広告:國崎出雲の事情 3 (少年サンデーコミックス)
[携帯Top] [文字サイズ]

■女の子たちの辻褄合わせ(1)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

(C)Eriko Kawaguchi 2014-08-01
 
「だったら本当に性転換しちゃえばいいのよ」
と美鳳は言った。
 

2007年5月12-13日の土日、千里は蓮菜と一緒に雨宮先生の呼び出しで和歌山・伊勢に行ってきた。その時千里は雨宮先生に、自分は男の身体のままなのに、なぜかお医者さんが女の身体だという診断書を書き、それで女子バスケ部に移籍されてしまったが、このまま道大会・インターハイと進出した場合、本当は男である自分が女子チームに入っていたらアンフェアではないかと悩んでいるということを打ち明けた。
 
すると雨宮先生は「だったら本当に去勢してしまえばいい」と言い、千里もその気になったので、先生は去勢手術をしてくれる病院に連れて行ってくれた。しかしその病院の先生は、千里の身体を見て「手術不能だった」と言った。先生が見た時、千里のお股には、陰茎も陰嚢も無く、大陰唇・小陰唇に膣まであったというのである。
 
↓ ↑ Bottom Top

何がどうなっているのか分からないまま北海道に戻り、学校に行く。雨宮先生からも蓮菜からも「もう開き直るしかない」と言われて、自分でもそう思うものの、何か割り切れないものが千里には残っていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

その週の土曜日、千里たちはM高校の橘花たちと一緒に札幌で、札幌P高校と愛知J学園の練習試合を見た。それに刺激されて、N高校とM高校の練習試合をこのあと、道大会まで毎日やろうということで、話がまとまる。
 
練習試合はその翌日の日曜、20日から早速始められた。
 
練習試合は毎日夜19時から始めて20時には解散することにした。場所は交互にお互いの学校で行う。千里たちN高校はこの練習にセネガル人のマリアマさんを連れて行った。
 
「まさか、外国人留学生?」
「違うよ。旭川市内の会社に勤めておられる社会人」
「社長の奥さんがうちのOGで、この背の高さに慣れるために協力してもらってるんだよ」
「びっくりしたー」
「私、26歳ですよー」とマリアマさん。
「いや、外人さんの年齢はよく分からないから」
 
↓ ↑ Bottom Top

マリアマさんの高さには、M高校のメンバーも結構苦労していた。試合ではマリアマさんにはN高校側に入ってもらったり、M高校側に入ってもらったりして、双方とも高さに対抗する練習をした。
 
また「昭ちゃん」も連れて行ったのだが、試合に出すと結構スリーポイントを放り込むので
 
「凄い。千里のバックアップ・シューター育成中?」
などと言われる。
 
「あ、この子はシューター育成中だけど男子だから」
「えーーー!?」
「女子に見えちゃう」
「実は女子なんじゃないの?」
「僕、男子ですー」
 
「お、低音ボイスだけど、そのくらいの声の女子もいるよね」
「足の毛は剃ってるの?」
「僕、あまり毛が生えないみたい」
 
↓ ↑ Bottom Top

「女子の公式試合には出さないけど、千里のシュートを見習わせようと女子と一緒に練習しているんだよ」
 
「へー。でも今は男子でも、千里と同じように性転換手術しちゃえば女子で出られるよね」
「そうそう。それを唆してる所」
「おぉ、どんどん唆そう」
「勘弁してくださーい」
と昭ちゃんが恥ずかしそうな顔をするので
 
「可愛い!」
とM高校のメンバーからも言われてしまった。
 

↓ ↑ Bottom Top

20日深夜。
 
千里はいつものように夜中「起きて。行くよ」という声に起こされ、美鳳と一緒に出羽山中に移動した。雪の中を美鳳さんを含めて何人かで歩くのだが、千里には美鳳さん以外の人の姿はよく見えない。ただ集団は5−6人のようだとはいつも思っていた。
 
歩くコースは日によって違うが、月山頂上にある月山神社は毎日含まれている。実は千里はこの山駆けを2月3日の夜、秋田に行った時に誘われて以来、原則として毎晩やっていたのである。(テスト期間中・修学旅行中、また雨宮先生に呼び出されて京都と伊勢に行った日は免除してもらった)
 
