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■女の子たちの出会いと別れ(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-01-12  
千里は山の斜面を随分歩き回っていた。私、道に迷ったのかなと思っている内、屋根の付いた通路があるのに気付く。どうも旅館から温泉に行く通路のようだ。あ、そうか。私旅館に泊まっていて、お風呂に行こうとしていたんだった。と思い、その通路を登っていく。
 
たどり着いた先はスポーツジムか何かのような感じで、大勢の男の人が腹筋や背筋を鍛えるマシンを使ったり、またルームランナーの上を走ったりしている。みんなトランクス1丁の半裸である。
 
あれ〜。ここ男の人ばかり。私間違って男湯の通路に来ちゃったかなと考える。そういえばここの旅館って、男湯と女湯が離れた場所にあって、通路も結構離れていたような気がした。誰かスタッフを見付けて女湯の方に行く道を聞こうと思って歩いていると、チェストプレスをしている薫が居る。薫はおっぱい丸出しだ!
 
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「何やってんの?」
「私、おっぱい大きくしたいから大胸筋を鍛えている」
「でもここ男子用エリアみたいだよ」
「え?うそ?」
「だって周囲、男の人ばかりじゃん」
「ほんとだ!でもなんで千里もいるのさ?」
「私、道に迷ったみたい。薫も一緒に女子の方に行こうよ」
「うん。行く行く」
と言って薫はマシンから離れると、上にトレーナーを羽織って、千里と一緒にスタッフを探して奥の方へ行った。
 
そこで目が覚めた。
 

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2008年3月1日は土曜日ではあったものの、午後からN高校の男女バスケ部員が引退している3年生も含めて全員、学校に集合した。この日の午前中、新しい南体育館《朱雀》が完成し、学校側に引き渡されたのである。
 
土曜日なので引き渡しやバスケ部員の集合は月曜日でも良さそうな所であるが、月曜日は卒業式なので、卒業して行く3年生にも新しい体育館を見てもらおうということで、この日のセレモニーとなった。
 
「前より随分広くなりましたね」
「うん。コート3面取れるようにしたし、シュート練習場を8m確保したから」
 
前の朱雀ではシュート練習場の幅は6.5mしかなかった。昔のスリーポイント・ラインは6.25mだったので良かったのだが、現在は6.75mに改訂されている。そのため前の朱雀ではシュート練習場のスリーポイントラインがコートのサイドラインで少し切れていた。ここを8m確保したのは、現在のルールでスリーポイントの練習がしやすいように宇田先生がこだわって実現してもらったものであるが、やはり千里という優秀なシューターがいるから、学校側も考慮してくれたのだろう。
 
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「これ、幅を規定より少し短くすると4面取れるかも」
「線がテープで貼ってあるのは、その伏線ですか?」
 
「ペイントしようかと思ったんだけどね。どうも制限エリアの形が近いうちに変わりそうなんでね」
「ああ。今台形なのがNBAと同じように長方形に変更されるっぽいですね」
「うん。時期は分からないけどね。それで当面テープを貼っておこうかと。塗ってしまうと、グラインダーで床を削らないと取れないんだよ。それも完全に消える訳ではない。結局消した跡が残っちゃうんだよね」
 
「入れ墨みたいなもんですね」
「私たちはお化粧でやっていくと」
「新しい体育館なのにすぐ傷物になるというのは嫌ですよね」
 
体育館の窓は二重窓で、壁には断熱材を入れてあるし、表面は弾力性のあるラバー仕様になっている。勢い余って飛び出した選手が壁に激突した時の怪我防止である。
 
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「これなら安心してアウトオブバウンズになりそうなボールに飛びつけるな」
「いや、そういう危険なプレイはしないように」
 
北側(校庭側)の1・2階に、用具室・教員室・給湯室とトイレの他、更衣室が4つ設けられていて大会などで使用しやすいようになっている。更衣室はパーティションを入れて8つに分割することもできる。また、南側(道路側)には椅子席を1階・2階とも設け、練習試合や大会などをする時に座って観戦できるようにしている。これは外界との干渉エリアを作ることで空調の効果を高める目的もあるらしい。
 
