広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■女の子たちのオールジャパン(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-12-21
 
2008年1月1日。千里にとって高校最後の年が明けた。
 
朝ご飯は(ノンアルコールの)おとそを飲んだ後「お餅は3個まで」という通達があるので、ほとんど全員が3個食べた後、一休みしてから軽く汗を流す。それから着替えて東京体育館に出かけた。
 
先日ウィンターカップが行われた場所だが、オールジャパンの前半も、ここ東京体育館が会場となる。
 
「こないだは客席からの観戦だったけど、今日はここでプレイできるんですね」
と揚羽が感慨深げに言う。
 
「今年の12月はウィンターカップでここに立てるよう頑張りなよ。私はもう居ないけどさ」
と千里が言うと、揚羽は
「はい、頑張ります。打倒P高校、打倒J学園です」
と笑顔で言っていた。
 
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北海道は代表1校なのでウィンターカップに出るためには、どうしても札幌P高校を倒す必要がある。
 
さて、今年のオールジャパンで、高校生で出ているのは男子5校と女子7校である。女子はインターハイ優勝の愛知J学園の他、各地区の予選を勝ち抜いた、岐阜F女子校(東海)、福岡C学園(九州)、大阪E女学院(近畿)、高岡C高校(北信越)、山形Y実業(東北)、そして旭川N高校(北海道)が出る。毎年こんなに高校生チームが多い訳ではないのだが、この年の女子は9つある地区の内、実に6地区を高校生が制していたのである。
 
岐阜F女子高は愛知J学園と同じ東海地区なので毎年熾烈な代表争いをしていたようだが、今年からインターハイ優勝校は無条件でオールジャパンに出られることになったので、順当に地区予選を勝ち上がってオールジャパンに進出してきている。
 
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旭川N高校の試合は初日第1試合に組まれていた。相手は中国地区代表の社会人クラブチーム《ファイブ・スワンズ》であった。
 
「何か向こうさんチアリーダーがいるね」
「このチーム、ほとんどの選手が岡山の教育サービス会社に所属しているみたいだから、たぶんその会社で組織したチアじゃないのかな」
 
「遠くから出てくるのお金かかるもんね」
「でもウィンターカップでも応援団やチア出しているチームは居たね」
「企業チームや大学チームはチアが来ている所も多いみたいよ」
 
事前の研究で、相手のスモールフォワード高鳥さんとセンター牧山さんが卓越していることが確認済みである。中国地区の予選のビデオも撮影してもらっていたので、それを見て検討会もしておいた。N高校がウィンターカップ予選で敗れて総合に出ることが決まった段階で、OG会が動いてくれて全国各地区の総合選手権予選を撮影してくれたのである。
 
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こちらのスターティング5は雪子/千里/夏恋/暢子/留実子というラインナップである。ティップオフは留実子が背丈とジャンプ力で牧山さんを圧倒してボールを確保。雪子から寿絵・暢子とボールが渡り、暢子はまだ充分向こうが守備体制を整えていない内に華麗にレイアップシュートを決めた。
 
N高校が先制して試合は始まる。
 

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牧山さんには夏恋、高鳥さんには暢子がだいたいマッチアップして相手の動きを止める。牧山さんには本当は留実子がマッチアップした方がいいのだが、留実子が病み上がりで負担を掛けたくないので、リバウンドに集中させることにしてマークは夏恋にさせることにしたのである。そのためのこういうスターターであった。夏恋にはマーク以外のことは何もしなくて良いと申し渡している。
 
相手の中核選手であるこの2人が厳しくマークされているため、向こうは攻めあぐねている感があった。特に暢子がマークしている高鳥さんはスモールフォワードの登録ではあるが実際には《ポイントフォワード》という感じで、本来向こうはポイントガードの元山さんと高鳥さんが双方攻撃の起点になる、変化あふれる攻撃を繰り出すのだが、結局元山さんからパワーフォワードの野口さんにつなぐ攻撃を仕掛ける確率が高くなる。しかし千里がカバーに入るし、直接入れられた場合は仕方ないが、外れた場合は留実子が高確率でリバウンドを確保し、雪子を起点にこちらの攻撃に切り替える。
 
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結局第1ピリオドでは14対21とN高校は相手を大きくリードする。
 
