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■女の子たちの女性時代(3)

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ボディケアの店の待合室に戻る。5分ほどで案内された。最初ふたりともオープンスペースにベッドが並んでいる所に連れて行かれるが・・・スタッフさんは千里を見て、千里だけカーテンの引かれた所にあるベッドに案内する。なるほど、男はオープンスペースで女はカーテン付きなのかと考える。日本のお店って、しばしば女尊男卑だよなと思う。
 
30歳くらいの女性スタッフが入って来て最初に足湯をしてもらった。それで足が温まった所で、パンティとブラだけになり、お腹にタオルを掛けてもらい、アロマオイルを付けて足をマッサージしてくれる。
 
「お客さん、凄く凝ってますね」
「今揉まれていて、凝っていたことが分かりました!」
 
この身体はインハイが終わった直後の身体だから、無茶苦茶凝ってるだろね。逆に考えると、そのインハイ直後の身体をメンテしてもらって凄く助かったかも、と千里は思った。
 
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「スポーツか何かなさってます?」
「ええ。バスケットの選手なんです」
「それで。もし良かったら、こちらに月に1度くらいでもいらっしゃいませんか?これ絶対時々ちゃんと揉みほぐしておいた方が、多分バスケをなさるのにもいいですよ」
 
「ああ。それはちょっと考えてみようかなあ。一応練習が終わった後でお互いにマッサージはしあっているんですけどね。お互い素人だから」
 
「素人同士だと、変な揉み方して、よけい血行が悪くなる場合もあるんですよ」
「ああ、それはありそう」
 
私が興味を持っている感じだったのでお店のパンフレットを持って来てくれた。ボディケアだけの利用なら、SPAの入場料は不要ですからと言われた。学校の近くのショッピングセンターにも支店があるようである。
 
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足を下の方から順次優しく揉まれていくと、物凄く気持ち良い。なんか至福の時間だなという気がする。太腿まで充分揉みほぐした後、お腹のあたりを揉んでいるが
 
「贅肉が全然ありませんね!」
と驚いたように言われる。
 
「毎日激しい練習しているので、贅肉が付く暇ないみたいです」
「なるほどですねー」
 
私に贅肉が無いのは多分バスケの練習以上に毎晩やっていた山駆けのせいだ。
 
ブラジャーも外してバストマッサージしてもらう。
 
「おっぱい大きくなるツボをよく刺激しておきますね」
「嬉しいです!」
「でもこれプチ豊胸してます?」
「よく分かりますね〜」
「いえ感触が脂肪だけじゃない感じだったので」
「ヒアルロン酸です。さすがにシリコン入れる勇気は無いです」
「あれは10代の方はやっちゃいけませんよ」
「同感ですね」
「でもお客さん、これDカップあるでしょ?」
 
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「実はヒアルロン酸打つ前はBカップに満たなかったんですよ。それで打ったらその後、急に成長してこのサイズになっちゃって」
「ああ。若い内はそれがあるから、よけいシリコン入れちゃいけないんですよ」
「思いました!」
 
バストマッサージの後、更に肩、腕、手の先、指まで揉みほぐされる。手にも足の裏と同様全身のツボが集まっているんですよと言われた。
 
「そのあたりのツボを自分でも覚えたいなあ」
「あなた胃腸が弱いみたいだから、とりあえずそのツボだけ。掌だとここですね」
 
と言われて、親指の付け根の付近を押さえられる。
 
「あ、そこ凄く効く感じです」
 
その後、フェイスマッサージもしてもらう。これも何だか気持ちいい。耳の後ろも押さえてもらったが、そこだけで結構疲れが取れる感じだった。
 
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最後にまた太腿から膝下・足の裏までマッサージしてもらうと、何だか生まれ変わったような気分だった。
 

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全身ボディケアが終わってカーテンの引かれた所から出て行くと、困ったような顔をしたスタッフさんから声を掛けられる。
 
「こちらお連れ様でしたでしょうか?]
「あ、はい。あらぁ。眠っちゃってますね。お父ちゃん、お父ちゃん」
 
と言って千里が身体を揺するが父は起きない!
 
「済みません。担架か何かありませんか? 父は泊まるつもりだったみたいだから休憩室まで連れて行って寝かせておきたいので」
 
「このベッドは移動できますので」
ということで、ベッドのロックを解除して、スタッフと千里で押して男性用の休憩室まで行く。休憩室は既に横になっている人が何人もいる。端の方にふたりがかりで下に降ろし、SPA常備品のタオルケットを身体に掛けてあげた。お店のスタッフさんに良く御礼を言っておいた。
 
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お店の伝票をもらったので見ると2Mと書かれたのを1M1Fと訂正されている。父が男2人と申し込んだものの、実態を見て自分は女と訂正されたんだなと思いちょっと微笑む。
 
