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■女の子たちのGoodbye Boy(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-01-03
 
合宿明けの2月12日。旭川。
 
放課後に千里たちがいつものように仮設体育館で練習していると、久井奈さんが入って来た。
 
「やったよ!」
と嬉しそうに言う。
 
「どうしたんですか?」
「彼氏と婚約した?」
「宝くじが10万円当たった?」
「カラオケで100点出た?」
 
「君たち発想が貧困だね〜。A大学保健福祉学部に合格したんだよ」
「へー、凄い!」
「よく通りましたね」
「歯科衛生士専門学校に2度も落ちて大学の看護師コースに合格するというのは、やはりかなり器用な気がする」
 
「しっかり勉強したもん。毎日1冊あげて、寝る時以外、食事中でも単語集とか見てたよ」
「それは凄い」
「Z会ですか?」
「無理。あれを受けるのに塾に行かないといけない」
「言えてる、言えてる」
「進研ゼミやってる子からテキスト借りて1−2年生の所を全部解いた」
 
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「あ、そのやり方は正解」
「分からない所は夜中でも北大生の従兄にメールして訊いた」
「従兄さんがお疲れ様だ」
 
「でも3年生の所をいきなり勉強するより、1−2年生で習うような基礎をしっかり固めた方がいいんですよ」
 
「まあバスケも基本練習が大事だよね」
「ほんとほんと」
 
「だけど保健福祉学部といえば火喜多高胤ですよね」
「いったいどういう授業やるんだろうね? いきなりマントラとか唱えられたらどうしよう?」
「それは患者さんに悪霊が憑いた時のために覚えておきましょう」
 

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「あ、そういえばチン弁慶は出なくなったらしいね」
と久井奈さんが言う。
 
「それ確定なんですか?」
 
「なんか知り合いの知り合いの霊能者さんが西五条大橋に行ってみたら、誰かが処理した跡があったとかで、きれいに何も無くなってたんだって」
と久井奈さん。
 
「へー。それはおちんちん無くしたい子には残念でしたね」
「でも夜中酔っ払いの男性が通っておちんちん取られたりしたら悲惨ですよね」
「酔っ払いは嫌いだから、別にいいや」
「深夜残業してたまたま通った男性とかは?」
「そういう残業だらけの人生を考え直すきっかけに」
 
「ああ、おちんちん無くなっちゃったら生き方は変えざるを得ないですよね」
「取り敢えずお婿さんには行けないしなあ」
「元男性なら、私、レスビアン婚してあげてもいいけど」
「お、大胆な意見」
 
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「昭ちゃんあそこ何度か行ったんだって?」
と川南が訊く。
「4回行きましたけど、弁慶は出ませんでした」
と昭ちゃん。
 
「薫は行く必要ないよね?」
と葉月。
「薫って結局、女の子の身体になったの?」
と寿絵が訊く。
 
「それは内緒ということで」
と本人が言うと
 
「ちんちん付いてるなら私が切ってあげようか?」
と久井奈さんにまで言われている。
 
「痛そうだから遠慮します」
と薫。
「痛いのはちょっと我慢してればいいよね」
「男の子なら痛さくらい我慢しよう」
「切断された瞬間、男の子ではなくなってしまう気がする」
 
「そうそう。昭ちゃん、エステミックス飲んでる?」
「飲んでます」
「おっぱい膨らんで来た?」
「乳首がずっと立ってるんです。だからブラ付けないと痛いんですよ」
「それなら、そのうち乳房も膨らんでくるね」
「ちょっと楽しみのような怖いような」
「おちんちん、おいたはしない?」
「ずっとタックしてるんで、できません」
「ほほお」
 
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2月14日。千里が練習を終えて帰宅すると、貴司が来ていた。
 
「ただいま」
と女子制服姿の千里が言うと
「おかえり」
とセーターにジーンズ姿の貴司が言った。
 
「ごめんね。わざわざそちらから来てもらって。本当は私がそちらに行きたかったんだけど」
「千里、無茶苦茶忙しいみたいだもん。こちらはもう大学を受ける生徒向けの授業だけやってる状態で、出席も取ってないから」
 
「じゃ、わざわざ貴司の方から来てくれたのに変だけど、これバレンタイン」
と言って千里は手作りのチョコレートを渡した。
 
「凄い、これ手作りだよね?」
「まあ市販のチョコレートを融かして固めなおしただけだけどね。ついでにちょっと混ぜ物」
「何を混ぜたの?」
「私の愛情」
 
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貴司がどう反応していいか分からずにいたので美輪子が煽る。
 
