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■女の子たちの女性時代(4)

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千里はスタジオを出ると適当に来たバスに乗って終点で降りた。降りてから場所を確認すると旭山動物園だ!
 
なんとなく切符を買って入場する。
 
ここで晋治とデートしたなぁ、と古い記憶を思い起こす。晋治は昨年から付き合っている彼女と仲良くしていて週末同棲に近い雰囲気になっているらしい。そういや私の「投げる能力」というのは晋治とのキャッチボールで鍛えられたんだよなということも思い起こす。
 
じっと猿山を眺めている。晋治ともここで随分眺めていたなと思う。あの日晋治とHしていてもおかしくなかった。でも結局しないままになった。そして私のHは3年後、貴司とするまでお預けになったんだ。
 
まあさすがに小学6年生でセックスは早すぎたかもね。
 
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そんなことを考えていた時
「あぶなーい!」
という声がする。
 
え!?
 
と思って振り向いた時は、もう既に千里は大量の水を浴びてずぶ濡れになっていた。
 
『千里、さっきから危ないから移動しろと言ってたのに』
と《りくちゃん》が言う。
 
『ごめーん。気付かなかった』
 
「お客様、大丈夫ですか?」
と動物園のスタッフさんが寄ってくる。
 
巨大な水槽に入れた水を運んでいたのが、道の傾斜があるのでバランスを崩して倒れてしまったようである。
 
「あ、平気、平気。夏だし」
「こちらへ。何かお着替えを」
 
と言われて、事務所に連れて行かれた。
 
「適当な服を持って来ます」
と言われ、とりあえずバスタオルをもらった。シャワーも使ってくださいと言われたのでシャワーで全身を洗う。それでバスタオルで身体を拭いていたら、そこにさっきのスタッフさんが入ってくる。
 
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そして目をパチクリする。
 
「済みません。お客様、男性の方でしたね。ごめんなさい。てっきり女の人かと思って女性用の服を持って来ました」
 
と言って出て行く。
 
バッチリ千里の股間に付いているものを見られた感じである。
 
それで男物の下着上下とTシャツにイージーパンツを渡された。
 
「これはうちのスタッフの緊急用着替えとして常備しているものですから返却は不要ですので」
「ありがとう」
 
と言って千里はそれを受け取り身につける。
 
でも身につけながら思った。えーん。もう男なんてやだよぉ。もう自分で切り落としちゃおうかな。
 
『千里、いくら自己治癒能力の高い千里でも、さすがにチンコ切り落としたら死ぬぞ』
『やはり?』
『太い血管が通っているから、チンコは難しい。睾丸を抜くくらいならきちんと消毒してやれば、千里なら大丈夫だけど』
『抜いちゃおうかな』
『でもその前に御主人様に相談してみなよ』
『そうする!』
 
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入場料返すと言われて590円と、お詫びと言われて3000円の図書券をもらった。
 
それで千里は動物園を出た後、タクシーを飛ばして旭川空港に行く。羽田経由!で庄内空港までのチケットを買う。叔母に電話して急用で山形まで行ってくると告げると叔母はびっくりしていた。
 
「あんたってよく急用で飛び回ってるね」
「ごめんねー。明日には戻るから」
 
それで蓮菜にも電話して、明日は午後から録音に参加するということを連絡した。
 
「体調どう?」
「私もう性転換しちゃうから」
「性転換は済んでたんじゃなかったんだっけ? 再度性転換して男に戻るの?」
「ううん。男を辞めて女になる」
「今千里男なんだっけ?」
「SMS-突発性男性化症候群というんだよ」
「何それ〜?」
 
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「蓮菜朝起きてみて男になってたらどうする?」
「女の子とセックスしまくる」
「ああ。サーヤみたいなこと言ってる」
 

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出発までの間に空港内のショップで女物の服を買ってそれに着替えた。男物の下着と濡れた服は《いんちゃん》が自宅に持っていってくれた。
 
旭川を13:10の羽田行きに乗り、庄内空港に着いたのは17時前だった。鶴岡へのバスに乗ろうとしたのだが・・・・
 
「迎えに行ってあげてと言われたから」
と言って、山駆けで一緒になったことのある女性が千里に声を掛けてくれた。
 
彼女のRX-7の助手席に乗り込む。
 
「ありがとうございます。これ格好良い車ですね」
「いいでしょう? これ大好きなのよ。ちょっと運転してみる?」
「無理です〜! 私運転免許持ってないし」
「でも運転できるって顔してるよ」
「顔で分かるんですか〜?」
 
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彼女は瀬高さんと言って、主婦ではあるが、鶴岡で口コミで色々霊的な相談事を受けているという話であった。
 