「つまり椅子席の最後の1〜2列は座っていると寒いんですね?」
「人間の壁ということで」
 
なお通常の空調の他、フロアには床暖房(オンドル)が入れられる。
 
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「仮眠する時にいいな」
「寒くなったら朱雀に来よう」
 
このオンドルの燃料は基本的には薪なのだが、建築廃材が使えるようになっている。
 
「今旭川にはある理由で膨大な廃材があるらしいんだよ」
「それって、うちの近くに去年建設していた巨大な建造物ですよね?」
「うん。危険なんで全解体したけど、実際に焼けたのは材木の量で言うと3割くらいらしいし、その焼けて炭になったものも充分燃料になるらしい」
 
「うちの旧朱雀や仮設体育館も廃材になるんですか?」
「旧朱雀は8割くらいがヒバでできていて、その7割くらいは傷みも少ないというので、この春から建設される近隣の町の小学校の建築材料に利用すると言っていた」
「おお、第二の人生だ」
 
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「痛んでいた物や解体中に破損した木材は製紙会社に引き取らていった」
「じゃティッシュペーパーやトイレットペーパーになったのか」
 
「この朱雀もヒバですか?」
「耐久性を考えてヒノキを使う案もあったんだけど、材質よりサイズ優先にしてやはりヒバで。江差のヒバだよ」
「やはり地産地消ですね」
 
ヒノキの北限は福島県付近である。東北から北海道の渡島半島南部にわたっては近隣種のヒバが分布している。
 
「それにヒバの別名はアスナロでしょ。明日は強い選手になろうという願いを込めようということで」
「いいですねー」
 
ヒバは「明日はヒノキになろう」と思っているということでアスナロと呼ばれる(「枕草子」が語源)。漢字では翌檜または明檜である。地域によってアスヒ・アテビ・アテ・津軽ヒノキなどの名前もある。
 
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「明日はインターハイ優勝校になろう」
と暢子。
「明日は全日本優勝チームになろう」
と久井奈さん。
「薫と昭ちゃんは明日は女子選手になろう」
と川南。
 
昭ちゃんは唐突に自分に話が飛んできて恥ずかしそうに俯いたが、薫は緊張した顔をした。北岡君と氷山君もお互いに視線を投げ合う。
 
「仮設体育館の方はまるごとC学園に移設することになっている」
「へー!」
 
「3ヶ月使っただけだから廃材はほとんど出ないらしい。元々解体しやすいように多くのパーツはボルトで留めただけだったから」
「でも何年もつのかな」
「たぶん正規のを建てるまでのつなぎなのでは」
「今年再度校舎を建設して来年の春に開校みたいだよ」
「頑張るなあ」
「最近聞いたけど、普通コース・進学コース・特進コース・体育コースの他に福祉コースというのも作るらしいよ」
「へー。何するんだろう?」
「介護福祉士の受験資格が取れるらしい」
「それはユニークだね」
「あ、そのコース、誰かが設備を揃える費用を出してくれたので創設することになったらしいですよ」
「ほほぉ」
 
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一通り、体育館の施設をみんなで見て回った後、記念に練習試合をする。男子の3年・2年・1年、女子の3年・2年・1年でトーナメントをした。ここで薫は2年女子、昭ちゃんは1年男子に入れた。
 
1回戦の3年男子vs1年男子は貫禄で3年生の勝ち。3年女子と1年女子は雪子や揚羽などの大活躍で1年生が3年生を圧倒した。
 
「あんたら強ぇ〜。インターハイ行けよ」
と言う久井奈さんに、雪子が
「今年はインハイ優勝します」
と笑顔で言っていた。
 
2回戦男子2年対3年はやはり試合から遠ざかっている3年が後半力尽きて2年生の勝ち。女子の2年対1年は激しい戦いになった。
 
2年:メグミ/千里/薫/暢子/留実子
1年:雪子/結里/蘭/リリカ/揚羽
 
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というスターターになったが、やはり千里と暢子が底力を発揮して何とか1年を倒した。20分の試合なのに50対46というかなりのハイスコアゲームになった。
 
