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(C)Eriko Kawaguchi 2015-01-13
ところで千里はU18トップエンデバーに参加している間に生理が来ていた。ふだんの練習の時ならまだナプキンだけでも何とかなるのだが、9月にウィンターカップの地区予選に生理がぶつかってしまった時は、試合に出ている間に外れていて悲惨なことになっていた。11月の層雲峡合宿も生理とぶつかったが副部長の特権で「やばそう」になったら適宜トイレに行って修正したり交換したりしたので何とか乗り切った。
しかし今回の合宿はそういう勝手が許されない。
『ねぇ、いんちゃん、何かうまい手がないかなあ』
『ああ。やり方があるよ。千里まだ生理初心者だから私がやってあげるよ』
『ほんと?じゃよろしく』
ということで《いんちゃん》が何かうまいことをしてくれたようであった。千里は処置をされている間横になっていたので、どうされたのか良く分からないものの「仕上がり」を見ると、生理用ショーツが結構ナプキンで盛り上がっている。
『自由がきかないだろうから夜用スーパー付けたから』
『だったら安心だね』
しかし《いんちゃん》は何だか忍び笑いをしていた。何なんだ!?
『ところでなんで私、生理があるの?』
『まあ、ある人の余計な親切と、あるお方の悪戯の複合結果だね』
『私の身体って、なんかお偉い人たちにもてあそばれているみたい』
『まあ、あの人たちも暇だから』
『生理があるって、私まさか子供産めるの?』
『内緒』
火喜多高胤は思わぬ人物の来訪に驚いていた。この人の存在はその筋では伝説化していた。本当に生きていたとは驚きだ。そもそも生年月日が怪しい。明治20年代の生まれという説もある。明治29年生まれとしても112歳になるぞ!?しかしなんて凄まじいオーラだ。こんなとんでもないオーラの持ち主の前にはひざまずく以外の道が無い。
「最近活躍しているみたいね」
と彼はとても若い声で言った。
「いえ。細々(こまごま)としたことを処理して過ごしています」
「なんか大学の教授になるんだって?」
「ええ。そんなことまで伝わっているとは恐縮です」
「何を教えるの?」
「今の医療は、物理的なものだけを見ていると思うんです。でも人間は物理的な存在であると同時に霊的な存在でもあります。それを理解していないと、心の通った医療にはならないと思うんです。そのあたりを話していきたいと思うんです」
「昔心優しい赤鬼がいたんだ」
と彼は話し始めた。
「彼は人間と仲良くしたいと思った。それで人間の町に出て行った。でも赤鬼の姿をみると人間はみんな恐れて、槍を投げたり鉄砲で撃ったりした。赤鬼はなぜこんなことされるんだろう。自分は単に人間と仲良く暮らしたいだけなのにと思った」
彼の話はそれだけだった。
火喜多はじっと考えていた。
「ステップが必要なんですね」
と火喜多は目をつぶって手を口の所に当てるようにして言った。
「まあ頑張りたまえ」
「頑張ります。ちょっと出直した方がよさそうだ」
「ところで**明王の秘伝だけど」
「もしかして教えて頂けるんでしょうか?」
「君がほしがっていると聞いたので、それで会いに来たんだけどね。残念ながら君はまだ前提条件を満たしてない」
「だめですか!」
「**の法を修めなさい。それができたら教えてあげるよ」
「10年はかかりますね」
「まだ死なないでしょ?」
「節制します」
「もし僕が先に逝ってしまった時のために、ある場所にコピーを取ったから」
「コピーできるんですか!?」
「この手の秘伝は、自分で修められなくても単純にコピー媒体になってくれる子がいるんだよ」
「依代みたいな人ですか」
「君はその依代に会ったことがあるよ」
火喜多は考えた。
「探してみます」
「頑張ってね。君がそれを修められる時が来たら、その依代が誰かは自然に分かるはず」
「私の知り合いのネットワークのどこかに居るということですね」
「じゃ僕は帰るから」
「お疲れ様です。どこかにお寄りになられますか? 良かったら車でお送りしますよ」
「ああ。じゃ名古屋に寄ってくれる?℃-uteのライブを見てから帰るから」
「えーーーー!?」
