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■女の子たちの女性時代(6)

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DRKの音源制作作業は16日で終了したが、その翌日17日(金)、千里は午後から暢子と待ち合わせの体育館に行った。結局お盆期間中は休んでしまったので、13日以来、4日ぶりの練習である。
 
それでパスや1on1の練習をしていたのだが・・・
 
「千里・・・」
「うん?」
「なんか動きが見違えってるぞ」
「そうだっけ?」
「こないだからの数日間は、あれ〜?って感じだったのに、インハイの時のスピードとかが戻ってる。いやあの時以上に進化してる」
 
「ああ、私の身体って、時々突然進化して、時々突然退化するんだよ」
「千里の身体ってどうなってんの?」
 
「自分でも分からなーい」
 
「しかし千里が進化してるなら、私も進化しなくちゃ」
「うん、頑張ろう」
 
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18日(土)の朝、千里の携帯に着信があるが、知らない電話番号である。何だろうと思い、取り敢えず取って「はい」とだけ答える。
 
「お早うございます。私、旭川L女子高の溝口麻依子と申しますが」
「ああ!お早うございます。旭川N高校の村山千里です」
 
「先日話していた地域リーグ戦の件ですけど」
「A商業さんとR高校さんも入れた練習試合ですね?」
「それの組合せ・スケジュールをちょっと詰めませんか?」
「あ、はい。でも私と溝口さんでですか?」
「日枝さん(R高校)からも三笠さん(A商業)からも任せたと言われて」
「うむむ」
「あ、私、夏休み明けからバスケ部の部長になったんですよ」
「わあ、おめでとうございます」
「要するに雑用係ですけどね」
「あ、でもうちは若生(暢子)が新部長なんですよ」
「ええ、それでさっき若生さんに電話したら、そういう細かい話は村山さんにと言われて電話番号教えてもらったので」
 
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ああ、暢子はこの手のパズルみたいな話は苦手だから、こちらに投げたなと千里は思った。
 

それでお茶でも飲みながらという話になり、旭川駅近くのマクドナルドで待ち合わせた。
 
「最初、M高校の中嶋(橘花)さんが各校と連絡とりながら詳細を詰めようとしていたみたいなんですけど、夏休みの宿題が全然できてないことに気付いてしまったので、細かい所はそちらで決めて、とこちらに投げられてしまって」
 
「ああ。この時期に夏休みの宿題ができてないのはやばい」
「一応中嶋さんが作った叩き台では、M高校・N高校の男子バスケ部の通常の活動も再開されるから、リーグ戦の会場はM高校・N高校・L女子高の1コートずつを使って分散開催にして、各校が5チームと対戦するから、土日を休みにして週に1度、特定のチームと対戦するというものなんですけどね」
 
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「それやるとA商業さんとR高校さんは5日とも他の学校に出て行かないといけないから交通費が大変じゃないですかね」
「これまでは交通費が実質掛かってませんでしたからね」
 
N高校とM高校でやっていた時は、元々両校の距離が500mも離れておらずお互い歩いて行くことができた。その後L女子高が加わったものの、L女子高とN高校がスクールバスを持っていて部活の練習場移動に利用できることから、L女子高のメンツがこちらに来る時はL女子高のスクールバスで移動し、N高校・M高校がL女子高に行く時はN高校のバスにM高校のメンツも同乗して一緒に移動していたのである。
 

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「LMNXARの6文字をこの順序に循環定義して、ふたつのチームが対戦する時、順位の大きな方の会場でやるというのはどうでしょう?」
と千里は提案してみた。
 
「それでうまく行きます?」
 
千里は作業用に持って来たA3白紙に組合せを書き出す。
 
L-M(L) N-X(N) A-R(A)
L-N(L) A-M(A) X-R(X)
L-X(L) R-M(R) N-A(N)
A-L(A) R-N(R) M-X(M)
R-L(R) M-N(M) X-A(X)
 
