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■女の子たちの新生活(8)

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この月の千里は忙しすぎた。
 
4月26-29日 N高校合宿(札幌)
5月5-6日 嵐山カップ(旭川。N高校主宰)
5月12-14日 U18代表候補第一次強化合宿(愛知県)
5月17-18日 校内合宿
5月25日 市民オーケストラ公演
 
3週間の間に3回の合宿があり、更にカップ戦をしている。更にこの日程の中にオーケストラの公演が割り込んできたのだが、さすがに練習に出る暇が無い。
 
「フルートは布浦さんと千里の2人しか居ないし、その日バスケの予定が入ってないなら出てよ。これ譜面ね」
と言って美輪子から楽譜を渡され、千里はやむを得ず山駆けをしながらフルートを吹いていたのだが、おかげで今年の出羽では
 
「夜中にフルートの音を聴いた」
「あれはシューベルトの魔王だった」
「俺が聞いたのはモーツァルトの夜の女王のアリアだ。ハイトーンが怖かったぞ」
「お前ら、それ臨死体験だぞ」
 
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などといった噂が春山の残雪を求めてやってきている山男たちの間で広まったようである。
 

ともかくも連休前半の合宿が終わった後、4月30日から5月2日まではふつうに学校の授業があったのだが、その30日の昼休みに電話が掛かってくる。見ると美空である。普通美空は日中に用事がある時はメールしてくる。それを電話するというのは何か緊急事態と判断したので、千里は廊下に飛び出し、階段の所の窓のそばに行って電話を取った。
 
「はい、千里です」
「あ。醍醐春海さん、ちょっとお願いがあるんですけど」
 
美空が『醍醐春海さん』と呼びかけるというのは異様だ。何があったんだろう。
 
「どうしたの?」
「ちょっと社長と代わるね」
 
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それで美空たちKARIONの事務所の社長、畠山さんという人が出た。
 
「初めまして、∴∴ミュージック社長の畠山裕光と申します。醍醐春海先生でいらっしゃいますか? いつもは鈴木聖子に曲を頂いてありがとうございます」
「いえいえ。少しでもお役に立っていればいいのですが」
 
「実はですね。緊急にお願いできないかと思いまして」
「はい?」
 
と言いながら、自分の所に持ち込まれてくる案件っていつも緊急だなと思う。
 
「この手のお話はそちらの窓口の∞∞プロダクションさんを通さなければならないことは重々承知なのですが、なにぶん連休で∞∞プロさんの担当者がつかまらなくて。後でそちらの調整はきちんとしますので」
「いえ、こちらは構いませんし、私は∞∞プロさんとは契約している訳でもないので、そのあたりの調整はお任せします」
「助かります!」
 
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そのあたりは後でマージンをきちんと払えば問題無いはずだ。
 
畠山はこういう説明をした。
 
KARIONの音源制作をするのに、ゆきみすず作詞/木ノ下大吉作曲『夏の砂浜』、ゆきみすず作詞/本坂伸輔作曲『積乱雲』、少女A作詞/少女B作曲『Diamond Dust』という3曲を用意した。それで連休後半のキャンペーンを経て5月10-18日頃にその録音をするつもりでいた。
 
ところがこの『積乱雲』という曲が、4月29日にデビューしたテスレコというアイドル・デュオのデビュー曲『碧眼君』という曲に劇似であることが判明したというのである。
 
「そちらはどなたの作品なんですか?」
「同じ事務所に所属しているトリガプスの鳥居さんの作品ということになっています」
「トリガプスの鳥居さんって作曲するんでしたっけ?」
 
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「オフレコにできますか?」
「ええ、私は仕事上聞いたことは決して他人に言いません」
「ああ、巫女をなさっているということでしたね」
「はい。それでプライバシーに関しては厳しく躾けられています」
 
「うちの槇原(貞子)や鈴木(聖子)が言うにはですね。これ、本坂伸輔さんのゴーストライターをしている人のミスではないかと」
「ああ・・・」
「たくさんゴーストで書いている内に、うっかり既に他の人に渡していた曲のモチーフを誤って別の人に渡す作品にも使ってしまったのではないかと」
「あり得ますね」
 
千里もそういう問題に関してはひじょうに厳しく管理している。使用したモチーフには即×印を付けている。
 
「それで対応策を検討したのですが、本坂さんあるいは鳥居さんに抗議するのは可能だけど、それで揉めて、結果的にKARIONにケチがつくことは避けたい。それでゆき先生とも相談したのですが、別のソングライターさんに『積乱雲』の名前で別の曲を作成してもらえないだろうかと。本坂さんの方には連休明けにゆき先生の方から連絡照会して下さるということでした」
 
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「ではそれはゆき先生が歌詞をお書きになるんですか?」
「それが実は今、ゆき先生がひじょうに体調がお悪いようなのですよ。それでよければ、いつも鈴木に曲を頂いているのと同じ、葵照子先生に歌詞を書いて頂いて、醍醐春海先生に曲を書いていただけたらと」
 
