜はまずはお話しだけ。次回以降はひょっとしたら、ひょっとした展開もあるかも、などと考える。
 
千里のことは好きだし、つい先日もオーストラリアで投函した向こうのスタンプが付いた絵はがきをもらった。千里との再会を切望しているものの、なかなか実現しない。インターハイの時期に関東方面に仕事で行ったものの、さすがに選手規律上、自分が千里の宿舎などを訪れる訳にはいかなかった。そんなことをしているとまたまた浮気の虫が騒ぐのである。
 
(但し中学2年以降貴司は浮気の機会をことごとく千里に潰されているので、千里以外の女の子とのセックスどころかキスも経験していない。また貴司は風俗などに行く気にはならず、同僚から誘われても『俺フィアンセいるから』と言って断っている)
 
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激しい練習の後の身体が要求するので甘いコーヒーを飲みながら待っていたら、やがて彼女がやってくる。手を振ると向こうも手を振る。
 
「あ、もう注文してたのね」
「ごめーん。ちょっと疲れていたから、甘い物が欲しくて」
「ううん。私も注文してくるね」
 
と言って彼女は正面のカウンターの方に行った。どうも人が多くなっているようで、時間が掛かっている。貴司は携帯を取り出してメールをチェックする。千里から「もしかしたらウィンターカップに出ることになるかも」というメールが来ていた。へー、どういう経緯でそうなったんだろう?あとで電話してみるか、などと考えていた時、彼女がやっとカップを持ってこちらにやってくる。どうもフラペチーノを頼んだようである。
 
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彼女は最初貴司を見て笑顔を作ったが、次の瞬間、怒ったような表情になる。
 
「あんた誰?」
と貴司の隣にいる女性に訊く。貴司は彼女の視線に驚き自分の横を見ると、千里だ!?
 
「私、細川の妻ですけど、あなたは?」
と千里が答える。
 
「奥さんが居たの!?」
「あ、いや、そのこれは・・・」
と貴司は言い訳を思いつかない。
 
「ひどい。奥さんがいる癖に私を誘ったのね。しかも待ち合わせ場所にその奥さんを呼ぶなんて、私に恥を掻かせて楽しいわけ?」
と言うと、持っていたフラペチーノを貴司に向かって投げつけた。
 
「知らない!」
と言うと向こうに急ぎ足で行ってしまう。
 
ところが彼女が投げつけたフラペチーノが貴司に当たった後、隣の席まで飛んで行った。
 
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そちらの席に座っていた22-23歳くらいの女性がフラペチーノの直撃を受けて髪から着ていた服から、ひどいことになっている。
 
「すみません」
と言って貴司は彼女に謝った。
 
「あ、いえ。私がぼんやりしていたから。服は安物ですし」
と言う。
 
貴司は千里に
「ね、千里、何か拭くもの持ってない?」
と訊いた。
 
しかし反応が無い。え?と思って振り返ると誰もいない。貴司はカップが直撃した女性に尋ねる。
 
「今ここに女の子が居ましたよね?」
 
「え?おひとりだったと思いますが、今向こうに行っちゃった女の子以外は」
と彼女は返事した。
 
また千里の幻か〜〜!?と貴司は思わず天を仰いだ。そしてカウンターの方に行くと、お店の人に
 
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「すみません。フラペチーノを隣の人に掛けてしまって。タオルか何か貸してください」
と頼んだ。
 

柱の陰でこそこそと話し合う声があった。
 
『ねぇ、浮気を潰そうとして、別の浮気の種作ってしまったのでは?』
『ちょっと失敗。あんなに怒りっぽい女だとは思わなかったのよ』
『まあどっちみち、貴司君は千里以外の女性の前ではアレが使えないんだけどね。本人自身が無意識に暗示を掛けちゃったし、妹連合も、おまじないを掛けちゃったし』
 
『男の前では使える訳?』
『・・・・その事態は想定してなかった』
『貴司君、けっこう怪しいよ、そちら方面』
『でも貴司君ってどっちよ?』
『そりゃ受けでしょ』
『じゃアレは無くても良かったりして』
『・・・・いっそ取っちゃう?』
『無くなると性欲が消えて浮気もしないだろうけど、無いと千里が困るからな』
 
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