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(C)Eriko Kawaguchi 2014-12-22
4人はこの後、お昼から都内のCDショップでもイベントを行うということであったが、そちらでは蘭子にキーボードを弾き語りで演奏させるという話であったので、千里は三島さんから、この演奏の薄謝+交通費をもらってV高校に戻った。「今から戻る」と連絡したら暢子が「謝礼もらったのなら、ケンタッキーが食べたい」などというので、ケンタッキーのオリジナルチキンを100ピース買って持ち帰ったが、あっという間に無くなってしまった。本数としては1人3本くらい食べた計算になる。みんなお昼を食べた後だったらしいが、バスケガールたちの食欲は旺盛である。
でも・・・演奏のお礼は5000円しかもらってないし、2万円ほどの赤だ!
1月5日(土)。今日は男女の準々決勝8試合の内の2試合ずつが行われるが今日から舞台は東京体育館ではなく、代々木体育館に移動する。1964年の東京五輪の時に作られた施設である。通常ここでバスケットの試合をやる場合、第2体育館の方を使うことになっている。この第2体育館がそもそもバスケット用に作られており、東京五輪でもこちらをバスケット競技に使用したからである。但し、オールジャパンの男子決勝のみは観客をたくさん入れられる第1体育館が使用されている。(2020年五輪ではハンドボール会場になる予定)
9時からまず福岡C学園と岐阜F女子高のエキシビション・マッチが行われた。この試合で千里が注目したのは、C学園の橋田さんとF女子高の前田さんの対決、そしてC学園のセンター熊野さんと、F女子高のセンターで留学生のラーマさんの対決である。
橋田さんはインターハイの時はまだ15番の背番号を付けていたのだが今は8番になっている。恐らく3年生が卒業したら4番(キャプテン)になるのではと千里は思った。
F女子高のラーマさんに千里が注目するのは彼女がビデオで見る限りは「上手な留学生」だからである。正直な所、日本に来ているバスケの留学生は背丈だけでチームに参加している傾向が強く、技術的には初心者という選手が多い。しかしラーマさんは14歳で日本に渡ってきて、その後かなり頑張って練習をしたそうで(F女子高バスケ部のブログで見た)、強豪校のセンターにふさわしいだけの技術を持つ選手と思われた。その184cmのラーマさんにC学園の180cmの熊野さんがどう対処するかを見ておきたいのである。留実子にもそのあたりは話したので、留実子は恐らくその2人の対決を中心に見るだろう。
ティップオフでは、明らかにラーマさんが高くジャンプした。ところが熊野さんが巧みにボールをタップして、そのボールが正確にポイントガードの片野さんの所に飛んできて、C学園はそのまま速攻する。片野さん自身でボールをゴールに放り込み、まずはC学園が先制した。
「ドリブルがすっごい速い」
と雪子が半ばうめくように声を挙げた。雪子は10月の親善試合で片野さんと対決しているのだが、千里もあの時より片野さんの速度が上がっている気がした。あるいはあの時は旅疲れで本調子では無かったのかも知れない。
橋田さんと前田さんの対決は凄かった。どちらもフェイントが読みにくく、どちらから抜くのか全然読めない感じだ。そばで寿絵が「あれ〜、今のは右だと思っていたのに」などと言う。
千里はその対決を真剣に見ている風の近くに居る数人に提案し、あのふたりがマッチアップした時、攻撃側がどちらから抜くつもりか考えて、右手か左手を挙げるというのをやってみた。
「千里、当たりすぎ」
「夏恋も8割くらい当ててる」
「なんでそんなに当たるの〜?」
と全く当てきれないメグミが言う。
「メグミちゃん、最近かなりインハイのビデオ見てるみたいだけど、下手な人のまで見てるから下手なのまで覚えてるんだと思う。ハイレベルな試合だけを見るようにした方がいいよ」
「そうか!私、悪いお手本まで見ていたのか」