最後は男子2年と女子2年の決勝戦になったが、全く勝負にならなかった。女子対男子は年末に合宿先でも試合をしているが、その時は薫を男子の方に入れていても女子が圧勝した。今日はその薫が女子の方に入っているので試合は一方的になってしまい、60対26というダブルスコアになった。
 
「今年の男子の地区大会は女子1年で出ようか」
などと南野コーチが言うと
 
「待って。また頑張って練習するから」
と北岡君は言っていた。
 
「女子が男子の試合に出るんなら、おちんちんが必要だね」
「男子から取っちゃえばいいじゃん」
「みんなで刈り取りに行こう」
「勘弁してー」
「1人、取られたそうな顔してる子がいるけど」
 
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「やはり年末に一応試合になったのは、歌子が男子の方にいたからだな」
と落合君も参ったという顔で言う。
 
「歌子さんがいるのといないとでは戦力が全く違いますよ」
と水巻君。
「最近なんか、ほとんど女子の方に行って練習してるけど、4月からは男子チームに合流だし、もっとこちらに来てよ」
と中西君。
 
北岡君と氷山君が厳しい表情をする。この2人と千里・暢子にだけ話は通してある。
 
宇田先生が
「その件について、みんなに話がある」
と言い、全員その場に座るように言った。
 

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「実は先日歌子君はオールジャパンのエキシビションでの活躍が注目されて、北海道ブロックエンデバーに招集された。その時、彼女の性別について協会から疑問を提示された。それで昨年の村山君の例などもあったので病院で精密検査を受けてもらった。その結果、病院の診断内容を協会が検討して、歌子君は女子選手として登録してもらいたいということになった」
 
「えーー!?」
という声があちこちから上がる。
 
「ただ、彼女の場合、性別の移行からあまり時間が経っていないので、制限が掛かることになる。細かいことは個人情報が絡むので明らかにできないけど、取り敢えず4月以降、彼女は地区大会にはふつうに出場できる」
 
部員間でざわめきがある。
 
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「それから7月以降は道大会まで出場できる」
と宇田先生は説明を続ける。
 
「全国大会は?」
「それについては現時点では明らかにできないけど、高校在学中はNG」
 
「可哀想」
という声があがるが、薫の場合、結局去勢していることを病院の先生に確認してもらったのが今年の2月20日なので、最低その2年後まではどうにもならないようである。
 
男性ホルモンの影響が消えるには去勢後2年間の女性ホルモン投与が必要というのがIOCの見解である。なお、女性から男性への性転換選手の場合は卵巣さえ除去していれば待機期間が不要であるし、男性ホルモンの量が多少ドーピング検査の基準値を超えても治療のための例外(TUE)として許容される。男性から女性への移行選手の場合はその例外が無く、男性ホルモン量が女子の基準値を超える場合は即ドーピングとみなされる。
 
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「男子の方には出られないんですか?」
と落合君が訊くが
 
「うん。女子選手は女子の試合に出て下さいということ」
と宇田先生が言う。
 
「確かに、歌子は女の子だもんなあ」
と室田君が言う。
 
「俺、実は試合中に歌子に見つめられてドキっとしたことある」
などと中西君。
 
「ああ、それが更に進行すると誰かさんみたいに試合中にキスするのね」
と寿絵が言う。
 
かなりのざわめきがあったものの、みんな薫が女子であるという事実は受け止めてくれた感じであった。
 
「じゃ、薫はインターハイには出場できないんですか?」
と川南が訊く。
 
「うん。インターハイの場合は、道予選が6月にあるので、彼女は道予選にも出られない」
と宇田先生。
 
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「私、薫の分まで頑張るね」
と川南は何だか嬉しそう!?
 
