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■女の子たちのラストゲーム(3)

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医師は確かに患者は女であったと主張する。それで、ひょっとして他人と誤認しているということはないかという話になり、千里や新島さんも含めて霊安室に行った。
 
「息子だと思いますけど・・・」とお母さん。
「北原君だと思う」と新島さん。
千里も頷く。
 
「でも患者は女性ですよ」
と言って医師が服をめくると、下着は女物を着けている。バストも小さいながらも、どうみても女性のバストである。
 
「ちんちんある?」
と雨宮先生が訊くので、医師がズボンを下げてみる。女物のショーツを穿いている。そのショーツを下げると、紛う事なき女性の陰部があらわになる。
 

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「どういうこと?」
 
雨宮先生が言う。
「可能性1.これは北原に似ているが別人の女性。可能性2.北原は人知れず性転換手術を受けていた。可能性3.北原は元々女だったが男を装っていた」
 
「あの子、少なくとも生まれた時は男の子でした」
とお母さん。
 
「北原君の裸を最後に見たのは?」
と新島さんが訊くと、お母さんは自信がないよう。お父さんも
 
「一緒に温泉とかに行ったことがないので、幼稚園の頃以降は裸は見てません」
などと言う。
 
何か知ってないかと最も交流の深かった毛利さんに電話してみる。
 
「え? 北原って女でしょ?」
と毛利さんは言った。
 
「えーーーー!?」
 

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毛利さんに話を聞いてみると、最初に会った時にふざけて抱きついたりしたら女の感触だったのでびっくりしたという。それで毛利さんとしては北原さんは男装の女性だと思っていたというのである。
 
「へ? 北原って元々は男だったんですか?」
と毛利さんはそちらの方に驚いている。
 
お母さんがフランスにいるお姉さんに電話してみた。
 
「性転換手術までしてたのは知らなかった。でもあの子、女の子になりたがってたよ。女性ホルモンを飲んでいたのは知ってた」
 
などという。
 
「雨宮先生、ご存じなかったんですか?」
「全然気づかなかった!」
 
「でも世間的には、自分の女性指向を隠して男を装って生活している人って多いよね」
と新島さんは言う。
 
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そしてお姉さんは言った。
「あの子、本当は女の子だから。戒名を付けるのに信士とか居士とかは付けないであげて。信女とか大姉とかにしてあげて」
 
「えーー!? でもお寺さんがそんなこと認めてくれる?」
「黙ってりゃ分からないよ。女の子の服を着せてあげて、女の子っぽく写っている遺影を出しとけばいいよ」
 
お母さんとお父さんは、息子が亡くなったこと以上に息子がいつの間にか娘になっていたということの方にショックを覚えている感じであった。
 

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「だけどいつの間に性転換したんだろう」
という話になるが、千里が
 
「済みません。北原さんのお股、もう一度見せてもらえます?」
と言う。
 
お母さんが「いいですよ」と言って、ズボンと下着を下げてみせてくれる。すると千里はそのお股のところに手を当てると《陰毛》を剥がしてしまった。
 
「え!?」
「付け毛か!!」
 
「傷跡が!」
 
先生に再度来てもらい見てもらう。
 
「これは手術が終わってからまだ一週間程度の傷跡だと思います」
と医師は言った。
 
「じゃ女の子になりたて!?」
とお母さんが驚いたように言う。
 
「まさか、手術の後遺症で亡くなっということは?」
と新島さん。
 
しかし千里は言った。
「おそらく、北原さん、自分のご病気のことご存じだったと思うんです。それで死ぬ前に女の子の身体になりたかったんですよ」
 
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「ああ、それなら分かる」
と新島さん。
 
「再度ちょっと検査していいですか?」
 
と言って医師は遺体を再度検査のできる部屋に運び込み、そこで採血したりしてデータを再チェックしていた。そして1時間ほど経った所で言った。
 
「性転換手術は、死因には無関係だと思います。この膵癌の進行状態ではどっちみち、ここ1ヶ月ほどの命だったと思います」
 
「どうも千里の言ったのが正しいみたいね」
と雨宮先生は沈んだ表情で言った。
 

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千里はなんだかんだで結局お昼過ぎにやっと病院を出た。それで代々木体育館に行くと宇田先生から
 
