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合宿の最終日、4月29日。N高校の合宿所に札幌P高校のメンバーが来訪した。この日までP高校のバスケ部も(28日は学校を休んで)4日連続の合宿をしていて、お互い29日は合宿の総仕上げを兼ねて練習試合をすることにしていたのである。これはお互いの手の内をさらけ出せるように、非公開で行われた。練習試合をするということ自体を公開していない。
今回はAチーム戦、Bチーム戦をすることにして、N高校側はこういうオーダーを組んだ。
Aチーム
PG 雪子(7) メグミ(12) SG 千里(5) 夏恋(10) SF 寿絵(9) 敦子(13) 薫(15) PF 暢子(4) 睦子(11) C 留実子(6) 揚羽(8) リリカ(14)
Manager 瞳美・聖夜
Bチーム
PG.永子(20) 愛実(27) SG.結里(19) 昭子(21) ソフィア(26) SF.蘭(18) 絵津子(23) PF.葉月(17) 来未(22) (23) 不二子(25) C.川南(16) 耶麻都(24)
Manager 安奈・志緒
川南が「私もAチームに出たーい」と言ったものの、南野コーチから「Bチームの方が出場機会がある」と言われると「Bチームでいいです!」と言い、ついでにBチームのキャプテンに任命するというと張り切っていた。
最初にそのBチーム戦をするが、層の厚いP高校のベンチ枠から漏れた子たちだけに強い強い。
「これ***とか***とかのトップチームより強いですよね」
と揚羽が言い、暢子も千里も頷いていた。
試合は108対58というダブルスコアだったものの、勝ったP高校Bチームのメンバーの方が泣いている!?
「どうしたんですか?」
と千里が近くに居た佐藤さんに訊くと
「120点以上取ることと、相手を30点以下に抑えることを課題にしていたからね」
と佐藤さんは笑いながら答える。
「ああ、ベンチ枠がまた遠くなったのか」
「強豪もたいへんですね」
と夏恋が言う。
「いや、N高校さんのBチームもこれ地区大会でBEST4行くでしょ?」
と佐藤さん。
「湧見さんと川中さんのダブルシューターは破壊力があるし、26番付けてる子もセンスいい。でも何あの23番付けた子。無茶苦茶強いじゃん。名前教えて」
「シューターの湧見昭子の従妹で湧見絵津子です」
と千里は答える。
「絵津子ちゃんか。あの子が強い所との試合をたくさん経験したら若生さんの次のエースになるね」
と佐藤さん。
「2年生の原口(揚羽)・常磐(リリカ)はパワーフォワードもやらせているけど、どちらかというとセンターの性格だからね。フォワードとしては絵津子や黒木(不二子)の才能が高いと思う」
と千里も答えた。
「でも昭子は男の子だから公式大会には女子として出られないんですよ」
「そんなの、ちょっと手術受けさせちゃえばいいじゃん」
と佐藤さんが言うと
「それ佐藤さんからも煽っといてください」
と横から暢子が言った。
なおこの試合でセンターに入った川南であるが、センターとして出ているにも関わらず全くリバウンドが取れなかった。
「あんた、リバウンド取れなさすぎ。これじゃインハイにはとても出せない」
と南野コーチから言われて。
「練習します!」
と言い、葉月・来未と1年生の耶麻都・ソフィアを誘って、移動式ゴールを置いているトレーニングルームの方へ行った。シュート・ブロック・リバウンド練習は4人くらいで1組になってやるのが、やりやすい。
今試合を終えた両軍のBチームの子たちがモップを持ってフロアの掃除をした上で、今度はAチーム同士の試合を始める。
N高校 雪子/千里/薫/暢子/留実子
P高校 徳寺/横川/猪瀬/宮野/佐藤
というメンツで始める。ティップオフは留実子と宮野さんで争い、宮野さんが勝って徳寺さんがボールをキープして攻め上がる。N高校は佐藤さんに千里が付く他は雪子−薫・暢子−留実子というダイヤモンド1のゾーンで守る。
佐藤さんにボールが渡って千里と対峙するが、佐藤さんは一瞬の左を抜くフェイントからシュートに切り替え、高い位置から発射するシュートを撃った。その高さから撃たれると、背丈の問題で千里はブロックができないのである。
これが入って2点。試合はP高校の先制で始まる。
この試合、第1ピリオドはひじょうに激しい戦いになった。点の取り合いで28対26と互角の戦いになる。非公開にしている安心感でP高校側もN高校側も新人戦やJ学園迎撃戦でも使用していなかった新しいフォーメーションを試用する。お互い強い相手にこういうのが通用するのか、手応えを見ておきたかったのである。
