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■女の子たちのラストゲーム(8)

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それでホテルに移動して蟹を食べることになるが、食べ放題に設定してもらっているので、一部で《食べ比べ》をやっている子たちが居て、
 
「おまえら、食べ過ぎで腹痛起こして明日動けなかったら罰金だぞ」
などと狩屋コーチが言っていた。
 
席は自由なので、みんな適当に移動してはおしゃべりしていたが、千里・暢子は、いつの間にか、J学園の花園さん・大秋さん、P高校の佐藤さん・竹内さん、L女子高の溝口さん・池谷さんとテーブルを囲んでいた。
 
「ああ、このメンツで高校2年生は取り敢えずブロックエンデバーに招集されたね」
「そこから最終的にU18アジア選手権の代表が選考される」
「アジア大会で3位以内なら翌年U19世界大会」
 
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「花園さんは去年行ってきましたよね?」
「うん。アジア大会2位で、スロバキアの世界大会の出場権を獲得した。日程がインターハイとぶつかるんで私は世界大会は辞退させてもらったんだけどね」
 
(2007年のU19世界大会は7月26日-8月5日に行われた。まともにインターハイとぶつかっている。日本は13位であった)
 
「なんかもったいなーい」
「いや、インターハイがジュニア選手権とぶつかる問題は前々から何とかしろという意見が強い」
 
「でも世界大会、ビデオ見せてもらったけど世界のレベルは凄すぎる。日本はどうにもならんって感じだった」
 
「花園さんが凄すぎるというレベルの想像がつかない」
「見に行ってみるといいよ。2009年のU19世界大会はバンコクだから比較的近く。もっともこの中には選手としてそこに参加する人もあるだろうけど」
 
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「バンコクか。薫と昭子を拉致していって性転換手術を受けさせたいな」
「なんかバンコクは性転換手術をしてくれる病院もピンからキリまであるらしい」
「ほほお」
「日本やヨーロッパとかからたくさん来るような大きな病院はさすがにちゃんとしてる代わりに高いけど、安くて適当な手術をするところもあるみたい」
「取り敢えず切っちゃえばいいだろうという感じかな」
「ふむふむ」
「ちんちん切っちゃうだけなら割と簡単な手術みたいだよね」
「やはりヴァギナ作るのが大変」
「あれ、せっかく痛い思いしてヴァギナ作ったのに実際のセックスで全く使えなくて、パートナーとは後ろの穴使ってセックスしてるなんて人もいるらしい」
「なんか可哀想」
 
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「それはダイレーションが不十分だったんだと思うな」
「何それ?」
「作ったヴァギナって身体に人工的に開けた穴だからピアス穴と同じで自然にふさがろうとするんだよ。それが縮まないように拡張する作業」
「どうやって拡張するの?」
「小さいサイズから順に大きいサイズまでの棒を入れて広げていく」
「なんか大変そうだ」
「取り敢えず天然のヴァギナ持ってて良かった」
「シューストレッチャーみたいなもん?」
「まあ同じようなものでは。入れるものが違うだけで」
「あれ、第3の足とも言うし」
「なるほどー」
 
話はどんどんあらぬ方向に暴走する。
 

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翌日は第1試合はJ学園A−L女子Aの試合から始まるがJ学園は軽く流していた雰囲気であった。試合は82対66でJ学園が勝った。
 
第2試合はN高校A−P高校Aであったが激しい戦いになった。宮野さんと暢子、片山さんと薫のマッチアップは痛み分けの感じである。佐藤さんが千里との対決を好むので、尾山さんと留実子あるいは揚羽の対決になるのだが、そちらは尾山さんが技術の差で留実子も揚羽も圧倒していた。
 
佐藤さんとのマッチアップは、いつも佐藤さんに完全にやられている千里が今日はかなり頑張った。やはり年末年始の合宿で瞬発力を鍛えたのがかなり効いて、前半ではかなり佐藤さんを抜くことが出来た。しかし第3ピリオドになると佐藤さんがかなり千里を停めるようになる。
 
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南野コーチは第3ピリオド後半、千里を下げて夏恋を出す。
 
「何か前半より佐藤さんの速度が上がった気がして」
と千里が言うと
「違うよ。千里の速度が落ちたんだよ。疲労で」
と南野コーチは言った。
 
「そっかー」
「佐藤さんはずっと出ているのにほとんど落ちてない。千里、長く動くスタミナは持っているけど、長時間出ていると自分でも気付かないうちにセーブモードになっている。だから今の千里が佐藤さんに勝つには、適宜休むか、あるいはもっとスタミナを付けるしかない」
 
