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なお、もうひとつの準決勝はL女子高が大差でA商業を下していたが、L女子高は溝口さんたち主力は出ずに、控え組だけで乗り切った。
男子の準々決勝をはさんで女子の3位決定戦が行われたが、M高校がA商業に圧勝して、道大会へのチケットを獲得した。これで今年も旭川地区から道大会に行くのは、昨年同様、L女子高、N高校、M高校の3校になることが確定した。
3位決定戦の後にL女子高とN高校の決勝戦がある。L女子高は午前中の試合で主力を温存していたが、N高校はM高校への義理を通して主力を使っている。疲れはまだ取れていない。しかし暢子はみんなに「この試合勝ったら監督がジンギスカンをおごってくれるぞ」などと言って檄を飛ばしていた。宇田先生はそんな話を聞いていないので、びっくりしていたが、みんなはそれで結構盛り上がっていた。
試合は序盤から激しい戦いとなった。
スターターは、雪子/千里/薫/暢子/揚羽である。向こうは藤崎/登山/大波/溝口/鳥嶋 という布陣。N高校もL女子高も昨年の秋以降現在の3年を中心としたチームになって強い所との試合経験をたくさんしてきているので、どちらも充分レベルが高い。
そしてN高校は最近急速に実力を上げてきているのだが、L女子高にしてもブロックエンデバーに多数のメンバーが参加して結構実力の底上げをしている。加えて疲労の差がある。それでやはり体力を温存していたL女子高の猛攻にいったん点差が付きかけるが、この試合までしかインハイには参加できない薫が必死のプレイで追いすがる。薫の奮起に刺激されて暢子も千里も頑張る。主力組で体力を温存していた雪子・揚羽が、千里と暢子が疲れて動きが少し悪くなっている分をカバーする。
結局前半終わって40対40の同点である。
突然展開される全国レベルの戦いに、集まっているバスケガール、バスケボーイたちの視線も熱くなる。
第3ピリオドは暢子・千里ともに休んで、寿絵と夏恋に任せる。そしてこのピリオド、暢子が下がっているのでキャプテンマークを薫に付けさせた。
薫はそろそろ体力の限界に達しているのだが、本人が全ピリオド出たいと言っていることもあり、下げない。スクリーンプレイのうまい夏恋が、うまく薫の攻撃できるルートを作り出す。そして夏恋は自らボールをもらった時(ピック&ポップ)は、千里ほどの精度は無いものの積極的にスリーを撃つ。薫自身もさすがに疲労で隙ができやすいので、そこを試合巧者の寿絵にカバーしてもらう。
それでこのピリオド、18対22と、こちらがリードする展開となる。累計で58対62である。
しかし点を取られたら取り返せと向こうも激しく攻めてくる。第4ピリオド前半を過ぎたところでまた70対70の同点になっている。
こちらの攻撃。薫がドリブルしている。第3ピリオド後半から時折一瞬見せる集中力が途切れたかのような表情。そこに伶子がスティールに来る。
ところが実はその表情自体が薫のフェイントで、この時薫は心の中ではむしろ精神を研ぎ澄ませていた。
伶子が動いたことでできたスペースにその伶子にマークされていた雪子自身が飛び込んで行く。薫は雪子の居る少し前の付近めがけて素早いバウンドパスを出す。そのボールに追いつくようにして雪子はキャッチし、カバーに来た鳥嶋さんを背丈の差を逆用して抜く。
この背丈の差の逆用は、溝口さんにしても鳥嶋さんにしてもこの試合で何度かやられている。やられると分かっていても対抗できないんだよと溝口さんは言っていた。雪子は158cmの背丈で更にコサックダンスみたいに身体をぐいっと低くしたままドリブルする技なども持っている。176cmの溝口さんや178cmの鳥嶋さんにとっては、地面を這われているような感覚だ。
