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■女の子たちのベビー製造(2)

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その日の入部説明会には予め入部内定してた男子2人・女子3人を含めて、男子12人・女子17人の入部希望者が訪れ、入部試験をして男子8人と女子は17人全員の入部が決まる。実は女子で本当に合格したのは12名だったのだが、試験に落ちた5人が「ボール拾いでも掃除係や洗濯係でもいいから入れてください」と南野コーチに直訴したので、その意欲を買って入部させることにした。彼女たちはみなバスケは体育でしかやったことが無かったらしい。女子バスケ部はこの17人を入れて、36名(3年7名・2年12名・1年17名)の大所帯になる。但し大会に連れて行けるのは選手15名の他、マネージャーの名目で1名(出場できないがベンチには座れる。なおN高バスケ部には元々マネージャーという制度が無い)、TO(テーブルオフィシャルズ)兼掃除係で4名である。
 
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「南野さん、地区大会のベンチ入りメンバーでかなり悩んでるみたい」
 
とある日、練習帰りに暢子が言った。この時居たのは千里・暢子・留実子・メグミの4人である。
 
「私は無理だろうな」
などとメグミが言うが、暢子は
「メグミは外せないでしょ」
と言う。
 
「確実なのはガードでは、ポイントガードの久井奈さん・メグミ・雪子、シューティングガートの千里・透子さん。ガードというのはバスケの中では専門職だから、どうしても5−6人確保しておかないといけない。センターの留実子と麻樹さん。これは背の高い人にしかできない仕事。そしてフォワードで確実なのは穂礼さん・私・寿絵。結局この10人までだと思う。残り5人の枠を26人で争う」
と暢子は言う。
 
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「1年生のリリカちゃんも揚羽ちゃんも背が高いよね。私見上げてる」
「麻樹さんがのんびり屋だから、宇田先生はどちらかをバックアップ・センターとして考えていると思う」
「意欲が高いのが睦子と夏恋。南野さんもあの2人は入れられたら入れたい気分と見た。ベンチに居るだけでみんな元気づけられる」
 
「しかし考えてみると、千里って、うまいタイミングで女子チームに移籍してきたよね」
と暢子は言う。
 
「うん?」
「秋の大会が終わって、久井奈さんたちの学年で進学組・特進組の部員が抜けてベンチ枠が3つ空いた。そのひとつを千里が取ったんだよね」
 
N高の部活は、進学組・特進組の子は2年生の秋冬の大会まで、その他のコースの生徒は3年の春夏の大会までである。新人戦は翌年の主力組の前哨戦なので、2年生の進学組・特進組の子は参加しない。
 
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「だから千里は誰の恨みも買わなかったよね。変なタイミングで移籍してきたら、いったんベンチ入りしてた子が誰かあおりを食っていた」
とメグミ。
 
「もっともベンチ入りのボーダーの子はめったに試合では出番が来ない」
「それは言えてるけどね」
 
「そもそも入学した当初から女子チームに入っていたら何も問題無かったんだけどね」
と暢子。
「その手の競争は初めてだなあ。中学の時はそもそも枠外だったし、部員そのものが1年の時は6人、3年の時でも12人で、全員ベンチに座れたし。もっとも練習試合以外では私はマネージャーとか監督名目でベンチに座ってたんだけどね」
と千里。
 
「中学の時は男子の試合には出てないの?」
「出てない。私は女子バスケ部の部員として登録されていたし」
「中学で女子バスケ部だったのなら、やはり高校で男子バスケ部に無理矢理入ったのが問題だ」
「結局そういう話になるのか」
 
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ところで男子バスケ部の方に、勧誘されたとかではなく、部活動説明会を見て面白そうだからというので入って来た子が居た。湧見(わくみ)君という子なのだが、彼も中学までバスケは体育でしかやったことが無いと言っていたし、中学の部活は運動部ではなくチェス部だったのが、この高校には無かったので、将棋部に入ろうかな、などと考えていたという子。30m走も垂直跳びも男子の平均以下で、普通ならその段階で「残念ですが」と言われているレベルだったのだが、真駒さんが「なんかこいつ不思議なものを持っている気がする」と言ってシュートを撃たせてみた所、レイアップは5本の内1本しか入らなかったのにフリースローは5本中3本入れた。
 
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「君、もしかして遠くから撃った方が入ったりして」
と言われて、スリーポイントラインの外側から撃たせると、5本中2本決めたのである。
 
「すみませーん。3本も外しちゃった」
「いや、2本入ったのが凄い」
「うん。普通の人はこの距離からは1本も入らないんだよ」
「えーー!?」
「君、シューターの才能がある」
「よし、君シューティングガード決定」
「えっと・・・入部試験は・・・」
「もちろん合格。この後の種目は免除」
「ほんとですか!?」
 
そういう訳で、湧見君は男子合格者の中の1人となったのである。他の7人がいかにもスポーツマンという感じで、がっしりした体格をしているのに、彼は華奢な感じで、他の選手と並んでいたら「主務さんですか?」と言われそうな感じなのだが、男子チーム期待のシューターとなった。
 