セーブモードというのは心当たりがある。千里はこの冬も美鳳さんたちと一緒に冬の出羽をひたすら歩いている。しかしああいう長時間の山駆けは自然と身体が効率の良い動きになる。まさにセーブモードだ。
 
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「40分フル出場してもパワーが落ちないようにしないといけないですね」
と千里は言う。
「あるいはパワーが落ちても相手を圧倒できるほどであるかだね」
と南野コーチ。
 
千里は頷いた。
 

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第4ピリオドはまた気合いを入れ直して出て行く。佐藤さんとの対決は第3ピリオド前半よりはうまく行くようになる。しかし第1ピリオドの時ほどは勝てない。やはり5-6分休んでも完全には回復していないなというのを千里は感じた。また練習だ!!!
 
試合は薫が結構頑張ったのもあり点数だけ見ると84対78と6点差で僅差という感じであった。しかし千里はこの試合は完敗だと思った。
 

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30分の休憩を置いて、J学園B−N高校Bと、P高校B−L女子Bの試合が同時に行われる。N高校とP高校の1.5軍の子たちは実質連戦である。しかも接戦を演じた直後なので、大変だったようで、さすがの夏恋もきつそうな顔をしていた。
 
更に30分の休憩を置いてL女子B−N高校Bの試合をするが、夏恋や睦子は実質3連戦になる。そこで南野コーチはこの試合は、Aチームに出ていない子たち中心に運用した。するとL女子側も同様の運用をし、この試合はCチーム同士の試合という感じになった。
 
「来年の陣容って感じかな」
といつの間にか近くに来ていたP高校の佐藤さんが言う。
 
「ええ、みんな明日のベンチを目指して頑張っています」
と千里は笑顔で答えた。
 
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そして最後は今回の《メインイベント》J学園A−P高校Aである。
 
「高校ラストゲームだから勝たせてもらおうかな」
と花園さん。
「花園さんの高校ラストゲームだから負けて頂こう」
と佐藤さん。
 
ふたりは硬い握手をして下に降りて行った。
 

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ゲームが始まる。
 
今回のリーグ戦最高のカードだけに見物人の数も凄い。2階だけでは入りきれずに1階にも少し人を入れた。
 
近所の札幌D学園や札幌G高校の人たちは最初から居たし、橘花たちM高校のメンツも熱い視線で見ている。釧路Z高校の松前さん、函館F高校の正岡さんなども見ている。遠い所からわざわざご苦労様である。旭川R高校の日枝さん、旭川A商業の三笠さんも見ている。
 
花園さんと佐藤さんがマッチアップしていたが、花園さんが圧勝という感じであった。千里をあんなに停める佐藤さんが、なぜ花園さんは停めきれないのだろうと不思議に思ったが、
 
「頭と身体の順序の問題だと思う」
と隣で暢子が言った。
 
「どういうこと?」
「佐藤さんは相手の気配に反応する。花園さんは相手の身体の兆候に反応する。千里はこちらに行こうと思ってから身体が動く。その気配で佐藤さんは千里を停める。花園さんは何にも考えてなくて反射神経レベルで身体が動く。このタイプには佐藤さんは弱いんだと思う」
 
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「むむむ」
「もちろんどちらも瞬発力がハンパないから、遅い選手は全部停めるよ」
「やはり私、もっと反射神経を鍛えないとだめか」
 
「インハイでも花園さん、千里を停めるのに目をつぶったでしょ。目をつぶることで身体の動きを見ないから、千里の気配に注意を払うことができたんだ」
 
「そういうのを思いつく花園さんが凄い」
「だから千里はもっと馬鹿になれなきゃダメ」
 
「それ中学時代、先輩に言われたことあった」
 
千里は再度ふたりの対決に熱い目を注いだ。
 

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この試合で花園さんは20本もスリーを放り込んだ。しかしP高校も佐藤さんや高校ラストゲームとなる片山さんがこまめに得点をしていく。試合は残り5秒で日吉さんがシュートを決めて108対106とし、勝負あったかに見えたが、そこからP高校がロングスローイン+佐藤さんのスリーで逆転。
 
108対109で札幌P高校が勝った。
 
激戦のあと、あちこちで握手したりハグしたりする姿があった。
 

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J学園のメンバーが帰途につくが、自費で帰るならお見送りしてもいいよということだったので、千里や暢子・留実子、溝口さんや大波さん、佐藤さんや宮野さんなど十人ほどが、J学園の人たちを乗せたバスに同乗して、空港までの道のり、いろいろおしゃべりを楽しんだ。
 
