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■女の子たちの夏進化(6)

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8月21日(木)。千里たちの学校では夏休みが終わって授業が再開される。もっとも20日の夕方まで千里たちは受験勉強の合宿をやっていたので、結局20日は一時帰宅してまた翌日出てきたような気分である。千里はこの日は学校に出たものの翌日22日は学校を公休にしてもらって午前中自宅で旅の支度をした上で、お昼過ぎ旭川空港に向かった。美輪子も会社を休んで千里を空港まで送ってくれた。
 
U18代表候補の第二次合宿・第三次合宿が連続して行われるのである。
 
国体の合宿の後、道予選があり、更に受験勉強の合宿、バスケの合宿と連続して行われたので、千里は全然帰宅できない! それで着替えを19日夜に美輪子に学校まで取りに来てもらい、美輪子は翌20日1日かけてコインランドリーで洗濯乾燥を掛けて21日までに全部乾くようにしてくれた。結局このために美輪子は20日から22日まで3日間会社を休んでくれたのである。
 
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なお、蓮菜が定積分を知らなかった千里に呆れて「これを勉強しなおしなさい」と言って渡した数学の参考書と、自主的に少し頭に入れようと用意した歴史年数の暗記本、それに千里の英語が「感覚英語」でわりと文法が怪しいことから蓮菜から渡されたグラマーの問題集も荷物に入っている。また担任からも結構な量の「プレゼント」をもらっている。
 
今回の第二次合宿は8月23-24日(土日)の2日間で、この春に出来たばかりの東京ナショナルトレーニングセンター(NTC)で行われ、第三次合宿はその後、31日までの日程でオーストラリアで行われる。今年のU18強化日程の中でのエポックだ。
 
千里は羽田に着くと京急と都営地下鉄を乗り継いで本蓮沼駅まで行く。到着したのは17時半すぎである。駅前でタクシーでもつかまえようとしていたら
 
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「こらー、さぼるな!」
という声が聞こえる。見たらU18のコーチにもなっている札幌P高校の高田コーチである。
 
「こんにちは、高田コーチ」
と千里が挨拶したら
「村山、お前、代表候補だろ? ちゃんと走ってセンターまで行け」
と言う。
 
「え〜? 荷物多いんですよぉ」
「だから鍛錬、鍛錬」
「分かりました!」
 
仕方ないので、千里は着替えその他の荷物(当然ながらいつものパソコンも含む)が入っているバッグ2つを肩に掛けてセンターまで約1kmの道を走り始めた。
 
それで走って行っていたら、前方で大きな荷物を4つも抱えて歩いている子がいる。見るとQ女子高の鞠原さんだ。
 
「お疲れさまー」
と声を掛けて走り抜こうとしたら
 
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「千里ちゃん、元気あるねー」
と彼女が言う。
 
「江美子さん、荷物凄いですね」
「だって海外に行くんだもん」
「どのくらいの重さですか?」
と言って持ってみると量が量だけあって、けっこう重い。
 
「あんたのは?」
と言って鞠原さんも千里の荷物を持つが、2個なので大したことないだろうと思ったようだが「わっ」と声を挙げる。
 
「何この重さは?」
 
「中にパソコンと鍵盤が入っているので。私、音楽関係のバイトしてて、その指導してくださってる先生から、いついかなる時もパソコンを持ち歩けと厳命されてるんですよ」
 
もっとも千里にそんなことを厳命した先生本人はまだこの時期海外逃亡中である。
 
「あんた、それオーストラリアまで持っていく気?」
「もちろんです。コンセントのアダプターも持って来ました」
「頑張るねー」
 
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などと会話を交わしたのだが、結局鞠原さんは走る元気が無かったので、千里は
 
「それではお先に」
と言って、先に走って行った。
 

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送ってもらっていたIDカードを提示して中に入る。トレーニングセンター内で受付を済ませ、資料をもらうと部屋割りも書いてある。佐藤さんと同室になっているようなのでそちらに行く。佐藤さんは既に入室していて
 
「おっす」
と千里に声を掛けてきた。
「どもどもー」
と千里は答える。
 
取り敢えずU18にいる間だけでも「名前呼び捨て・敬語無し」ということでお互い同意した。
 
「タクシーに乗ろうとしたら高田さんが居てセンターまで走って行けというから荷物抱えて走ってきたよ」
「ああ。私も走らされた」
「江美子がへばって歩いていた」
「まあ、あの子もちょっとスタミナ足りないよね」
 

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「でもこないだの国体予選の後は一晩眠れなかったよ」
と玲央美は言う。
 