第2ピリオドでは、スモールフォワードを寿絵、センターを揚羽にして牧山さんには揚羽がマッチアップした。夏恋は瞬発力と相手の動きを予測することで動きを封じていたが、揚羽は背丈と運動量で封じる。向こうは第1ピリオドで夏恋にうまくやられたので気合いを入れ直して出てきたようであったが、全く違うタイプの選手にマークされて戸惑っている内にまたやられてしまった。
 
第2ピリオドも12対20と点差を付け、前半26対41である。
 

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第3ピリオドでは暢子を休ませて、前半リリカ、後半は睦子に高鳥さんをマークさせる。ふたりはさすがに暢子ほど完全には相手を停めきれず、このピリオドでは結構向こうにやられる場面もあったが、それでも何とか18対16と2点差で持ちこたえることができた。途中で雪子の疲れが見えてきたので第3ピリオド後半はメグミを投入した。
 
そして第4ピリオドでは、暢子が復帰して、メグミ/千里/寿絵/暢子/留実子というラインナップで頑張り(途中でメグミは敦子に交代)、10対19と圧倒。最終的に54対76で勝利した。
 
この試合では暢子がマーカーに専念した分、千里が76点の内スリー11本を含む37点を稼ぎ出す活躍をした。
 

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「取り敢えず一週間合宿して1時間で帰るという羽目にはならなかったですね」
「まあ、それは悲しいよね」
 
千里は今日の勝利は初日第1試合というのが大きかったと思った。他の試合を観戦した後だと、レベルの高さにみんなが萎縮してしまう可能性があった。
 
第2試合には、大阪E女学院と富山の高岡C高校が登場したが、試合を観戦していたメンバーは次第に口数が少なくなっていく。どちらも相手は大学生チームである。高岡C高校の方はY大学に一方的にやられていた。また大阪E女学院もS大学相手に接戦はしていたものの、試合が進むにつれどんどん点差が開いていく。寿絵や雪子・揚羽など「適度に強さが分かる子」が完璧に無言になってしまう。
 
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「E女学院も強いのに・・・」
「相手が凄い・・・」
 
「あんたたちも凄いけどね」
と南野コーチが言うと、雪子は引き締まった顔でコートを見つめていた。
 

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第2試合で高岡C高校がY大学に敗れてしまったので、客席で応援していた15-16人くらいのチアチームはがっかりした顔をして引き上げて行く。
 
リーダーの鈴子はバスケ部の引率の先生と電話で連絡を取っていたが、やがて
 
「バスケ部のメンバーは今夜の急行《能登》で帰るらしいけど、こちらは任せると言われた。みんなどうする?」
と鈴子はみんなに訊く。
 
「チケットは3日までだし、3日まで見てから帰るよ」
と桃香が言う。
 
「ああ、桃香は絶対そう言うと思っていた」
と鏡子が言う。
「そんな持っている権利を放棄するなんて、もったいないことを桃香がする訳ないよね」
と織絵も言う。
 
オールジャパンのチケットは1−3回戦までのチケットはひとまとめであり、この3日間は全ての男女の試合を見ることができる。準々決勝以降は男女別に「女子準々決勝」「男子準々決勝」のように販売されているが、さすがに高校生チームが準々決勝まで勝ち上がることはあるまい、という予測でチアチームのチケットは1−3回戦のセットチケットのみを買っていたのである。
 
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「じゃ明日以降残る人はホテルを予約しよう。何人残る?」
と鈴子が尋ねると、16人の内12人が残り、4人は今日帰るということのようだ。
 
「じゃ帰る人たちは気をつけて」
「できるだけ4人まとまって行動してよ。上野駅23時集合ということで」
 
彼女たちはバスケ部の子たちと一緒に帰るので23:33上野発の能登に乗ることになる。
 
「うん。そうしよう。じゃ私が鈴子と**先生に定期連絡入れるよ」
と鏡子が言い、帰る4人と今夜も泊まる12人とで別れた。
 

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鈴子がノートパソコンを使って今夜の宿を確保した。ツイン6部屋で1部屋4800円という格安ビジネスホテルである。取り敢えず近くのサブウェイに入って軽食を取り、東京体育館に戻った。
 
フロアでは第3試合、愛知J学園の試合が行われている。
 
「なんか強いね」
と織絵が言う。
「うん。さすが高校トップチームだけのことはある」
と鈴子も言うが
 
「うちの高校だって強いのに」
と桃香。
 
「いや、格が違うよ」
と鈴子。
 
「そんなに差がある?」
「うん。このJ学園にしても第1試合に出ていた旭川N高校にしても無茶苦茶強い」
と織絵が言うが
 
「よく分からんなあ」
と桃香は言う。
 
「桃香、遠くからシュートしたら3点入ることも知らなかったね」
「知らなかった。遠くから入れたら3点ならみんな遠くからシュートしたらいいのに」
「いや、それが普通入らないから」
 