「昨夜、ホテルに居なかったみたいだけど?」
と訊かれる。
 
「済みません。実は都内の知人が急病で倒れて」
「そうだったの?大丈夫だった?」
「亡くなりました」
「えー!?」
「それで申し訳ありません。今夜お通夜で明日葬儀なので、それに出てから明日の最終便で旭川に戻ります」
「分かった」
 

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男子の決勝は本当にハイレベルだった。激しい接戦が続き、最後の最後までどちらが勝つか予想の付かない展開となり、最後は3点差で決着した。オールジャパンのラスト・ゲームにふさわしい試合だった。
 
千里としても色々刺激になるものはあった。しかし今日はそんなことより北原さんのことをあれこれ考えていた。
 
決勝が終わった後で、宇田先生と一緒に本部の人に挨拶してから体育館を出ることにする。その時、協会幹部の人に呼び止められた。
 
「後で公式の招集状が行くと思いますが、村山さんトップ・エンデバーに招集するつもりですから、よろしく」
 
「あ、そうなるでしょうね。こちらもよろしくお願いします」
と宇田先生は返事した。
 
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「エン・・・何とかって何ですか?」
と千里は宇田先生に訊いた。
 
「エンデバー(Endeavour)だよ。まあ強化合宿だね」
「へ?」
 
「強い選手を学校の枠を超えて招集して鍛えて、将来の日本代表を育てるんだよ」
「へー!」
 
日本代表?私が!?まさかね。
 

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連絡を取って斎場に行く。喪服を用意してもらっていたので、黒いワンピースにボレロという形式の喪服を身につけ、千里は受付の所に立って弔問客の相手をした。北原さんの遺影が女性のように見える(毛利さんが女装の北原さんの写真を持っていたので、それを使用した)ので、戸惑うように質問する弔問客もあるが、千里は故人は実は男装の麗人だったんですよと説明し、みな一様に驚いていた。
 
千里が受付けに立っているので、新島さんが各種の手配をして、力仕事は新潟から駆けつけてきた毛利さんがしていた。また関わりのあった幾つかのプロダクションやレコード会社の若い人もお手伝いをしてくれた。
 
故人は女性ということで通してしまったので、お坊さんも特に疑問を抱かずに○○大姉という戒名を書いてくれたが、その戒名を見つめる両親は複雑な表情であった。
 
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北原さんは、おそらく性別の問題があったのだろうが、学生時代の友人というのが全くいなかったようである。それで弔問客は、音楽の仕事関係の人たちと両親の友人などに限られ、そんなに人数は居なかった。
 
★★レコードの加藤課長も来てくれたが
「いつだったか、北原君は男装の麗人なんだよと言ってたの、本当だったんですか!?」
と物凄く驚いていた。
 
あれは雨宮先生の冗談だったんだけどね。
 
しかし北原さんが女だったというのはマジで驚いたが、万一毛利さんが女だったりしたら、私は心臓がショックで止まるかも、などと思う。でも北原さん、片思いの人が居たというけど、それ男の人だったのだろうか?女の人だったのだろうか? 毛利さんもその相手のことは聞いてないらしいので、永遠の謎になってしまった。
 
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北原さんがプロデュースしていたAYAの3人も来ていたが、彼女たちは驚きと同時に不安そうな表情もしていた。
 
最初のプロデューサーが未成年との淫行で捕まって辞退、そのあとを引き継いだプロデューサーが先日病気で倒れた上に、実際の制作指揮をしていた人が急死、というので自分たちはこの後どうなるんだろう?と本当に不安だろう。
 
「君たちのプロデュースのことについては明日にも一度少し話すから」
と雨宮先生が言うと
「よろしくお願いします」
と3人とも言っていた。
 
ただその時千里は3人の頭を下げるタイミングがバラバラだったことに気づいていた。最初にゆみが頭を下げ、それに続けてあすかが頭を下げた。あおいは他のふたりが頭を下げたのを見て慌てて自分も頭を下げる。
 
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この3人、あまり仲良くないのかな?と千里は思った。
 

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