山駆けはだいたい丸1日掛かるが、終わった後、元の時間の流れに戻してもらうのでその後、朝までぐっすり寝て学校へ行くという日々を千里は送っていた。
 
↓ ↑ Bottom Top

その日は月山頂上から湯殿山奥の院まで降りて行き、最後に温泉に入った。寒い雪の中を長時間歩いた後に温泉に入るのは至福の気分である。
 
「千里は今夜が87日目だね」
と温泉の中で何か大福帳のようなものを見ていた美鳳さんが言う。
 
「そんなにやりましたか」
「今回の修行は100日で満行だから、あと13日。残り2週間切った」
「これ、修行だったんですか?」
と千里が言うと
 
「修行じゃなかったら何?」
「まさか遠足とか?」
といった声が近くから掛かる。全部女性の声なので、千里は自分たちは女性だけのグループで歩いているようだというのを再認識する。
 
「でもその子、だいぶ遅れなくなったよね」
「このくらい歩けたら、秋にやる表(おもて)の《神子修行》は楽勝だから、そちらにも来ない?」
などと誘われる。
 
↓ ↑ Bottom Top

千里は確かに最初のうちは随分遅れていた。山駆けは時々休憩しながら歩いているので、遅れた場合、他の人が休んでいる間に追いつく必要がある。休憩時間にも追いつけなかったらどうなるのか、千里は考えるに恐ろしいと最初の頃、思っていた。
 
「訊いていいのかな。みなさん、神様なんですか?」
「ああ、美鳳さんや府音さんの部類も居れば、千里ちゃんみたいな部類もいるし、別格の方もおられる」
とひとりの声。
 
それで千里はこの集団は、人間と神様の混合集団であることを知る。別格というのは・・・何だろう?
 

↓ ↑ Bottom Top

「ところで、これって毎回元の時間に戻してもらっていますが、私の体内の時計は普通に進んでいるんですよね?」
「そうそう。だから100日修行すれば、実は100日分寿命も消費している」
 
「もしこれを来年もやれば200日消費することになるでしょ?」
「うん、そうなる」
「計算していたんですが、200日消費した場合、私、本当は2009年3月31日まで高校生をするはずが、体内時計が2009.3.31になるのは歴史的には2008.9.13になるから、その後は体内時計的には高校を卒業しているはずが、まだ高校生をしていることになるんですよね」
 
「細かい計算は分からないけど、そうなるかな」
「もしそれで3年生12月のウィンターカップに出るなんて話になってしまった場合、既に高校を卒業しているはずなのにまずいよな、と思ってしまって」
 
↓ ↑ Bottom Top

「その程度気にすることないと思うが」
「細かいことを気にする子だ」
「だいたい年齢なんて、そもそも個人差がある」
「千里の身体は実質、普通の女の子の13-14歳くらいの若さ」
「そうそう。この子って細胞が凄く若いんだ」
「普通の子より再生能力とか自己治癒能力も高い」
「あんた、傷の治りが速いだろ?」
「試しに腕をもいでみようか? 勝手にくっつくかも」
「やめてください!」
 
「さすがにそこまでは無理でしょ」
と美鳳さん以外で唯一識別できる府音さんという人が言った。
 
「もっともうちの学校、部活は2年生で終わりで、特例でも3年生の夏で終わるから、3年生12月のウィンターカップを気にする必要は無いんですけどね」
「だったら本当に気にすることない」
 
↓ ↑ Bottom Top


「でも実は自分の年齢問題以上に気になってることがあって」
「ん?」
「私の性別問題なんですけど」
「ああ・・・」
「ああ、そういえばあんた身体が男だよね。魂は女だけどさ」
 
「それなんですけど、私、まだ身体が男のままなのに、昨年11月もつい先週もお医者さんが女だという診断をしたんです」
 
「千里は2011年7月19日に去勢手術を受けることになっているから、今去勢しようとしても、出来ないよ。何らかの形で妨害される」
と府音さんが言った。
 
「歴史ってわりと適当なんだけど、そういう重要ポイントは動かそうとしても動かないんだよね」
 
「じゃ、やはり再度どこかの病院に行って去勢手術してくださいと言っても無理なんですね?」
「そそ」
「ちなみに千里が性転換手術を受けるのは2012年7月18日だから」
 
