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■女の子たちの女性時代(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-09-13
 
お盆の最中、13日から16日まで、DRKの音源制作を行った。この時期に、東京に住んでいる美空が姉と一緒に旭川に住む父の家を訪問するので、そのタイミングで作ろうということになったのである。
 
「へー。美空ちゃん、じゃ、今バックダンサーとかコーラスとかしてるんだ?」
「うん。こないだ芹菜リセさんの音源制作に参加してコーラス入れたよ」
「すごーい!」
「なんかプロじゃん」
 
「芹菜リセさんって、よくスタッフとか怒鳴り散らかしてると聞くけど、どうだった?」
「そんなこと無かったよ。私の歌を音程が正確だって褒めてくれて、歌い方とかに色々アドバイスもしてくれた」
「へー!」
「でももしかしたら作曲者の蔵田孝治さんが同席してたからかも」
「なるほどー」
 
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「蔵田さんはどうだった?」
「女の子には興味無しという雰囲気だった」
「なるほどー」
「多分男の子にしか興味無いというのは本当だと思った」
 
「美空ちゃん、事務所と契約したの?」
「してない、してない。芹菜さんの音源制作も演奏料10日間で11万1111円もらっただけ」
「なぜそんなぞろ目の金額なの?」
「それから10%源泉徴収して実際にもらえるのは10万円ジャスト」
「面白いことするね」
「じゃ税金で1万1111円取られちゃうんだ?」
「確定申告したら全部戻ってくるよと言われた」
「ああ、それはしなくては」
 
「でも10万円何に使うの?」
「ステーキを思いっきり食べようかと思ったんだけど」
「10万円分のステーキって凄いサイズでは?」
「グラム500円のお肉が2kg買える」
「プロレスラーでもちょっと無理だよ」
 
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「でもお母ちゃんから貯金しなさいと言われたから、2万円分家族5人でロイホのステーキ食べて、残りは定期預金にした」
「それがいい、それがいい」
 
美空のお姉さんの月夜が苦笑していたが、この時点ではまだDRKのメンツは美空がとんでもない大食いであることを知らなかった。なお5人というのは、美空と月夜、美空たちの母、母の現在の夫(美空と月夜の義父)、そしてその間に生まれた美空たちの妹の紗織の5人である。美空と月夜が旭川の父の所に来る時、そちらと血縁の無い紗織はお留守番である。
 
「でも今事務所主導で計画している歌唱ユニットに参加しないかという話もあるんだよ。5−6人くらいの編成で考えていて、今候補者を選定中なんだって。こないだから社長がうちに来て、何度か母ちゃんとお話ししてた」
「凄い。やはりデビューか!」
 
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「最初はインディーズで、売れたらメジャーという線だろうけどね」
「おぉ」
「でもそしたら、美空ちゃん、そちらのユニットのデビューが決まるまで、こちらもやれる?」
「いいよ。契約するまでは何も拘束されないし」
 
「でも美空ちゃん、メインボーカル?」
「まさか。私より上手い人はたくさんいるよ。もうひとりやはりほぼメンバー入り確定という人の歌を聞いたけど無茶苦茶うまかった。まだ直接は会ってないけどね。私と同い年らしい」
 
「美空ちゃんより上手い子がいるんだ!?」
「すごーい」
「それに私アルトだし。やはりメインボーカルはソプラノだよ」
「ああ、どうしてもそうなるか」
「アルトは縁の下の力持ちで」
「でもアルトで上手い子って少ないから、きっと美空ちゃんは貴重な戦力」
「そういうことを社長さんからも言われた」
 
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今回はフルートが吹けるという旭川L女子高のバスケ部1年生大波布留子さん(7月の合唱コンクールではコーラス部に助っ人で入っていた)を千里が連れてきたので14人編成で録音を行った。美空が「わーい!同い年」と言って喜んでいた。担当はこのようになっていた。
 
Fl 恵香・布留子 Tp 鮎奈・京子 Gl 蓮菜 Leier 智代 Ryuteki 千里
Vn 孝子・麻里愛 Gt1 梨乃 Gt2 鳴美 B 美空 Pf 花野子 Dr 留実子
 
かなり演奏をしてから、布留子は
「え?これCDにするの?」
と言って驚いていた。
 
「千里、何と言って連れて来たの?」
「うん。フルート吹けるならちょっと来てよ、と」
「正しい勧誘の仕方だ」
「印税はプロデューサーの田代君も入れて15人で山分けね」
「ちなみに前回作ったCDは1人あたり4万円ほど印税があったから」
 
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「すごーい!そんなにもらえるんだ?」
「まあ売れたらね」
「売れなかったらゼロ」
「売れるといいなあ」
 
「でも布留子さん、凄いフルート使ってるね」
「あ、これ総銀」
と布留子。
「すごーい! 私のなんて全部洋銀なのに」
と恵香。
 
「総銀と洋銀って、なんか銀の組成が違うの?」
と質問が出る。
 
「総銀は全部本物の銀だよ。それ90万くらいしない?」
「うん、そんなもの」
「ひぇー!」
「私のは洋銀。銀は入ってない。銅と亜鉛とニッケルの合金」
「恵香のは幾らしたの?」
「これは20万円くらい」
「きゃー!!」
 
