広告:オトコノ娘-恋愛読本-SANWA-MOOK-ライト・マニアック・テキストシリーズ
[携帯Top] [文字サイズ]

■女の子たちの夏進化(3)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

8月10日、千里は美輪子たちの市民オーケストラの定期公演に出演した。今回は「メイン・ディッシュ」は以前にも取り上げた横笛協奏曲『カムイコタン』の作曲者が書いた別の作品、組曲『サロルンカムイ』である。サロルンカムイというのはタンチョウヅルのことで、第1曲『ハラルキ(鶴の舞)』第2曲『チカップサイ(鶴の飛行)』第3曲『モコル(眠り)』という構成。その鶴の動きを表すのに布浦さんのピッコロと千里のフルートの二重奏を使用する。
 
千里は今回ずっとインターハイの練習に没頭していたので、オーケストラの練習には全く出られなかった。それでさすがにぶっつけ本番はまずいだろうということで、本番前に1回合わせてみたものの、きれいにかみ合って問題は無かった。
 
↓ ↑ Bottom Top

「優秀、優秀」
「じゃ千里ちゃんのラスト公演になる12月はメルカダンテをソロで吹いてもらうから、よろしくー」
「えーーー!?」
 
「あの曲知ってるでしょ?」
「知ってますけど自分で吹いたことはないです」
「知ってるなら吹けるよ」
 

↓ ↑ Bottom Top

それで幕が開き、演奏会は始まる。入りは50%くらいで、なかなか優秀である。前半は、今回はベートーヴェンの曲をダイジェストで演奏する。交響曲3番(英雄)、5番(運命)、6番(田園)、9番(合唱付き)の有名な部分だけ取り出して演奏し、そのほか、『ヴァイオリン協奏曲ニ長調』のさわりだけ、『月光』『悲愴』『エリーゼのために』などのピアノ曲をオーケストラに編曲したもの、などを演奏した。
 
休憩をはさんで組曲『サロルンカムイ』を演奏する。布浦さんと千里が主役であるが、前半と違って観客のほとんどが聴いたことのない曲なので、睡眠客多発である。それで最後に『ソーラン節変奏曲』を、千里の篠笛をフィーチャーして演奏し、観客を起こした所で終了した。
 
↓ ↑ Bottom Top

後半寝ている客が多かったにもかかわらず、律儀にアンコールが掛かる。それで今回はヴァイオリンの演奏者で最も若い大学生の女子が出て行って『美しきロスマリン』を弾いたのだが、更にアンコールが掛かる。
 
「誰が出て行く?」
「やはりここは千里で」
 
やれやれと思ったが、龍笛を持って出ていく。そして先日、龍虎君を連れて群馬から仙台・青森まで飛行した時に「ウイタエ」で吹いた曲を演奏した。但し少し追加している。それは龍虎の手術成功を喜んで後から吹いた部分である。
 
例によって落雷があった。そして演奏が終わると物凄い拍手が起きた。
 
「千里、その曲は初めて聴いた。なんて曲?」
「Aqua Vitae」
「誰の曲?」
「こないだ私が作った曲です」
「すごくきれい。譜面もらえない?私も練習してみたい」
「すみません。まだ譜面は書いてないです」
「それはぜひ書かなきゃもったいない」
「そうですね。書いておこうかな」
 
↓ ↑ Bottom Top

「念のため録音しておいたから、分からなくなったらこれ聴くといい」
と言って、チェロの人がICレコーダを渡してくれたので、千里はいつも持ち歩いているパソコンにコピーさせてもらった。
 
「『アクア・ウィタエ』って、生命(いのち)の水ってこと?」
「そうですね」
 
と言いながら、あれで龍虎は寿命が延びたんだもんなあと思う。
 
「それって水銀のこと?」
「水銀もそう言うんですか?」
「どうだろう? ラテン語で《生きてる銀》argentum vivum、フランス語でもvif-argentというけどね」
「水銀って不老長寿の薬とみなされていたらしいですよね」
「それで権力者が長生きしようと水銀を飲み」
「それで水銀中毒になって死ぬ」
「よくあるパターンですね」
「現代でも健康のためなら死んでもいいという人いるし」
「それはちょっと違う気がする」
 
↓ ↑ Bottom Top

「あ、ブランデーのことを生命の水(*1)とも言いますよ」
とひとりが言う。
「確かにお酒を飲んで、生き返ったとか言う人もいる」
 
(*1)フランスでは二重蒸留方式で作った純度の高いブランデーをeau de vie 生命の水と言う。
 
「そういえば少し酔ってるような感じの楽しいフレーズもあったね」
「千里ちゃん、お酒飲んでないよね?」
 
「取り敢えず法令遵守で。実は先日、インターハイで埼玉に行った時、難しい手術を受ける男の子と知り合って、私たちみんなで励ましたんですよ。それで無事手術が成功したので、これは危機に陥るものの、助かるというストーリーの曲なんです」
 
「ああ、ハッピーエンドだなと思った」
「最後の方、凄く明るい音の響きで終わってたよね」
 
↓ ↑ Bottom Top

「でもその子、助かって良かったね」
「はい」
 
ちんちん無くなるぞと脅して、頑張らせたなんて言えないよね?
 

