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■女の子たちのGoodbye Boy(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-01-02
 
2008年2月。旭川周辺の人々、特に高校生の間に驚くべき情報が伝わった。
 
「火喜多高胤がA大学の教授になるんだって?」
「それいったい何を教えるのよ?」
 
テレビ番組で有名な“スーパー霊能者”火喜多高胤がA大学にこの春新設される保健福祉学部の教授に就任するという話なのである。
 
「やはり病院って幽霊多いから、迷わず成仏させる方法を教えるんじゃない?」
「病気の中には先祖を粗末にした祟りってのもあるらしいから、そういうのを治す方法なんじゃない?」
 
「でもそういうのって看護婦の卵に教えるような内容?」
 
「いや、カウンセリングとか教えるんじゃないの?霊能者とか占い師の相談内容って、半分くらいはカウンセリングみたいなものらしいよ」
「でもそれなら、心理学系のカウンセラーを連れてきた方がよいと思う」
 
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「だけど恋愛問題で悩んでいるのとか、占い師には相談できるけどカウンセラーには相談したくないよ」
「それは言えるなあ」
 
「でも、病院に入院している時に看護婦さんに悩み事相談して、突然看護婦さんが水晶玉取り出して『あなたの守護霊は・・・』とか言い出したら引くぞ」
「うむむ。スーパー霊能看護婦!?」
 

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2月1日。AYAのインディーズ3枚目のCD『ティンカーベル』が発売になった。千里は事前にこのCDを新島さんから送ってもらったのだが、色々複雑な思いの残るCDであった。
 
これは北原さんの遺作である。北原さんは音楽系の高校を出た後、△△△大学の法学部に入ったという不思議な人で、在学中に司法試験の短答式まで合格したものの、卒業後は法律の勉強は辞めてしまって一時期会社勤めしながらバンド活動していたらしい。雨宮先生に言わせると「迷走人生ね」ということだったが、あるいは北原さんが抱えていた性別問題が所以(ゆえん)なのかも知れない。
 
数年前から北原さんのお姉さんが新島さんの友人であった縁で雨宮グループに入る形になり、ポップスやアイドル歌謡を中心に年間20-30曲の作曲をしていたという。会社勤めとの掛け持ちが困難になり3年前に会社を辞めて作曲家専業になった。
 
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単発で歌手のCDの制作指揮を何度かしたことはあるものの、本格的なプロデュースはAYAが初めてとなった。雨宮先生は「北原はそのうち独り立ちして自分のワークグループを作るだろうな」などと言っていた。才能あふれる人だったが病気には勝てなかった。しかし28歳というのは、あまりに若すぎる死だった。
 
北原さんが亡くなった時、マンションのパソコンには4曲の未公開楽曲が登録されていた。内2曲は編曲までほぼ完成していたので雨宮先生が調整をした。1曲は編曲仕掛け、1曲はメロディーだけが入力されていたのでこの2曲は毛利さんが完成させた。そしてもう1曲必要だったので、私が作ることにした。
 
夜中に蓮菜に電話してAYAに合いそうな詩を頼んだら、蓮菜はAYAの3人を妖精に見立てて『ティンカーベル』という詩を書いてくれた。それに私はピーターパンの物語冒頭にある、タンスに閉じ込められたティンカーベルのイメージで曲を付けた。
 
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5曲は全て「ロイヤル高島作詞アキ北原作曲」のクレジットで毛利さんの指揮により音源製作がなされた。製作段階では雨宮先生や、先生の友人の上島雷太さんが監修している。かなりスケジュールが押している状況での製作だったので、マスタリングの指揮は実際には上島雷太さんが行った。
 
その時、上島さんは私の書いた『ティンカーベル』を先頭にしてしまった。雨宮先生がそのことに気付いたのはもうプレスに回った後だった。
 
「なぜ北原さんの作品をトップにしないんです?」
と千里は雨宮先生に言ったのだが
 
「すまん。新島からも言われたよ。私がその件を上島に言うの忘れてたんだ。上島は5曲とも北原の作品だと思っていたみたいなんだよ。私は制作した順番に『恋のハイロウ』を先頭にしたマスタリングがされるものと思い込んでいたのだけど、上島はこの曲がいちばんヒット性があると判断したようだ。ギリギリのスケジュールで進行していたからもう変更できなかった」
 