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「このJ学園の4番付けてる選手とか、旭川N高校で5番付けてた選手とかはポンポン入れてるけど、凄くレアだよ。こんなに入れる選手は」
と優子。
 
「へー」
「普通は10本くらいシュートしても1本入るかどうかだから」
「でもあの4番、さっきから1本も外さないな」
「うん。だからあんな選手はたぶん日本に5人も居ない」
「へー! そんな凄い選手が出てくるというのは、さすが皇后杯だな」
「だから、うちのチームとは格が違うんだよ」
 

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旭川N高校のメンバーは第3試合のJ学園の試合を見たところで第4試合は見ずに宿舎になっているV高校に引き上げた。
 
初日、高校生7チームの内4校が登場したが、勝ったのは旭川N高校と愛知J学園の2つだけである。
 
誰が言うともなく体育館に入り、みんな黙々と練習を始める。
 
が10分もしない内に
「辛気くさいぞ!声出せ!」
と暢子が言うと、その後はみんな普段通りに声を出して練習するようになった。そして声を出して身体を動かしている内に、みな今日見た試合のショックから立ち直る。自分を取り戻す。
 
一方、千里は黙々とシュート練習を続ける。永子がボール拾い係を買って出てくれた。ふつうの人のシュート練習はゴール下に居る子のリバウンド練習にもなるのだが、千里の場合はほとんど外れないので、単純にネットを通って落ちてきたボールを千里に返すだけだ。しかし千里は永子に「パス練習を兼ねよう」と言い、永子はチェストパス、バウンドパス、など色々な形で千里にボールを《正確に》返す練習をした。
 
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この子も高校在学中は難しいけど、大学に入っても続けたら、結構いい選手になるのではと千里は思いつつ永子のボールを受けていた。
 

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一方第4試合まで見た高岡C高校のチアチームのメンバーはいったん新宿に出てみんなで一緒に晩御飯を食べた後、1時間の自由時間をもうけた後、21時に集合して一緒にホテルに入った。
 
鈴子は宿泊するメンバーの中で相性の悪い子同士が一緒にならないように部屋割りを決めた。鈴子自身は優子と一緒に部屋に入った。
 
交代でお風呂に入り、携帯で何かゲームのようなものをしている優子に
「疲れたから寝るね」
と言ってベッドに入り、目をつぶる。
 
ところが23時頃、起こされる。
 
「助けて!」
という声がドアの外でする。織絵の声だ!
 
何があったんだ?強盗にでも遭った?と思って飛び起きてドアを開けると、織絵が下着姿のまま飛び込んで来た。
 
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「どうしたの?」
「今夜ここに泊めて」
「は?」
 
「桃香は?」
 
桃香と織絵でひとつの部屋を使っていたはずである。
 
「あの子と同じ部屋になりたくない!」
 
「何があったのさ?」
「襲われそうになった」
「はぁ!?」
「入れられそうになったけど、何とか処女は守った」
 
鈴子は桃香の携帯に電話してみる。
 
「ごめーん。ちょっと寝ぼけて織絵のベッドに潜り込んでしまった」
 
鈴子は頭を抱える。
 
「桃香、あんたレズだっけ?」
「うん。言ってなかったっけ?」
 
すると隣のベッドでまだゲームしている優子が笑いながら言った。
 
「じゃ、織絵、私と交代しようよ。私もレズだから襲われても平気。まあ桃香のこと嫌いじゃないし」
 
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「うーん」
と鈴子は悩むが、ここは優子の提案に乗るのがよさそうだ。
 
それで3人で向こうの部屋に行き、鈴子が桃香に厳重注意をした上で、織絵は鈴子と同じ部屋、優子は桃香と同じ部屋で寝ることにした。
 
「あんたたち野生に戻らないように」
「大丈夫、大丈夫。でも私が桃香を襲ったらごめんね」
などと優子は言っている。
 
「それって下手すると、私が優子に襲われる可能性もあったのかな」
と鈴子はしかめ面で言う。
 
「あ、私、鈴子のことも好きだよ」
と優子は言っていた。
 

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