↓ ↑ Bottom Top

「でも、私、女子チームに入っているのに、このまま道大会やそれに2位以内になれた場合にインターハイに行っていいものかと悩んでしまって」
 
「気にすることないと思うけどなあ」
「おちんちん付いてても、千里は肉体的には完全に女子だよ」
「骨格もお肉の付き方も完全に女」
「骨盤が女の骨盤だから、子宮があれば妊娠できる」
「女の眷属に1割くらい身体を任せてしまえば妊娠維持に必要なホルモンの制御も可能なはず」
「じゃ、この子にちょっと子宮付けてみる?」
「妊娠させてみようか」
「今はやめて!妊娠したら大会に出られない」
「じゃ、それは将来の検討課題ということで」
 
という声が掛かってそれは中止されたようであったが、その中でひとり
「あっ」
という声をあげた人が居たのはちょっと嫌な予感がした。
 
↓ ↑ Bottom Top

「だいたい千里より男性ホルモン濃度の高い女子選手はいくらでもいる」
 
「昨日も、みんなからそう言われて、気にしてもしょうがないとは思うものの、どうしても後ろめたさがあるんです」
 
「修行が足りんな」
「やはり千里には今後も毎年冬の山駆けに参加してもらおう」
「1000日回峰を達成したら、女阿闍梨の称号を授けるぞ」
「ちょっと待ってください」
 
そんな話をしていたら、美鳳さんが言った。
 
「だったら本当に性転換しちゃえばいいのよ」
 

↓ ↑ Bottom Top

千里は尋ねる。
「でも今どこか私の年齢の子に性転換手術してくれる病院があったとして、そこに行っても、先週の去勢手術のこと考えたら、手術不能だったと言われそうな気がするんですけど」
 
「言われるだろうね」
「じゃ、やはり無理ですよね」
「ちょっと時間を入れ替えればいい」
「へ?」
 
「丸1日修行しても前日の時間の流れに戻しているのも、実は将来の時間との入れ替えをやっているんだよね。入れ替えというよりシフトというべきだけど。だから、明日1日を性転換手術を受ける2012年7月18日と入れ替えると、千里は明日性転換手術を受けることになる」
 
「えーーー!?」
 
「でもそれ辻褄が合う?美鳳さん」
「何とかなる気がするけど」
 
↓ ↑ Bottom Top

「ちょっと待ってください。明日性転換手術を受けたら、さすがに来月道大会に出場する自信がないです」
 
「ああ、だったら、性転換手術の前後と、その後の療養期間5〜6ヶ月程度を丸ごと入れ替えちゃえばいいんだよ」
 
「いや、それに更に再度練習してバスケの感覚を取り戻す時間を3ヶ月くらい取った方がいい」
「確かに療養開けでは、まともにプレイできないだろうな」
「だったら、性転換手術して8ヶ月程度の療養期間を取って、その後千里を今の時間に戻せばいいね」
 
「待ってください。それをやると、最初に言った実際には高校を卒業している年齢なのに、まだ高校に居て試合に出るという問題が」
 
「だったら、性転換が終わって身体が充分落ち着いた頃の時間を代わりに千里の高校生の時間の中に埋め込むといい」
「うん。そうしたら最終的に辻褄が合うはず」
 
↓ ↑ Bottom Top

「インターハイやウィンターカップとは関係ない期間の千里の時間を千里が大学に入った後の時間で埋めたら、最終的に千里が最後に女子高生バスケット選手として出場する時の、千里の体内時計を、2009.3.31に合わせることが可能な筈」
 
「それでも今性転換しちゃったら、20歳まで去勢しないという母との約束を破ってしまう」
 
「あんたさあ、一方では女でないと試合に出られないと言いつつ、去勢するのは約束破るって、無理言わないでよ」
 
「自分でも矛盾してるとは思うんですけど」
「いいよ。じゃ高3の1月の段階でも男の子にしてあげるよ」
 
↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8 
女の子たちの辻褄合わせ(1)

広告:放浪息子(10)-ビームコミックス-志村貴子