「貴司君、そこはキスするところ」
 
それで貴司は千里を抱きしめてキスした。
 
千里は頬を赤らめて尋ねる。
「貴司、いつ帰るの?」
「今夜はもう帰りの便が無いから、泊めてもらうと助かるんだけど」
「いいけど、今日私生理になっちゃったからセックスは無しね」
「えーー!?」
 
「千里、あんた生理あるんだっけ?」
と美輪子が訊く。
「女子高生でまだ生理が来てなかったら大変だよ」
と千里は答えた。
 

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翌朝、貴司がふと目を覚ますと、隣に千里が居ない。トイレにでも行ったかな?と思い、布団から出ると千里の机に座り、何気なく棚に立っているアルバムを見た。オールジャパンで千里がプレイしている写真が納められている。シュートを撃った瞬間の写真など見て「格好良いなあ」と思い、あらためて千里に惚れ直した。
 
ふと気配を感じたので振り向く。
 
すると千里が布団の中にいる。あれれ?
 
「千里、さっきからそこに居た?」
と思わず尋ねた。
 
千里は目を開けて答えた。
「あ、ただいま〜。ちょっと山駆けしてきたんだよ」
「は?」
「今年もずっとやってるんだよね。今夜は行方不明者が出て、回収するのに苦労したよ」
「夢か何か?」
「今戻って来たばかりだから、身体冷えてるんだよね。ほら」
と言って千里が身体に触らせる。千里の身体は氷のように冷たい。
 
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「抱いて暖めてあげるよ」
「もう少し身体が温まってからでないと無理。それと今夜はセックスしてあげられなくてごめんね」
「ううん。それはいいよ。一緒に寝てるだけでも幸せ」
 

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2月16-17日は札幌でU18エンデバーが開かれた。千里は一緒に招集されている暢子・留実子・雪子・薫・昭子・北岡君とともに札幌の会場に向かった。むろん交通費は協会持ちである。
 
男女は別メニューでの練習になるようだったが最初は一緒にお話を聞いた。しかし招集されているのは知っている顔が多い。
 
札幌P高校、札幌D学園、旭川N高校、旭川L女子高からは多数参加している。旭川R高校の日枝さん、旭川A商業の三笠さん、釧路Z高校の松前さん、帯広C学園の武村さん、などなどの顔も見える。旭川M高校からも橘花・伶子・宮子の3人が参加している。宮子は雪子と何だかパンチの当てっこ?をしていた。留実子もP高校の宮野さんと話が盛り上がっている感じだ。
 
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練習は先日のN高校の合宿などとも近いポリシーで、やはり基本をしっかりというのから始めた。パスを正確に出す練習などするが、最近「悪役」のイメージを自ら演出している感じの釧路Z高校・松前乃々羽が、正確にパスを投げられないことが判明。「あんた、それでもポイントガード?」と講師役の札幌D学園のコーチに呆れられて、本人は頭を掻いていた。
 
「ノノちゃんのパスが読みにくいのは本人もどこに飛んで行くか分からないからだったのか」
「ノノちゃんのチームに居ると、パスを受けるのは鍛えられるな」
 
などと他の参加者から言われて、彼女はすっかり《ノノちゃん》になってしまった。
 

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その後、1日目はドリブル練習、シュート練習などもしたが、橘花が得意のバックシュートを披露すると
 
「美しい〜」
という声が出る。
 
それで調子に乗って、ダブルクラッチ、更にトリプルクラッチからバックで放り込んで見せると「そのあたり要領教えて」の声。
 
それでにわかに橘花が講師役になって宮野さんや武村さんなどが熱心に聞いていた。橘花は「あまりライバルには教えたくないんだけどな」と言いつつも丁寧に教えていた。
 
「キー坊ってどんな角度からも放り込むもんなあ」
「すごくブロックしづらいよね。シュート筋を完全に塞いだつもりでもやられる」
「キー坊はネットの真下からバックボードに当ててバックスピンで放り込んだこともあったね」
「1歩で踏み切ったり2歩で踏み切ったりして更に空中フェイントが入るから、ほんとにブロックタイミングが読めない」
 