「これで会場使用数は L3 M2 N2 X2 A3 R3 になっていますが、実際にはXはNかMなので、こうするといいです」
 
と言って千里は今書いたものに赤ペンで修正を入れる。
 
L-M(L) N-X(N) A-R(A)
L-N(L) A-M(A) X-R(M)
L-X(L) R-M(R) N-A(N)
A-L(A) R-N(R) M-X(M)
R-L(R) M-N(M) X-A(N)
 
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「これで会場使用数は L3 M3 N3 A3 R3 となって丸く収まります。各校とも3日は自分の学校でやり、2日はよそに出て行きます」
「おぉ!」
 

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「でもこのやり方は、交通費をみんな平均的に使うというだけで、効率は良くないかもしれない」
と千里は自分で言う。
 
「思いっきり距離が離れた学校同士なら、それでいけそう」
と溝口さんも言う。
 
ふたりはしばらく考えていた。
 
「地理的なこと考えると、村山さんたちのN高校と中嶋さんたちのM高校がすぐそばにあるというのを、やはり基本に考えた方がいいかも」
と溝口さんが言う。
 
「なるほど」
 
「A商業もわりと近いですよね」
「2kmくらいなんですよ」
「だったらジョギングで10分だな」
「それかなり速いペースでは?」
「そのくらい頑張ってもらおう」
 

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溝口さんが5校の位置関係を大雑把に別のA3白紙に描く。
 
「R高校さんが離れているんですよね」
「うん。L女子高からN高校までもだいたいジョギングで30分。まあスクールバスで移動するけど」
「30分ジョギングした後で40分の試合は辛い」
 
「R高校さんもスクールバスがいつでも使えるらしいんですよ。だから移動手段が無いのが、M高校とA商業」
「まあ公立は仕方無いですよね」
「今まではうちでやる時は、N高校さんのバスにM高校も同乗してきていたから良かったけど、今度はばらけるから同乗がきかない」
 

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「やはり会場は固定にしましょう」
と溝口さんは言う。
 
「N高校の男子を追い出して2コート使えません? それとM高校のコートを1つ使いましょう。両校はほぼ隣り合っているから実質ひとつの会場と思っていいでしょ?」
「ですね。男子は追い出せると思う」
 
「それで、A商業さんはジョギングしてきてもらう。うちとR商業さんがスクールバスで、会場に移動する」
 
「確かにそれがいちばんお金が掛からない気がします。でもスクールバスのガソリン代の負担がL女子高さんとR高校さんに掛かりすぎません?」
 
「うちとR高校さんがガソリン代を負担する代わりに、N高校さんとM高校さんは場所代を負担すると考えればいいです」
「ああ。そう考えればいいかな。スポーツドリンクくらいは提供できると思いますし」
 
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「ではその線で」
 

話がまとまった所で、普通のバスケットの話になる。インターハイの感想を聞かれたので、対戦した各校の様子などを話すと興味深そうに溝口さんは聴いていた。
 
「いいなあ。私もそういう所とやりたい」
「取り敢えずウィンターカップ頑張りましょうよ。うちも負けませんけど」
「うん。頑張ろう」
 
千里は「夢の中の話」と断って、唐津の女神様が女子バスケ選手10人を召喚しようとしたという話をした。
 
「まあ村山さんは実際10人に選ばれていい素質持ってると思うよ。素質ね」
「練習がまだ足りないということですね?」
「うちのチームだったら、もっと鍛えてるけどなあ」
「私、練習嫌いだから」
「ああ、そういう雰囲気はある」
 
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「他の9人って誰々だろうと思ってたんですよ。ある事件で判明したのですが、福岡C学園の橋田さんは確実」
 
「J学園の花園さん・日吉さん、F女子高の前田さん・大野さん、秋田N高校の中折さん・倉野さん。これで8人か」
 
「ああ、そのあたりは入ってそう」
「後はそちらの若生さんと、M高校の中嶋さんかもね」
「入っててもおかしくないかも」
 
「他には倉敷K高校の丸山さん、静岡L学園の青井さん、大阪E女学院の御堂さん、愛媛Q女子高の鞠原さん、東京T高校の森下さん、あたりも可能性ある」
 
「そのあたり見てないなあ」
と千里が言うと
 
「研究不足!」
と溝口さんから言われた。
 
「でも今年のうちの快進撃は、どこもうちを研究していなかったからというのもあったと思う」
と千里。
 
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「それはあるでしょうね。村山さんのシュートや、花園さんとのマッチアップを物凄い回数リピート再生しているシューターさんたちが全国に居ますよ」
 
