広告:メイプル戦記 (第2巻) (白泉社文庫)
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■女の子たちのベビー製造(8)

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5月1日、眠気まなこをこすりながら学校に出て行き、授業を受ける。
 
0時間目が終わり、朝のSHRを待つ間に隣の席の京子から訊かれる。
「なんか疲れてるみたい。連休はバスケの練習?」
「ううん。バスケの練習は連休後半。28日から30日は個人的な用事で京都に行ってたんだよ」
「へー」
 
「伏見稲荷のお山をぐるりと巡って、その後、昨日の夕方まで知り合いのお仕事の手伝いをして昨夜0時くらいに帰宅した」
「なんかハードそうだなあ。伏見は修学旅行でも行ったよね」
「うん。あの時、お山も一度巡りたいね、なんて言ってたけど1ヶ月後にぐるりと歩くことになるとは思わなかった。鳥居の数が凄かったよ。あれ多分3000基以上あると思う」
 
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「どのくらい掛かった?」
「ふもとの拝殿を出てから戻ってくるまで3時間くらい」
「ああ、やはりそのくらい掛かるのか」
「元気な男の人の足だと2時間で行けるかも。それに枝道みたいな所にも結構入って行ったから。メインルートだけならもっと短いはず」
 
「なるほどねぇ。何かいいことあった?」
「そうだなあ。子供ができちゃったことかな」
 
「・・・・妊娠したの?産むの?」
「産むよ」
「学校は休学して?」
「産むのは大学を卒業してから」
「随分長い妊娠期間だね!」
 
「だけど妊娠したんで、女としての自覚ができて女子制服を着ることにしたのね?」
と京子が言うので、千里は自分の着ている服を見て
 
「あれ〜〜〜!?」
と叫んだ。
 
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なんか最近、何度も女子制服で学校に出て来ている気がするぞ、と千里は焦った。
 

そして連休明けた頃には、千里が妊娠したらしいとか、妊娠しちゃったけどすぐこっそりと中絶したらしいなどという噂が2年生女子全員に伝わっていた。
 
「この辺の病院で中絶するとバレるから、東京の病院で中絶したんだって」
「あれ?私、京都の病院って聞いたけど」
 
「でもやはり千里って本当の女の子だったんだ?」
「妊娠したってことは間違い無く子宮も卵巣もあるということだよね」
「千里は生理があるという説があったもん」
「**ちゃんが千里からナプキン借りたことあるって言ってたよ」
 
「じゃ、何で男の子の格好なんかしてるんだろう?」
「男の子になりたい女の子?」
「その説は最初の内あったけど、否定されている。本人は間違いなく女の子になりたがっている」
「じゃ、女の子になりたい女の子?」
 
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連休明けには、千里が帰省できなかったので、連休中に会えなかった貴司からまで電話が掛かって来た。
 
「ね、千里、妊娠したってホント?」
 
なんでこういう話が貴司にまで伝わるんだ!?どういうルートで伝わっているのだろうか。
 
「うーん。子供ができたのは本当だよ」
「誰の子供?」
「貴司の子供に決まってるじゃん」
 
「・・・ごめん。ちゃんと付けてたつもりだったけど、避妊失敗した?それでどうするの?」
「産むよ」
「学校辞めて?」
「今、学校は辞められないし、バスケも辞められないから、8年後に産む」
「はぁ!?」
 
「だからね。8年後に貴司に男の子ができたら『京平』って名前付けてあげてくれない? 京都の京に、平安京の平」
「・・・・」
「それは、その時の貴司の奥さんが産んだ子供であっても、私の子供でもあるの。これ、私と貴司の間だけの秘密ね」
 
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それで千里は伏見の山で不思議な男の子に出会ったこと。その子が千里に自分のお母さんになってと言ったので了承したこと。その子は8年後に生まれてくると言ったことを貴司に話した。
 
「バスケの話してたら凄く興味持ってたから、きっとあの子、生まれて大きくなったらバスケをするよ。だから多分この子は物理的には貴司の子供として生まれてくるんだと私、思ったんだよね」
 
