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■女の子たちのオールジャパン(2)

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1月2日。
 
試合は2日目に入る。
 
オールジャパンの女子の出場チームは32チームだが、二段階シードのある変則的なトーナメント方式になっている。
 
・1回戦を戦うのは8組16チーム
・2回戦を戦うのは1回戦を勝ち上がった8チームと免除された8チーム
・3回戦を戦うのは2回戦を勝ち上がった8チームと免除された8チーム
 
というシステムである。結果的に1回戦も2回戦も3回戦も8試合ずつ行われるが、2回戦まで免除されているのはWリーグの上位8チーム。日本の女子バスケ最高レベルのチームである。
 
昨日は第1試合で12:00からだったのだが、今日は第4試合17:00からであった。この日負けたとしても帰りの便がもう無いので、どっちみち今夜は泊まることになる。
 
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第1試合、Aコートでは福岡C学園が大学生チームと対戦、Bコートでは岐阜F女子校とウィンターカップ3位・山形Y実業が対戦した。千里たちは両方の試合を並行して観戦した。
 
「なんかF女子高とかJ学園が強い理由が分かった気がしてきた」
と揚羽が言う。
「ん?」
「こういう凄いレベルの所との対戦を経験しているからだよ」
 
「無茶苦茶強い所と戦うと、たとえ負けてもその試合40分戦っただけでも進化するんだよ。高校の上位に居るチームって、そうやって進化してきているんだよね。あんたたちも昨日社会人チームと戦っただけで1歩進化したよ」
 
と南野コーチは言う。
 

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この第1試合の結果、福岡C学園は破れ、高校チーム同士の戦いは岐阜F女子高が山形Y実業を破った。
 
第2試合では昨日1回戦を勝ち上がった愛知J学園が登場する。相手は社会人選手権2位のチームで無茶苦茶強い相手であった。第1ピリオドでは何とか食らいついていって接戦であったものの、第2ピリオドは地力を振り絞った相手チームに大きくリードを許す。
 
ハーフタイムでベンチに座っているJ学園の選手たちが疲れ切ったような表情をしている。千里が彼女らを見つめていた時、花園さんと目が合った。
 
燃えるような闘志が交換される。
 
花園さんがすっくと立ち上がったのを、隣に居た日吉さんが「へ?」という表情で見つめている。
 
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千里はこの瞬間J学園は勝ったと思った。
 
第3ピリオドで花園さんのスリーが炸裂する。向こうは花園さんのスリーが怖いのは重々承知しているから、いちばん巧い人がマークに付いているのだが、相手を強引に、あるいは巧みに振り切る姿が見られるようになる。
 
このピリオド、花園さんはスリーを6本も放り込んで、これまでの劣勢を挽回。点数は1点差となり、予断を許さなくなる。
 

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そして第4ピリオド。花園さんの奮起に刺激された日吉さん、中丸さん、入野さんがこれまで見せたことのないほどの激しい闘志で頑張る。相手も物凄く強いチームなので、簡単には負けていないものの、日吉さんや中丸さんが体格的に勝る社会人のフォワードを気合いで押しのけてゴールを奪うシーンが見られる。そして花園さんのスリーも冴える。
 
終わってみれば9点差を付けて愛知J学園がこの試合を制していた。
 
しかし、試合終了後、挨拶をしてキャプテン同士握手をした後、花園さんはその場に倒れてしまった。慌てて他のメンバーが介抱する。結果的に花園さんは担架で運び出された。
 
「大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。体力と精神力を使い切って、何も残っていなかっただけ」
と千里は答えた。
 
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「試合終わったら倒れてもいいくらいの気持ちでやれって、私現役時代に監督からよく言われてたけど、まさに花園さんはそれを実践したね」
と南野コーチは言っていた。
 

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高校生チームが全部出てしまったので、第3試合が行われている間、ブレイクを入れることにした。体育館の外に出て軽くジョギングをした後、パス練習をする。千里は雪子と、暢子は薫と1on1をやって神経を研ぎ澄ませた。
 
疲れるほどやってもいけないので20分ほどで切り上げて水分補給をし、何人かは軽く食べ物を取っている。たいていの人は「軽く」だが、暢子はハンバーガーを2個食べていた。
 
