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■女の子たちの事故注意(7)

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初日はシードされているので午後からであった。1回戦を勝ち上がってきたJ高校と対戦するが、控え組中心で軽く流して80対49で快勝する。そして翌日午前中の準決勝は愛沢さんの抜けたA商業との対戦であった。A商業は昨日の2回戦でシードされていたR高校を破って勝ち上がってきた。どうも1回戦にE女子高相手に大勝した勢いでR高校にも勝ってしまったようである。
 
A商業とはいつも練習試合でやっているチーム同士なのでお互いの手の内は分かっているものの、やはり愛沢さんが抜けた穴は大きい。2年生の三笠さん中心に頑張るし、こちらも午後の決勝戦を控えているので千里・暢子が無理せず、交替しながらやっていたこともあり途中までは結構な接戦になったのだが、最終的には82対71でN高校が勝ち決勝に進出した。
 
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そして決勝戦の相手はL女子高である。準決勝で橘花たちのM高校に激戦の末勝って上がってきた。これで橘花たちはウィンターカップにはいけないことになった。
 
N高校とL女子高は昨年秋の新人戦では地区大会2回戦で当たった。こちらが勝ったので結果的にL女子高は道大会に行くことができなかった。春のインターハイ予選では今回と同様に準決勝でL女子高とM高校が当たり、L女子高が勝って決勝戦でN高校と対戦し、その時はN高校が勝っている。
 
つまりL女子高はN高校に2連敗しているので、どちらも既に道大会進出が決まってはいるものの、L女子高はリベンジに燃えていてテンションが高かった。M高校との激戦をしていてみんな疲れてはいたようだが、それでも凄い勢いで第1ピリオド、26対16と10点差を付けられる。特に登山さんがスリーを2本とツーポイントを2本入れて1人で10点も取ったのが凄かった。溝口さんも8点取っている。
 
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宇田先生からは怪我が怖いからあまり無理するなと言われていたのだが、インターバルに暢子が先生に言う。
 
「ちょっとマジで行っていいですか? 向こうが全開だからこちらが手抜きで行くのは失礼にあたると思います」
 
「うん。少し頑張ろうか。でも怪我だけはみんな気をつけて」
「はい!」
 
それで第2ピリオドは、雪子・千里・暢子・揚羽・留実子とインハイ中核組で出て行く。向こうの溝口さんもこちらのメンツを見て頷いている。
 
第2ピリオドはどちらもマジなのでかなりの激戦になった。千里も積極的にスリーを撃つし、暢子も揚羽も強引に敵陣に進入してボールをゴールに叩き込む。リバウンドでは留実子・揚羽が燃えていて7割くらいこちらで取っていた。それで向こうもかなり燃えて、揚羽と向こうの友坂さんがボールのキャッチ争いで偶然身体が当たったことから一瞬エキサイティングしかけて審判から警告を受けたほどであった。しかしこのピリオドではN高校も全開になったので、点差を追い上げ、48対42まで詰め寄った。
 
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「みんなほんとに怪我に気をつけてよね」
とあらためて南野コーチからも言われる。
 
「そうそう。あまり無理な体勢でボールに飛びついたりとか、相手選手と激突する可能性のあるようなコースで動いたりしないように」
と千里もみんなに注意する。
 
特にそういう所で頑張りすぎる傾向のある、揚羽と夏恋には敢えて個人名を出して注意しておいた。
 
第3ピリオドは千里は前半を休ませてもらって1年生の結里を出した。さすがにこの強い相手に結里はほとんど何もさせてもらえなかったが、それでも良い経験になったようで、凄く興奮した顔をしていた。
 
試合はこのピリオド後半にこちらが追いつき、そのあと抜きつ抜かれつのシーソーゲームとなった。ボールのスティール合戦も凄く、雪子や千里がどんどん相手からボールを奪ったが、向こうの1年生の馬飼さんもそういうのが巧くて1度は千里がちょっと意識が飛んだ隙にまんまと盗られて天を仰いだ。
 
