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■女の子たちのオールジャパン(8)

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1月13日(日)。千里は主宰者が送って来てくれたチケットを持ち、宇田先生とふたりで朝10時の飛行機に乗り、羽田へ飛んだ。
 
「あれ、それは新しい腕時計?」
と機内で先生に訊かれるので
 
「結婚1周年の記念にもらったんです」
と言う。
 
「あ、そうか。去年の1月に結婚したって言ってたね」
「誕生日プレゼントを兼ねているらしいです」
「それは予算の関係じゃない? それ結構お値段するでしょ?」
 
「ええ。でもこれGPSも付いてて、ジョギングしている時に平均速度とかも出してくれるんですよ。この時計の周囲の部分が方位磁石になって、場所を登録できるから、道に迷っても目的地までこの時計が案内してくれるんです」
 
「それ僕も欲しいな。女房から運動不足を指摘されているし」
「暢子が先生のお腹をつまんで遊んでましたね」
「佐々木(川南)君にもつままれた!」
 
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「じゃ、先生も結婚20周年くらいのプレゼントで」
「インターハイ優勝の記念にねだってみようかな」
 
千里は大きく息をついて目をつぶる。
「多分まだ5年かかります。ひとつのチームにそれだけのパワーが累積するのに」
 
「かも知れないね。高校バスケは難しい。生徒が3年で入れ替わってしまうから。それに何と言ってもここは進学校だから、L女子高やP高校みたいに十分な練習時間というのが取れないし」
 
と宇田先生は珍しく本音を言った。
 
「川南とかはP高校のスポーツ科とかに入っていたら伸びてたタイプでしょ?」
「あの子は素質はあると思うんだけどね。練習不足だと思う。だから大学に入ってもぜひ続けなさいと煽っておいたよ」
「あの子もうちほど強くない所なら中心選手ですよね」
「うん。でも弱小で天狗になってるより、こういう強い所で揉まれた方が伸びるんだよ。試合の出場機会は少なくてつまらないかもしれないけどね」
 
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千里はその宇田先生の言葉を自分自身にも置き換えて考えてみた。自分はJ学園みたいな所に居たら果たしてベンチ枠に入れたろうか? 自分自身天狗になってないだろうか。
 

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オールジャパンの女子はこの日が決勝戦であった。決勝は岐阜F女子高を破ったレッド・インパルス(Wリーグ1位)と、愛知J学園を破ったサンドベージュ(Wリーグ2位)の対決となった。旭川N高校を破ったビューティーマジックは準決勝でレッド・インパルスに敗れた。
 
千里たちは羽田でお昼を食べてから京急とJRで移動し、ちょうど決勝戦が始まる14時頃、代々木体育館に到着した。観客席の方に行き、指定された席に座るとすぐそばに、愛知J学園の中丸さんと沢田監督が居るのでお互い挨拶する。
 
「内容を知らされずに来てくれと言われたんですが、何か賞でももらえるんでしょうかね?」
「こちらも同じです。ただ空振りになるかも知れないとは言われました」
「そうそう。こちらもです。決勝戦でもっといい成績をあげる人が出たら、こちらはキャンセルなんでしょうね」
 
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決勝戦はさすがWリーグの1位と2位の対決だけあって、物凄くハイレベルであった。そしてどちらも一歩も譲らず、第1ピリオドではレッド・インパルスがリードするも、第2ピリオドではサンドベージュがリードするという互角の戦い。千里も中丸さんも、熱い視線でコート上の選手の動きを見ていた。
 
「サンドベージュはうちのOGが5人入っているんですよ。だから3回戦は現役vsOGという雰囲気だったんです」
と沢田監督が言う。
「それはお互いにやりがいがありますよね。1番の背番号つけてる羽良口さんも確かそちらのOGでしたね」
と宇田先生。
「ええ。そうです。あの子の時も高校三冠を達成しました」
 
「あの人、アテネ五輪代表になりましたよね?」
と千里も言う。
「ええ。どうも今シーズンが終わったらアメリカのW-NBAに行くつもりみたいですよ」
「だったら今年は優勝したいでしょうね」
 