父の財布などの入っているバッグはコインロッカーに入れた。ちょっとだけ考えて財布に1万円札を足しておいた。コインロッカーの鍵を紐で父のズボンのベルトに結び付け、タオルケットの下に隠す。
 
「お父ちゃんへ。帰ります。荷物はコインロッカーの中。鍵はベルトに付けておくね」
というメモを書いて、熟睡している父のお腹の上(タオルケットの下)に置いておいた。
 

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それで自分は帰ろうと思い、休憩室を出てロビーの方に行こうとした所でバッタリと見知った顔に会う。
 
「わっ、徳子ちゃん」
「わっ、千里ちゃん」
 
それは千里たちのクラスの学級委員の徳子であった。
 
「今、男性用休憩室から出て来た?」
「ああ。お父ちゃんがボディケアをしてもらってる最中に眠っちゃったから、お店のスタッフさんと一緒にここに運んで来たんだよ」
 
「びっくりしたー! 千里ちゃんって、女の子の身体なんだよね? いや春の内科健診の時に、おっぱいは見ちゃったけどさ」
 
「女の子の身体でなきゃ、女子選手としてインターハイには出られないよ!」
「だよねぇ」
「何ならお風呂の中で確認する?」
「おお、させてさせて」
 
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それで結局徳子と一緒にお風呂に戻ることになる。
 
「湯」と書かれた暖簾をくぐり、その先の右手にある「女」と書かれた暖簾を潜る。やはり私はこっちだよね〜。
 
それで徳子と一緒にロッカーの並んでいる所に行こうとしていた時、ひとりの従業員さんが驚いたような顔をしてこちらにやってきた。あっ・・・この人はさっき男湯で私に「女性の方は女湯へ」と言った人だ。
 
「お客様、お客様、男性でしたよね?」
「え? 何かの間違いじゃないですか? 私女ですけど」
「さっき男湯におられませんでした?」
「まさか。何なら脱いでみましょうか?」
 
と言って千里はジーンズとショーツを脱いじゃう。そこにはふつうに女性の股間がある。
 
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「大変失礼しました。ごゆっくりお楽しみください」
「はいはい」
 
それで従業員さんは首をかしげながら向こうに行ったが、心の中で「ごめんなさーい」とその従業員さんに言った。《りくちゃん》がまた呆れていた。
 

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「千里、こうしてると女にしか見えない気がしたけど、男だと思っちゃう人もいるのかな」
と徳子。
 
「さあ。きっと、私と似た男性がいたのでは?」
「ああ、そうかもね」
 
それで服を脱いで各々のロッカーに入れる。千里は元々女湯のロッカーの鍵をもらっていたので、ここでは籠を使わず、ちゃんとロッカーにしまうことができた。
 
取り敢えず浴室に移動し、身体を洗ってから浴室のちょっと隅の方に行く。
 
「見た感じは女の子にしか見えないけど」
「触ってもいいよ」
 
それで徳子はおそるおそる千里のお股に触る。
 
「間違いなく女の子だ」
「1年生の頃までは偽装してたんだよ。私、小学4年生の時以来、お風呂は女湯にしか入ってないから」
「へー。でも今はもう本物なんだ」
「うん。性転換手術しちゃったからね」
「すごーい。でもあれ痛いんでしょ?」
「死ぬかと思ったくらい痛かった(らしい)よ」
 
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千里が凄まじく痛がっていたという話は以前、美鳳さんのお友だちの府音さんから聞いていた。そんなに痛いのかと思うとちょっと気が重いが、それで女の身体になれるのなら我慢するしかない。
 
「大変だね」
「性転換手術の痛みとお産の苦しみとどちらが大変かということで議論があったけど、両方体験できる人が存在しないから、確認のしようがない」
 
「なるほど、そのくらい大変なのか」
「あの付近が無茶苦茶痛いのは似たようなもの」
「確かにね〜」
 

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その後は湯船に浸かっておしゃべりする。
 
「だけど千里ちゃん、おっぱいも春からするとかなり大きくなってない?」
「そうなんだよね〜。あの頃はBカップのブラ着けてたんだけど、今はDを着けてるんだよ」
 
「負けた〜。私まだAを卒業できないのに」
「徳子ちゃん、そのくらい胸あったらBでいいと思うよ」
「そうかな」
「うん。Bカップ買っちゃうといいよ」
「そうしようかな」
 
「私の場合、まじめに女性ホルモン飲むようになったので急成長したんだと思う」
「まじめに飲んでなかったんだ?」
 
「以前はやはり自分があまり女性化してしまうことに不安があって、本来飲むべき量の3分の1しか飲んでなかったんだよ。でも私、女子選手として大会に出ることになったからさ。ちゃんと女性ホルモンを飲んでないと、体内の女性ホルモンの濃度が低くなっちゃって、女子選手が男性ホルモンをドーピングしているみたいな状態になっちゃうんだよ」
 