「瀬高さん、霊感は凄いのに、それをあまり自覚してない感じ」
「それはあなたもでしょ?」
「うーん・・・」
 
彼女の車で約40分のドライブで羽黒山の駐車場に到着した。ガソリン代を渡そうとしたのだが「お互い様」と言われて受け取ってもらえなかった。羽黒山有料道路の料金だけ千里が払った。
 
日没と同じくらいのタイミングで三神合祭殿でお参りし、あたりが暗くなっていく中で、波動を探していたら、茶屋でコーヒーを飲んでいるバスガイド姿の美鳳さんを見つける。
 

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「こんにちは。何か見る度に違う格好している」
「まあ私は何人もエイリアスがあるから」
「本体はたぶん私には見られないんでしょうね」
「そりゃそうだよ」
 
千里は頷いた。
 
「お願いがあって参りました」
「うん。私、20分後に観光客案内して下に降りないといけないから手短に」
 
「私を女にしてください。もう男の身体、耐えられません」
「でもあんたこの春まではふつうに男の身体で生きてたじゃん」
「あれはある意味諦めていたから。でも女の身体を体験してしまうと、もう男の身体は嫌で嫌でたまらないんです」
「まあそうかもね」
 
「何とかお願いできないでしょうか。もう頭がおかしくなりそうです」
「まああんたは最初から頭がおかしいから」
「美鳳さんにまで、そんなこと言われるなんて・・・」
 
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千里は涙が出てきた。
 
美鳳はここで千里が泣き出してしまうのは想定外だったようで
「ちょっと待って」
 
と言うと、千里の身体の中に手を入れて!? 巻物のようなものを取り出した。千里が
 
「それは?」
と訊くと
 
「あんたの肉体時間のプログラムコード」
と答える。
 
「プログラムになっているのか・・・・」
「実はちょっと予定が変わっちゃったことがあってさ」
「はい?」
「あんたに大学生になったら男の恋人を作ってあげようと思ってたんだけど」
「・・・・私、貴司とは別れるんですか?」
 
「どうしようかなあ。まだ決めてないのよ。彼と結婚したい?」
「したいです」
「そうだねえ。じゃそれも検討してあげるよ。でもあんたには男の恋人じゃなくて、どうしても女の恋人ができそうなんだよね」
 
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「えーーー!?」
 
「でもその関係で、男の時間が1ヶ月くらい余分に欲しくなっちゃってね」
「まさか、私その子と男としてセックスするんですか?」
「女同士としてセックスする。ただ便宜上あんたの男性器は使うかもね。向こうは基本的に男嫌いだから、あんたのそれを少し大きなクリちゃんとみなすと思う」
 
「もしかしてレスビアンですか?」
「レスビアンでもなけりゃ、あんたを好きになる女の子がいるわけない」
「うーん・・・」
 
「あんたは本当は9月10日まで男の身体のままの予定だったけど、明日からまた女の身体にしていい?」
 
「ぜひ、お願いします」
「その子に寝込みを襲われた時に女の身体だったら、不審に思われて性転換手術の時期を誤魔化しにくいから、大学2年生の時に、その女の子と親しくなっていく頃の時間と入れ替えようと思うんだよね」
 
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「寝込みを襲われるんですか〜?」
 
「インターハイに出た時とは身体の感覚が全然違うと思うけどいいよね?」
「女の身体であるのなら、どうにかなると思います」
「よしよし」
 
それで美鳳はプログラムを書き換えた上で、巻物をまた千里の身体の中に入れてしまった。
 
「だけど千里、取り敢えず2013年のお正月までは死なないでよね。辻褄が合わないまま死なれると歴史が歪んじゃうから」
「まだ死にたくはないです」
 
「頑張ってね。明日朝4時に身体は切り替わる。それから9月10日までは本来あんたが大学2年生頃の時間。そして9月11日からは選抜地区大会まで女子高生である時間。それが終わったら大学1年生頃の時間」
 
「めまぐるしいですね」
「あんたがわがままな条件言うから安寿さんが悩んでパズル解くみたいにしてこの計画を作り上げたんだよ。奇跡的にうまくできていると思う」
 
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「なんか矛盾点が少ないなと思っています」
「うん。それが凄く大事」
 

「そうだ。こないだ貴司が夢魔に襲われたような夢を見たらしいのですが」
「その件は大陰から報告を受けたけど、貴司君が勝手に見た夢なんじゃないの?」
「そうだったのか」
「千里とセックスできなかったストレスの暴走だよ」
「ああ」
「それと実は持ってる去勢願望だよね」
「やはりあいつそうですよね?」
 