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千里はその羽良口さんの素早い動き、巧みなゲームコントロールを熱い視線で見ていた。レッド・インパルスが硬いゾーンディフェンスを敷いていても、そこを強引に突破する。彼女は器用さとパワーを兼ね備えたプレイヤーだと思った。一度ワンハンドでスリーを放り込んだのには「ひゃー!」と思う。私もさすがに片手でスリーを撃つ自信はない。
 

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試合は第3ピリオドまではお互い譲らないままのシーソーゲームが続いていたのだが、第4ピリオド前半にレッド・インパルスが猛攻をしてあっという間に点差が広がる。その後、サンドベージュも羽良口さんを中心に巻き返しを図り、かなり追い上げたものの、最後は届かなかった。
 
「凄い試合でしたね」
と沢田監督。
 
「うちのチームメイトにこの試合、生で見せたかった」
と千里は言った。
「私も同感。これは生で見るべき試合だった」
と中丸さんも言う。
 
「僕もここに森田(雪子)君を連れてきておくべきだったと思った所だよ」
と宇田先生も言った。
 

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少し休憩を置いて表彰式に移る。運営の人が来て、千里と中丸さんにコートに降りてくるよう言った。
 
「そちらはリバウンド女王かな?」
と千里。
 
「そちらはスリーポイント女王だよね?」
と中丸さん。
 
「うちとビューティーマジックとの試合がとんでもないハイスコア・ゲームになったせいという気がする」
「うちとサンドベージュの試合も結構なハイスコアゲームだったから」
 
「それと、これって1回戦から出たチームが有利だよね?」
「同感、同感」
「プロチームは3回戦から出てきているから試合数が優勝・準優勝チームでも4回しかない。3回戦で敗退した高校生や大学生チームと試合数は1しか違わないんだよね」
 
「でもスリーの成功率では私、花園さんに負けてると思うのに」
「3回戦であっちゃん、全然スリーを撃たせてもらえなかったから」
「うちは点は取られてもいいから、もっと取っちゃえというチームだったから」
「そのあたりも運だよね」
 
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表彰式では、優勝チームに皇后杯が贈られ、メダルの授与が行われる。その後準優勝、3位と表彰された上で、個人表彰になる。
 
最優秀選手にレッドインパルスの蒔田さん、敢闘賞にサンドベージュの羽良口さんが選ばれ、その後ベスト5にも上位のチームの選手が選ばれる。そして成績賞である。
 
「得点女王およびスリーポイント女王、旭川N高校の村山千里さん」
「はい!」
と大きな声で返事をして、前に出て、得点女王とスリーポイント女王の2枚の賞状をもらった。
 
「リバウンド女王、愛知J学園の中丸華香さん」
「はい」
と中丸さんも返事をして賞状をもらう。
 
そしてアシスト女王は千里たちを3回戦で破ったビューティーマジックの正ポイントガード富美山さんであった。あの試合のチーム得点124点が効いている気がする。
 
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3人で並んだ時、富美山さんが千里に手を伸ばしてきたので笑顔で握手する。ついでに中丸さんと富美山さん、そして中丸さんと千里も握手した。
 
大会長がコメントする。
 
「今大会のスリーポイント数はひじょうにハイレベルな戦いでした。旭川N高校の村山さんが39本という、過去の記録を大幅に塗り替える記録を出しましたが、次点であった愛知J学園高校の花園さんも28本と、これも過去の記録を越えています。更にリバウンドも愛知J学園高校の中丸さんが一番。プロも参加する大会で、高校生にこういう素晴らしい才能を持つ選手が出たことは、将来の日本女子バスケットに大きな期待を寄せたくなります」
 
大会長は本当に嬉しそうな表情でそう述べた。
 
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この年の冬休み明けの授業は1月16日に再開された。
 
千里はある理由で精神的・肉体的にひじょうに疲れていたのだが、気を取り直して頑張って出て行った。
 
旭川N高校では朝から全体集会が開かれて、女子バスケット部がオールジャパンでBEST16まで行ったことが報告されるとともに、千里が得点女王・スリーポイント女王を獲得したことが報告され、バスケ部には「旭川N高校敢闘賞」の賞状、千里は2個目の「旭川N高校殊勲賞」メダルまでもらった。疲れている千里もこの時は笑顔になる。
 