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結局第3ピリオドを終えて70対70の同点である。
 

「凄い熱戦になってるね」
「お互いハイテンションになってるから、何度か一瞬喧嘩しそうになった」
「喧嘩で退場したら道予選でベンチから外すからね」
「うーん。それは辛いから自粛しよう」
 
「みんな男性ホルモン濃度が高くなってたりして」
 
「さて今日は勝って美味しい御飯を食べるぞ」
と暢子がみんなに言って最終ピリオド出て行く。
 
第4ピリオドも激戦が続く。地区予選とはいえ、決勝戦にふさわしい白熱した戦いである。5分経過したところで85対83とL女子高が2点リードしている。
 
N高校が攻めて行く。ドリブルしてボールを運んでいった雪子から夏恋にボールが渡る。相手のディフェンスの隙間から強引に中に飛び込んで行きシュートを撃つが外れる。そのボールを揚羽が確保していったん外の暢子にパスする。暢子が中に入ろうとするが溝口さんに阻まれる。そのまま少し遠い所からだったがシュートする。入って2点。85対85。
 
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L女子高が藤崎さんのドリブルで攻めてくる。登山さんにパスして登山さんがいきなりスリーを撃つ。が外れる。
 
そのリバウンドを争った時のことであった。
 
その場に居たのは、こちらの葉月と留実子、向こうの友坂さんと鳥嶋さんであった。いったん鳥嶋さんが取ったかに見えたのだが、それを留実子が強引に横取りしようとした。しかし留実子の体勢がけっこうバランスが悪く、留実子はボールは奪ったものの倒れてしまう。
 
結局ルーズボールになり、それを葉月が飛びつくようにして取ってメグミにパスし攻め上がる。千里も全力で敵陣に走って行ったのだが、その時、留実子がまだ倒れたままでいることに気付いた。
 
立ち止まる。
 
審判が笛を吹いて試合をいったん停めた。
 
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みんな駆け寄る。南野コーチもベンチから出て来た。
 
「すみません。ちょっと床で足を打っただけ」
と留実子は言っているが、足を押さえていて、しかも苦しそうだ。
 
「病院に運びます」
と南野コーチが言い、審判も認めたので担架が出て来て、大会の運営スタッフさんが留実子を運び出してくれた。南野コーチは「私が自分の車で病院に連れていきますから後はお願いします」と宇田先生に言って一緒に出て行った。
 
会場が騒然としている。審判が「試合を再開します」と言う。N高校のサイドからのスローインで試合が再開される。トラブルがあったので少し気持ちが浮つきがちであったが、お互いすぐに緊張感が戻る。結局この攻撃では留実子に代わって入った揚羽がきれいにレイアップシュートを決めて85対87とN高が2点のリードとなる。
 
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その後お互いに点を取り合って、残り1分の段階で95対97とこちらが2点のリード。L女子高が攻めてくる。登山さんがスリーを撃つが外れる。リバウンドは鳥嶋さんが取ったが、鳥嶋さんも揚羽も、リバウンド争いでさっき怪我人が出たことから、少し遠慮がちなプレイをしているように感じた。
 
鳥嶋さんから溝口さんにパスが行き、そのままシュートしてきれいに入る。97対97の同点。
 
メグミがドリブルで攻め上がる。蘭にパスする。中に進入しようとするがL女子高の強力なディフェンスに阻まれて入れない。暢子がフォローに来たのでそちらにパスし、遠くからシュートするが外れる。
 
しかし揚羽が飛び込んで行ってリバウンドを取り、千里にパス。そのまま撃って入る。97対100とこちらが3点のリード。
 
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向こうが攻めあがって来る。ドリブルで運んで来た藤崎さんがポストの位置で後ろを向いて溝口さんにパス。そのまま藤崎さんを壁に使って溝口さんが進入してきてシュート。しかし揚羽がブロックする。こぼれ球を鳥嶋さんが取り自らシュートするも暢子がブロック。こぼれ球を友坂さんが取って外側に居る登山さんにパス。シュート。千里がジャンプしてブロックしようとしたが、指がかすっただけでブロックはならずボールはゴールに飛び込む。100対100の同点。残り28秒!
 