「うん。私の分、頑張って。P高校の徳寺さんとかを抜いてよ」
と薫。
「あの人強ーい!」
「徳寺さんに勝てなきゃ、私の代理はつとまらないよ」
「うーん。ちょっと練習頑張ってみよう」
「うん、頑張れ頑張れ」
 

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そういう訳で、薫は結局4月から女子バスケ部で活動することになったのである。
 
「歌子君の参加できる大会が限られることと、やはり全体的な強化も兼ねて、今年は色々試合を入れるから」
と宇田先生が言う。
 
「今までやはりうちの学校は練習時間が限られているというのもあって、公式戦以外の参加は不熱心だったんだよね」
と南野コーチも言う。
 
「取り敢えず今月釧路で阿寒カップがあるのに急遽参加することになったから」
と宇田先生。
「またZ高校と対戦できますよね?」
と寿絵。
「幹事校・釧路Z高校の尾白さんに電話したら、松前君が割り込んできて、歌子君と湧見君入りのチームで出てこいと言ってたよ。まとめて叩きのめすからと」
と宇田先生。
 
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松前乃々羽は先日の北海道エンデバーにも出ているので、薫の性別問題も知っているし、昭ちゃんを女湯の中で見ている。
 
「湧見もですか?」
と水巻君が嫌そうな顔をする。
「湧見まで女子チームに取られませんよね?」
と大岸君が言うが
 
「女子チームに公式に登録されるためには既に肉体的に女性になっていることが必要だから」
と宇田先生は答える。
 
「ボク、女の子になりたいけど、まだ性転換手術受ける勇気がないです」
と昭ちゃんは言っている。
「うんうん。湧見、性転換は高校卒業してからやろうね」
などと中西君。
 
「それから4月にインターハイの地区予選があるけど、ここからは歌子君は正式に出られる」
 
薫の転校生制限による出場禁止は4月6日で解ける。
 
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「それから5月のゴールデンウィークに、うちが主宰して嵐山カップというのを開く」
「うちの主宰なんですか!?」
 
「近隣の学校に呼びかけてみたところ、今のところ20校くらいの学校が参加してくれることになった」
「凄い!」
 
なお、嵐山というのは旭川市内にある自然公園で学校の遠足や市民のハイキングなどによく利用されている所である。
 
実は昨日薫の診断結果が明らかになり、薫が女子チームに正式参加することが決まった時点で、前々から宇田先生とL女子高の瑞穂先生が持っていた構想を急遽具体化させることにしたのである。費用はN高校が全部負担するものの、L女子高もいろいろ協力してくれることになっている。昨日の午後、宇田先生、瑞穂先生、そして賛同してくれたM高校の金田先生と3人で電話を掛けまくって、取り敢えず口頭で20校ほどの学校の参加内諾を取ったのである。
 
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競技はN高校の新しい朱雀(3面)と青龍(2面)・白虎(1面)それに隣接するM高校の第二体育館(2面)で一挙に8面取れるのが効いている。これで男女各32チーム以内なら2日間でトーナメントを実施することが可能だ。
 
「それから6月にはインターハイの道予選があるけど、7月に行われる道民バスケ大会にも参加するから」
「へー!」
 
「これは高校生だけでなく、大学やクラブチーム、企業チーム、などいろんなところが出てくるから、上位の方に行くとけっこう鍛えられると思う」
と宇田先生は言う。
 
「毎月何かやるんですね!」
と寿絵が半ば驚いたように言う。
 
「うん」
と宇田先生もちょっと楽しそうだ。
 
薫が協会の規定通りだと、インハイの地区予選と国体の道予選くらいにしか出られないということで薫が出られる大会を増やしてくれたのだ。宇田先生は昨日の午後だけで1ヶ月分くらいの仕事をしたのではと千里は思った。
 
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