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8月20日(月)。夏休みが終わって授業が再開される。N高校は2学期制なので夏休みが終わってもまだ2学期ではなく1学期の途中である。9月上旬に期末テストが行われ、10月上旬の連休で1学期と2学期が分けられる。
千里が20日の朝、自主的に女子制服を着て居間に出てきたのを見て叔母が言う。
「千里、もう男子制服は処分しちゃう?」
「ううん。私の制服は公式には男子制服だから。あくまで暫定的に女子制服を着ているだけで」
「そんなこと誰も思ってないと思うけどなあ」
学校に出て行っても、もうクラスメイトも先生たちも千里の女子制服問題は誰も何も言わない。みんな千里が女子制服を着ているのは当然と思っている感じである。
「千里、その髪はウィッグなんだっけ?」
「そうだよ。私の本当の髪はまだかなり短いから」
「いつ髪切ったの?」
「4月に1学期が始まる前に丸刈りにした」
「丸刈りにする必要がなかった気がするが」
「そうなんだよねぇ。私2年生になってから、半分くらい女子制服で出て来てる気がするし」
「半分ってことはないぞ。9割は女子制服だと思う」
「そんなに着てたっけ?」
お昼休みに暢子と一緒に職員室に呼ばれる。教頭先生の机の所に宇田先生がいる。
「例の愛知J学園との練習試合の件、昨日岐阜に行って話し合ってきたよ」
と宇田先生。
「お疲れ様でした。でも岐阜ですか?J学園って岐阜でしたっけ?」
「名古屋だよ。昨日はJ学園は岐阜のF女子高と練習試合していたんだよ」
「頑張りますね!」
「トップはそうやって日々鍛えている。うちも頑張らないといけないね」
「はい」
「ああ。それでインターハイまでと言っていた、女子バスケ部の練習時間の特例はとりあえず2月の新人戦道大会まで延長することにしたから」
と教頭先生が言う。
「ありがとうございます」
「ただし2年生については成績120位以内が条件ということで」
と教頭先生。
「うーん。若干漏れそうな子がいますが、仕方無いですね」
と千里。
「川南と葉月は勉強も頑張らないとレギュラーは取れないということだな」
と暢子。
千里は授業料全免の特典を維持できるように20位以内をキープしているし、暢子も半免の特典を維持できる50位以内をキープしている。暢子は中間期末の成績はあまり良くないのに、実力テスト・振り分け試験では高得点を取るという、本人曰く「隠れ天才」型である。留実子も試験の要領がいいので、だいたい80位くらいに居る。
「まあそれで練習試合の日程だけど、1月19-20日の週末になった。やはりウィンターカップの前だとお互いに手の内を曝すことになってしまうから後でしようということと、愛知J学園はインターハイで優勝したので、1月のオールジャパンに出るから、その決勝戦の日程が入っている1月13日より後にすることになった」
と宇田先生。
「あ、そうか。今年からインターハイで優勝するとオールジャパンに出られることになったんだ」
「優勝すれば皇后杯獲得」
「まあさすがに高校生がオールジャパンで勝ち進むのは無理だろうけどね」
「1月にする場合、向こうの3年生は出られるんですか?」
と千里は訊く。
「うん。本来は3年生は部活は12月までなんだけど、オールジャパンまでは特例で出られる。その特例を特に今年は翌週まで延期してもらえることで向こうの学校側との話がまとまった」
「わあ」
「P高校も同じく3年生は12月いっぱいまでしか部活動できない規則なんだけど、そちらも特例で認めることになったらしい」
「P高校?」
「うん。結局、J学園と、うち、札幌P高校、旭川L女子高の4校によるリーグ戦をすることにした」
「わっ」
「J学園をこの3校で北海道に招待しておこなう」
「なるほど!」
「うちとL女子高は1−2年生のチームだけどJ学園とP高校は3年生も入る。これが3年生にとって高校最後の試合になる」
「それはたくさん苦しめてあげないと」
「うんうん」
「3校で招待するけど、ウィンターカップに実際に出られるのはその中の1校だけなんですね」
「3校とも出られなかったりして」
「そのあたりはウィンターカップの出場如何にはよらず、このメンツでやろうということで」
「分かりました」
「岐阜F女子高も行きたいという話が出て日程を詰めていたんだけど、向こうはどうしても1月は都合がつかないみたいで見送り」