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メグミは敢えてゆっくりと攻めあがる。ここで点数を取るのは取らなければならないが、その後できるだけ時間を残したくない。
 
暢子にパスする。暢子は蘭にパスする。蘭が揚羽にパスして揚羽は千里にパスするかに見せて、相手の一瞬の隙に中にドライブインする。が途中で行く手を阻まれる。しかし強引に左手でワンハンドシュート。半分誰かリバウンド取ってという感じのシュートだったが、そのまま入ってしまう。100対102となるが、残り時間は14秒もある。
 
L女子高が攻めあがる。N高ベンチでマネージャー名義で座っている来未が時計を気にしながら声援を送っている。
 
藤崎さんから友坂さん、鳥嶋さんとパスが回される。鳥嶋さんがいったん藤崎さんに戻す。藤崎さんが自らドリブルして中に進入しようとするも、こちらもそう簡単には入(い)れない。残り5秒というところで外側に回り込んできた溝口さんにパスし、溝口さんは登山さんにパスした。登山さんには当然千里が付いている。撃つが千里がジャンプしてブロック。
 
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ところがそのこぼれ玉をすばやく友坂さんが取り、登山さんにトスする。そして登山さんは再度スリーを撃った。
 
撃つのとほぼ同時くらいに試合終了のブザーが鳴る。
 
千里は「あぁあ」という顔をした。
 
登山さんは入れたという確信が千里にはあった。
 

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審判はゴールを認めるジェスチャーをしている。暢子が天を仰いでいた。
 
整列する。
「103対102で旭川L女子高の勝ち」
「ありがとうございました!」
 
試合後握手をして引き上げる。
 
「サーヤどうなったかなあ」
と千里が最初に言う。
「大したことなければいいけどね」
と暢子も心配そうに言った。
 

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控室に戻り、汗を掻いた下着を交換した後で男子の決勝戦を見学していた所に南野コーチから連絡が入った。
 
「どうですか?」
千里は電話を受けた白石コーチに尋ねる。
 
「骨折しているそうだ」
「えーー!?」
 
「じゃ道予選は?」
と暢子が尋ねる。
 
「無理だと思う」
 
ウィンターカップの道予選は11月である。留実子は進学コースで新人戦にはもう出ないのでウィンターカップが最後の公式試合になる予定だった。
 
千里は沈痛な表情になった。
 
「ウィンターカップの本戦には間に合いますよね?」
「微妙だと思う。本人の回復次第」
 
「暢子、ウィンターカップ行くぞ」
と千里は言う。
「うん。絶対行こう」
と暢子も答えた。
 
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男子の決勝戦が終わった所でロビーに降りて行ったら、L女子高の瑞穂監督から声を掛けられた。
 
「そちら、花和さんどうでしたか?」
「骨折していました」
と千里が答える。
 
溝口さんや鳥嶋さんが「わぁ」という顔をしている。
 
「それは何と言ったらいいやら」
瑞穂監督はここで下手なことをいうと責任問題になりかねないので言葉を選んでいたが、白石コーチが明解に言う。
 
「いや、あれは花和のプレイ自体が無謀だった。自己責任ですよ。少なくともL女子高さんには責任は無いです」
 
「サーヤはちょっと気合いが足りなかったね」
と暢子が言う。
 
「うん。あの時、一瞬何か他のことを考えていた感じでボールの音に驚いて、我に返って飛んだ気がしたんだよね。ちゃんと気合い入ってたら怪我なんかしてないですよ」
と千里も言う。
 
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瑞穂監督は、とにかく後でお見舞いに行きますと白石コーチに伝えていた。
 

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女の子たちの事故注意(7)

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