この月の千里はほんとに慌ただしかった。3月1日に南体育館の落成引き渡し。3月3日に卒業式でそのあと貴司と『最後の夜』を過ごし、貴司のお祖父さんと会い、翌5-6日は期末テスト、13-16にかけて東京に行ってエンデバーに参加。直後の18日には振分試験。19日は2年生2学期の終業式である。
そして20日から23日までの4日間は層雲峡でN高校バスケ部の男女部員が合宿を行った。薫が男子バスケ部から抜けて女子バスケ部に完全移行したので、男子の方はその穴埋めが結構たいへんな感じであった。北岡君も氷山君も練習に熱が入る。ところが初日の夕方、1度男子vs女子の試合をしたが、とんでもない大差になる。
「お前ら強すぎる!」
「若生も村山も凄い進化してる」
「歌子から強烈なパワーを感じた」
「ゴール下で花和に全く勝てん」
「森田にマッチングで全敗だ」
「白浜、スリーを全く外さなかった」
と男子たちの弁。
「北岡にしても氷山にしても水巻にしても、前回の層雲峡合宿からかなり進歩してるんだけどな」
と北田コーチは言う。
「暢子ちゃんと千里ちゃんがトップエンデバーに行ってきて、他に留実子ちゃん、薫ちゃん、雪子ちゃんもブロックエンデバーに行ってきて、強い選手に揉まれて凄く進化してる。それに負けじと夏恋ちゃんや睦子ちゃんも相当進化してるね。今の女子チームが去年夏の女子チームともし試合してたらトリプルスコアという感じだね」
と南野コーチは満足そうに言う。
「私、学校から帰った後で毎日300本シュート撃ってますから」
と夏恋が言う。
「白浜の家の庭に作ったゴールって雪に埋もれてないの?」
「ゴールの下、ボールが落ちてくる所だけ斜めに除雪して滑り台のようになってるから、自動的にボールが戻って来ます」
「それはなんて便利な!」
「但しそれはゴールに入った時だけで、外したら取るの大変なんです」
「アメとムチか」
「私も土日は夏恋の家に言ってシュート撃ってます」
と睦子も言う。
「ふたりで10本交代で撃つんです」
と夏恋。
「コーチ、私、女子チームにいると出番が無いから明日の男子女子戦では男子に入って良いですか?」
などと川南が言い出す。
「ああ、いいよ。じゃ川南と葉月は明日は男子ということで」
と南野コーチ。
「お前ら男になるの?」
「落合君がおちんちん譲ってくれたら」
「私と川南で半分こしようよ」
「やだ」
「それ半分こできるの?」
「他にもおちんちんくれる人いたら、教えてください」
「そんな奴いるのか?」
「ちょっと待て。俺はやるとは言ってない」
「歌子のは?」
「薫は、医学的な検査で女子と診断されているから、もうおちんちんは無いはず」
「そうだったのか」
「でもチンコ要らない奴がいたら、お前らどうすんの?」
「縛り上げて保健室のベッドに並べてカマでサクッと」
「怖ぇ〜!」
「あ、オカマって、カマで切られちゃったから、オカマというのかな」
「それは新説だ」
翌日川南・葉月が男子チームに入ると、昭ちゃんとのコンビネーションで結構女子のトップ選手に対抗する。それでやはり一方的な試合ではあるものの、昨日よりは随分マシな結果になった。川南が壁になってあげて昭ちゃんが実質フリーでスリーを撃つという場面があった。川南や葉月が北岡君や氷山君をうまくガードしてシュートさせたケースもあって、水巻君が「佐々木さんの動き、お手本にしなきゃ」などと感心するように言っていた。
「そうだ。聞いた?」
と寿絵は唐突に言った。
「何を?」
と暢子が訊き直す。
「火喜多高胤の話」
「聞いた聞いた。A大学教授就任の話、結局辞退したらしいね」
と敦子が言う。
「なんでだろうね」
「やはり批判が多かったからじゃないの?」
「確かに医療に関しては素人だしね」
と睦子。
「まあ科学的霊魂論とかの理論でもできたら、それの講義ができるかも知れないけど」
と暢子が言うと
「それってなんか凄くエセ科学の臭いがするんですけど!?」
と寿絵は言った。
織絵は困っていた。桃香からデートのお誘いメールが来ている。前回半ば流されるようにしたデートで、織絵は処女を奪われそうになって、ギリギリの所で桃香のお母さんが部屋に入ってきたことで逃げ出すことができた。桃香は翌日「強引なことしてごめん」と言って謝ったので、織絵もその謝罪を受け入れた。
しかし実は織絵は自分の心境の変化を感じ始めていた。
女の子との恋愛って、男の子との恋愛より楽しくない?