「本戦でやりたいですね」
「うん。頑張ろう」
この20日から、N高校とM高校・L女子高などとの練習試合も再開された。
組合せ・スケジュールは最初M高校の橘花が作った案をたたき台にL女子高の溝口さんとN高校の千里が詳細を詰め、それを提示して各校の承認を得たものである。
とりあえず8月20日から始めて10月上旬の秋季大会前まで実施する。週単位での組合せなので、8/20-24, 8/27-31, 9/03-07, 9/10-14 と4クールした後で選抜大会予選のため9月下旬は休止して、10/01-05 でいったん終了である。但し各校でテストなどのために部活が休止期間に相当する場合はその学校は外れる。N高校の場合は9/10-11, 10/03-04 が試験のために休止である。
会場はN高校の南体育館の2コートと、M高校の第2体育館(事実上バスケ部の専用)を使用する(N高校・M高校がお休みの日も使えることになったが、組合せ次第で他の会場が良い場合は振り替える)。ここにA商業のメンバーは本当に2kmの道をジョギングしてやってきて、L女子高とR高校のメンバーはスクールバスでやってきた。でもR高校は「帰りのバスはA商業発だから」と言われていた。つまり試合後2kmの道をジョギングする必要がある。
「頑張るなあ」
と留実子が感心したように言う。
「うちも頑張る?」
と暢子が訊いたが
「パス」
と千里は答えた。
22日の水曜日。千里は学校を休んで、早朝から札幌に向かった。
連絡のあった婦人科医の健診を受けるためである。お盆過ぎてから学校が始まる前に行こうかと思ったのだが、生理が来てしまったので、その出血量が減ってきた所で、念のためビデで膣洗浄した上で出て来たのである。
東京で千里をインハイ前に診察したL医師が書いてくれた紹介状と、千里の家に来ていたこの病院からのハガキを持参する。最初に血液と尿を取られ、レントゲンやCTまで取られてから、先生の診察を受けた。
「話は聞いています。高校生で性転換するというのは、欧米とか、あるいはタイでは良くあるものの、日本では珍しいですね」
と診察してくれたZ医師は言う。
「と思われているだけで、実際には日本国内でも年間数件あるというのを、ある筋から聞いています。私の場合はスポーツ選手でインハイなんかに出たからこうやって先生方の知るところとなりましたけど」
と千里。
「ああ、そうかも知れないですね。ちょっと裸を見せてもらっていいですか?」
「はい」
それで千里は服を脱いでオールヌードになる。
「きれいなボディラインをしていますね。高校生とは思えない」
そうだろうね。この肉体は女子大生の時の肉体だもん。
Z医師は身体のあちこちを触っている。
「贅肉が凄く少ない身体とは聞いていましたが、下腹部には少し脂肪がありますね。まるで子宮を守るかのように付いている」
「ああ、あんたは赤ちゃん産めるなんて良く言われます」
「そうそう。このレントゲン写真見て思ったんですよ。これ完璧に女性の骨格だって。骨盤が女性型なんですよ。染色体がXYであるのと前立腺が存在しているのを見落としたら生まれながらの女性だと判定してしまう」
内診台にも乗せられる。
「人工的に作ったものに見えない!」
「東京のL先生にも言われました」
「どこの病院?」
「プーケットの**病院というところです」
「うーん。聞いたことないな。しかしこの先生巧いね!」
「プリーチャ先生のお弟子さんらしいですよ」
「なるほどー」
クスコも入れられて中を観察される。
「凄い。まるで本物みたい。どうやったらこうできるの?」
「私も詳しいことは分かりません」
「これS字結腸法だよね? 膣壁に物凄くたくさんヒダがあって粘液で満たされている」
「実は私も詳しい術式はよく分かってなくて」
「うんうん。いいよ」
実際には千里は陰茎反転法の手術を受けたのだが「まるで本物に見える」のは、「あるお方」の悪戯の結果のようである。また生理があるのは瞬嶽の勝手な親切の結果。更に体内で女性ホルモンが分泌されているのは青葉がやってくれたのであるが、どれも合理的に説明する方法がないし、千里もこの時点ではそのことを知らなかった。
「ダイレーションしてる?」
「最初の頃はしていたのですが、最近はサボってます」
「私が見た感じではダイレーションは、たまにやる程度でも充分だと思う」
