広告:オトコの娘コミックアンソロジー- ~強制編~ (ミリオンコミックス75)
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■女の子たちのGoodbye Boy(3)

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今日は男女ともにL女子高で行われる。
 
午前中、9:00から女子の準決勝をバスケット専用体育館、男子の準決勝をメイン体育館で行い、その後1時間半の休憩を置いて、12:00から男女の3位決定戦、14:00から女子決勝戦、15:30から男子決勝戦というスケジュールである。3位決定戦以降はメイン体育館で行う。また、準決勝・3位決定戦は横向きに2コート取るが、決勝戦だけが、縦向きに1コート取っておこなう。ゴールも横向き2コートの時は壁面式のゴールを使うが、1コートの時は吊下式のものを使用する。
 
しかし普段男子禁制のL女子高にこれだけ多数の男子選手、男性の観客を受け入れるのは、めったにないことである。なお。メイン体育館にもバスケ専用体育館にも、こういう大会の時のため、ちゃんと男女別のトイレが装備されている(普段は男子トイレは施錠されている)。L女子高の校舎内のトイレには(区別の必要が無いので)男女マークが無いが、この体育館だけにはトイレに男女マークが付いているのである。
 
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今回の準決勝の組合せは、旭川N高校−札幌P高校、旭川L女子高−釧路Z高校となった。P高校とは決勝戦で当たりたかった所だが、組み合わせがこうなってしまった以上、やむを得ない。
 
「P高校を倒して決勝戦に行くぞ!」
「おぉ!」
と気合いを入れて千里たちはコートに出て行った。
 
この試合に先立って宇田先生は「力尽きて決勝戦で負けてもいいから、P高校を倒してきなさい」と言って選手を送り出した。
 

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昨年のP高校を引っ張ってきた竹内・片山のコンビが抜けて、P高校は佐藤さんがキャプテンの番号4番を初めて付けている。準々決勝までは主力を温存しながら快勝してきているが、向こうもこれが事実上の決勝戦と思っているだろう。新チームにとって初めて全国レベルのチームとぶつかる実質的な初陣。絶対勝ちたいだろう。しかし千里たちもこのチームを倒さなければ今年のインターハイでの上位進出は難しいと思っていた。
 
スターターは向こうは徳寺/猪瀬/河口/宮野/佐藤というメンツで来た。何とシューティングガードが居ない! ポイントガードの徳寺さん以外フォワードを4人、特にP高校自慢の180cmトリオを全員入れて点を取りまくるよ!、という宣言だ。
 
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N高校の方は雪子/千里/夏恋/暢子/留実子、という布陣で行く。例によって留実子がまだ万全ではないので、留実子はあくまでリバウンド専任と割り切ってブロック・マーク要員として夏恋を起用している。
 
両軍挨拶・握手してから、ティップオフは留実子が取り、雪子がドリブルで攻めあがるが、P高校は素早くゾーンを組んで、こちらの進入を阻止する体勢である。千里には佐藤さんが付いている。
 
ここで夏恋がうまく佐藤さんをスクリーンし、猪瀬さんがフォローに来る前に雪子から千里へパス。即撃って3点。まずはN高校が先制して試合は始まる。
 

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どちらも攻撃を意識した編成なので序盤から激しく点を取り合う。N高校が千里と暢子を主として使って攻めていき、変化パターンとして器用な夏恋を使っていろいろな作戦を仕掛けるのに対して、P高校は4人のフォワードの誰もが点を取る、ラン&ガンに近いスタイルである。リバウンドは留実子と宮野さんの争いで痛み分けの感じであったが、どちらもそもそも正確にゴールを入れるので、この試合ではリバウンドは「大きく負けなければいい」という感じになっていた。
 
第1ピリオドを終えて28対24と、ハイスコアの点数になっている。
 
第2ピリオドでは留実子を休ませてリリカを入れる。スモールフォワードは寿絵にするとともに、ポイントガードをメグミに替える。この試合では1,3ピリオドを雪子、2,4ピリオドをメグミでやってみようという作戦である。
 
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夏恋が下がっているので攻撃のパターンの数が減るのだが、寿絵は知能派でいつもうまい所に居るので、ボールのつながりが良い。相手のガードに阻まれて攻めあぐねても、すぐに別の展開に持ち込むことができるので、相手の堅い守備にもかかわらず、暢子もリリカも点を取っていく。その代わり千里はひとりで佐藤さんと対峙する必要があるので、このピリオドではスリーを1本しか撃てなかった。第2ピリオドは26対21と5点差。前半を終えて54対45と9点差である。
 

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「向こうさん、全開だよね?」
とハーフタイムに川南が言う。
 
「うん。マジ全開で来てる。この試合、絶対勝つぞという感じ」
と暢子。
 
「だけど、やはりこないだのリーグ戦の時より戦力落ちてるよ」
と冷静な寿絵は分析する。
 
「それはやむを得ないよね。徳寺さんはまだまだ経験が足りない」
「うん。ポイントガードとしての経験だけから言えば、うちの雪子の方がずっと上。だから次のピリオドは試合をひっくり返そう」
 