雪子がきれいにシュートを決めて2点のリード。
このピリオドでは薫は自らもシュートに行くが、それ以上に他のメンバーをうまく使って得点を奪うというパターンをよく使った。彼女は176cmの背丈なのでN高校女子ではスモールフォワードの登録だが(実際彼女の背丈ならパワー・フォワードかセンターでもよい)、東京の高校や中学時代(中1の頃171cmだったらしい)は男子選手としてはそんなに高い方でもないのでポイントガード登録されていた。それで、こういう感覚もかなり鍛えているのである。ただしガードは性(しょう)には合わないと言っていた。彼女は自分でシュートするのが好きだ。貪欲な点取り屋さんである。
しかし第4ピリオド後半は、今のプレイをきっかけとする薫の「ポイントフォワード」的な動きで、N高校はじわりじわりと点差を広げていく。点差が開いていくのでL女子高も必死に反撃するが、気力を振り絞っている薫が根性でディフェンスも頑張り、一度はスティールの達人の伶子から逆にスティールを決めるなどということもやる。
やがて試合終了のブザーが鳴る。ブザーと同時に登山さんがかなりの距離からシュートを放ったのがきれいに入り本人も驚いていたが、その3点を入れてもL女子高はN高校に届かなかった。
整列する。
「86対78でN高校の勝ち」
「ありがとうございました」
こうしてN高校女子は旭川地区大会に優勝してインターハイ道予選に進出した。
両者握手したりハグしたりするが、溝口さんが薫に何か言っていた。
「麻依子ちゃんに何か言われた?」
「バスト大きくした分、動きが鈍くなったんじゃないかと」
と言って薫は頭を掻いている。
「ああ、いきなりおっぱい大きくなったからね」
と川南。
「300cc注入したと言ってたから0.3kg重くなってるよね?」
「缶コーヒー1個半」
「その分の体重増を、贅肉落としてカバーしなきゃ」
と寿絵。
「国体予選までに鍛え直しておくと言っておいた」
と薫。
「よしよし。薫には1日100kmのジョギングを課そう」
と暢子が言うと
「さすがにそれは身体が壊れる」
と言う。
「ついでに国体予選までに余計なものを身体から切り離しておくといい」
「あれを取るだけでも何百グラムか体重減らない?」
「そんなに重くないよ!」
「まあ巨大化している時は重量もあるかもね」
「直径3cm長さ15cmの円柱の体積はπr
2h(パイアール2乗エッチ)で、ざっと400立方センチかな」
と寿絵が暗算で概略の計算をする。
「お、だったら比重1として400gあるじゃん」
「薫が大きくしたおっぱいより重い」
「でも縮んでいる時は直径2cm長さ7cmとして80立方センチくらい」
「凄い、体積で5倍になるのか」
「私のは長さ3cmもないよ。直径ももう少し小さい。それにタマが無いから、もう大きくなったりはしないよ」
と薫が大胆な告白をする。
「ほほぉ」
「じゃ直径1.5cm、長さ3cmとして20立方センチ」
「薫のおちんちんは普通の男の子のおちんちんの4分の1か」
「数学って役に立つのね」
南野コーチが女子たちのペニス数学論議に呆れていた。宇田先生はもう聞いてない振りをしていた。
「そのくらい小さければ大きめのクリちゃんとみなしてあげてもいいかな」
「クリちゃんがそんな大きな子って居る?」
すると留実子が
「長さ1.5cmくらいの人いるよ」
などと言い出す。
「すごっ」
「じゃ薫はそのクリちゃんを半分くらいの長さに切ってもらえば女の子の身体とみなしてあげてもいいかも」
と川南。
「半分切るくらいなら全部切るよ!」
と薫は言った。
