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■女の子たちのオールジャパン(7)

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千里は日曜日の朝美輪子のアパートに帰宅した後、少し仮眠してから午後から連絡を取って留萌の実家に帰省した。
 
男装で短髪(実は短髪のウィッグ)の千里を見て母が変な顔をしていたが、久しぶりに息子と会った父は
 
「正月だから1杯飲め」
などと日本酒を注ごうとする。
 
「未成年でお酒飲んでるの見つかったら、うちのチーム対外試合停止処分になっちゃうよ」
と言って断る。
 
「喧嘩したので処分とかもあるよね」
と玲羅は言う。
 
「うん。だから殴られてもじっと耐えて絶対反撃しないんだとか言ってた先輩もあったよ」
と千里。
 
「殴られたら殴り返さなきゃ」
「それだとチームが処分されるし、顧問とかまで進退伺い出さないといけない」
「おかしな話だ」
と父は不満そうだが、ほんと変だよなと千里も思う。
 
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「でも東京で年末年始に掛けて大会やってたの?」
と父が訊く。
 
「参加したのは年明けからの試合なんだけどね。年末の試合もレベルが高いから、それを見たあとで自分たちの練習もするという合宿だったんだよ」
「しかし二週間も東京に行きっぱなしというのは大変だな」
「年末の試合が28日に終わって、年明けの大会は1月1日からだから、29日に一時帰省して30日にまた出てきてもいい、という話ではあったけどハードだから誰も帰らなかったよ」
「それは慌ただしすぎるな」
 
「ネット中継で見てたけど、プロのソング化粧品相手に結構善戦したね」
と玲羅。
「でも30点差だから」
 
「何、相手は化粧品会社のチームだったの?」
と父。
「うん」
「へー。化粧品会社でも男の選手いるんだな」
「男性化粧品だってあるじゃん」
と母は言い、父も
「あ、そうか」
などと言ったが、母は悩むような表情をした。
 
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16時頃、蓮菜の家を訪問する。千里はセーターに内ボアのジーンズ、ダウンコート(女物)という格好で出かけ、家を出たらすぐウィッグは外して本来のロングヘアに戻した。
 
「あら、千里さん、いらっしゃい」
とお母さんに歓迎される。
 
「これ、東京のお土産〜」
と言って、グランスタの洋菓子店で買ってきたマカロンを出す。
 
「お、さんきゅ、さんきゅ。これ話題になってた奴だよね」
「そそ」
 
東京駅のグランスタはこの10月にオープンしたばかりである。お母さんが紅茶を入れてくれて、一緒に頂く。
 
「で、これが賞状と賞金ね」
と言って、千里は雨宮先生から託されたRC大賞・歌謡賞の賞状と賞金小切手の入った封筒を渡す。
 
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「ありがと。これって銀行の窓口に持っていけばいいんだよね」
「そそ。それで自分の口座に入金してもらえばいいんだよ」
「よし、やってみよう」
 
「何か頂いたの?」
と蓮菜のお母さんが訊く。
 
「蓮菜ちゃんが書いた詩に私が曲を付けたものが入賞して、賞金を頂いたんですよ」
「へー。凄い。幾らもらったの?」
 
「4ほど」
と蓮菜が言うと
「へー。4千円も?凄いね」
とお母さん。
 
まあ、お金の単位は言わぬが花だよね。
 

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蓮菜の家でボトムをズボンからロングスカート+厚手のタイツに着替えさせてもらってから、18時頃、貴司の家に行く。今日はここに泊まることを母に承認してもらっている。
 
「ただいま帰りました」
と言って入って行くと、貴司のお母さんが
「お帰り、千里ちゃん」
と言って歓迎してくれる。
 
夕飯の支度の最中だったようで、千里はすぐそのお手伝いをする。今日は天ぷらなので、揚げるのを千里がすることにした。
 
「いい匂いしてるね」
などと言って貴司のお父さんが寄ってくるので試食してもらうと
「凄くカラっと揚がってる」
と満足そうである。
 
揚げ物ができると、食卓を囲んでまずは
「明けましておめでとうございます」
と挨拶をして、乾杯した。
 
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お父さんと貴司は日本酒を飲んでいる。お母さんと千里、妹の理歌(中3)・美姫(中1)はジュースである。
 
「貴司、お酒飲んでるみたいに見えるけど、20歳過ぎたんだっけ?」
「お正月だし、見逃して」
 

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「結局、貴司も千里ちゃんもBEST16だったのね?」
とお母さんが言う。
 