リバウンドで熊野さんはラーマさんを圧倒した。背丈の差は4-5cmあるし、ジャンプ力まで入れると正直到達点が10cm近くラーマさんの方が上だと思われた。それでラーマさんが中に飛び込んで来てシュートした時は、熊野さんを含めて誰も停めきれなかった。
しかしC学園はゾーンを使ってラーマさんを極力中に入れないようにしている。そしてリバウンドではボールが落ちてくる絶好の位置に必ず熊野さんが居るので、9割近く熊野さんが取るのである。
「あの外人さん、結構巧いよね」
とリリカが言う。
「巧いけど、熊野さんがもっと巧い」
と揚羽は言った。
留実子は無言でじっとそれを見ていた。
「熊野さんとT高校の森下さんの対決を見たいね」
と睦子が言うが、千里も本当にそう思った。C学園がインターハイで早々に負けず上位まで進出していたら、リバウンド女王争いで、熊野さんはかなり良い所まで行ったのではないかと思う。
結局、試合はリバウンドの差が出てしまった感じで、C学園が76対58でF女子高を下した。
「C学園、ウィンターカップの時より強くなってない?」
C学園はウィンターカップでは3回戦で、最終的に3位になったY実業に敗れている。インターハイでも3回戦で、最終的に3位になった千里たちN高校に負けているのだから、どうもC学園は、くじ運が悪い感もある。
「いや、ほんの3日前にオールジャパンで大学生チームと戦った時よりも進歩してる」
「多分オールジャパンで強い所と戦ったことで進化したんだよ」
と寿絵。
「あんたたちもインハイでJ学園と戦ったので進化したし、一昨日プロチームと戦ったので進化したよ」
と南野コーチは言う。
その後11時から準々決勝第1試合、13時から第2試合が行われた。愛知J学園を3回戦で倒したサンドベージュは第2試合に出てきて勝ち上がっている。
その試合が終わってからしばらくして、千里たちN高校のメンバーと、花園さんたち愛知J学園のメンバーがフロアに入った。エキシビション・マッチ第二戦の始まりである。キャプテン同士、暢子と花園さんで握手したほか、花園さんと千里、日吉さんと暢子、入野さんと雪子、中丸さんと留実子なども握手している。
試合が始まる。お互いのスターターは、N高校が雪子/千里/薫/暢子/留実子、J学園は入野/花園/大秋/日吉/中丸である。
ティップオフは中丸さんと留実子という「メル友」同士で争ったが、中丸さんが勝って入野さんが攻め上がってくる。ところがそのボールを巧みに薫がスティールしてしまう。
「嘘!?」
と一瞬、入野さんが声を挙げるのが聞こえたが、その時は千里も雪子も薫のスティール成功を信じて走り出している。薫はいったん雪子にパス。雪子がドリブルでボールを前に進める間に薫は更に走り込んで雪子を抜いて相手制限エリアに到達する。雪子からのパスを受けて薫がシュートを放つ。
入って2点。
N高校の先制で試合は始まった。
試合は最初こそN高校が先行したものの、やはり実力に勝るJ学園が有利な形で進行する。こちらがゾーンで守っても、日吉さんや大秋さんは平気で中に進入してくる。花園さんも千里のマークを振り切ってスリーを撃つ。
しかしN高校も一方的にやられている訳ではない。暢子も薫も相手ディフェンスを強引に突破して中から攻撃をするし、千里もどんどんスリーを撃つ。
それで第1ピリオドは千里が5本、花園さんが3本のスリーを入れてふたりの得点も合わせて34対28と、ハイスコア気味の得点となった。
例によって花園さんは試合中だというのに千里に話しかけてくる。
「16番付けてる子凄いね。1年生? 1桁の番号をあげていいくらい強いじゃん」
「話し通ってなかった? あの子、戸籍上男の子なんだよ」
「ああ、あれが? 全然そんな風に見えないね。男の子を1人入れると言ってたから、18番の子(川南)かと思った。体つきがごついし」
川南には聞かせられないなと千里は思った。
「でも戸籍上男の子って、身体は?」
「睾丸は取ってる(と思う、多分)」
