広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■女の子たちの事故注意(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-09-19
 
8月24日(金)。昼休みにメールチェックしたら「連絡よろ」と貴司から短文メールが来ていたので、さりげなく校舎外に出て物陰で電話する。
 
「千里、明日何か用事ある?」
「神社に出るけど」
 
「神社は午後からだよね?午前中にも旭川市内で少し会えない? 今の時期は確か補習やってなかったよね?」
 
練習試合の打ち合わせがあるので旭川に出てくるらしい。それでその前に千里と軽くデートしようということであった。
 
「いいよ。補習は9月になってから。でもHまではできないよ」
「純粋に会いたいだけだよ! Hはこないだ4回もしたし」
 
3回という約束だったのだが、実際は普通のセックス3回と真っ暗にして更に目をつぶってやるという約束で初めてシックスナインをした。結果的に貴司は千里が完全な女なのかどうか確信を持てなかったようだが、初めてのシックスナインで貴司は物凄く興奮して1分もしないうちに千里の口の中で逝ってしまいもったいないと言って悔しがっていた。
 
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「Hしたくないの?」
「そりゃしたいけどさ」
 
そのあと少しおしゃべりしてから電話を切って校舎内に戻ってきたところで、バッタリと教頭先生と遭遇する。会釈して通り過ぎようとしたが、呼び止められる。
 
「村山君、最近はずっと女子制服だよね」
「すみませーん。本当は男子制服着ないといけないんでしょうけど」
「そんなことはない。村山君は女の子なんだから女子制服を着るのが本来だと思うよ」
「そうですかね。このままずっと女子制服着てようかな」
「うん、そうしなさい、そうしなさい」
と教頭先生も笑顔である。
 
「髪も伸びたんだっけ?」
「これウィッグなんですよ。実は4月に1学期始まる直前丸刈りにしちゃったんで、まだ本当の髪はかなり短いんです」
「なるほど。でもそのカツラ付けて練習してて蒸れない?」
「大丈夫です。これ化繊で通気性の良いものなので」
「へー、カツラにも色々あるんだね」
 
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その色々なウィッグを使い分けるのに結構苦労してるんだけどね!
 

その日の夕方、千里が南体育館(朱雀)でバスケ部の練習をしていたら校内放送で呼び出しがある。それで職員室に行くと電話が掛かって来ていて、雨宮先生だった。
 
「お早うございます。何でしょうか?」
 
もう日が落ちているのに「お早うございます」などと言っているので、そばにいる先生が怪訝な顔をしている。
 
「ああ。千里。今すぐ東京に来てくれる?」
「今すぐって。私、今学校で部活してるし、このあと練習試合なんですけど」
「あんたまだ夏休みじゃなかったんだっけ?」
「北海道や東北の学校の夏休みは8月20日前で終わるんです」
「へー。そうだったのか。で、取り敢えずこちらに来て」
「明日じゃダメですか?」
「私が今すぐと言っているんだから、今すぐ来なさい」
 
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千里はため息を付いた。
 
「分かりました。でも飛行機あったかなあ」
「旭川空港20:20の便を予約だけ入れておいたから、チケット代は自分で払って。後で精算するから。お金は持ってる?」
 
「先日先生に言われて作ったスルガVISAデビットを昨日受け取ったので、それで決済します」
「OKOK。予約番号を言うね。****だから」
「分かりました」
 
千里は予約番号をメモした。
 

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時間が無いので、体育館には戻らず、更衣室に行って着替えを取り教室から鞄を取って来てタクシーに飛び乗り空港に急ぐ。雨宮先生と付き合い始めてからこういうのはしょっちゅうなのでいつも現金を数万円持っている。カードが使えるところはそちらで決済するが、実は東京までの往復航空券くらいは現金でも払える。
 
車内からまずは南野コーチの携帯に電話して急用で部活を早引きすることを連絡、更に叔母にも電話して急用で東京に行ってくることを告げた。叔母も慣れたもので「気をつけてね〜。虎屋の羊羹も好きだなあ」などと言っていた。更に貴司にメールすると《え〜!?》という返事が返ってくる。
 
《貴司なんだったら、リモートセックスする?》
 
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電話だと運転手さんの手前、あまり過激なことが言えないので、敢えてメールにしているのである。
 
《それどうやるの?》
《私が感じてるようにあんあんあんとかメッセージ送ってあげるから貴司はそれを見て逝って》
《結局セルフサービスなのか!?》
《私もそばに居るんだからいいんだよ》
《寂しいよぉ》
《隠し持ってる私のブラとパンティを握りしめて、私のヌード隠し撮りした写真とか見ながらするといいよ。なんなら私のパンティで貴司のおちんちん握ってやってもいいよ》
《うっ・・・》
 
バレてないと思ってるのかね〜。
 
声が聞きたいというので電話に切り替えて、あたりさわりのない会話を少ししたところで空港に着いたので「またね〜」と言って切った。
 
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旭川空港に着くとすぐにJALのカウンターに行き、予約番号を告げてチケットを購入する。ギリギリなので誘導しますと言われて係の人と一緒に手荷物検査場に行き、中に入る。通学鞄と着替えの入ったスポーツバッグはもうそのまま機内に持ち込んだ。あまり時間を置かずに離陸する。そして機内で体操服から制服に着替えた。
 
今年は3月の修学旅行、4月の京都行き、5月の伊勢行きと、学校をサボっての東京旅行、7月初旬の性別検査のための東京行き、そしてインターハイ、更には先日の出羽山行きと既に6回の空の旅をしている。これまで乗った便数も18便になる。マイルも結構貯まっている。
 
