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■女の子たちの夏進化(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-04-11
 
83対82で再開される。残りは21秒。旭川選抜の攻撃である。麻依子から矢世依にスローインのボールが送られたが、ここで佐藤さんが派手に矢世依をホールディングした。完璧に身体をつかまれて矢世依はボールを取れなかった。
 
審判が笛を吹いて佐藤さんのファウル。
 
ここで札幌は伊香さんを下げて早生さんを入れて来た。つまり選手交代をするためのファウルであった。ゲーム時間の最後の2分間は得点された側は選手交代ができるのだが、得点した側はできない。タイムも既に使ってしまっている。すると選手交代をするためにはファウルなどにより時計を強制的に止めるしかなかったのである。
 
試合時間は0.3秒だけ消費されて再度旭川のスローイン。
 
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さて、ここで旭川は通常のゴールをひとつ奪えば逆転勝ちできる。さっきの伊香さんのシュートで3点入っていたらこちらもスリーを入れない限り勝てない所であった。3点シュートと2点シュートの違いはゲーム終盤になるほど重い。
 
24秒計は停まっている。札幌選抜は当然のことながら強烈なプレスに来る。こういう展開ではマッチングがあまり巧くない伊香さんではなく、そのあたりが強い早生さんという選択をしたのであった。
 
札幌が本当に必死のプレスを掛けてくるため、旭川はボールをフロントコートに運ぶのに7秒掛かってしまった。8秒ヴァイオレーションぎりぎりである。
 
取り敢えず橘花がドリブルをしながら札幌側の呼吸を伺う。
 
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今入って来た早生さんが橘花の前で激しいガードをしている。しかし橘花は早生さんの一瞬の呼吸の隙を狙って、自ら右側から制限エリアの中に走り込んだ。
 
目の前に寄ってきた宮野さんがブロックのためにジャンプするが橘花は空中で体勢を変えて相手のタイミングを外すダブルクラッチをやってボールをきれいにゴールに放り込んだ。
 
と思ったのだが、ボールはわずかにリングの内側に触れて、反動で反対側に飛んで行ってしまった。そこに長身の麻依子が必死で飛びついてボールを確保する。河口さんの股の下を抜いて低い弾道のパス。それを容子が取り、早生さんとの短時間のしかし複雑なフェイント合戦を制してシュート。
 
しかしいつの間にか回り込んできていた佐藤さんがブロックする。
 
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そのこぼれ球を宮野さんが確保した。
 
そして宮野さんは外側に居る徳寺さんにパスした。
 
と思ったのだが、徳寺さんはボールを受け取れなかった。
 
音も無く駆け寄っていた千里が宮野さんがボールをキャッチしてから投げる体勢に移行する間にできたわずかな隙に、彼女の手の中から巧みにボールをスティールしていたのである。そのまま山なりのシュートをする。ゴール真下に居た佐藤さんがジャンプしてブロックしたが、千里にはゴール・テンディングのように見えた。つまり、佐藤さんは落ち始めたボールを叩いたように思えた。(そもそもブロックできないように山なりにシュートしている)
 
しかし審判は笛を吹かなかった。
 
そして佐藤さんがボールをゴールのそばで弾くのとほぼ同時に、そのそばに走り込んできた橘花が力強く床を蹴って飛び上がっていた。
 
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橘花は空中で手を伸ばして佐藤さんの弾いたボールを掴むと、素早く身体を縮めると同時に回転させ、佐藤さんと衝突しないように身体を交わす。そしてゴールの向こう側で落下しながらボールをゴールめがけて置くように軽くトスした。
 
彼女の手からボールが離れた瞬間、試合終了のブザーが鳴る。
 

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ボールは今度はきれいにネットの中に飛び込んだ。
 
佐藤さんが着地した次の瞬間橘花も着地する。ふたりは大きく息をつきながら見つめ合っていた。
 
審判は得点を認めるジェスチャーをしている。矢世依がそれを見て「やった!」という感じにガッツポーズをしている。しかし佐藤さんと橘花はまだじっと見つめあっていた。
 
あのプレイはゴールテンディングを取ると旭川のスローインからの再開になるので、弾いたボールを札幌が取ったら笛を吹くが、旭川が取ったら流そうという審判の判断だったのだろう。
 