「千里が持ってるフルートは?」
「あれは白銅〜♪」
「白銅ってのは銅の合金?」
「そうそう。銅とニッケルの合金。つまり洋銀と比べて亜鉛が入ってない。百円硬貨に使われてる素材だよ」
「ほほぉ」
「ちなみに五百円硬貨は洋銀」
「おぉ!そう言われると、洋銀の方が高そうだというのが分かる」
 
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「ついでに私のフルートは人からもらったものだけど、定価65000円の所を実際には44800円で買ったらしい」
「おお、ほんとに値段が庶民的」
 

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「でも千里さん、その篠笛がなんか凄い気がする」
と布留子が言う。
 
「千里の龍笛も高いよね?」
「この龍笛は40万円だよ。でも布留子ちゃんが言うように、この篠笛の方がプライスレス」
 
「プライスレス??」
「東京の美術館の人に見てもらったんだけどね。鎌倉時代初期頃のものではないかと推定された」
「鎌倉時代っていつだっけ?」
「いい箱作ろうで1185年から」
「じゃ822年経ってる?」
 
暗算で2007-1185 = 822と即計算できるのがさすが特進組である。実際には2000-1185 = 815というのは頭の中ですぐ計算できるので、それに7を足すと822という答えが出てくる。
 
「私たちその笛が千里の所に来た経緯を知っているから、多分元の持ち主は実際に1180年頃の人だと思う」
と蓮菜が言う。
 
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横笛は建礼門院に仕えていた。建礼門院が安徳天皇を産んだのが1178年。壇ノ浦の合戦が1185年である。
 
「だったらもしかして何千万円とかのクラスでは?」
「それが美術館の人が言うには、値段が付けられないというんだ。この笛は鳴らないから」
 
「鳴らない?」
「布留子ちゃん、吹いてごらんよ」
と言って千里が布留子に篠笛を渡す。
 
それで布留子が吹いてみるとスースーと息の音がするだけで鳴らない。
 
「なんか詰まってるような感じ」
「美術館の人もそう言ってた。でも管をのぞいてみても特に何も詰まってないんだよね。鳴らないから、もしかしたら単に観賞用として作られたものかもとその人は言った。で、私は目の前で吹いてみせたんだ」
 
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と言って千里はその笛を吹く。
 
何ともいえぬ美しい音色がする。
 
「嘘!」
 
「どうもこの笛を吹けるのは私だけみたいなんだよ。実際、他に何人かの管楽器奏者の人にも吹いてもらったけど、誰も音を出せないんだよね」
 
「うーん・・・・」
 
「それで美術館の人も評価不能ということで」
 
「なんで千里さん、吹けるの〜?」
 
「千里は変人だから」
「うん。変人だから吹けるんだと思う」
 

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今回のCDの収録曲は4曲。麻里愛が書いた『大雪山協奏曲』『ふたりの銀河』、千里が書いた『シークレット・パス』。この3曲の歌詞は蓮菜である。これに美空のお姉さん月夜が書いて提供してくれた『恋の旅人』。
 
とにかくも普段は全員そろうことがまず無いというバンドなので、合わせるまでが一苦労であった。最初はいちばん演奏しやすそうな『シークレット・パス』から始めたのだが、プロデューサー役の田代君が、あまりの揃わなさに一時は切れそうになっていた。初日の夕方くらいになって、やっと何とかなり始めて、本格的な録音は翌日14日から始めることにした。
 
なお、録音は今回も∞∞プロから依頼を受けたプロの音響技術者の人が付き合ってくれたし、演奏のバランスや音色設定などについても結構アドバイスしてもらった。
 
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お盆の最中で各々家庭の行事もあるだろうということで、この4日間は朝9時から午後3時までということにした。それで13日はその後、暢子と待ち合せて市内の体育館で少し汗を流していたのだが、休憩中に携帯を見たらメールが入っている。何だろうと思って見てみたら父からである。
 
「スクーリングで札幌に行って来た。帰りにそちらに寄る。SPAのチケットもらったから一緒に入ろう」
とあった。
 
SPA!?
 
千里はしばらく考えた。
 
何〜〜〜!?
 
SPAってお風呂? 父と?? 私女の子なんだからお父さんとお風呂に入れるわけないじゃん。
 
でもちょっと待て。
 
再度考える。
 
私、今男の子の身体に戻ってるんだった!!
 
どうしよう?
 