新千歳空港に18時前に到着する。飛行機は19:50なので、空港で晩御飯を食べていくことになるが、バスに同乗して付いてきた人たちもご一緒にということになって、留実子やP高校の宮野さんは中丸さんと、L女子高の大波さんやP高校の歌枕さんは篠原さんと意気投合して盛り上がっていた。千里・暢子と佐藤さんは今日は花園さん・道下さん・佐古さんと話し込んでいた。
 
「今年のインターハイ、優勝する所はどこだろうね」
「J学園に2倍」
「F女子高に3倍」
 
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「山形Y実業があなどれない。公立なのに凄い」
「愛媛Q女子高がけっこう強力。こないだは空中戦で完敗したけど今対策練ってる」
「どんな対策するの?」
「それは秘密」
「札幌P高校も倍率5倍くらいだな」
「東京T高校も6倍くらいで」
「N高校も可能性はある」
「いや昨年の快進撃はどこもうちを研究していなかったからだから今年はああは行かないと思う」
「今年のN高校の成績が本当の成績だろうな」
 
「うちもインハイ行きたいんだけどね」
と溝口さん。
「代表は2校だから、この3校のうち1校は行けない」
「3校とも行けなかったりして」
「2年連続でインハイ代表逃したら、さすがにやばいな」
 
「でも旭川L女子高の姉妹校の札幌L女子高は、バスケ聞かないね」
「学校の雰囲気もまるで違うみたい」
「旭川L女子高のバスケ部も昔は札幌L女子高と大差なかったんだよ。瑞穂先生が来てから変わったんだ。最初はとにかく地区大会で1勝しようというところから始めて、そのうち優勝を目指そう。道大会で上位に食い込もう。そしてとうとう全国へ」
 
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「それは知らなかった。昔からずっと強かったのかと思った」
「P高校も十勝先生と狩屋コーチのコンビがここ30年ほどチームを支えているからなあ。だから昨年ちょっと成績が悪くても理事長は留任させたんだと思う」
「30年というのは凄い」
「いや着任してからは40年近いはず」
「凄い」
「瑞穂先生は着任してから10年くらい? このあと30年くらい掛けて、P高校に代わってL女子高が覇権を取るところまで」
「宇田先生はあと30年は無理だな。瑞穂さん若いもん」
 
「でもL女子高は去年も一昨年も全国に行けなかった。今年こそは行きたいよ」
「また今年もP高校を倒して、旭川地区から2校出場で」
「いや、札幌でもD学園が代表狙ってるから」
「D学園はここの所、くじ運が悪いよね」
「うん。道大会の決勝リーグに残るのは半分は、くじ運だから」
 
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「でも名古屋と岐阜ってわりと近くですよね」
「そうそう。それでF女子高とはよく練習試合してる」
「やはり旭川と札幌でも、もう少し頻繁に試合したいね」
「ぜひそれはやりましょう」
 

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1月下旬。旭川市内《おいでの木》の前に、女子高生っぽい2人が来ていた。
 
木の前には台座が作られており、真新しい小さな祠が設置されている。ふたりの女子はそこにお酒と羅臼昆布をお供えすると、2拝2拍手1拝でお参りする。
 
「お参りさせて頂きありがとうございました」
 
とふたりはこの土地の地主の老人にお礼を言った。
 
「いや、あんたたちのお姉さんも軽い刑で済むといいね」
「はい。ありがとうございます。でも本当にご迷惑おかけしました」
 
放火事件ではこの老人が所有する倉庫も被害に遭っている。ただ彼はそもそも取り壊す予定のものだったからと言って、被害額はゼロと申告した。彼には加害者の弁護士から早い時期にお詫び金として10万円が支払われている。
 
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実はここの祠はそのもらった10万円で建てたものである。
 
「若い内は人生色々迷走することもある。でも迷った人ほど後で強くなるんだよ」
という老人の言葉に2人は礼をした。
 
「あんたたち高校辞めたって聞いたけど」
「さすがにちょっと居づらくて」
「フリースクールとかに行くとかは?」
「勉強だけは自主的にしておいて、落ち着いたらそういうのもいいかなとは思ってます」
「うん。頑張りなさい」
「はい。おじさんも頑張って下さい」
 
「そうだなあ。私も引退したつもりになっていたけど、また頑張ってみるかな。人生のラストゲームと思って」
 
老人は遠い目で何かを考えるように言った。
 
 
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女の子たちのラストゲーム(8)

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