「じゃ取り敢えず月に1回くらいしようかな」
「うん。それでいいよ」
あとは主として色々お話をした。女性器や排尿などに関するトラブルは無いか、おしっこが出にくいと感じることはないか、排尿の時に尿道口が痛むことは無いか。不正出血はないかなどといったことを聞かれる。セックスについても尋ねられたので正直に彼氏と年に数回程度のレベルでしていることを話した。
「セックスではローションとか使ってる?」
「最初の頃はKYゼリー使ってましたけど、無くても行けるみたいなので最近はあまり使ってません。いつも使えるように小分けした容器に入れて準備はしています」
「うん。これだけ潤湿ならそれでいいと思う。普段はパンティライナーか何か使ってる?」
「いえ。特に一応パンティライナー、ナプキン持ち歩いてはいますが使うことはほとんど無いです」
ここでは生理があるなんて話はしない。混乱させるだけである。
「へー。それは珍しいね。S字結腸法の欠点はおり物が多いことなんだけどね」
「特にそれは感じたことないです」
「体質の問題かな。もしかして水が少ないタイプかな」
「ああ。私元々便秘気味ですよ」
「それで結果的にちょうど良い潤い度になっているのかもね」
女性ホルモンの処方箋はいつでも書いてあげるからと言われたが、取り敢えず東京のL先生に書いてもらった処方箋で4ヶ月分確保したのでストックと合わせて年明けくらいまでありますと言ったら、切れたらいつでも連絡してくださいと言われた。次回は年末くらいに診てもらうことにした。
「でもこれ1年くらい前に手術したんだっけ?」
「はい、そうですけど」
「凄いなあ。まるで手術してから7−8年経ってるみたいに見える」
「友だちからはよく、あんた小学生の内に性転換していたのでは?とか言われますけどね」
「ほんとに小学生の内に性転換したってことは?」
「さすがに小学生に性転換手術はしてくれないのでは?」
「常識的にはそうなんだけどねー。ただあなたの骨格が完璧に女の子だから、これって思春期に女性化が起きていなかったら有り得ないと思って」
「骨格は分かりませんけど、性器の状態については、私、普通の怪我とかも人より速く治るみたいだから、そのせいではないかと」
「うーん。速く治る人と考えても5年くらい経ってるように思えちゃうんだよね」
正解!!
健診が終わったのがお昼近くであった。千里はそのまま札幌の運転免許センターを訪れた。ロビーで貴司を見つけて寄っていく。手を振ってお互い挨拶し、彼の隣に座る。
「どうだった?」
「うん。通ってるとは思うけどね」
貴司はこの半月合宿方式の自動車学校に行っていた。第1段階の修了検定・仮免試験も、卒業試験も一発合格して順調に16日間で昨日自動車学校を卒業し、今日最後のペーパーテストを受けに運転免許センターに来たのである。なお一緒に入校した佐々木さんは第1段階の修了検定を(前を走っていた検定車のトラブルを見て焦って脱輪させ)1回落として1日遅れになり、今日卒業検定を受けているらしい。
「貴司は運動神経はいいから、私はペーパーテストの方だけ心配していたんだけどね」
「そのあたりは最後は勘と運で」
やがて合格者の受験番号が表示される。
「お、番号あった」
「やったね。おめでとう!」
と言って千里は貴司の頬にキスした。
やがて講習を受けて緑色の帯の入った運転免許証をもらって貴司が出てくる。
「凄い凄い。お祝いにケーキでも買ってあげるよ」
「ケーキより千里が食べたい」
「ストレートだなあ」
「だめ?」
「じゃケーキの後で私も食べていいよ」
「よし」
「留萌に戻れる最終は何時だったっけ?」
「札幌駅を19:00」
「それまでにはさすがに終わるね」
「ついでに10月の連休にと言ってたインハイのお祝いをちょっとだけ先取りしない?」
「じゃ今日は3回。10月に12回」
「OKOK」
そんなことを言ってから貴司はちょっと心配そうに言う。
「ね、千里、ヴァギナに入れていいよね?もちろんちゃんと避妊するから」
「そうだね。もしヴァギナがあったら入れてもいいよ」
「無いの?」
「私、男の子なんだからヴァギナがあるわけないじゃん。スマタでもちゃんと気持ちよく逝かせてあげるから」
「ちょっと待て。だって千里、医学的な検査で女子と確定したからインハイに女子チームで出たんじゃないの?」
「うん。だから私、バスケットする時だけは女の子なんだよ」
「そんな無茶な!」