「そういうことだったのか。千里らしい話だなあ。千里ってホントに巫女なんだ。分かった。その件は考えておく」
と貴司は言った。
 

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その週の週末に、鮎奈が言った。
 
「ね、ね、美空ちゃんがね。8月のお盆前に旭川に来るんだって」
「へー」
「それで、そのタイミングで新しいDRKの音源製作しない?」
「ああ、美空ちゃん歌がうまいから、入ってもらうといいよね」
「それで、それに向けて練習したいから、新曲を書いてくれない?」
「お奉行様、2週間ほどのご猶予を」
 
千里は2月から毎月2曲書いている。その状態で今回連続2曲書いた直後ではとても新曲は書けない。それでまず1曲は麻里愛に書いてもらい、それを練習している間に千里がまた別の曲も書くことになった。最終的にはこの2007年夏に作ったCDでは麻里愛が2曲と千里が1曲書いている。歌詞は3曲とも蓮菜が書いた。
 
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5月中旬、千里が久しぶりに雅楽合奏団の練習に出ていき龍笛を吹くと
 
「千里さん、龍笛が凄く進化してる!」
と天津子から言われた。
 
「3月に京都で凄い龍笛の上手い人の演奏を聴いたんだよ。それに刺激された」
「へー。でも聴いただけで進化するって凄いなあ。その人の演奏、録音とかは?」
「録ってない。でもあれは録音できる類いのものではなかったかも」
「ああ」
 
「その時、彼女が持ってた篠笛と私の練習用の龍笛を交換したんだよ。これがその篠笛」
 
と言って、千里が江与子からもらった篠笛を見せると、天津子が驚いたように言う。
 
「これかなりの年季物ですね。多分300-400年は経ってる」
「そんなに!? 古いものだとは思ったけど」
「ちょっと吹いてみていいですか?」
「うん」
 
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それで天津子がその篠笛を吹こうとするのだが鳴らない!
 
「あれ〜? 千里さんは吹けました?」
「うん」
 
と言って、千里がその篠笛を吹くと、何ともいえない素敵な音が出て、楽団の他のメンバーがまた寄ってくる。
 
「これ、実はこないだ東京のプロの管楽器奏者さんが吹こうとしても音が出なかった」
 
「ちょっと貸してもらえます?」
と言って、普段は篳篥を吹いている綾子ちゃんと弥生ちゃんが代わる代わる吹こうとしたが、やはり音は出なかった。
 
「これ、千里さんだけが吹けるのかも?」
「やはり? 不思議なこともあるもんだねぇ」
と千里が言うと
 
「不思議なことってことで済ませていいんだっけ?」
と弥生ちゃん。
 
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「まあ、いいんじゃない? 世の中全て科学で割り切られるものでもないよ」
と千里は答えた。
 
「でも、どんな人と交換したんですか? いや《人》なのかな?」
と天津子。
 
「ああ、人ではない気もしたよ。でも悪かったかなあ。年季物の笛を私の安物のプラスチック製の笛と交換して」
と千里。
 
「精霊の類いだったとしたら、かえって現代の樹脂製を珍しく感じるかも」
と天津子。
 
「なるほど、そうかな」
 

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5月下旬には、美輪子の所属している市民オーケストラで、また新しいCDの制作を行った。今回の曲目はやはりアイヌ系の音を多数入れた『コロボックル』という何だか可愛い曲、それとブランデンブルク協奏曲4番ということであった。
 
『コロボックル』で千里は龍笛を吹いたが、ブランデンブルク協奏曲の方でもフルートを吹くことになった。この曲には2本のフルートがフィーチャーされているのだが、それまで2人いたフルート奏者の1人が辞めてしまったので、千里に頼むということになってしまったのであった。(その人は昨年のCD制作の時も「お休み」という話であった)
 
「そうだ。千里ちゃんにも、うちのオーケストラの会員章あげるね」
と言ってバッヂを渡される。金属製で襟とかに付けるもののようである。
 
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「これ結成10周年の時に張り切ってどーんと100個注文したんだよ」
「まあ注文の最低が100個だったからなんだけどね」
「あ、お金は要らないから心配しないでね」
 