「でも千里、少し訓練したら、彼が見た夢の中の千里みたいに、気の塊を悪霊にぶつけるくらいのことはできるようになるけど、訓練してみる?」
「訓練辛そうだから、いいです」
 
「あんた基本的に練習嫌いだもんねぇ」
「それは自覚してますけど」
 
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「でも結果的には貴司君は自分で自分に呪いを掛けちゃったね」
「呪い?」
「まあ千里としては好都合かもよ」
と美鳳さんは何だか楽しそうに言った。
 

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「ひとつ教えてください」
「うん」
 
「美鳳さん、私そのうち声変わりするとおっしゃいましたね」
「するよ」
「それって男の子の身体であった時間ですよね」
「そうなる。睾丸が無くなっちゃったら声変わりはしないから」
「だからインターハイに出た時の身体って、女の子になった後なんだから、当然声変わりもあった後なんじゃないんですか? でも私、声はほとんど変わらなかった。音域は3度くらいずれたけど。何故なんでしょうか?」
 
「それは声を出しているのは脳だからさ」
「・・・・」
 
「車の運転が上手な人が、NSXを運転してもフィットを運転してもスキルには大差が無い。その人がNSXを上手に運転しているの見て、下手な人がNSXに乗っても下手なまま」
「・・・・」
 
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「千里、この春から何度も身体が変化したけど、ずっとしていた練習はそのまま残る感覚なかった?」
「それは不思議に思っていました。特に4日以降男の子の身体に戻った時も確かにインハイに出た時より身体が重たい気はしたのですが、それでもちゃんとこれまでの経験を身体が覚えている感じなんですよ」
 
「身体が覚えているというのは実際には低レベルで、言い換えれば小脳的に記憶しているということだからね」
「でしょうね」
 
「だから身体が変わっても千里の運動能力はそんなに変化しない。まあフィットよりNSXが運動性で勝るのと同様、鍛え上げた肉体の方が、まだそれほどでもない肉体よりはよく反応するけどね。それと同じで、インターハイの時の身体は、肉体的には声変わりというイベントの後のものであっても、システムとして声変わりする前のシステムで運用されていたから、今までとほとんど変わらない声が出ていたんだよ」
 
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「ということは、そのシステムをちゃんと運用すれば、私の精神が声変わりを体験した後でも、今みたいな声が出せるということですか?」
 
「千里なら出せる」
 
「・・・・」
「たださ。今の声って凄く少女っぽいんだよね。この声の出し方って千里、小学5年生頃から『可愛い声になろう』と努力して作ってきたものでしょ?」
 
「はい、そうです」
 
「だったら、大人の女の声も作り上げなよ。そして大学生になったら、今より大人っぽい女声で話すようにするといい」
 
「頑張ってみます」
「まあ明日からの肉体は、そういう大人の女の声が出やすい身体になっているはずだから」
 
「私、そのあたりのタイムパラドックスが良く分からないんですけど」
「大神様もこの件は先が見えないみたいで楽しんでるよ」
 
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「やはり私は神様たちの娯楽なのか」
「まあ、あんたは人身御供(ひとみごくう)だから」
「そんな話でしたね〜」
 

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※最初の対応表
歴史時間      肉体時間
2007/05/21-08/03 2008/07/11-10/06 (山駆け13日を含む) IH2007
2007/08/04-09/10 2007/09/15-10/22 (まだ男の子だった頃)
2007/09/11-09/21 2008/10/07-10/17 (選抜地区大会)
 
※改訂された対応表
2007/05/21-08/03 2008/07/11-10/06 (山駆け13日を含む) IH2007
2007/08/04-08/14 2007/09/15-09/25 (まだ男の子だった頃)
2007/08/15-09/10 2012/06/06-07/02 (ローキューツで活動していた頃の時刻.注1)
2007/09/11-09/21 2008/10/07-10/17 (選抜地区大会)
 
注1.前日の体内2012/06/05は歴史的には2010/12/14で大学2年生の暮れになる。千里と桃香が振袖を作り成人式の準備をしていた時期である。時間外の山駆けのせいで、千里の歴史時刻と体内時刻はそもそも大幅にずれている。千里は大学1年の7月から3年生の3月までローキューツで活動するが、4年生の春にオリジナル・メンバーが数人抜けたのを機に一緒に引退した。その後性転換手術を受けるのだが。桃香は休日はバイトしたりバイトと称して他の女の子とこっそり?デートしたりしていたので、千里が女子バスケット選手をしていたことに最後まで気付かなかった。
 
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女の子たちの女性時代(4)

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