「そうなんですよ。貴司さんも私も2回戦までは突破したんですが、3回戦で強敵に当たって負けました。貴司さんのチームに勝った所は4位になりましたから」
「千里の方はまだ来週準決勝・決勝だけど、Wリーグで今季4位だったチームだからね」
 
「あれ?別の大会だったんだっけ?」
とお父さんが訊く。
 
「ええ。貴司さんのはウィンターカップと言って、高校生の三大大会のひとつなんですよ。私の方は代表を決める大会に勝てなくて、そちらには出られなかったんですよね」
と千里。
 
「でもその代わり、皇后杯に出た訳だから」
と貴司。
 
「皇后杯ってなんか凄い名前ですね」
 
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「バスケの真の日本一を決める大会だよ。男子は天皇杯。高校生、クラブチーム、大学生、ママさんバスケ、実業団、プロ、全部集まって日本一を決めようという大会。大学生や社会人相手に2回戦まで勝ったのが凄いと思うよ」
と貴司は言った。
 

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交代でお風呂に入った後、21時過ぎには貴司の部屋に一緒に入った。貴司は何だかそわそわしている。千里は貴司って、考えてることが分りやすいよなと思う。
 
「貴司、就職の方は進展してる?」
と千里は訊いてみた。
 
すると貴司はハッとするような顔をした。
 
「どうしたの?私に隠しておきたいような話?」
 
貴司は少し迷ったようだが、やがて話し始めた。
 
「実は、S中の時の先輩の水流さんのお兄さんが大阪の会社に勤めててさ。そこの社長が交代してバスケ部に物凄いテコ入れを始めたらしい」
 
「ふーん」
と言いながら、やはり大阪になったかと千里は考えていた。貴司の進路を占った時、最初の頃から大阪というのが示唆されていた。
 
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「一応実業団連盟に所属はしていたんだけど、練習は週に1回、試合もバスケシーズンの9月から1月に掛けての公式戦に出るだけ。監督も中学の時に自分はテニス部だったけど、試合の時だけ助っ人でバスケ部の大会に出ていたという部長さんがしてる、というチームだったんだよ」
 
「それはもう趣味でバスケしてますって世界だね」
 
「実は実業団チームって上位はプロレベルだけど、下位はそういう実態の所が多いみたいだよ。それが新しい社長さんになってから、関東の大学で監督やっていた経験者を監督に据えて、選手も所属していたチームが解散したりして行き先が無くて困っていた選手とかを積極的にスカウトして、練習も毎日するようにして、見違えるチームになったらしい」
 
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「頑張るね。でも趣味でやってた人たちは付いて行けないでしょ?」
「うん。だから趣味でやる人は趣味でやっていてもらえばいいけど、勝てるメンツしか試合には登録しないよというスタンス」
 
「ああ、そういう選択肢を与えるのはいいことだね」
「それでまだチーム作りをしている最中だから、僕に大学に行かないのなら来ないかと誘ってくれたんだよ。水流さん、うちの家庭の事情も知ってるから」
 
「じゃ、やはり大阪に行くんだ?」
「まだ決めかねている」
「私のことは気にする必要ないよ。元々どちらかが道外に出るまで夫婦でいようって言ってたんだもん。別れないでとか泣き叫んだりしないから、遠慮無く大阪に行けばいいと思う」
 
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「僕のこと嫌いになったんじゃないよね?」
「好きだよ」
「僕も好き」
 

貴司は軽い睡眠から目が覚めると、隣で裸で寝ている千里にキスした。千里も目を開けた。
 
「こんなことしたら、大阪に行ってもいい気がしてきた」
 
「私たちに縁があれば、いづれまた何らかの関わりはできると思うよ。だから3月いっぱいで友達に戻るというのでいいよ。むしろ無理に遠距離で夫婦関係を続けようと頑張っちゃうと、きっと疲れて息切れして破綻しちゃうと思うんだ。だから夫婦関係はいったん終わらせていいと思う。お互い恋愛自由ということにしようよ。その方が、私たち良い関係を維持できると思う」
 
「もう少し考えてみる」
「うん」
 
「ね・・・」
「うん?」
「もう1回してもいい?」
「いいよ。私たちが夫婦である間は自由にどうぞ」
と千里は笑顔で言った。
 
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「夫婦関係を解消した場合は?」
「それはただの友達である限り、キスもセックスも我慢してもらわなきゃ」
 