「よし、行くぞ!」
と気合いを入れ直して出て行く。
 

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このピリオドではまたスモールフォワードの位置に夏恋を入れているので千里とのコンビネーション・プレイで佐藤さんのマークを外し、調子良くスリーを放り込むことができた。夏恋はスクリナーになるかと思うと、自分がボールをもらう側になることもあり、相手としてもかなり守りにくい。それで千里も夏恋もスリーがあるのでやっかいなコンビである。
 
むろん夏恋と千里ではスリーの入る確率が段違いだが、千里に警戒しすぎると夏恋がフリーで撃つのでこのプレイに向こうはかなりやられていた。
 
一方このコンビに注意が行きすぎると、暢子にしても留実子にしても中に飛び込んで得点していく。
 
それで第3ピリオドは暢子が宣言したように、N高校が一方的に猛攻する展開になり、前半の点差を一気に挽回。74対73と1点差に詰め寄った。
 
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第4ピリオドでポイントガードはメグミの予定だったが第2ピリオドだけでくたくたになっていたので敦子を起用し、スモールフォワードの位置に睦子を出す。センターは満を持していた揚羽を投入する。揚羽は要領がいいのでリバウンドで背丈で負けている宮野さんや河口さんにも決してひけを取らない。しかもここまで出番が無かったのでエネルギーがありあまっている。ディフェンス・リバウンドでは8割、オフェンス・リバウンドでも3割をとりまくってこちらの攻撃機会を増やした。
 
それで第4ピリオド前半にいったんこちらが逆転するが、それでお尻に火がついたP高校も強烈に反撃して、いったんは6点差を付けられる。ここでN高校は雪子と寿絵を再投入。雪子の巧みなゲームコントロールでN高校はあっという間に2点差まで詰め寄る。そして残り1分のところで94対92である。
 
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P高校が攻めてくる。ここから先は攻撃機会を得点に結びつけられないと辛い。どうしても慎重な攻めになる。
 
徳寺さんから佐藤さんにボールが渡るが、千里が強力なガードをして、簡単には中には入(い)れない。それでフェイダウェイ気味に後ろにジャンプしてシュートするが、千里は絶妙のタイミングでジャンプして、このボールをブロックした。
 
こぼれ玉に寿絵と猪瀬さんが駆け寄る。一瞬速く猪瀬さんが確保して佐藤さんにパス。佐藤さんが再度シュートしようとするが千里は彼女のすぐそばまで行っている。N高校の選手がボールを1度も「所有」していないのでショットクロックは継続しており、既に5秒を切っている。
 
佐藤さんと千里との複雑なフェンイト合戦(でも時間的には1秒程度)の末、佐藤さんは千里の左側を抜いた。
 
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と思ったら、ボールは千里が確保している。佐藤さんが一瞬盗られたことに気付かなかった、巧みなプレイであった。
 
いったん雪子にパスするとともに、千里は全力疾走で相手ゴールに向けて走る。俊足の雪子だがドリブルしながら走っているので、千里が途中で追い抜く。P高校側も徳寺さんが必死で戻る。
 
徳寺さんと千里がほとんど並んでいる所にめがけて雪子はボールを投げる。徳寺さんは宮野さんの「ボール!」という声に振り向き、バック走の体勢に切り替えるが、千里は振り向かない。そしてボールが到達する直前振り向いてキャッチする。
 
スリーポイントラインの手前で停まりきれいなフォームでシュート。
 
徳寺さんは近くにはいたが敢えて停めなかった。以前の試合で無理に停めようとしてファウルを取られバスケットカウント・ワンスローになった苦い経験を思い出したに違いない。
 
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これで94対95になって、残りは30秒!
 

微妙な残り時間だ。攻撃する側は24秒以内にシュートしなければならないので、ここでP高校が点を取っても、次はN高校の攻撃となる。つまり残り1回ずつお互い攻撃することができる。もっともお互い速攻の応酬になるとP高校2回、N高校1回の攻撃機会になる可能性もあるが、そんな不利になることをN高校がする訳が無い。となると、ここはP高校としては24秒をできるだけぎりぎりまで使った方が良い。
 
ということで徳寺さんはゆっくりと攻め上がる。
 
前回佐藤さんの所から突破できなかったのだが、やはりそれでもここは佐藤さんにボールを回す。こういう土壇場で力を発揮できてこそエースだ。千里と再びマッチアップ。お互いに神経を研ぎ澄ます。相手の心理を読み合う。佐藤さんの身体が左に一瞬動くが千里は身体を動かさない。再度佐藤さんが左に揺れる、と思った次の瞬間、佐藤さんはジャンプして空中で手を伸ばしたままシュートを撃つ。千里もそれを読んでジャンプしたのだが、背丈が12-13cm違う分、届かなかった。
 
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少し距離はあったのだが、ボールはバックボードに当たって、きれいにゴールに飛び込む。
 
96対95で残りは10秒!
 