機内ではひたすら寝ていて22時過ぎに羽田に到着する。連絡すると表参道まで来てと言われ、乗り継ぎ方法も教えてもらうので、京急とJR・地下鉄を乗り継いで辿り着く。改札口の所に毛利さんが来てくれていた。
 
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一緒にレストランに入り個室に入る。雨宮先生・北原さん・新島さんがいる。これに鮎川さんが加わったら雨宮グループ勢揃いという感じだ。北原さんは足にギブスをして車椅子に乗っている。先日の交通事故のせいだろう。後で聞いたら今朝まで深川の病院に入院していたらしい。地元で治療したいからといって半ば強引に退院して午後の飛行機で東京に戻ってきたばかりということだった。
 
テーブルの向かい側、上座になる側に、40歳くらいかなという感じの男性と、雨宮先生と同年代くらいの感じの男性がいる。どちらも面識が無かったので千里は最初にそちらに向かって会釈した。向こうも会釈を返してくれる。
 

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「これで揃いました」
と雨宮先生が言っている。雨宮先生が敬語を使う相手というのは結構限られるはずだ。ミュージシャンには見えないから、どこか大手芸能事務所のお偉いさんか、あるいはレコード会社か放送局の人ではないかと考えた。
 
「こちら私の弟子のひとり、醍醐春海です。醍醐君、こちらは★★レコードの松前社長と、加藤課長」
 
「初めまして」
とお互い挨拶して名刺を交換する。加藤さんとは
「お電話では何度か話しましたね」
と言い合う。
 
なお、醍醐春海の名刺は伊勢に行った時に持っていなかったのを後から雨宮先生に注意されたので、作っておいたものである。
 
「社長のお名前は、まるで女性の名前みたいですね」
と千里は言った。松前社長の名刺には
 
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《★★レコード代表取締役・松前慧子》
と書かれている。
 
「うん。実は僕は女なんだよ」
と社長が言うので
「えーーー!?」
と千里は声をあげる。
 
「今日の会合は性別がよく分からない人が多いね」
と雨宮先生が言う。
 
「私は一見女に見えるけど実は男だし、社長は一見男に見えるけど実は女だし、加藤さんも男に見えるけど本当は女で、醍醐もまるで女子高生だけどちゃんとちんちん付いてるし、毛利はこんなヒゲ面だけど女で、新島もナンパしたくなるような美女だけど実はニューハーフで、北原は美青年って感じだけど、本当は男装の麗人なんだよ」
 
「先生、それ知らない人が聞いたら信じちゃいますから」
と言って新島さんが笑っている。
 
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「一応僕は自分では男だと思ってたんだけど。女房もいるし」
と加藤さん。
 
「俺、女だったら女湯に入ってもいいですかね?」
と毛利さんが言うと
「そのまま刑務所に直行になるよ」
と北原さんが突っ込む。
 
「で、結局性別がよく分からなくなっちゃったね」
と社長も笑っている。
 

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「社長のお名前は《さとし》ですか?」
と千里が尋ねる。
 
「うん。よく読めたね」
「三木のり平さんのご本名が則子と書いて《ただし》と読むので、それと似た読み方かなと思いまして」
 
「あの人の名前は有名だったね」
「三木のり平さんは定期券とかで苦労なさったようですが、社長も学生時代に定期見せて『これ違うよ』とか言われたりしませんでした?」
 
「したした。ついでに就職した時、会社に出て行ったら、女子制服渡された」
と社長。
 
「それでOLになっちゃったんでしたっけ?」
と雨宮先生。
 
「いや、一瞬人生考えちゃったよ」
と社長は笑っている。
 

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「だけど最近はこういうカラフルな名刺が増えましたね」
と松前社長は千里が渡した名刺を見て言っている。
 
醍醐春海の名刺は大雪山の写真をバックに『作曲家・醍醐春海』という名前が印刷され、メールアドレスのみが記されている。松前社長の名刺はごく普通のビジネス名刺だが、加藤課長の名刺は★★レコードの看板アーティストであるラララグーンの画像が背景に印刷されている。
 
「まあそれで今夜の打ち合わせは実はH出版主導で進めていたアイドルユニットの件でして。僕が制作部長としてこれに関わっていたので、取り敢えず道筋だけ付けてから町添君に引き継ごうと思ってですね。ここに町添君も呼ぶつもりだったんですけど、モンシングでちょっとトラブっていて、今夜はそちらの対応で出ているんですよ」
 
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松前さんはこの春までは専務で、6月に社長に就任したばかりである。それで兼任していた制作部長を町添さんに引き継いだのである。松前さんと町添さんは★★レコードの創業者グループの中でもっとも若い。
 
「モンシング何かあったんですか?」
と毛利さんが訊く。
 
「弥無君が脱退したいと言ってる」
「えーーー!?」
 
「弥無さんが抜けたらモンシングどうなるんです?」
「体(てい)をなさないよね。ボーカルで作詞作曲している人が抜けちゃったら」
 
「モンシングは来週からツアーじゃなかったですか?」
と千里は顔をしかめながら訊く。
 
「そう。だからせめてツアー終わるまで我慢してくれと説得している所。彼がもう事務所の人間は信用できないと言っているので町添君が説得役で行っているんだよ」
 
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「制作部長就任早々にたいへんですね。だってモンシングって★★レコードの売上の2割くらい占めてません?」
と北原さん。
 
「うん。うちにとっても大打撃になる。町添君が説得しきれなかったら僕も行く」
「わぁ」
 

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