「どうしよう? また迷いが生じる」
「馬鹿ね」
と言って千里は貴司にキスをした。
 
「私との関係を解消したら、貴司、他に恋人作ってもいいんだよ。大阪で新しい彼女、作りなよ」
「でもいいの?」
「どうせ私との関係が続いていても作ろうとするくせに」
「う・・・・」
 

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翌日、千里は朝から美容室に行った。
 
髪をきれいにセットしてもらい、メイクもしてもらう。でも美容室に来たのって小学生の時以来だよなと千里は思った。中学の3年間は髪をひたすら伸ばしていたので、時々自分で毛先をカットするくらいだった。高校になってからは・・・・自分でも訳の分からない世界になっている。
 
この日千里の《本当の髪》は胸くらいまでの長さがあった。《いんちゃん》が、『これは最後に短く切ってから1年以上経っているんだよ』と教えてくれた。
 
美容室を出た所で母・玲羅と合流し、駅前で貴司および貴司の母・妹さんたちと待ち合わせた。そして7人で、貴司の母が勤める神社が提携しているフォト・スタジオに行った。
 
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「あんたたち昨年結婚した時に記念写真撮ってなかったもんね」
ということで、この日は写真を撮ることにしたのである。
 
貴司は黒いタキシード、千里は純白のウェディングドレスを着る。千里はその衣装を着てみて、ああ、私って貴司の妻になったんだよな、というのを改めて認識した。3月になったら別れるんだけどね!?
 
貴司と並んでカメラの前に立つ。
 
なんかこれ・・・・凄く嬉しいよぉ!!
 
でも去年結婚した時は私って、実はまだ男の子だった。今はもう女の子になることができた。女の子の身体になることで、私、貴司の本当の奥さんになることができたのかな、などというのも思った。
 
『ね、ね、私って女の子だよね?』
と写真を撮られながら《いんちゃん》に確認する。
『まあ、女の子に分類していいと思うよ』
 
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『おっぱい』『ありまーす』
『おちんちん』『ありませーん』
『たまたま』『ありませーん』
『割れ目ちゃん』『ありまーす』
『くりちゃん』『ありまーす』
『ヴァギナ』『ありまーす』
『前立腺』『ありませーん』
 
『え?私、前立腺無いの?』
『無いよ』
『知らなかった!』
 
『じゃ子宮』『内緒』
 
うーん。
 
『卵巣』『内緒』
 
うーん。私の身体はどうなってるんだろ?
 
くすくすくす、と《いんちゃん》は笑っていた。
 

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普段は《娘》として行動しようとする千里に戸惑いがちな母もこの日はそれを受け入れてくれている感じで、涙を浮かべたりしていた。玲羅や理歌・美姫も
 
「お姉ちゃん、きれーい」
「千里さん、可愛い」
 
などと笑顔で言ってくれた。
 
「あんた、本当にお嫁に行ったんだね」
と母が言う。
「お母ちゃん、ありがとう」
と千里も素直に感謝のことばを言った。
 
写真はデータでもらい、各々がデータのコピーを持つことになった。
 
写真撮影後は中華料理店で一緒にお食事をした。
 
「お父ちゃんも連れてこようかと思ったんだけど、女だけで集まった方が気楽だしね」
と貴司の母。
「ああ、男性の目が無いと、よけいな気遣いしなくていいから良いですよね」
と千里の母。
 
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「あのぉ、僕、男だけど」
と貴司。
「めんどくさいから、あんた性転換する?」
「遠慮しとく」
 

「そうだ。これ早めの誕生祝いも兼ねて」
と言って貴司が小さな箱を出す。
 
「わあ、何だろう? 開けていい?」
「うん」
 
入っていたのはスントの腕時計である。
 
「わあ、すごーい。高そう」
「僕の誕生祝いにG-SHOCKの腕時計をもらったから、そのお返し。同じG-SHOCKじゃ芸が無いかなと思って」
 
「この時計、スポーツする人に割と人気だよね?」
「そうそう。方位磁石とかの機能もあるから、ロードをジョギングする時とかにも便利なんだよ」
 
「だけど、同じ色なんだね?」
と玲羅がいう。
 
「うん。メーカーは違うけど、色はお揃いということで」
「ありがとう」
と言って千里が微笑んでいるので
 
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「姉貴、ここはキスする場面」
などと玲羅が煽り、千里は貴司の唇に3秒ほどキス。みんなが拍手をしてくれた。
 

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