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■女の子たちの夏進化(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-04-10
 
インターハイが終わった8月3日、千里は留萌に住む、貴司の母・保志絵さんに連絡を取った。
 
「お盆なのに、国体の予選があるので礼文島に行けないんですよ。代わりにお花か何かでも送ろうかと思うのですが」
「わざわざ気にしてくれてありがとう。どうせ貴司は何やらサマーキャンプとかで来られないみたいだし、いいのよ。それより、千里ちゃんインターハイ3位おめでとう」
「ありがとうございます。今年が最後だし、今年こそは優勝したかったんですけどね」
「いや、3位は充分立派な成績だよ」
 
保志絵さんは、せっかく東京方面に居るのなら、虎屋の羊羹でも送ってくれる?という話だったので「細川貴司・千里」の名前で礼文島の本家に虎屋の羊羹を30本どーんと送っておいた。若い人が多ければ東京ばな奈あたりが好評なのだが、年寄りが多いと羊羹のほうが受けは良い。代金は5万円を超すが
 
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「あとで貴司からぶん取るからその分のお金、私から千里ちゃんにあげるね」
ということで、こちらの口座に手数料込みと言って6万円振り込んでくれた。
 
注文する時にお葬式の時のお花に続いて「細川千里」の名前を使ったが、次に彼と会えるのはいつだろうと思い、少し身体が火照るような気分であった。
 
『やはり女にも性欲はあるよね?』
などと心の中でつぶやいていたら
 
『そりゃ女に性欲が無かったら人類滅亡するよ』
と《いんちゃん》が言う。
 
『だけど私は子孫を残せないし』
と言ったら
『ふふふふ』
と何だか忍び笑いしている。
 
何何?なんでそこで笑う訳??
 

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同じ8月3日の夕方。東京、&&エージェンシー。斉藤社長が頭を抱えていた。
 
そこに白浜さんが出先から戻ってくる。そして斉藤がただならぬ様子なのを見て
「社長、どうなさったんですか?」
と尋ねた。
 
「どうしよう?」
といつも冷静な斉藤さんらしからぬ発言である。
 
「何があったんですか?」
「Parking Serviceのミッキーとマジーンとカリユとテッカンが辞めた」
「は!?」
 
「ミッキーは友人と組んで出場したバンドコンテストで優勝して、そちらでデビューしたいから辞めさせてという話で、僕もおめでとうと祝福して辞表を受け取った。僕もその時はまさか更に脱退者が出るとは思いも寄らなかったんだよ」
「ああ、バンドの大会に出る許可をくれとか言ってましたね」
「まあ禁じるほどのことでもないからも。うちはこういうの緩いし」
「でも何てバンドですか?」
「えっとね・・・」
と言って斉藤はメモを見る。
「Purple Chaseというバンドらしい」
「へー」
 
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「で、彼女の話を聞いた1時間後にマジーンが来て僕に謝るんだ」
「はあ」
「ボーイフレンドと同棲していたのがバレてしまったらしい。こちらでも情報収集したんだけど、どうも数時間以内にはニュースサイトに流れるようだ。彼女からはファンへの謝罪の直筆メッセージと辞表をもらった」
「ごめんなさい。マジーンちゃんの件は私が甘かったから」
「いや僕も気付かないふりしてたから」
 
「彼女の件の処理に追われていたら、カリユが来て言うんだ」
「はい?」
「実家のお母さんが倒れて、看病するのが彼女しか居ないらしい。それですぐでなくてもいいけど近いうちに辞めさせて欲しいと」
「なんかその話だと、取り敢えずすぐでないだけでも嬉しいです」
「全くだね」
 
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「そして極めつけがテッカン。バスに乗っていてトラックがそのバスに正面衝突して」
「きゃーっ」
「死者が4名出てる。テッカンは命には別状無いものの肩と足を骨折して全治半年という話」
「うわぁ。それは助かっただけでも幸運ですよ」
「そうだと思う。リハビリとかまでしていたら1年掛かると思うからいったん辞表を出させてくれと本人が言っていると弟さんから連絡があって。今ツグミちゃんに病院に急行してもらった所。僕は取り敢えず預かると返事した」
「うーん・・・」
「籍だけは置いておいて彼女の治療費は事務所で出してあげたいと思う」
「そうしてあげてください!」
 
「そういう訳で1日にして4人抜けてしまったんだよ」
「どうするんですか? 今月末に大宮アリーナでライブがあるのに」
「カリユはそのライブまでは務めさせてくれと言ってる」
「助かります」
 