「そんなに食べて大丈夫?」
「もう盲腸も取っちゃったから平気」
と暢子。
「私ももうタマ取っちゃったから平気」
と焼きそばパンを食べている薫。
 
「薫ってタマタマで御飯食べてたの?」
「いや、やはり取ってから食欲落ちたよ。ラーメン4杯食べられなくなった」
「4杯はさすがに食べ過ぎだ」
 
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「薫はコートに出ないからといって眠らないように」
 

 
そして千里たちは17:00に東京体育館のコートに立った。
 
相手はインカレ7位のB大学である。
 
「まあ気楽に行こう。初戦勝てただけでも十分な成果。ここから先はおまけと思って」
と宇田先生は言う。
 
「取り敢えず勝てばいいよな?」
と暢子が明るく言ってコートに出て行く。
 
この試合ではスターターはメグミ/千里/寿絵/暢子/リリカというメンツで始めた。
 

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ここは事前の研究では、あまり卓越した選手は居ないものの組織で攻めて守るタイプと分析した。エネルギッシュなプレイをするが、どうしても後半は失速しがちである。そこでこことのゲームは後半が勝負所になると見た。問題は前半にあまり差を付けられないようにすることで、それで最初は守備的な布陣にしたのである。
 
ティップオフは向こうが取って攻めてくる。こちらはゾーンで守るが相手は同時に複数が侵入してきて、いちばん撃ちやすそうな人にパスが行き、そこからシュートする。しかしリリカのブロックがうまく決まり、落ちてきたボールを寿絵が押さえてメグミにパス。攻めあがる。
 
相手はマンツーマンだが、相手のセンターがリリカに、パワーフォワードが暢子に付いた他は、近くに居た選手をマークした雰囲気であった。それで向こうはこちらを特に研究していないことが想像できる。
 
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それならということでメグミは千里にパスする。
 
いきなりスリーを撃つ。
 
入って3点。最初はこちらが先行して始まった。
 

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こちらが相手の個々の選手を充分分析して検討しておいたのに対して向こうはほとんど研究していないというのから、初期段階では千里があまり警戒されていなかった。しかし立て続けにスリーを決めると、やばいかもというので相手のパワーフォワードの人が千里のマークに付く。ところがそれだと暢子が実質フリーになるので、今度はメグミは暢子を使って得点する。そのパターンが続くと相手はセンターの人が暢子をマークするが、今度はリリカがフリーになるのでリリカを使って得点する。
 
リリカは守備ではブロックに、オフェンス・リバウンドにとフル回転である。リリカには第1ピリオドに全力投球しろと言い渡してある。
 
それで結局第1ピリオドは、大差を付けられないように頑張るつもりが16対21とこちらがリードする展開で終わった。
 
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第2ピリオドではポイントガードを敦子、センターを留実子に換えたが、前ピリオド同様にやはり守備的な布陣である。しかし留実子が入っていると、相手には180cm代の選手が居ないので、リバウンドは圧倒的になる。留実子にはブロックはあまり頑張らなくていいのでリバウンドに集中しろと言ってある。それで、相手のシュートがそのまま入った場合は仕方ないもののの、外れた場合は高確率でこちらのボールになり、逆にこちらの攻撃機会では、外しても留実子が取ってくれるという安心感から、千里にしても暢子にしても安心してシュートが撃てる。それで、第2ピリオドでは14対23とかなりの差を付けることができた。
 
前半終わって30対44である。
 
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第3ピリオドはセンターは揚羽、ポイントガードは雪子に交代する。また暢子を休ませて夏恋をパワーフォワードのポジションに入れる。するとやはり暢子が休んでいる分、相手のマークは千里に集中するので、どうしても前半のようには得点できない。しかし第1ピリオドでライバルのリリカがリバウンドで頑張ったのを見ているので揚羽も負けじとこのピリオド集中して頑張る。
 
このピリオド後半では疲れが見えてきた寿絵を下げて蘭を入れた。蘭も短時間ならこの強い相手に何とか頑張ることができた。それでこのピリオドは 22対16と、何とか6点差で持ちこたえることができた。ここまでの合計は52対60である。
 