「研究されてくると思う。だから頑張らなきゃ」
 

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顔合わせたついでに少し汗を流しましょうよという話になり、N高校の暢子と雪子、L女子高の登山宏美・大波布留子を呼び出して、近くの体育館に集合した。それで軽くウォーミングアップして3on3をした。手合わせしたのはインターハイ前の7月上旬以来、1ヶ月半ぶりである。
 
「村山さん、無茶苦茶進化してる!」
と登山さんに言われたが、千里も
「登山さんも、凄く巧くなっている」
と言う。
 
しかし溝口さんは暢子に
「もう少し進化してると思ってたぞ」
と言い、暢子も溝口さんに
「もっと練習してるかと思ってたのに」
などと言っていた。
 
最初は1時間くらいのつもりだったのだが、熱が入って結局3時間ほど練習は続いた。
 
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「ところでリーグ戦の話はまとまったんだっけ?」
と暢子。
「まとまったよ。各校にFAX入れた。必要なら代表者が集まって話し合い」
「代表者というより顧問さんで集まってもらった方がいいね」
 
「うん。予算執行の問題もあるからね」
 
「ところでさ、ここだけの話」
と登山さんが切り出した。
 
「はい?」
 
「昨年N高男子チームで活躍していたシューターと村山さんの関係は?」
と登山さんは興味津々という顔で訊く。
 
「私本人ですよ」
 
「やはりそうなのか。なんかこれに関してはいろんな噂が飛び交っていて、どれが本当なのかさっぱり分からないと思って。なんで男子チームに居た訳?」
と溝口さんも言っている。
 
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「私、戸籍上は男子なので」
「へー!」
「あれ?女子に訂正したんじゃなかったんだっけ?」
と暢子が言うが
「戸籍の訂正は20歳になるまでできないんだよ」
と千里は言う。
 
「でも中学の時は女子バスケ部だったんだよね?」
「そうそう」
「ほほぉ」
 
「高校に入る時に、やはり戸籍通りでないとまずいかなというので男子バスケ部に入れてもらったんですけどね。でも試合に出てて、性別に疑問を持たれて検査受けてくれと言われて。それで検査されたら、君は女だと言われてしまったので」
 
「いや、検査するも何も村山さん、女子にしか見えないんだけど。半陰陽?」
「ううん。元々は普通の男の子でしたよ。でも性転換したんですよ」
 
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「やはり性転換したんだ? いつ?」
「1年ほど前。だから、昨年のインターハイ予選の頃までは本当に男子だったんですよ」
「へー」
 
「性転換って手術とかしたの?」
「手術しましたよ」
「じゃ・・・おちんちん切って?」
「うん。おちんちん切って、タマタマ取って、代わりに割れ目ちゃん作って、ヴァギナとクリちゃんも作って」
 
「すごーい! ヴァギナもあるんだ?」
 
「あれ、むしろヴァギナを作るのが主目的だよね?」
と暢子が言う。
「そうそう。それがないとお嫁さんになれない」
「ああ。無いとお婿さんが困るよね」
 
「だから、あの手術、ポールとボールを取ってホールを作る手術なんて言う人もあるんですよ」
「へー!」
 
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「昨年秋に受けた検査では、とにかく私の性別を明確にするというのが目的だったみたいですけど、インターハイ直前の再検査では、私の身体が本当に女性的か、男性だった頃の筋肉が残ってないかを確認したみたい」
「ほほぉ」
 
「まあ千里は男子チームに居た頃はほとんど筋肉無かったからね」
「うん。今の筋肉は主として今年のお正月以降に付けたもの」
 
「ね、ね、その女性的についた筋肉を見てみたいんですけど」
と登山さんが言う。
 
「えっと、どこで?」
「そりゃ、裸になれる場所で」
 

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女の子たちの女性時代(6)

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