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と雨宮先生も少し悔いが残るような言い方をしていた。
 
AYAについてはこのCDが1万枚以上売れたらメジャーデビューという約束をしていた。AYAのインディーズ1枚目は6800枚、2枚目は8200枚売れている。AYAの企画をした雑誌社では当然この「1万枚行ったらメジャー」というのを雑誌に書いている。AYAの企画をしたのはローティーン向けの女性誌だが、同じ出版社の男の子向けの雑誌にも特集コーナーを作って毎月掲載しているので、応援してくれる子たち。特に男の子たちがきっと買ってくれて1万枚はクリアできると踏んでいた。
 
ふたを開けてみると予約が8万枚入り、初動で12万枚売れた。
 
FMで発売前(実はマスタリングが終わった直後)から『ティンカーベル』を随分掛けてもらい、それで急速にAYAのファン層は広がった。凄まじい予約が入ったことに驚いた企画側は急遽大量プレスをして何とか発売日に間に合わせた。
 
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「たださあ」
と雨宮先生は言う。
 
「どうも大部分のファンにとってはAYA=ゆみ、という認識っぽい」
「へ?」
「特にティンカーベルはサビ始まりの曲だけど、そのサビをゆみがひとりで歌っている。あすか・あおいはAメロ・Bメロだけを歌っている。だから、ゆみがボーカルであすか・あおいはバックコーラス担当程度の認識のファンが多いみたいなんだ」
 
「うーん。私は個人的にはそれでいい気がします。SPEEDだってボーカルは島袋さんと今井さんで、上原さんと新垣さんはコーラスです」
と千里が言うと
 
「SPEEDねぇ。あいつもそんなこと言ってたな」
と雨宮先生。
「あいつって?」
と千里は尋ねる。
 
「いや、いいんだけどね。でもそういう形にすると、いろいろ文句言う人がいるからさあ」
と雨宮先生は言う。世間はなかなか難しいようだ。
 
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「私もあの曲はCDの最後に置くつもりでいたから、そういうボーカル担当にしちゃったんだよね。どうせ最後だから、いちばんまともに聞こえる歌を1曲入れておきたかったからさ」
 
アイドルの音源製作は妥協と良心の戦いである。
 
「ゆみと、あすか・あおいの歌唱力が違いすぎますからね」
と千里も言う。
 
「そうなんだよ。だから他の曲ではリレー歌唱する時に、あすか・あおいが歌い出した時ガクっと来るんだよね。捨て曲のつもりだった『ティンカーベル』はそこを私の好みで適当にやっちゃったら、上島はこれがいちばんいいと思ってしまったみたいでさ」
 
雨宮先生は色々複雑な思いでいるようであった。
 

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「なにそれ〜〜!?」
 
その噂話を聞いた蓮菜は半ば呆れたような半ば楽しい?ような悲鳴をあげた。
 
「チン弁慶?」
「現代のキュベレーかスコプツィか」
 
それは先日東京のテレビ局がふだん関東限定で放送している『不思議探訪』という番組を北海道で制作しようとしたものの、何らかの事情で放送できなくなったという話から端を発している。なぜ放送できなかったかというので、色々憶測を呼んでいたのだが、やはり、あまりにやばすぎる不思議スポットがあったからではという話になる。
 
どうも「そばを通るとおいでおいでされる」《おいでの木》はその番組に出演している“スーパー霊能者”火喜多高胤が解決してしまったらしいのだが、火喜多さんでも解決できなかった怪異があったようだという噂になっていた。それが西五条大橋という橋に夕方出没するという《チン弁慶》なのである。
 
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「男の子がその橋を1人で渡ると『おちんちん置いてけ』と言って武者姿の幽霊が現れるんだって」
「実際におちんちん取られちゃった子がいるらしいよ」
「えー?おちんちん取られちゃったらどうなるの?」
「それはもう女の子になるしかないんじゃない?」
「美少年なら、それも歓迎だな」
「鶴田みたいな男子なら、勘弁してほしいな」
 