千里は橘花に歩み寄って背中をポンポンと叩き「ナイスシュート」と声を掛けた。そして千里も佐藤さんと見つめ合った。やがて橘花が手を出すと佐藤さんは初めて悔しそうな顔をして握手に応じた。
 
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審判が整列を促す声を聞きながら、佐藤さんと橘花、そして佐藤さんと千里もハグした。
 
整列する。
 
「84対83で旭川選抜の勝ち」
「ありがとうございました」
 
こうして旭川選抜は国体本戦の切符を手にしたのであった。
 

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この国体決勝が行われた8月15日は世間的にはお盆である。礼文島の貴司の父の実家には6月に亡くなった貴司の祖父(貴司の父の父)の供養が行われていた。本来は初盆になるのだろうが、亡くなった時期が盆に近かったため、話し合いの結果「初盆供養」は来年のお盆にすることになったものの、一応親戚一同集まりお線香をあげて・・・・宴会であった!
 
貴司の母・保志絵や、他の女性親族たちは、夫(貴司の父)の望信やその他男性親族たちの飲みっぷりに眉をひそめていた。千里は国体予選で来られなかったし、貴司もやはりサマーキャンプをしていて来られなかったのだが、貴司の妹の理歌と美姫も「酔っ払いって嫌い」などと言っていた。
 
「そういえば京平は元気?」
と保志絵は望信の母(故人の妻)淑子から尋ねられた。
 
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「え?」
「貴司君とこの子供。何歳になるんだっけ?」
 
そういえば3月に旭川で望信の両親を貴司・千里に引き合わせた時、千里がそんなことを言っていたと思い出した。
 
「あの時、貴司君のお嫁さんの千里ちゃんが、じいさんだけに京平君の写真見せてくれたでしょ? 私も見たかったけど、千里ちゃん、ごめんなさいと言って見せてくれなかったのよね」
 
保志絵は少し考えて言った。
 
「京平はまだ生まれてないんですよ」
「え?」
「あの時、千里ちゃんがお義父さんにだけ写真を見せてあげたのは、お義父さんが逝く前に曾孫の顔を見せてあげたかったからだと思います」
 
「どういうこと?」
「たぶんあの写真はお義父さん以外の人がのぞき込んでも全然別の写真が見えてしまったんじゃないでしょうかね」
「そういうことがあるんだ?」
 
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「あの子って、ほんとに不思議な子なんですよ。私、この子ってひょっとして神様なんじゃないかと思うこともあります」
「へー」
 
「だから、お義母さんは、ちゃんと京平が生まれてから生でその姿を見ることができると思いますよ」
と保志絵は微笑んで言った。ただ保志絵はそんなことを言いながら、子宮を持っていないはずのあの子がどうやって京平をこの世に連れてくるつもりなのだろうかと考えていた、
 
「そうか。じゃ、私も頑張らなきゃいけないね」
「故人には悪いけど、女はかえって夫が居ない方が長生きするとも言いますし」
「私、最近はやりのコンピューターゲームとかやってみようかなあ」
 
「ああ、そういうのなら理歌や美姫が」
「おばあちゃん、何かしたいのがあります?」
「どうぶつの森とかいうのが面白そうだなと思っているんだけど、そもそも何を揃えたらいいのかさっぱり分からなくて」
 
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「あ、だったら今度DSと無線ルーターをお父ちゃんに買わせて持って来ますよ」
と理歌が言っていたら、向こうの方で未成年なのにお酒を飲みながらその話を聞いていたふうの従兄が
 
「理歌ちゃん、この島にはまだ光もADSLも来てない」
と注意してくれた。
 
「うっそー!?」
 

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お盆の翌日(=国体予選が終わった翌日)8月16日から20日まで、N高校では四年制大学進学を希望する3年生を対象にした合宿が行われた。朝7時から夜9時まで、昼食と夕食の時間を除いた12時間勉強尽くしというハードな内容である。
 
「バスケの合宿並みだ」
などと千里や暢子は言っていた。ちなみに千里たち国体代表の5人(薫を含む)は講義が始まる前の朝5時から6時半くらいまで朱雀でバスケの練習をしていた。この練習には宇田先生が付き合ってくれたが、早朝からご苦労様である。
 