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暢子が「どうしたの?」と声を掛ける。
 
「あ、えっとお父さんからメールで、こちらに出てくるんだって」
「ふーん。じゃ、今日はこのあたりで上がる?」
「そうだね。また明日も4時くらいから。でもお風呂に行こうってどうしよう?」
 
暢子は「うーん」と考えている。
 
「千里は女湯に入って、お父さんには男湯に入ってもらえば問題無いと思うが」
「でもお父さん、私を男の子だと思い込んでいるんだよ」
「それは、さすがに、いい加減カムアウトすべき話だな」
「えーん」
 

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取り敢えず暢子と別れてから、町で男物の下着を買って着替えた。タックも解除しておく。それで待ち合わせ場所に行った。いつも付けているウィッグも外して生頭だが《いんちゃん》に確認すると、千里が最後に頭を丸刈りにした日(歴史的には高2の4月。始業式の直前)から肉体上は74日、約2ヶ月半経っているらしい。それで頭は「伸びかけ」という感じになっていた。
 
父と会うと真っ先に父はその件を指摘する。
「お前、ちょっと髪伸びすぎてるんじゃないか?」
「練習がハードでとても髪を切りに行く気力が無かったんだよ。夏休みが終わる前にはまた切りに行くよ」
「そうだ。お前、インターナショナルとか何とかいうのに出たんだって?」
「国際大会じゃないよ。インターハイ。高校の全国総体だよ」
「へー。成績はどうだったの?」
「無茶苦茶強い所に当たって負けた。そこ今年優勝したから」
「ああ。そんな所に当たっちゃ、どうしようもないな」
 
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こんな会話をしながら、千里は私、嘘はついてないよね?と思っていた。
 

バスに乗って、父がチケットをもらったSPAのある所に行く。
 
玄関を入り、フロントの所で父がチケットを2枚出す。係の人はチラッとこちらを見て、赤いタグの付いた鍵と、青いタグの付いた鍵を1個ずつくれた。
 
「ほれ1個取れ」
と父が言うので千里は、ごく自然に赤いタグの付いた鍵を取る。
 
「まあ湯船にゆっくり浸かりながら男同士色々話そう」
などと父は言う。
 
はははは。やはり男湯に入らなきゃダメ?
 
ロビーで父がカツゲンを買ってくれたのでそれを飲んでから「湯」と書かれた暖簾をくぐり、更に左手の「男」と書かれた青い暖簾を潜る。千里はひぇー!と思いながら父と一緒に暖簾を潜った。
 
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それで脱衣場で服を脱ごうとしていたら、何か作業していた風の65-66歳くらいの女性従業員さんが寄ってくる。そして千里に言う。
 
「お客様、こちらで混浴は困ります。女性の方は、向こうに女湯がありますので、そちらをご利用下さい」
 
父がポカーンとしている。それで千里は
「えっと、よく間違えられるけどボク男ですから」
 
「ご冗談を」
「脱いでみますから」
 
と言って千里はジーンズとトランクスを脱いじゃう。そこには確かに男性器がぶら下がっている。
 
「大変失礼しました。ごゆっくりどうぞ」
と言って従業員さんは向こうに行った。
 
「お前、小さい頃からよく女の子に間違えられていたよなあ」
と父が言う。
 
「まあ、そうかもね」
「だけど、お前、未だに声変わりが来ないんだな」
「18世紀頃の音楽家ハイドンとかは18歳頃に声変わりが来たらしいよ。最近は早い子が多いけど、そのくらいの子もいるんだよ」
「ああ、そういうものかねぇ」
 
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それで千里は服を全部脱いで、その付近に重ねてある籠に入れた。
 
「お前ロッカーに入れなくていいの?」
「別に貴重品は無いからこれでいいよ」
 
私が持ってる鍵に合うロッカーは女湯にあるからねぇ。ほんとは女湯に行きたいんだけどなあ。なお実際には財布の中に結構な高額の現金が入っているのだが、それについては《りくちゃん》に番をお願いした。
 
「お前、すね毛とか生えないの?」
「夏は汗がたまるから剃っちゃうんだよ」
「へー。最近は男でも剃るの?」
「ああ、剃ってる子多いよ」
「ふーん。なんかうちのクラスには化粧してる男いるし。オカマかと思ったら普通の男なんだって」
 
「ああ、最近は営業マンとかでお化粧する男性もいるみたいだよ」
「化粧して営業すんの?」
「印象が良くなるようにだって。あと最近メンズブラとか言って男の人でブラジャー付ける人もいるらしいし」
 
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「なんで男がブラジャーなんか付けるの?変態か?」
「別に普通の人だと思うよ。会社では普通の課長さんとか部長さんとかに愛用者が多いらしい。身が引き締まっていいらしいよ」
「なんか変な世の中だなあ」
 
メンズブラと下着女装やフェチとの境界線は千里もよく分からない。
 
一緒に浴室に移動する。浴室では、その中を何人もの《おちんちんのついてる人》がそれをぶらぶらさせながら歩いている。きゃー。こんな風景見るの嫌だよぉ。
 
千里が男湯に入ったのは小学3年生の時以来、実に8年ぶりである。千里は胸をタオルで隠して、絶対に見られないようにした。胸を見られてしまうと、女の胸にしか見えない。
 
洗い場で身体を洗う。インハイが終わった後、男の子の身体には戻ったものの千里はずっとタックをしていた。開放状態でこれを洗うのって、いつ以来だろうと千里は考えてみたが分からなかった。
 
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その後、浴槽に入るが千里はタオルで胸から腹に掛けての部分を覆って隠している。これは絶対に父も含めて他人に見られてはいけない。
 

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