「それは構いませんが、タイトルを『積乱雲』にするんですか?」
「実は曲目ラインナップを既に発表しているので、可能なら変えたくないのです」
「それはいいですよ」
 
このタイトルで書いてというのも、随分雨宮先生に言われてやらされている。
 
「KARIONが歌うのでしたら、アイドル歌謡っぽく仕上げたらいいですかね?」
「それなんですが、前回のCDが曲は本格的なのに、制作段階でアイドルっぽいアレンジにしてしまったのが、失敗だったかもと指揮をした鈴木も言っておりまして、元々この子たちは歌唱力が素晴らしいので、アイドルっぽくない本格的な歌にすることができないだろうかという話になっておりまして、ゆき先生と木ノ下先生の『夏の砂浜』もR&Bっぽい曲調で作って頂いたんですよ」
 
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ほほぉ。結局逆方向に来たのか。でもR&Bっぽい曲調なら、たぶんあの人が実際には書いたな、と千里はある人物の顔が浮かんだ。
 
「じゃ、こちらもR&Bっぽく書けばいいですか?」
「はい。夏の曲なので、R&Bでもいいですし、あるいはラテンっぽいものでもよいかと」
「ああ、サンバとかボサノヴァとかですね」
「はいはい、そういうのもよいと思います」
 
「分かりました。いつまでに書けばいいですか?」
「できたら連休明けから制作に入りたいので、5月7日の午後くらいまでに頂けましたら」
 
あははは。それ私、いつ書けばいいのよ!?
 
「いいですよ。何とかします」
「済みません!お願いします!」
 
そういう訳で、千里はこの忙しい中、KARION用にまた1曲書くことになったのだが、この『積乱雲』は蓮菜と千里のペアが初めて『葵照子・醍醐春海』の名前でKARION用に書いた曲となったのである。
 
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しかしステレコ(だったっけ?)ってトラブルの塊だな!!
 
千里は蓮菜が書き溜めている詩のストックの中に『積乱雲』というタイトルにしても構わなさそうな詩があるのを思い出したので、蓮菜に許可を取った上でその詩に新たなボサノヴァ調の曲を付けて翌日5月1日に、MIDIデータを作成し、美空宛てに送った。
 

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連休の後半にはN高校が主宰して今年新設した《嵐山(あらしやま)カップ》を実施した。旭川近郊を主に、男子30校、女子26校もの学校が参加して盛大に行われ、男子では1位旭川B高校、2位旭川N高校、3位留萌S高校という結果が出る。女子は1位旭川N高校、2位釧路Z高校、3位旭川L女子高(4位旭川M高校)という結果であった。Z高校は今回は招待させてもらった。彼女たちは打倒N高校に燃えているのでまた遠路はるばるやってきてくれたが、しっかり返り討ちにさせてもらった。薫はこの大会でも得点女王になり嬉しそうだった。
 
またこの大会では旭川ラーメンの製麺所さんが協賛に入ってくれて1〜3位に賞品を出してくれた。Z高校は半生麺と市内有名ラーメン店監修スープ・チャーシューのセット30個をもらって「食料品ゲット〜!!」と言って盛り上がっていた。
 
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この大会では昭ちゃんは男子チームの方に入れたのだが、やはり先日の阿寒カップ同様、上位のチームで昭ちゃんを見たことのあるチームは上手い人がマークについて仕事をさせてくれなかった。このあたりがやはり昭ちゃんの今後の課題のようである。
 
「でもボク、また女子の方の試合にも出たいな」
と昭ちゃんは言う。
 
「連休明けからはまた平日夜にN高・M高・L女子の3校練習戦するから、それに参加するといいよ」
「男子の練習時間が終わった後だから、女子の方で練習するのは問題無いはず」
 
男子バスケ部の練習時間は他の部と同様に18時までだが、女子バスケ部はインターハイとオールジャパンでの活躍が認められ、昨年春からの特例扱いが継続していて、20時まで練習することができる。
 
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「つまり、湧見昭一君が18時まで男子バスケ部で練習して、18時から20時までは湧見昭子ちゃんが女子バスケ部で練習すればいいんだよ」
 
従妹の絵津子が何だか楽しそうな顔をしている。
 
「オンドルが暖かいよ」
「あれ、いいですねー」
 
オンドルの火は6時間目が終わった15時に入れ、女子バスケ部の練習が終わる20時に落とす。しかし15時に火を入れても実際に室内が暖かくなってくるのは16時頃である。男子はこの暖かさを女子の半分の2時間しか体験できない。オンドルは天候にもよるが6月上旬くらいまでは運用する予定である。
 

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「でも昭ちゃん、女子として大会に出たり女子と一緒に練習してること、親には言ってるの?」
と寿絵が少し心配して訊く。
 