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「ミッキーについては、前々から去年大学受験のために辞めたメイルに機会があったらまたやってみない?と言っていたので、ミッキーの穴埋めには彼女が使えると思っていたんだよ。それで電話してみたら、取り敢えず数ヶ月くらいなら一時復帰してもいいと言っている」
「凄く助かります!」
 
「それでも4人。6人で編曲もフォーメーションも作っているから、変えるとなると、それだけで時間がかかる」
 
と斉藤社長は言って、ふと思い出したように言う。
 
「何度かPatrol Girlsに入ってもらった柊洋子ちゃん。あの子、無茶苦茶歌もダンスもうまかったよね。あの子、話したらやってくれないかな?場合によっては数ヶ月の臨時加入でもいい」
 
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「柊洋子ちゃん、先日会ったんですよ。私、XANFASの方に勧誘できないかなと思っていたんですが、実はデビューしちゃったんです」
「ありゃあ」
 
「∴∴ミュージックという所の4人組歌唱ユニットでカラヤンとかカリメロとか、なんかそんな感じの名前なんですけど」
「あの子はいくつもの事務所で争奪戦してたからなあ。残念」
 
この時2人はまさかその洋子本人が、この日の昼、KARIONとは別のユニットでもデビューを飾っていたとは思いも寄らなかった。そして、こんなことを斉藤と白浜が話していた時、XANFASのプロデューサー麻生杏華が入って来た。
 
「あら?どうしたの?まるでお通夜みたいな顔をして」
「麻生さん、実は困ったことが起きてしまって」
 
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と言って斉藤社長は彼女に事情を説明する。
 
「この際、XANFASの逢鈴をそちらにトレードしようか?」
「おお!」
 
「逢鈴はPatrol Girlsのリーダー長かったし、Patrol Girlsからの昇格は過去にも例があったし。特に鉄観ちゃんが大怪我して、それ後で復帰するにしても時間がかかるということなら、リードボーカルになれる子が居ないじゃん。逢鈴は歌がうまいからさ。性格も温和だからParking Serviceリーダーのマミカちゃんともうまくやれるでしょ?」
 
「いや、逢鈴はもともとマミカと仲が良かったはずです」
 
「でもXANFASの方はどうします?」
「うん。それは任せて。ちょっと腹案があるんだ」
「へー」
 
「もうひとりはね。新人を使いましょう」
「いい子がいる?」
「男の娘でもいい?」
「へ?」
「いや、充分女の子に見える子ならこの際、身体の性は気にしないことにする」
 
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「だったらね、梨子ちゃんって子がいるのよ。XANFASの人選していた時に候補と考えていたんだけど。凄くダンスが巧いんだけど歌が微妙なのよね。実はそもそも女声の出し方が未熟なんだ。身長は163cmくらいだったから他の女の子と並べていても違和感は無い。中学生の頃から女性ホルモン飲んでたらしくて、それで身長が停まっちゃったらしいのよね。おっぱいも小さいけどあるよ。白浜さん、知らない? 高知に住んでいるんだけど」
 
「あっ。横芝光のバックダンサーしてもらったことがある子かな。凄くダンスうまい子がいましたね」
「うんうん。確かやってた」
「あの子、男の娘だったんですか?」
「うん」
「全然知らなかった!」
「白浜君が気付かないくらいなら大丈夫だな」
 
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千里はまた夢を見ているなあと思った。千里は車を運転していた。クラッチ・ペダルを踏んでギアチェンジするので、マニュアル車のようだ。これこないだ運転したRX-7みたいと思う。瀬高さんの車かなあ。
 
やがて車はトンネルに入る。そのトンネルの壁面にいろいろな模様があるのを千里は感じていた。警察の検問がトンネル内で行われていた。やばー、私免許持ってないのにと思う。前に居るドライバーの多くが警官に停められ、そばにある駐車場内に誘導されていた。へー、トンネルの中に駐車場があるのか。
 
やがて千里の番になる。免許証見せてと言われて千里が見せたのは、美鳳さんからもらった出羽の女山伏の鑑札である。百日山駆けを2年達成したので、蜂の文様が2つ入っている。千里はその時、その2つの模様が何だか左右に並ぶ卵巣のように見えた。
 
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「はい、どうぞ」
と言われて千里は先に進むことを許可された。
 
あれ〜?山伏の鑑札があれば車を運転してもいいんだっけ?などと考えながら先に進む。そのうち、地面がアスファルトだったのがいつしかコンクリートになり、やがて砂利道になる。そして目の前で工事をしている現場に達する。
 
嘘。このトンネルって開通してないの?
 