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「なるほどー」
「だから、ちゃんと女子として普通の女性ホルモン濃度にしておくために、まじめに飲むようにした。それにやはり性転換手術しちゃったので、女性ホルモンの効き自体が良くなったと思うんだよね。それで急成長してDカップになったんだと思う」
 
ま、実際には6月以降は女性ホルモン飲んでないんだけどね〜。なんか体内で女性ホルモンが生産されているみたいだし。だけどどこで生産されているんだろ?私卵巣は無いし。
 
「でもそんなに急成長したら胸が重くない?」
「重い。蓮菜からは腕立て臥せしてバストを支えている筋肉を鍛えろと言われて最近ずっと毎日腕立て臥せ300回してるよ」
 
「すごーい!」
「徳子もたぶん腕立て臥せすると少し胸大きくなると思う。刺激されるから」
「そうかも知れない。300回はできないけど10回くらいしようかな」
「うん。10回でも効果はあると思うよ」
 
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結局その日はお風呂の中で徳子と1時間くらいおしゃべりして、最後は徳子と一緒に来ていたお兄さんも入れてタクシーを相乗りして帰宅した。
 
「遅かったね」
と美輪子叔母に言われる。
 
「ごめーん。お父ちゃんは途中で眠っちゃったから放置して、帰ろうと思ったら友だちに会っちゃって、それでおしゃべりしてたら遅くなった」
 
美輪子は少し考えている。
 
「千里さ、お父さんと一緒にお風呂入ったんだっけ?」
「入ったけど」
「会った友だちって男の子?」
「ううん。私、女の子の友だちしか居ないよ」
「じゃ、その子とはロビーか何かでおしゃべりしたの?」
「ううん。湯船の中でおしゃべりしてたよ。内風呂で30分くらいと露天風呂で30分くらいかな」
 
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「お父さんとは女湯に入ったんだっけ?」
「お父ちゃんが女湯に入れるわけない」
「じゃ女の子の友だちとは男湯に入ったんだっけ?」
「まさか。女子高生が男湯に入れる訳無い」
 
「じゃ、まさか千里あんたお父さんとは男湯に入って、友だちとは女湯に入ったの〜?」
 
「うーん。結果的にはそうなるかなあ」
「あんた、どちらにも入れるの?」
「なんか自分でもよく分からない。あ、おばちゃん、私のお股に触っていいよ」
「触らせて!」
 
それで千里がジーンズを脱いで、ついでにショーツも脱いだので、美輪子は千里のお股に触った。
 
「これ普通に女の子だと思う」
「私、女の子だもん」
「あんた、どうやって男湯に入ったのよ?」
 
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「その時はおちんちん付いてたんだけどねー。おっぱいはあったけど」
「よくバレなかったね!」
 
「お父ちゃんにはバレなかったけど、周囲に若干の混乱を起こしていた」
「それはかなり迷惑行為だという気がするよ。でも今おちんちん無いよね」
「うん。その後無くなった」
 
「あんたの身体どうなってんの?」
「自分でもよく分からないんだよ」
 

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「あ、そうそう。なんか札幌の病院から手紙が来てたよ」
「へー。何だろう」
 
と思って千里が開けて見ると、健診の案内だ。それで思い出した。インハイの前に東京で性別の検査を受けさせられた時、診察してくれた先生が札幌の友人の医師を紹介すると言っていた。それで連絡があったのだろう。
 
しかし・・・8月中に一度お越し下さいって。
 
私、次女の子の身体になれるのは9月になってからなのに! えーん。どうしよう。取り敢えずバッくれておくかなあ。でもちゃんと健診受けてなかったらまた性別に疑い持たれると困るしなあ。
 

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翌8月14日の朝。千里は目が覚めると自分の身体の確認をした。
 
おっぱい・・・小っちゃいでーす。おちんちん・・・ついてまーす。タマタマ・・・ついてまーす。髪の毛、短いでーす。
 
えーん。また男の子の身体になっちゃったよ。嫌だなあ。
 
千里は5月21日に突然女の子の身体になってしまった時は戸惑い、本当に人生を悩んでしまったのだが、その状態を満喫していたので8月4日に男の子の身体に戻ってしまって以降、気分が物凄く滅入っていた。そして昨夜4時間だけ女の子になれた時はもう本当に嬉しくて、ずっとこのままで居たいと思っていた。しかし千里はまた男の子に戻ってしまった。
 
それでその日、千里はDRKの制作でフルートや龍笛を吹いていても、いまひとつ調子が出なかった。
 
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「千里、なんか調子悪いみたい」
「ごめーん。今日早引きしていい?」
「うん。少し休んだ方がいいよ」
「そうする」
 
それで暢子に今日は体調がすぐれないので練習を休むとメールする。暢子はじゃ、お盆だし、練習は17日から再開しようと返事が来たので了解のメールをしておいた。
 

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女の子たちの女性時代(3)

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