「去年のウィンターカップ予選では私が一晩眠れかったな」
と千里。
 
「今年のウィンターカップではリベンジするから」
「ごめーん。うちは原則夏までの活動だから国体で部活は終わり。U18は特例だけどね」
「うーん。このまま勝ち逃げされるのは悔しいな。留年してでも出てきてよ」
「こないだ薫もそれをノノちゃんに言われていたけどね」
 
「ただ千里がウィンターカップに出てくるのであれば、東京体育館での決勝戦で対決ってことになるけどね」
 
千里は彼女のことばが理解できなかった。
 
「なんで?」
「実はさ、来週くらいに正式発表されると思うけど、今年からインターハイの1位・2位のチームは、ウィンターカップに無条件で出場できることになるんだって(*1)」
 
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「え?」
 
(*1)本当はこの制度ができたのは2009年からですが、物語の都合で2008年からとしています。
 
「だからうちは予選免除で出場できる。そこでN高校が北海道予選を勝ち上がってくれば、同じ北海道勢同士は別の山に置かれるから、両者トーナメントを勝ち上がれば、夢の北海道勢同士の本戦決勝戦というのもあり得るんだよ」
 
千里は考えた。
 
「それ絶対やりたい」
「U18で実績をあげたら、理事長さんに直訴してみなよ」
「本気で何か画策できないかな」
 

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佐藤さんもまだ夕食を取っていないということだったので、一緒に食堂に下りていった。食堂には合宿メンバーが何人も来ていてお互い
 
「よろしくー」
「インターハイの禍根は取り敢えず忘れよう」
「アジア選手権終わるまで凍結ね」
「じゃそのあと殴り合いということで」
「ボールのぶつけ合いだよ」
「バスケットって格闘技だよねー」
 
などと軽く言い合った。
 
どうも話していると、みんな本蓮沼駅や赤羽駅からジョギングをやらされたようである。赤羽駅の方には愛知J学園の片平コーチが立っていたらしい。もっとも(鞠原)江美子を含めて、けっこう途中から歩いて来たという子もいた。ひとり(山形Y実業の)早苗だけが、東京駅からタクシーで来たのでジョギングはしてないと言った。
 
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「東京駅からタクシーなんて、ブルジョワ〜」
という声が上がるが
 
「だって私、東京の鉄道路線図見ても全然分からない」
と早苗。
 
「あれは東京の人間でも分からないんだよ」
と(東京T高校の)星乃が言った。
 

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翌日朝、最初にチーム代表の高居さんから話があった後、パスポートの再確認をする。するとお約束で忘れてきている子がひとり居る。秋田N高校の渚紗である。すぐに連絡してお母さんが東京まで今日中に持って来てくれるということになったが、わざわざ秋田からご苦労様である。
 
「オーストラリア行きの航空券をいったん配ります。自分の名前・年齢に間違いがないか確認した上で返してください」
と言われる。確かに今から持たせておくと、出発までに無くす子がいそうだ。
 
「名前のスペルも確認してください。パスポートと異なっていた場合、搭乗できない可能性があるので至急訂正させますので」
 
千里も渡された航空券を確認する。Chisato Murayama, Age 17, Sex F と書かれている。私の場合、名前のスペルが違ったりする可能性は無いだろうな、と思いながらチケットを見ていた。
 
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これもお約束で違っているという子が出る。(大野)百合絵がパスポートと違いますと訴えた。彼女のパスポートは Yurie Ono なのだが、航空券は Yurie Oono になっていたのである。
 
「すぐに訂正させるね。大秋さんは大丈夫?」
「はい。私のはどちらも Oaki になっています」
 
「他はみんな大丈夫かな? 年齢も間違ってない?」
「性別が間違っている人いたりして」
「(熊野)サクラ、ちゃんと男になってるか?」
という声が掛かるが
 
「大変だ。Fって書いてある」
と本人も悪のりしている。
 
「そしたら女装して行かないといけないぞ」
という声が出て、場の雰囲気が和らいだ。
 

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チケットを回収し、念のためパスポートもスタッフがいったん預かることにして一緒に集め、そのあとウォーミングアップを経て練習が始まるが、今回の2日間の国内合宿ではチームの一体感を高めるための練習がメインとなった。紅白戦を中心に練習したが5月の合宿とは少し組み分けが違っている。
 
A.朋美/千里/江美子/玲央美/誠美 +彰恵・星乃・華香
B.早苗/渚紗/メイ/百合絵/サクラ +桂華・路子
 
前回はAチームとBチームに若干戦力を分散させて競わせた感じもあったのだが、今回はどうもこのAチームのスターターが実際の試合でのスターター候補ということのようである。実際このメンツで試合をやると、Aチームが圧倒的に優位であった。
 