「さすがにこんなに勉強してると頭が真っ白になる」
などと夏恋などは言っていた。彼女は7月まではビジネスコースに所属していて専門学校を出て一般企業に就職するつもりでいたが、インターハイを終えて突然大学に進学して大学のバスケ部でインカレを目指す気になったのである。埼玉で最終日にもらった自由時間で東京の書店に行き参考書・問題集を買い込んできており、必死に勉強しているようだ。ただ彼女はインターハイ2年連続3位という実績があれば、どこかの推薦で入れる可能性が高い。
 
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授業の内容としてはこの時期、高校1−2年の内容を徹底的に復習して基礎固めをするというのを主眼としていた。基礎をまずはしっかりしておかなければどうにもならないという趣旨である。
 
クラスは習熟度別の編成で、4クラスの内千里は最初は一番下のクラスに自主的に入っていたのだが、1日目を終わった所で「ここはもっと分かっていない子のクラス」と言われて結局上から2番目のクラスに移動された。
 
「えーん。このクラスの授業は難しいよお」
「C大に行くのなら、もうひとつ上のクラスまで浮上しないといけないよ、千里」
などと花野子から言われていた。
 
「花野子はこのクラスでいいの?」
「うん。私は今回はここで鍛えて、それを基礎にして浮上を狙う」
「なるほど」
 
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8月18日(月)。桂木織絵は母と一緒に&&エージェンシーを訪問していた。
 
「織絵ちゃん、よく来てくれたね」
と白浜さん、麻生さんが歓迎する。斉藤社長とも挨拶する。
 
「この子が唐突にバンドでデビューしたいと言った時は何の冗談かと思ったんですが、熱心に父親を口説くし、社長さんも本当にいい方なので、父親も根負けしてしまいまして。取り敢えず半年くらいやってみて芽が出なかったら高岡に戻ってこい、という条件で認めたいという話になったのですが」
と母親は斉藤社長に言った。
 
斉藤社長は織絵の件でこの半月の間に3度も高岡まで来て礼儀正しい態度でぜひ娘さんを預からせて欲しいと申し入れた。
 
「でしたら、とりあえず3月までの契約にしませんか?うまく行けば4月以降もまた契約を更新。CDが5万枚も売れなかったら3月で契約終了ということではどうでしょうか? 今高校2年生ですから、3月で終われば4月から受験勉強に復帰して大学を目指したりもできますよね?」
「ええ、そうしてくださると助かります」
 
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双方は事前に交換して内容も話し合っていた契約事項をひとつずつ再確認した上で契約することに同意した。来年の4月以降の契約については2月に話し合うことにした。
 
織絵は契約事項の中に24歳まで男性との交際・性的行為・男性との宿泊・婚約・結婚・妊娠を禁止するという条項があるのを見て「男性との」と断っているということは、女性との恋愛はいいのかなあ、などと漠然と考えた。正直このユニットに参加したいと思ったのは、桃香との関係をこれ以上続けると自分を見失ってしまいそうだったからというのもあった。桃香とのキスや抱擁、そして処女喪失寸前の快楽の時間の甘い記憶が蘇る。
 
それでもうサインしようという段階になった所で麻生さんが言った。
 
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「実はね。XANFASのプロジェクトなんだけど、Parking Serviceが大変なことになってね」
 
と言って6人のメンバーの内の3人が脱落、もう1人も今度のライブを最後に引退することを話す。
 
「きゃー」
と織絵も母も悲鳴をあげる。
 
「それで逢鈴をXANFASからParking Serviceにトレードすることになった」
 
「彼女、歌がうまいですもん」
 
逢鈴はXANFASのリードボーカルの予定でここまで音源制作をしていたのである。
 
「それでね。織絵ちゃんも凄く歌がうまいよね」
と麻生は言う。
 
「はい。割と自信あるかな。彼女にはちょっとかないませんけど」
と織絵。
 
「声も澄んだ声だし、かなり高い方が出るよね。こないだの歌唱テストではD#6が出てたし」
「声域は自分でもあんなに広いとは知らなくてびっくりしたんですけどね」
 
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「それでさ。織絵ちゃん、ギター担当じゃなくてリードボーカルになってくれない?」
 
「え〜〜〜!?」
 

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