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ということで橘花は《キー坊》になってしまった。
 

基礎練習を1日たっぷりやり、夕食の後もビデオで、様々なプレイパターンの説明があったが、さすがに一日練習してご飯を食べた後では、眠ってしまう子続出である。千里の隣でも暢子も留実子も、更に薫まで眠ってしまっていた。
 
宿舎は女子は全員同じホテルに入る。2人1部屋になっていて、N高校の場合、千里と留実子、暢子と雪子、薫と昭子ということになっていた。最も問題の少ない組み合わせだなと思ったが、宇田先生の方から要望を出していたのだろうか。
 
しかし暢子は昭子がジュースを買いに部屋の外に出たところをちょうどキャッチしてしまう。
 
「さ、昭ちゃん、大浴場に行こうね」
「無理です。ボク、部屋に付いてるお風呂に入ります」
 
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このホテルでは部屋付属の風呂に入ってもいいし、地下にある大浴場に行ってもよい。
 
「こういう時はお風呂場で他の学校のメンバーと交流するんだよ」
「ボク、胸無いから通報されますよー」
「でもちんちん無いんだろ?」
「今日は無いですけど」
「じゃ女湯に入れるじゃん。さ、行こう行こう」
「助けて〜」
 
薫が呆れた表情で見送っているので、千里は
「あれ、どうするよ?」
と訊く。
 
「私たちも行ってフォローしようか?」
「そだねー」
 
なお、雪子は仲良くなった宮子や猪瀬さんと誘い合ってさっさと大浴場に行っていた。留実子は部屋のお風呂に入ると言っていた。留実子の場合は、おちんちんを普段は付けているようなので、女湯に入ることは不可能だ。(バストがあるので男湯にも入れない)
 
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千里と薫が大浴場(のむろん女湯)に入って行くと、既に昭子がみんなにいじられていた。
 
「おっぱい小さいね」
「ごめんなさい。ボク実は男の子なんです」
「あれ、でもおちんちんは無いじゃん」
「それは無いかな」
 
と言って昭子は恥ずかしそうにしている。
 
「あ、君、N高校の男子チームに出てたよね」
「聞いた聞いた。半陰陽だけど男の子になることにしたんだって?」
 
「私が聞いたのでは、おちんちん付ける手術したけど、おっぱいはまだ残っているという話だったけど、逆におっぱい取ったけど、まだおちんちんは付けてなかったのね?」
 
「だけどこの乳首が男の子の乳首じゃないよね」
「うん。やはり女の子の乳首だよ」
「乳房を取る手術しても乳首までは小さくできないんじゃない?」
「ああ、なるほど」
 
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千里が見た感じ、昭子の乳首はかなり大きくなっている。この子、エステミックスを規定量よりかなり多く飲んでないか? あるいは再度女性ホルモンを調達して飲み始めたのでは? と思った。
 
「でも今回は女子の方で招集されたのね」
「そうみたいです」
「君、何年生?」
「1年生です」
「だったら村山さんのバックアップシューターになってれば村山さんが卒業した後は正シューターになれるよ」
「うんうん。女子の方においでよ。まだおちんちん付けてないんだったら」
「男性ホルモンとか飲んでないの?」
「飲んでないですー」
「だったら、まだ間に合うよね。せっかくおっぱい取る手術したのに大変だけど」
 
「実はおっぱい、やはり欲しいかなと思って、今育ててるところで」
「だったら女子に戻ってくるといい」
「どうしよう?」
 
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「昭子がネタにされてるおかげで、私は楽で居られる」
などと薫は言っていたのだが、P高校の歌枕さんが薫に気付く。
 
「あ、J学園迎撃戦では凄い活躍でしたよね?」
「そうかな?」
「こないだの新人戦は背番号つけてなくてマネージャーとしてベンチにいたみたいだけど、体調でも悪かったの?」
 
「あ、いや私、転校生で3月まで公式戦には出られなくて」
「そうだったんだ! どこから来たの?」
「東京の方の高校に居たんですけど、親と喧嘩して飛び出してきて、お祖母ちゃんの家に転がり込んだもので」
「へー。頑張るね」
 
そんなことを話していたら
「いや、その子男子らしいですよ」
と以前説明を受けていた宮野さんが言う。
 
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「うっそー!?」
とみんなの声。
 
「でもおっぱいあるね?」
「えへへ。豊胸しちゃった」
「おぉ、凄い!」
 
「おちんちん無いみたい」
「それは内緒で」
 
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