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5月の合宿から成長している人も多い。特に(富田)路子は前回の合宿ではリバウンドをひとつも取れなかったのに今回は1〜2割取って急成長を印象付けた。やはりインターハイに来て強い所の試合をたくさん見たのが大きな刺激となったのだろう。
 
また(鶴田)早苗もかなり上手くなっていたし、(鞠原)江美子・(佐藤)玲央美は競い合うように成長しているので、Bチームの(大秋)メイ・(大野)百合絵が対抗しきれない場面が多々あった。江美子は本来はパワーフォワード、玲央美はセンターだが、ふたりともゴールに対して貪欲であり、また器用なプレイをするので、どちらもスモールフォワード的なお仕事もできるのである。実際玲央美はインターハイや国体予選などでも見せたように、副司令塔的な役割も果たし、ポイントガードの朋美とのアイコンタクトで、どちらが起点になるかを切り替えながら攻撃を繰り出すので、この戦い方にBチームは翻弄されていた。
 
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「だけど指令系統が切り替わってもAチーム内では全然混乱が起きてなかったね」
 
と一息ついたところで百合絵が言う。
 
「千里は勘で切り替わりが分かっていたみたいだし、江美子は根性で状況に付いていくし、誠美は単純にボールが来たら取るだけだから」
 
と(橋田)桂華。
 
「つまり千里は巫女、江美子は野獣、誠美はロボットなんだな」
と百合絵が言うと
 
「それ当たっていると思うよ」
と星乃も言っていた。
 
「まあ千里は本当に巫女だしね」
と玲央美が言う。
 
「何?巫女さんのバイトとかしたことあんの?」
「もう5年以上やってるベテラン」
「すげー!」
 
「誠美も実はロボットなんだよ」
と同じ高校の星乃が言う。
 
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「ほんとに!?」
「御飯を食べると体内でアルコールに変換して、それでディーゼルエンジンを回して稼働している」
「アルコールなら、酔っ払っているのでは?」
「うん。実は直接エチルアルコールを投入してもいい」
「それ完全に未成年飲酒」
 
誠美は笑っている。
 

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その日の夜、千里が昨日担任から渡された「プレゼント」の問題集をしていたらトイレに行ってきた同室の玲央美が言う。
 
「今さ、トイレでふとサニタリーボックスのふたが完全にしまってないのに気付いてね」
「あ、ごめーん。ちゃんと閉めてなかった?」
と千里が謝る。
 
「いや、何気なくふたを開けてみたんだけど」
「うん?」
「使用済みのナプキンが入ってた」
「うん。今日生理が来たんだよ」
 
「千里、やはりマジで生理あるんだっけ?」
「女の子だもん。生理あるのは当然」
 
「生理があるってことは、卵巣や子宮もあるってこと?」
「まさか」
 
「ね、千里、元男の子だってのは嘘でしょ?」
「そんなことないと思うけどなあ」
 
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第二次合宿は土日の2日間であったが、24日の夕方は早めに練習を終え、全員シャワーを浴びて汗を流したあと旅行用の服装に着替え、協会で用意したバスで成田空港に移動する。全員自分のチケットとパスポートを持ち、荷物を預けたあとセキュリティの列に並ぶ。
 
「国際航空券も国内航空券とそう違わないのね」
と千里は前に並んでいる玲央美と話していた。
 
「千里にしても私にしてもよく飛行機乗ってるよね」
「北海道は遠征するというと飛行機に乗らざるを得ないもんね」
「まあ津軽海峡を泳いで渡るのは辛いから」
「そんなの泳いで渡る人いるの?」
「いるよ。ドーバーより大変らしい」
「ひゃー」
 
などと言いながらチケットを見ていたのだが、玲央美はふと千里のチケットの《そこ》に気付く。
 
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「ね。千里、性別がFになってるけど」
「え?だって私女だし」
「戸籍もう直したんだっけ?」
「ううん。あれは20歳にならないと修正できないらしい」
「ちょっと待って。だったらこのチケットでは乗れないよ」
「なんで?」
「だってパスポートと性別が異なっていたら出国審査で拒否されるよ」
「え? そうなの?」
「ちょっとパスポート見せてよ」
「うん」
 
それで千里がパスポートを玲央美に見せる。
 
「・・・・・なんであんた、性別女になってるのよ?」
「え?だって私女だし」
 
玲央身はしばらく悩んでいたが
「悩んでも仕方ないか。これで出国審査を通れることを祈ろう」
 
と言った。千里は何が問題なのか分からず、キョトンとしていた。
 
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女の子たちの夏進化(6)

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