と思ったら
 
「今から最後の発破を掛けます」
という声が響く。
 
きゃーっと思って運転席で身を縮めていると大きな爆発音がある。そして歓声が起きる。
 
「やったー。つながったぞ!」
という声。
 
思わず千里は車から降りて、発破の現場に行く。向こうに大きな空洞があり、あちらにも多数の人が居て、こちらの人たちと握手をしている。
 
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千里も行ってその列に加わった。
 
その時、向う側に居た人たちの中に瀬高さんの姿があった。
 
「瀬高さん、ごめんなさい。瀬高さんの車を運転してここまで来ちゃった」
「ああ、いいよ、いいよ。私はそれで帰ろうかな」
と瀬高さんは言う。
 
「あ、そうそう。これ私が交通事故で壊しちゃった卵巣だけど、村山さん、欲しかったらあげようか?」
「ください!」
 
それで千里は瀬高さんから何か生暖かい器官をもらった。でもたくさん血が出てるよ!?
 
そんなことを思っていたら、そこに見知らぬ少女が出てきて
「千里姉ちゃん、治してあげるよ」
と言う。
 
その子がその壊れた卵巣を手の中に入れて目をつぶっていると、千里の身体から何だかエネルギーを奪われる感覚がある。
 
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しまった!例の封印の梵字を書いてなかった!
 
と思ったものの、彼女はやがてニコッと笑い、千里にそれを返した。
 
「治りましたよ。大事にしてね。卵巣は女にとって大事なものだから」
 
それで千里がそれを受け取ると、その卵巣は千里のお腹の中に吸い込まれていった。
 

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「トンネルの夢を見たんだよ」
と薫は言った。
 
「へー、どんな?」
 
「私が彼氏とデートしてて、彼氏はキャデラック・エルドラドのコンバーティブルを運転してるの」
 
「ふーん」
と言いながらも千里にはそれがどんな車かさっぱり分からない。千里はあれだけ(無免許で)運転をしていても、実はセダンとステーション・ワゴンの区別も付いていない。
 
「ずっと高速道路を走っていたんだけど、前方にトンネルがあるんだよね。だけどそばまで行ってみると、トンネルの穴が開いてないんだよ」
「ふむふむ」
 
「すると彼氏が『まかせろ』と言って、すると突然キャデラックの先端がドリルになっちゃうんだよ」
「サンダーバードのジェットモグラみたいなの?」
「そうそう」
 
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「それでかなり掘り進んで、まあこのくらい掘っておけばいいかな、というので彼氏と一緒に乾杯したところで目が覚めた」
 
「それ向こうに突き抜けなかった訳?」
「うん」
「落盤で埋まってしまうというのに1票」
 
「だいたいコンバーティブルだったんじゃないの? 上から土が落ちてくるじゃん」
「たぶん幌を出したんだと思うけどなあ」
「やはり土の圧力で曲がりそうだ」
 
するとその話を聞いていた寿絵が言う。
「そのトンネルって心理学的にはヴァギナの象徴だと思う」
 
「おぉ!」
という声があがる。
 

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この日旭川N高校女子バスケ部一同は、登校日の全体集会でインターハイ3位を報告し、学校からも表彰されるのに体育館のステージ脇・用具室に集まっていた。
 
「だからきっと薫はもうヴァギナが出来たんだと思うな」
と寿絵。
「性転換した人の人工ヴァギナって、子宮が無いから向こうに突き抜けてないですもんね」
などと志緒まで言う。
 
「薫、とうとう造膣術受けたの?」
「えー? まだその手術はしてないけど」
「もうおちんちんは取ってるんでしょ?」
「ごめーん。それもまだ取ってない」
 
「コンバーティブルに乗ってたというのが既に男性器は除去済みなのを表すと思う。屋根が無いんだよ」
と寿絵。
 
「おお、心理学凄い!」
 
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「薫さん、もうほんとの女の子になっちゃったの?」
 
と昭子が言う。今日、昭子はみんなに乗せられて女子制服を着せられている。学校の生徒全員の前で女子制服姿をさらすのは初めての体験になる。
 
「うん、だから昭子も早く手術しちゃおうね」
と川南。
 
「ぼく、どうしよう・・・・」
 
「《わたし》と言おうよ」
 
「まだ恥ずかしくて」
と言って、またまた昭子は真っ赤になっていた。
 

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