「ちんちんは?」
「まだ付いてるけど上から触っても分からないように体内に押し込んでいる。女湯に入れる状態」
「おっぱいは?」
おっぱいが試合に関係あるのか?と思ったが
「まだほとんど平ら。いつも肌に貼り付けるタイプのパッド入れてるから、ヌードになっても女の子の裸にしか見えない。最近女性ホルモン飲み始めたみたいだけど、まだ実胸は充分成長してないんだよ」
と答えると
「ああ。ホルモン飲んでるんならいいや。ちんちんはおまけしておく。女湯に入れるんなら取り敢えず女の子の変種ということにしておくか」
と花園さんは言った。
花園さんはおそらくインターハイのビデオを相当見て千里を研究したのであろう。最初の内はマッチアップでかなり千里を停めていた。しかし千里は相手がこちらのロジックを読んでいると見ると、すぐにロジックを変更する。これで花園さんは第2ピリオド以降は、全然千里を停めきれなくなった。
一方で、花園さんは千里をほとんど抜けなかった。
花園さんは負けてしまった3回戦でも、プロの選手に1対1のマッチアップでは高確率で勝利していた。しかしその彼女が千里とのマッチアップにはどうしても勝てないのである。
「千里と花園さんのマッチアップって、相性の問題もあるんじゃない?」
とハーフタイムで寿絵が言う。
「それはあるみたいね。実際P高校の佐藤さんみたいに、千里をかなり停めるし、かなり千里を抜く人もいる」
と暢子も言う。
試合は前半を終えて66対56と点差が開いているのだが、第2ピリオドでは千里がスリーを3本入れたのに対して花園さんはスリーを1本も打てなかった。
N高校は千里以外は適宜選手交代している。J学園も花園さん以外はどんどん交代している。どちらもかなり気合いが入っているので消耗が激しい。睦子や夏恋も4−5分限定で出したが、その4−5分で20分くらい走り回っていたかのように疲れていた。川南・永子はせっかくテストで頑張ってはくれたものの、実際にはこの相手には、とても出せる状況ではなかった。
「コーチ、私も出たーい」
と川南が訴えたものの
「無理」
と一言である。
「川南さん、この相手に私たちが出たら、うちはコート上に4人しか居ないのと同じような状態になっちゃいますよ」
と永子が言う。
「そんなに強いんだっけ?」
「凄すぎます」
ということで永子にはこの相手の強さが結構感じられるようであった。
第3ピリオドの途中で花園さんが薫の近くに偶然行った時、なにやら話しかけていた。花園さんは暢子にも何か話していたし、どうも試合中に色々相手選手と話すのが好きなようである。
インターバルに千里が尋ねてみる。
「薫、花園さんに何言われたの?」
「いや、それがさ。この試合に負けたら、潔くチンコ切れと言われた」
と薫は頭を掻きながら言う。
「薫としてはどうなの?おちんちん切りたいからこの試合負けたい?」
「悩む!」
第3ピリオドまで終わって点数は92対80と12点差である。
「私としては薫にはもう女の身体になってもらって、インターハイには女子チームの正式メンバーとして参加してもらいたいな」
と暢子は言うが
「えーん。薫まで入ったら、私がインハイに行ける見込み無くなる」
などと川南が言う。
「では川南は薫が取ったおちんちんをくっ付けて男子の方に参加してもらうということで」
「えーーー!?」
と川南は言ってみたものの
「それ悪くないかも」
などと言っていた。留実子が笑いをこらえていた。
「いや、実際問題として川南ちゃんのレベルは男子の道原兄弟より上。ここだけの話ね」
と南野コーチは言う。
「川南。男子チームの底上げをして、男子でインハイに行く?」
「男になったら生理なくて済みますよね?」
「まあ赤ちゃんは産めないけどね」
「その代わり髭の処理は面倒らしいよ」
「そのくらいいいや。本当に男になろうかなあ」
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女の子たちのオールジャパン(5)