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雪子がドリブルで攻め上がる。既にショットクロックは停まっている。刻一刻と試合の残り時間も無くなっていくが雪子は慌てない。
 
寿絵が(千里をマークしている)佐藤さんの方に走り寄りスクリーンプレイを仕掛ける。宮野さんや猪瀬さんの注意がそちらに引かれる。猪瀬さんがスイッチに備えて走り寄る。
 
しかし雪子は暢子にパスした。
 
こういう土壇場ではシュートの信頼性が高い千里を使うのがいつものN高校のパターンだ。しかし敢えて雪子はエースの暢子を使った。やはり土壇場で使えるのがエースなのである。
 
暢子は相手の一瞬の警戒の緩みを見逃さずに中に飛び込んで行き、河口さんのブロックをうまくフェンイトでタイミングを外し、ゴールのすぐ下から華麗にレイアップシュートを決めた。
 
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逆転!!!
 
96対97!!!
 
そして残り時間は0.2秒というきわどい所での逆転であった。
 
P高校はタイムを使ってしまっているのでタイムがもう取れない。佐藤さん・宮野さんが必死で向こうに走っていき、徳寺さんもできるだけゆっくりとスローインしたのだが、宮野さんがボールを掴んですぐにゲーム終了のブザーが鳴る。
 

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こうして旭川N高校は新人戦道大会準決勝で札幌P高校を倒したのであった。
 
整列する。
 
「97対96で旭川N高校の勝ち」
「ありがとうございました!」
 
両者握手する。そしていつものようにあちこちでハグしあう。しかし千里とハグした佐藤さんは物凄く悔しそうな顔で言った。
 
「うち、必死で鍛え直すから」
「うん。こちらも再度鍛え直す」
 
それで堅い握手をしてふたりは別れた。
 
そして後で考えてみると、ここからこの年の札幌P高校の快進撃は始まったのである。
 

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同時に行われていたもうひとつの準決勝は旭川L女子高が釧路Z高校を倒した。それで午後からの決勝戦は旭川勢同士の対戦になることになった。
 
続けて行われた男子の準決勝では札幌Y高校が旭川N高校を倒し、留萌S高校が札幌B高校を倒した。
 
「なんか今年の新人戦道大会は男女とも準決勝が事実上の決勝戦という感じだ」
と薫が言う。
 
「そうだっけ?」
「うちの高校の男子も充分強いよ。特に今回は昭ちゃんがかなりスリーを放り込んだでしょ。Y高校が強いから負けちゃったけどさ。留萌S高校は、やはり千里の彼氏が抜けたので戦力がかなり落ちている」
 
「じゃ4月になって薫が男子チームに合流したら、もしかしてインハイ行ける?」
と千里は訊いたが
 
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「組み合わせ次第」
と薫は言った。
 
「室蘭V高校がさあ。今回は準々決勝で札幌Y高校に負けちゃったから。帯広C学園もY高校と3回戦で当たってるしね」
「確かに優勝候補と下の方で当たると辛いよね」
 
千里は1年生の時の新人戦地区大会でL女子高と2回戦で当たってしまった時のことを思い出していた。あれでL女子高は昨年は道大会にも来ることができなかったのである。昨年の新人戦道大会に出たのはN高校とM高校だ。それが昨年の旭川M高校を勢い付かせる出発点になっている。
 

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少し休憩を置いて行われた3位決定戦では、女子では札幌P高校が釧路Z高校に大勝した。P高校は3位決定戦に出ること自体、無茶苦茶悔しかったはずだ。
 
「やはり今回の勝利は向こうさん、3年生が抜けて新チームになってすぐだというのがあったんじゃない?」
と寿絵が言う。
 
「うん。それは大きいと思う。うちは去年の秋から新チームになって強い所とたくさん勝負してきたからね。向こうは先月のJ学園迎撃戦の時に比べてもやはり力が落ちている感があった」
と千里も言う。
 
「でも今回負けただけに、次にP高校を見る時は、かなり手強くなっているだろうね」
と薫は言う。
 
なお、男子では旭川N高校が札幌B高校を倒し、N高校男子は3位となった。
 
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「宇田先生」
と千里は先生に声を掛けた。
 
「何だね?」
「合宿やりましょう。P高校は今日負けたので、きっと地獄の合宿をしますよ」
と千里は言った。
 
「いつする?」
「来週の連休」
「賛成」
と暢子も言った。
 
「札幌D学園はこの春休み、海外合宿やるらしいですよ」
「お金かかりそう」
 
「私たちはお金は掛けずに体力掛けましょう」
「いいね」
 
「食費は掛けましょうよ」
と川南が言うと
「いいですね」
と蘭も賛成した。
 

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