男の子ってガサツだし、乱暴だし。桃香は女子としては結構「男らしい」タイプだけど、それでも男子と比べたら優しいし、おしゃべりしていて楽しい。男の子が野球や格闘技のこととか、女性アイドルのこととか話すの聞いていても、さっぱり楽しくない。だいたい男の子たちがあこがれているアイドルって歌が問題外の子ばかり。あんなの聞いてるって耳がおかしいのでは?と織絵は思ったりする。桃香は国内のアイドルには全く興味がないらしく、洋楽アーティストの話をよくする。勧められて聴いてみたが、みんな歌が巧い。洋楽っていいな。マイケル・ジャクソンとかダンスも格好良いし。
そんなことを考えていると、また桃香とデートしてもいいかなという気もしてきていた。でも次デートしたら、絶対処女を奪われそう。
私・・・・男の子じゃなくて女の子に処女を捧げてしまってもいいのかしら?
そんなことで悩んでいた時、携帯に着信がある。
「はい」
とだけ言った。
「あ、桂木さん? 私、&&エージェンシーの白浜です」
「おはようございます。お世話になります」
「ねぇ、桂木さん、今度の週末時間取れる?」
「今のところ、予定入ってないですけど」
実は桃香にデートに誘われているのだが。
「じゃさ、今回、金沢・福井・舞鶴・京都・大阪・神戸なんだけど出てきてくれない?もちろん交通費は出すから。またParking Serviceのバックで踊ってくれないかと思って」
「いいですよー」
土日で6ヶ所?なんかハードそうとは思いながらも了承する。
「じゃ、詳細メールするね」
「はい」
織絵は少し考えていた。そして桃香にメールをした。
《桃香、ごめーん。週末バイト入ってるのよ》
3月29日。千里たち旭川N高校の女子19人+4人のメンバーが釧路市の阿寒湖近くにあるマリモ総合体育館にやってきた。今日明日はここで阿寒カップというバスケットのカップ戦が行われる。男子は先週行われて旭川N高校は3位だったのだが、女子は今週なのである。男女の日程を分けたのは一度に多数のコートが取れないためである。
この大会はベンチ枠が18人なのでこのようにした。
PG 雪子(7) メグミ(12) SG 千里(5) 結里(19) 昭子(21) SF 寿絵(9) 敦子(13) 夏恋(10) 薫(15) PF 暢子(4) 睦子(11) 蘭(18) 川南(16) 葉月(17) 永子(20) C 留実子(6) 揚羽(8) リリカ(14)
この他にマネージャー登録で来未、撮影・偵察係で「銀河5人組」の永子以外の4人も連れてきている。「銀河5人組」というのは、もうすぐ彼女たちも上級生になるし、いつまでも「補欠5人組」では可哀想と言って、川南が付けてあげた新しい名前である。(銀河=実は星屑なのだが本人たちは結構気に入っているもよう)
またボーダー組でこのメンバーに漏れることになった志緒を先週男子チームのマネージャーとして登録して連れていったが「男の子に囲まれてチヤホヤされるのもなかなかいい」などと言っていた。本来はマネージャーは雑用係なのだが、実際には雑用は浦島君や二本柳君たちがしてくれて、ジュースやおやつもおごってもらい、上げ膳据え膳の待遇だったらしい。
練習では男子と混じってコートに入り、道原兄弟や服部君に1on1で勝利し、最近成長著しい浦島君にも結構いい勝負をして「性転換したらレギュラーにするぞ」と北田コーチから言われ「どうしよう?」と悩んでいたという。
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女の子たちの出会いと別れ(5)