↓ ↑ Bottom Top

 
8月11日-12の2日間、正確には10日の夕方から13日朝までの約60時間は、旭川近郊の少年自然の家で国体チームのミニ合宿を行った。千里はオーケストラの公演が終わるとそのまま美輪子の車で少年自然の家まで送ってもらった(他の子はこの日の午後に送迎バスで先に入っている)。
 
この合宿の目的にひとつは、やはり寄せ集めチームなので連帯感を改めて深めておくことという感じであった。部屋も違う学校の子同士を同室にしていた。
 
千里は溝口麻依子(L女子高)・中嶋橘花(M高校)・日枝容子(R高校)と同室になったのだが・・・・
 
「前から確認しておきたかったんだ。千里ちゃんの性別問題」
と容子が言い、
「よし解剖してみよう」
と橘花が言う。
 
↓ ↑ Bottom Top

取り敢えず自主的に全裸になった。
 
「確かにちんちんは付いてないね」
と容子。
 
「付いてたら大変だよ」
と千里。
 
「全裸にしてみると、体つき、筋肉の付き方が確かに女子だというのがよく分かる」
と橘花。
 
「今回もインターハイ前に病院で検査を受けさせられたからね」
「大変だね」
「内診とかもされたの?」
「された。あれ何度やられても恥ずかしいよ」
 

↓ ↑ Bottom Top

そして合宿が終わった8月13日。千里たちはN高校のバスを使用して札幌市に向かった。このバスには定員に余裕があるので、この日の朝招集された男子チームも同乗した。
 
「えー?女子チームは合宿までやってたの?すげー」
とB高校から国体チームに参加した鞠古君が驚いたように言う。
 
「鞠古君、留実子から聞いてなかったの?」
と千里が尋ねる。
 
ふたりはちゃっかり並んで座っている。
 
「別に話す必要も無いし」
などと留実子はつれない。
 
「俺なんか昨日の夕方、国体予選に行ってきてと言われたのに」
と鞠古君。
 
「私たちも昨年はそうだったね」
と暢子。
 
「俺は前々から言われていたから、インハイの予選が終わった後もひとりで練習してたけど、女子みたいなチーム練習は無かったな、男子は」
と(N高校)の北岡君が言う。
 
↓ ↑ Bottom Top

「今年は6月にチーム結成して毎週合同練習をしてきたんだよ。5日以降は毎日午後から8時間くらい練習してたよ」
と千里。
 
「すげー!!」
「だって札幌チームは私たち以上にやってるよ。間違い無く」
「お前たち、本当に勝つ気でいるな」
「当然」
 

↓ ↑ Bottom Top

今年の国体の、少年男子・少年女子予選は、札幌市の美香保体育館(旧美香保屋内スケート場)と江別市の江別市民体育館を会場にして行われる。出場チームは男女とも14チームで旭川選抜と札幌選抜が男女ともシードされているので、試合は午後2時・美香保体育館での2回戦からである。(2面取られたコートで同時スタート)
 
千里たちの相手は留萌選抜を破って勝ち上がってきた北空知(深川市周辺)選抜であった。
 
「薫、深川市に住んでいるんでしょ?知ってる子とかいる?」
「私は去年まで東京にいたから」
「あ、そうか」
 
何人か道大会で見たような顔もあったが、実際対戦してみるとそんなに強い選手は含まれていなかったようであった。適宜交代しながら試合を進めて128対38で快勝した。
 
↓ ↑ Bottom Top

男子の方も北岡君たちのチームは南空知(夕張市や岩見沢市など)選抜に勝って、女子と同様明日に駒を進めた。
 

↓ ↑ Bottom Top

札幌市内のホテルに泊まり翌日の試合を迎える(男子はN高校のバスで旭川まで帰って自宅で寝て、また翌日朝からN高校のバスに乗り出てきたらしい。何だか男女で予算が違う!)。
 
この日は準決勝になるが男女とも会場は江別市民体育館である。先に女子の試合が行われたが、対戦相手は釧路選抜。顔を見ると半分くらいが釧路Z高校の選手である。キャプテンも松前乃々羽だ! 彼女はこちらの顔を見ると
 
「ダブルスコアで勝たせてもらうからよろしく」
 
などと言っていた。どうも千里や暢子の顔を見ると燃えるようである。
 
試合はかなり激しい戦いになった。序盤から点の取り合いである。一時は向こうが8点リードする場面もあったが、点差を付けられて薫にスイッチが入ったようで、176cmの長身を活かした空中戦でどんどん点数を重ねてあっという間に逆転。最後は89対87の1ゴール差で辛勝した。
 
↓ ↑ Bottom Top

試合終了後に握手した後、松前さんが薫にハグを求めたので薫も応じたのだが、松前さんは薫に抱きついたあと、いきなりお股に触った。
 
「ちょっ! 何するの?」
「やはりちんちん無いのか」
「なんでー!?」
「ちんちんある奴に負けたのなら不愉快だけど、ちんちん無い奴に負けたのならやはりわっちの修行不足だから、またウィンターカップに向けて頑張る」
「うん。頑張れよ。私は出てこられないだろうけど」
と薫が言うが
 
「留年して出ない?」
と松前さん。
「留年確実なほど赤点取ったら部活禁止されるよ!」
と薫は答えていた。
 
しかし松前さんと再度握手してこちらに戻って来た薫に暢子が訊く。
「やはり薫、もうちんちん無いのか?」
「ごめーん。そのあたりは内緒で」
「こないだまでは、あるけど隠していると言ってたけど、内緒でというのは、つまり無いんだ?」
「個人情報保護法で」
 
↓ ↑ Bottom Top


↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8 
女の子たちの夏進化(3)

広告:ジョそぉ部。クロマメオトコの娘作品セレクション (おと★娘シリーズ6)