第4ピリオドでは雪子/千里/睦子/暢子/留実子という布陣にする。相手は前半リードされていたのを第3ピリオドに点差を詰めて行けるぞという雰囲気にはなっているものの、やはり前半集中型のチームなので、どうしても体力切れの雰囲気があった。ずっと出ている中心選手の動きが明らかに、にぶくなっている。
 
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しかしこちらは千里以外は交代で出ているし、その千里は十分なエネルギーを持っているので、瞬発力で相手を振り切ることができるし、守備の時は結構パスカットなどが成功する。留実子もリバウンドを圧倒的に確保する。
 
それで第4ピリオドは12対26とダブルスコア以上の展開となり、最終的に64対86の大差で勝利することができた。
 

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試合が終わって挨拶した後、相手チームのキャプテンが「あんたら強ぇ〜」と完敗を認めることばを発した。
 
N高校の試合が終わった後、留実子が交流のある愛知J学園の中丸さんに電話して花園さんの容体を訊いてみた。すると花園さんは担架で搬出された後、控え室ですぐに意識を取り戻し、その後はすこぶる元気ということで、千里も暢子も安心した。やはり試合で体力・精神力を限界を超えて使い切ったのが、倒れた原因だったようである。
 
「でも倒れたので注目されて、あっこちゃんドーピング検査受けさせられたんですよ」
と中丸さん。
 
こちらはハンドフリーセットを付けているので、この話をみんなで聞くことになった。
 
「ああ、チェックされるかもね」
「体力使い切ってるから、おしっこがなかなか出なくて一度トイレから引き返してきて、お茶のペットボトル2Lを2本空けて、それでやっと検査できたんだって」
「それはまたお疲れ様」
「でもドーピング検査ってすっごい恥ずかしいらしいですね」
「ああ、うちの村山も1年生の時に受けて、恥ずかしかったと言ってましたよ」
とこの時は留実子も言っていた。
 
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オールジャパンではドーピングコントロールが実施されており、毎日任意抽出で数名、尿検査を受けさせられているらしい。N高校のメンバーはここまでまだ当たっていないが、福岡C学園の選手がひとり検査を受けさせられたと橋田さんが言っていた。
 
「だけど花園さん、スリーが絶好調でしたね。スコア確認すると12本も入れてる」
と千里が横から言うと
「いや、村山さんも凄いじゃないですか。こちらもスコア付けさせてましたけど10本も入れてる」
と向こうも日吉さんが割り込んできて言う。
 
「取り敢えず今日は12本対10本で花園さんの勝ちということで。明日また頑張ります」
「うん。こちらも僅差だったから、また頑張ると言ってたよ」
 
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結局この日勝って3回戦に進出することができた女子高生チームは、岐阜F女子高、愛知J学園、旭川N高校の3校である。男子の方では近畿地区代表として出てきた京都S高校だけが残っている。インターハイ王者のR工業は昨日の1回戦は快勝したものの今日は大学生チームに負けてしまった。
 

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「愛知J学園に岐阜F女子高とか、高校生のトップチームが残っているのは分かるけど、うちが残っているのって凄くありません?」
などとメグミがその日の夕食の時発言した。
 
「あんたたちも充分強豪だってことだよ」
と南野コーチが笑顔で言った。
 
「おっ。何だか凄い気がする」
 
「だけどトッププロチームが出るオールジャパンで高校生がこんなに3回戦まで残れるって考えてみると凄いですね」
 
「まあWリーグのチームは上位8チームが明日から登場するからね。強いチームを1回戦・2回戦に出さないというのは、強いチームを優遇するシステムであると同時に、高校生やクラブチームにも見せ場を与えてくれるシステムだね」
 

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桃香は織絵をロビーに呼び出して言った。
 
「昨夜はごめんね。寝ぼけて変なことしちゃって」
「ううん。処女には傷つかなかったから気にしないよ」
と織絵は桃香に言った。
 
「実はこないだ恋人に振られちゃって。まだ充分立ち直ってないんだ」
「それで今回の東京遠征に参加したの?」
「うん。ちょっとそれはある。でもね」
「うん?」
 
織絵は真剣なまなざしの桃香の次の言葉を待った。
 

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