BEST16の報告ではマネージャーを含めたベンチ入りメンバー15名が壇に登ってひとりずつ校長から賞状をもらったが、薫も笑顔で一緒に並んで表彰されていた。転校生制限のため春まで公式の大会に出場できない薫にとって、マネージャーとしてでも、こういう大きな大会に参加できるのは随分精神的にも救われているんじゃないかなと千里は思った。
 
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「薫、いつ戻ったの?」
と表彰が終わって、いったん壇脇の用具室に降りてから川南が訊く。
 
「一昨日の夕方のフェリーに乗って、昨日の夜8時に旭川に帰ってきた」
「もしかして大洗−苫小牧のフェリー?」
「そそ。東京から旭川まで16000円で帰ってこられる。最安値」
「安いかも知れないが、きつそうだ」
「フェリーがまだお正月モードで混んでて、エコノミールーム(二等船室)は男女分離されてて、カップルで泣き別れしてる人たちもいた」
 
「カップルは強制的に分離しておかないと、夜中にいけないことを始める確率が高いな」
 
「で、薫は男の方に乗ったの?女の方に乗ったの?」
「そりゃ女の方だよ」
「女の方に乗れるんだっけ?」
「私、女の子だもん」
 
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「そこが重要な問題なのだが」
「薫、女の子になったの?」
「えへへ。お母ちゃんに許してもらって、一緒に病院まで来てもらったんだ」
 
「おぉ!!!」
「すごーい!!」
 
「とうとうやっちゃったか」
「これで今度のインターハイは優勝できる可能性も出てきたぞ」
 
「これなの。見て見て」
などと言って周囲に男子の目が無いのをいいことに、薫はブレザーをめくり、ブラを外して胸をみんなに見せる。
 
「・・・・・」
 
「ヒアルロン酸、両方で合計300cc注入したんだよ。60万円も掛かっちゃった。本当はこれだけ費用掛けるんなら、シリコン入れた方がいいんだけど、手術しちゃうと、痛みが無くなるまで数ヶ月掛かるんだよね。注射で注入するだけなら2週間後にはスポーツしていいんだよ。1月6日に施術したから、20日の愛知J学園戦には出られるよ」
 
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「で、女の子になったんだっけ?」
 
「うん。私、おっぱいが全然無いのが凄い悩みだったんだよね。お風呂入るのにも苦労してたし、パッドつけておくと汗掻いた時が、やな感じだったし。これで本物バストになったから、思いっきりプレイできるよ」
 
「・・・・・」
 
「薫、真剣に訊きたいのだが」
「何?」
「薫が豊胸をしたというのは分かった。お股は?」
「え?お股って?」
「ちんちん、取ったんだよな?」
「え?まだあるけど」
 
「馬鹿野郎〜。お股を女の子に改造する手術してこいと言ったろ?」
と言って暢子は薫の首を抱えるとヘッドロックを掛ける。
 
「痛たたたたた」
「何なら私が薫のちんちん、切り落としてやろうか?」
「まだおちんちん取るのは、お許しが出なかったんだよぉ」
「勝手にやっちゃえばいいだろ?年齢ごまかして」
「それ絶対後で揉めるって。実はタマ取っちゃったこともお父ちゃんにバレた時は殺されそうになったんだから」
「勝手にタマ取ったんなら、棒も勝手に取ればいいじゃん」
「タマ取るのは入院要らないし、付き添いも要らないけど、棒を取るのは入院が必要だからバレちゃうもん。それに勝手にタマ取る手術受けたことではお母ちゃんにも叱らないから事前にひとこと言えって叱られたし」
 
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「今何か自己矛盾する言葉を聞いた気がした」
「いや、親はよくそういうことを言う」
 
「やはり薫、強制的に拉致していって手術台に乗せてしまおう」
「えーん」
 
それで薫に暢子が馬乗りになっていた所に南野コーチがやってきて
 
「あんたたち、お昼は理事長さんがおごってくれるらしいから」
と言ってから、暢子たちを見て
 
「暢子、何やってんの?」
と言う。
 
「あ、済みません。ちょっとゴールネットの穴の調整を」
 
 
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