第2ピリオドでは対Q女子高戦を想定した空中戦対策を試してみたいという向こうの要望で、こちらは仮想海島(182)で薫(176)がポイントガードになり、SG.揚羽(174 仮想菱川180) SF.暢子(177 仮想今江181) PF.千里(168 仮想鞠原166)・C.留実子(180 仮想大取 186)、と長身の選手を並べた。ポジションはズレているものの、かなり破壊力のあるメンツである。
P高校が密かに練習していたという「天上システム対策」は、ゾーンディフェンスと、素早い動きによる「ブースト・オフェンス」、そして横川さんと新1年生シューター伊香さんによるダブル遠距離射撃である。
「プースト・オフェンス」は確かに凄かった。こんなに早くボールを回されるとかなり翻弄される。こちらの防御態勢が整わない内にやられる感じだ。
「男子大学生の強豪とやってるみたい」
と薫が言うと
「うん。実はそれで思いついたんだよ」
と佐藤さんは言った。
かつて千里は中学女子のバスケは自転車、高校男子のバスケは大型バイクと表現したことがある(高校女子は小型バイク)。しかし実際にはP高校やJ学園は大型バイクのレベルだと思うし、恐らく現在N高校女子もそれに近い所まで進化している。しかしこのピリオドのP高校はそれより速い感じ、七半ではなくリッターバイクくらいの感覚だ。
「関学(関東学生連盟)の男子大学生に練習相手になってもらってるんですよね」
と宮野さんが言っちゃうと
「それ秘密なのに〜」
と佐藤さん。
「うん、大丈夫、聞かなかったことにするから」
と暢子。
「うちもやりたいね」
と千里は言う。
「ちょっと宇田先生に提案してみよう」
一方今回N高校のメンツには初お目見えになった伊香さんだが、ひじょうにセンスのいいシューターだ。しかし彼女はインターハイ予選では使わないつもりだと佐藤さんは言った。P高校の予選は他の有力校も偵察に来る可能性がある。彼女は当面秘匿するし、インターハイ本戦でQ女子高と当たる組合せになったら、Q女子高戦まで使わないつもりだという。確かに彼女はシュートは上手いものの、マッチングは下手で、かなり鍛えないとP高校トップチームのベンチ枠に入れるレベルではない感じもあった。
このピリオドはP高校の作戦自体はうまく行った感じで、こちらはなかなか制限エリアに入れなかったし、リバウンドも向こうの宮野さんと佐藤さんが物凄い勢いでボールに飛びつく感じでどんどん取られたものの、千里のスリーもどんどん決まって、22対24とこちらのリードで終わった。
「作戦で勝って勝負に負けてる」
と佐藤さんと狩屋コーチが嘆いていた。
「まあQ女子高には千里ほどのシューターは居ないだろうし」
「新1年生で入ってくるかもよ」
取り敢えず前半は50対50の同点である。
後半はその手の試行はあまりせず、本気勝負になる。薫もJ学園迎撃戦以来の本格的な強敵に当たって闘志を燃やすし、千里も暢子も必死で戦う。留実子も第2ピリオドで完敗だっただけに、宮野さんとのリバウンド争いに気合いを入れ直して頑張る。しかし向こうも手強い。それで第3ピリオドまで終わった所で70対70の同点であった。
第4ピリオドはここまで出場機会の無かった子たちにこの強豪との対戦経験を与えるため交互に出す。向こうもその姿勢だったが、第3ピリオドまでをほぼ中核選手だけで戦っていたので、10分間では出し切れなかった。
「提案。第5ピリオドをしよう」
「賛成」
「ついでにBチームの子も少し徴用しよう」
「全くもって賛成」
ということで、第4ピリオドまでの得点は94対90でP高校が勝っていたのだが、更に結局第6ピリオドまで10+10分間やって、まだ出ていなかった子をどんどん出した。敦子や睦子にリリカ、更にBチームから徴用した結里、昭子、絵津子、耶麻都、不二子、ソフィア、川南、葉月といった面々には、この全国トップレベルのチームとの対戦は凄く良い経験になったようであった。
「5分間に3回もスティールされた」
と川南が嘆いていたので
「インハイのレベルがどんなものか分かったでしょ?」
と南野コーチが言うと
「私、もっともっと練習します」
と川南は誓っていた。
一方4-6ピリオドずっと出ていたP高校の伊香さんも、敦子や絵津子とのマッチアップに全敗して「フェイントが効かない〜!」と言って天を仰いでいた。
「(伊香)秋子ちゃんのフェイントは間違ってはいない。普通の女子高生チームの選手にはほぼ通用するよ。でもP高校やN高校の選手相手なら3軍レベルの子にしか通用しない」
と薫が言うので
「もっと練習します」
と彼女も誓っていた。
「私、3軍レベルですか?」
と伊香さんにほぼ負けた川南が言う。
「今はそうだね。また6月までに頑張って2軍レベルくらいまでは上げよう」
と薫。
「頑張らなくちゃ」
と川南は再度言っていた。
試合は最終的に150対122でP高校が勝ったが、向こうも本当はもっと点差を付けて勝ちたかったようで、試合終了後はむしろ厳しい顔をしているメンツが多かった。
試合終了後は一緒に夕食のすきやきを食べて両校合宿の打ち上げとした。