「実はとうとうボク、お父さんにカムアウトしちゃったんです」
と昭子。
 
「おぉ!」
「何と言われた?」
「だいぶ叱られたけど、お前がどうしても女の子になりたいのなら、それも仕方ないだろうって」
「すごーい。認めてもらったんだ!」
 
「久井奈先輩からもらった女子制服も見せたらどうしても着たいのなら着てもいいと言われました」
「だったら着て来よう」
「でもまだ恥ずかしいです」
 
「じゃ以前千里がやってたように、部活から帰る時だけ着るってのは?」
「あ、それもいいかなあ・・・」
 
「身体の改造の許可は出た?」
「それなんですけど、性転換手術は高校を卒業してからにしなさいと言われた」
「まあ、普通はそうだよね」
「うん。小学生の内に性転換した千里とかが異常」
 
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「千里先輩って小学生で性転換したんですか?」
「どうも千里の小学校からの友達とかと話していると、それっぽい」
「羨ましいなあ」
 
「そうだ。それと精子の保存をすることにしたんですよ」
と昭子。
 
「へー!」
「冷凍保存するのに毎年4万円かかるらしいけど、ボクが30歳になるまでは保管費用、お父さんが出してくれるそうです」
「ほんとに理解のある親だ」
 
「精子の保存かあ。私もそれ少し考えたんだけど、自分が父親になることに抵抗を感じたから、保存せずに去勢しちゃった」
と薫は言う。
 
「私はそんなの考えたことなかった」
と千里。
 
「そもそも千里って射精したことないでしょ?」
と暢子から言われる。
 
「1回だけしたよ」
「へー」
「それ手でやったの?」
「ううん。寝てる間に出てた。朝起きたら何か出てるから、びっくりして友達に電話して」
と千里。
 
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「その電話を受けたのが僕だけど、千里は、おちんちんから精液が出るということ自体を知らなかったっぽい」
と留実子。
 
「それはさすがに無知すぎる」
「日本の性教育のレベルを嘆く」
「でもそれいつの話?」
「いつだったっけ? 僕もよく覚えてないけど中学1−2年くらいだったかなあ」
 
実際には高校1年の時の出来事なのだが、留実子はわざと曖昧にしてくれたような気もした。
 
「ああ、じゃあその後は去勢しちゃったんで、それが最初で最後の射精になったのね?」
 
「そうなのかもねぇ」
と言いながらも、千里は美鳳さんから、千里は去勢手術を受ける直前にたくさん射精することになるよと言われたのを思い出し、嫌だなあと思った。
 
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「まあまあ、座って。今お茶でも入れるね」
と&&エージェンシーの白浜は、高校2年生の吉野美来に席を勧めた。
 
「今日はどういうお話なんでしょうか?」
「美来ちゃんとの付き合いももう長いよね」
「そうですね。最初に公園で白浜さんにお声を掛けて頂いたのが中学2年の時でしたから」
 
美来は中学生の頃、数人の友人(この中に谷口日登美=後の神崎美恩も居た)と一緒に公園で踊っていた所を白浜にスカウトされ、勧められて本格的な歌やダンスのレッスンも受けた。何度か歌手のバックでライブで踊ったこともある。Parking Service のバックダンサー Partol Girls にも臨時参加したことがあった。
 
「実はうちで今新しいダンスミュージック・ユニットを企画中なんだよ」
「Parking Serviceとは別ですか?」
「そうそう。Parking Serviceはとにかく楽しく歌って踊って騒ごうというのがコンセプトなんだけど、もっと本格的に歌も聴かせられるダンスユニットもあっていいんじゃないかという話になってね」
「へー」
 
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「それでダンスも歌も上手い子に今数人声を掛けている所なんだよ」
「やはりParking Serviceくらいの人数にするんですか?」
 
Parking Servieは5人から8人くらいの幅でしばしば人数が変動している。
 
「あれよりもっと少なくする方針。今の所考えているのが3人か4人。歌を歌う時にハーモニーを取るのには3人か4人がベストだから」
「それは言えますね。5人以上いてもパート分けできない」
「Parking Serviceは大勢居ても、斉唱かリレー唱だから」
 
「でもちょっと面白いかも」
「プロジェクト名はXANFAS(ザンファス)というんだけどね」
「どういう意味ですか?」
 
「音楽の理想郷というのでXANADU(ザナドゥ)というのがあるんだよ。以前、オリビア・ニュートン・ジョン主演で映画も作られたんだけどね」
「へー。なんか昔の歌手ですね」
 
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と言った美来のことばに白浜はややショックを受ける。が気を取り直して説明を続ける。
 
「それとFassion(ファッション)を合成して XANFAS(ザンファス)」
「なんかそういう説明を聞くと格好良い気がしてきました」
「何よりも音の感じがいいよね、と社長とは話していたんだけどね」
「ぜひ参加したいです」
「じゃ、美来ちゃんのお父さんともお話したいから、一度時間取ってもらえる?」
「ええ。父に話してご連絡を入れます」
 
なお、このユニット名は後に数秘術にもとづいて XANFUS と改名される。XANFASだと運命数が2, XANFUSなら4 になる。1,2,3は個人的な数、4,5,6は社会的な数(7,8,9は霊的な数)とされており、4にした方が商業的には成功しやすいのである。
 
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女の子たちの新生活(8)

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