なんだか、このオーケストラに関しても深みにはまりつつあるなあと千里は思っていた。
 
演奏は1日で、ホールを借りて午前中に練習し、午後から録音をおこなった。
 
ちなみに昨年作った『カムイコタン/ソーラン節』のCDは定価1500円で、これまでに120枚売れたらしい。プレスは張り切って1000枚作ったらしいが、そのペースだと完売に10年掛かるなと千里は思った。
 

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「ね、ね、千里ちゃんたちバンドやってるんでしょ?」
と補習でたまたま一緒になった2組のレモンちゃんから声を掛けられた。
 
「うん」
「私たちのコーラス部、今度大会に出るのに少し人数が足りないのよ。ちょっと顔だけでも貸してくれない?」
 
「無理だよ〜。今バスケの方が道大会に向けて毎日8時まで練習してるし」
 
本来部活は6時までの所をバスケ部やソフトテニス部など4つの部のみ特例で7時までになっているのだが、宇田先生が今年は絶対インターハイに行くから8時まで認めてくれと教頭先生と談判し、超特例で8時までの練習が認められていた。ただし、インターハイに行けなかった場合は夏休みの部活を自粛することになっている。
 
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「うん。最悪、ステージに立って、口をぱくぱくしてるだけでもいいから」
「何それ〜?」
「人数が足りないと、参加できないんだよ」
「大会っていつ?」
「7月1日」
「一応こちらの道大会は終わってはいるな」
「助かる」
「まだ私、出るとは言ってないけど」
「そんなこと言わずにお願い」
と手を合わせられる。
 
うむむ。手を合わせられても私は神様でも仏様でもないぞ。
 
「あ、花野子ちゃーん、花野子ちゃんもバンドのボーカルだよね」
とレモンは次に花野子にも声を掛けていた。
 
結局DRKのボーカル、千里・花野子・麻里愛に、蓮菜までコーラス部の大会に「顔だけ出す」ということになってしまった。
 
「ね、レモンちゃん、いったい何人足りないの?」
「うん。規定では25人いないといけないのよ。これでやっと20人になった。あと5人探し出さなきゃ」
 
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大変ね〜。
 
「あ、梨乃ちゃん、梨乃ちゃん、歌上手かったよね? 梨乃ちゃん貴重なアルトっぽいし」
とレモンは更に梨乃にまで声を掛けていた。
 
「私、低い声は出るけど歌は下手だよ。私よりうちの猫たちの方がまだ上手いくらい」
 
梨乃の家には黒猫のブランと白猫のノワールという少し困った名前の猫がいる。特に黒猫の方はよく可愛い声で鳴くらしい。
 
「じゃ最悪、口パクでもいいからさ」
「ちょっと、ちょっと、何の話〜?」
 

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「あれ? でもうちのコーラス部って女声合唱じゃなかったっけ?」
と千里はレモンに訊いた。
 
「そうだよ。だから歌が歌えそうな女子に声を掛けてる」
「私、男子だけど」
「ああ、なんか最初間違って男子と登録されてたんだってね。でもちゃんと女子に訂正してもらったんでしょ?」
 
「へ?」
「なんかたまに男子制服を着てる時もあったみたいだけど、あれってジョーク?」
「ボクたいてい男子制服だと思うけど」
「また冗談を。私、少なくとも2年生になってから、千里が男子制服を着てるのって見たことないけど。今日も女子制服着てるし」
 
と言われるので、千里は自分の着ている服を見て
「あれ〜!?」
と声を挙げた。
 
「千里、2年生になってからは、朝から女子制服を着ている日の方が多い」
と少し離れた所で鮎奈が苦しそうに笑いながら言った。
 
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「それに、千里はそもそもソプラノなんだから、女声合唱に出られるじゃん」
と京子も言う。
「もちろん、ステージに立つ時は、女子制服を着ておかなきゃダメだよ」
と鮎奈。
 
「女性合唱か女声合唱かって話だよね」
「そそ。男性でも女声が出れば女声合唱に入れる」
「どっちみち千里は女声が出る女性だから何も問題無いね」
 
レモンは鮎奈と京子の会話にキョトンとしていた。
 
 
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