などと言われて近くにいた鶴田君が不快そうな顔をする。
 
「なんかある男の子が通った時『今までに799本のおちんちんを集めた。お前のおちんちんを取れば800本目になる』と言ったって」
 
「私が聞いたのでは『今まで899本のおちんちんを集めた』と」
「じゃ、その間に100本集めたのでは?」
 
「今旭川にはきっとおちんちんを無くした男の子がたくさん」
「女子高の定員を増やしてあげなくちゃ」
 
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「でもおちんちんを数える単位って本なんだ?」
「本じゃなかったら何だろう?」
「1房(ふさ)2房とか」
「ふむふむ」
 

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なんか変な怪異の話もあるもんだなあと思って千里は聞いていたのだが、その日また雅楽の合奏団の練習に行くと、その《チン弁慶》の話である。
 
「うちの神社の氏子さんの親戚の友達の子が、本当におちんちん取られちゃったらしい」
「えー?その子、どうしてるの?」
「元々女の子になりたかった子らしくて、これを機会に学校にも女の子として通い始めたって」
「それは良かったね!」
 
「でも女の子になりたい男の子じゃなかったら、悲惨だね」
「きっと、しくしく泣いているよ」
 
「でもその噂を聞いて、女の子になりたい男の子が最近、あの橋を夕方ひとりで渡ろうとするのがはやってるらしいよ」
「なんだか男の娘がたくさん橋のたもとにいて、ひとりずつ渡っていくんだって」
「だったら《チン弁慶》もおちんちんの取り放題?」
 
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「なんか昔、おちんちんを要求する女神ってありましたよね?」
と弥生がなぜか千里に話を振る。
 
「アナトリアのキュベレーでしょ?」
と千里は答える。
 
「信者さんがおちんちんを捧げるの?」
「そうそう。お祭りの興奮の中で、男性信者が自分の男性器を切断して女神に捧げる。切断した人はお祝いにみんなから女物の服を渡される」
 
「それ以降は女として生きなさいということか」
 
「キュベレーの神像には身体の周りに不自然な球体がずらっとくっついているんだけど、それは女神に捧げられた睾丸という説が有力」
 
「周りを取り囲むほどたくさん、男性器を捧げたのか」
 

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「だけどチン弁慶は何のために男の子のおちんちんを集めているんだろうね?」
「おちんちんを無くしたい子たちがそこに集まって、実際におちんちんを取ってもらっているのなら、別に放置しておいてよい気がする」
 
「でもおちんちん無くしたら困る人が通ってやられたら気の毒」
「やはり霊界探偵団で見に行こうよ」
 
「何その霊界探偵団って?」
「天津子ちゃんと、その眷属の私と弥生と千里だよ」
と綾子が言う。
 
「結局私も行くのか」
 

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それで翌日の夕方、4人は西五条大橋まで出かけて行った。女子大生の弥生が車で来ていたので彼女の車に同乗してやってきたのである。
 
何だか人だかりがしてる!
 
「あれ、おちんちんを無くしたい人たちでは?」
「男の子をやめたい人たちがあんなにいるのか」
 
「こいつら全部殺してやりたいな」
などと天津子は言う。
 
天津子は「オカマ嫌い」なのである。
 
「いや、性転換手術のハードルがあまりに高すぎるから実際に手術を受けるのは年間数百人みたいだけど、実際には性転換したいと思っている人はおそらく全国に数十万人いると思う」
と千里は言う。
 
「だけどなんで弁慶がおちんちんを狙うんだろう」
「昔、京の五条大橋で女の姿をした牛若丸にやられたからじゃない?」
「それでオカマ嫌いになって、オカマを見たらおちんちん取っちゃう?」
「でもちんちん取られて、やむを得ずオカマになっちゃう人もいるかも」
 
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と綾子と弥生はよく分からない会話をしている。天津子は霊視でもするかのように目をつぶって集中している。
 
千里は人だかりの中に、バスケ部1年生の湧見昭一がいるのに気付いた。
 
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