男子の決勝が行われた後表彰式になる。男女の3位までが賞状をもらい、1位には優勝旗も授与される。「平成20年度・旭川地区高校バスケットボール春季選手権大会・女子・優勝/旭川N高校」という新しい校名の書き込まれたペナントが取り付けられている。この優勝旗はここ数年、L女子高とN高校が「お持ち帰り」する率が高いので、両校の校名のペナントが多い。
今回は暢子がその優勝旗を受け取り、薫に優勝の賞状を受け取らせた。
個人賞も発表される。優秀選手賞にはM高校の橘花が選ばれた。N高校との激戦を戦った後でA商業とも更に激しい試合で健闘したのが評価されたのだろう。
「得点女王。旭川N高校、歌子薫さん」
これには薫はびっくりしていた。慌てて「はい」と返事し、チーム優勝の賞状を寿絵に預けて前に出る。思えば彼女は1回戦からずっと出ていたので総得点は確かに凄いことになっていたはずだ。嬉しそうに賞状をもらう。女子の公式大会に初めて出場を認められて、それで賞状をもらうというのは最高だろう。
「スリーポイント女王、旭川N高校、村山千里さん」
「はい」と返事して前に出て賞状を受け取る。スリーポイント女王の賞状も随分増えたなと千里は思う。中でもインハイのとオールジャパンのは宝物だけどね。
「アシスト女王、旭川L女子高、藤崎矢世依さん」
「はい」と答えて彼女も前に出て賞状を受け取る。N高校は昨日の試合では雪子もメグミも使わなかったが、藤崎さんは昨日の試合にも結構出ていた。それでアシスト数も多くなったのだろう。
並んでいる橘花・薫・千里・藤崎さんの4人で握手してから下がった。
男子の方では1位B高校、2位N高校、3位T高校であった。北岡君が賞状を受け取る。そしてスリーポイント王は昭ちゃんが取ったが、昭ちゃんが前に出ると、どう見ても女子選手に見えるので、一瞬、役員さんたちが会話を交わしていた。しかし本人ですよと昭ちゃんを知っている役員さんが言ってくれて、何事もなかったかのように賞状が授与された。
「結局薫って、やはりタマタマは抜いてて、おちんちんが残存している状態?」
とあとで薫がいない時に暢子が千里に訊いた。
「本人はそういうのを示唆してるね。でも協会が女子の試合に出ていいと認めたということは、やはりタマタマが無いのは確実として、おちんちんも無いんじゃないかという気もするんだけどね」
と千里はその点については疑問を呈す。
「でも最終的な手術をしてないと言ってたよね」
「たぶんまだヴァギナを作ってないんだと思う」
「そういや、こないだのタンポンどうしたんだろ?」
「なかなか出てこないから、死ぬ思いで抜いたらしい。そのあと数日お尻が痛かったって」
「同情できんな」
「うん。あいつ絶対不純な動機でタンポン入れてる」
「でも結局ヴァギナはまだ無いんだ?」
「僕もあの子、既におちんちんは取って割れ目ちゃんにしてるのではという気がするんだよね。あの手術、ヴァギナまでは作らなかったら、短期間で回復するんだよ」
と留実子。
「宇田先生に訊いたけど個人情報だから教えられないと言ってた」
と暢子。
「去年、私の診断書が何だかいつの間にか流出してたから、先生も警戒を強めてるんだと思う」
と千里。
「ああ、あれは宇田先生の机の上にあったのをこっそりコピー取った」
「犯人は暢子か!」
蓮菜までコピーを持ってたもんなあ、と千里は思う。暢子から蓮菜に伝わるということは恵香あたりを経由してる?いったい何枚コピーされたんだ?
「でもタマが無いから大きくならないって言ってたけど、あれってタマの力で大きくなるものなの?」
と川南が訊く。
「実は関係ない」
と千里は答える。
「そうなんだ?」
「でもタマを取れば男性ホルモンが無くなるから男性能力自体が消える。睾丸を取ったり、あるいは長年女性ホルモンを服用して機能停止している人は大抵勃起しないよ」
「ほほお」
「勃起する人もいるわけ?」
「居る。稀にだけど」
と言って千里は雨宮先生の顔を思い浮かべていた。