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もっとも彼はほんとに体力や運動能力が低いので、即戦力ではなく、秋以降の戦力と、宇田先生も北田コーチも考えた。それでしばらくはむしろ、女子チームの方で千里のシュートを見学させるのもよいかと考えた。それで毎日基礎練習が終わった後、女子チームに合流して、シュートやパス、リバウンドなどの練習をさせた。
 
「村山さん、凄いです。なんであんなにポンポン入るんですか?」
「まあ、千里は入れすぎの感もあるよね」
「千里の前に居るとリバウンドの練習ができん」
 
「だけど、湧見君、ひとりだけ苗字で呼ぶのも変だし、名前で呼んでもいい?」
「ええ、いいですけど」
「私たちのことも、こちらにいる間は下の名前で呼んでいいよ」
「分かりました」
「下の名前は何だっけ?」
「昭一(しょういち)です」
「じゃ、しょうちゃんかな」
 
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昭一はやはりセンスが良かったようで、シュートの時の体勢、身体全体のバネの使い方などをきちんと教えると、シュートの精度が物凄く良くなった。フリースローではほとんど入れられるようになるが、さすがにスリーポイントはなかなか入らない。
 
「しょうちゃん、やはり優秀〜」
「女子チームに入れて、千里のバックアップ・シューターにしたい気分」
「ちなみに、おちんちん取って女子チームに正式移籍とかする気は?」
「やめてくださいよー」
と昭一は言ったが、そんなこと言いながら、何だか嬉しそうな顔をしている。
 
暢子と久井奈が一瞬顔を見合わせた。
 
「ね、しょうちゃん、実は本当に女の子になりたいとかは?」
「ああ、私、しょうちゃんが女子部員の間にきれいに埋没してるなあと思ってた」
「えっと・・・」
 
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あちこちで顔を見合わせる姿がある。
 
「しょうちゃん、スカートとか穿いたことは?」
などと訊くと恥ずかしそうに俯いてしまった。
 
女子部員たちの間で「なるほどー」という感じの表情が交わされる。
 
「でも、しょうちゃん、やはり、この距離から入れるには筋力が必要だよね」
「握力も無いと、ボールを正確にセットできない」
「千里さんは、やはり筋力凄いんでしょう?」
「ああ、私はピアノとかヴァイオリンとか弾くから、それで腕とか指の力を鍛えられているんだよ」
「ああ。たしかにヴァイオリニストの握力って凄いらしいですね」
 

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この週は学校の体力測定が行われた。測定された種目は、握力・上体起こし・長座体前屈、反復横跳び、シャトルラン、50m走、立ち幅跳び、ハンドボール投げ、垂直跳びである。
 
普通の授業はこの日は1日行われず、体操服で順次種目をこなしていくが、反復横跳びやシャトルランでは終わった後、疲れ切って「立てなーい」などと言っている子もいた。
 
「千里数値どのくらい?」
と途中で遭遇した暢子から効かれる。
 
「こんなものかな」
と言って計測表を見せる。
 
「ん?」
と言って暢子は目をゴシゴシする。
 
「握力18/15kg〜? シャトルラン25〜? ハンドボール投げ10メートル〜? 垂直跳び20cm〜?」
 
「暢子ちゃん、どのくらい?」
と千里の隣に居た鮎奈が訊く。
「握力50/40kg, シャトルラン110, ハンドボール投げ45m, 垂直跳び75cm」
と言いながら自分の計測表を見せる。
 
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「すごーい!さすがバスケット選手」
「私のと比べて千里の数値は異常だと思わない?」
「思う!」
 
「千里ちょっと来い。先生に言って再測定してもらおう」
と暢子は千里の手を取って引っ張っていく。
 
「別に再測定しなくてもいいよー」
「だいたい千里、去年は体育祭でソフトのピッチャーしてたじゃん。ピッチャーズプレートからベースまでの距離は12mあるんだから、それより短いってのは有り得ないじゃん」
「ソフトボールとハンドボールじゃ違うよ〜」
などと千里は言ったものの、暢子が体育の先生の所に連れて行き、千里の測定値がおかしいと言うと、
 
「確かにこの数値はおかしい。千里ちゃん、真面目にやるまで今日は居残り」
と先生も言った。
 
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「えーん」
「留実子ちゃんなんか垂直跳び87cmだよ」
と先生。
「すごーい」
「でもあの子楽々とダンクシュート決めるもん。そのくらい跳躍力あって不思議じゃないよ」
 
バスケのゴールは305cmの高さにあり、留実子の身長は180cmである。腕を伸ばした時の高さは留実子の場合220cm程度になる。つまり85cm程度以上飛ばないとダンクは決められない計算になる。むろん試合でダンクを決める時は助走が入るので静止状態からのジャンプより高く飛べる。
 
それで千里は先生が付いている状態で各種目「まともな数値」が出るまでやり直させられる。
 
「握力60/70kg, シャトルラン130, ハンドボール投げ57m, 垂直跳び60cm。最初に測定したのと全然違うね。千里ちゃん、去年もサボってたでしょ?」
「ごめんなさーい」
「千里ちゃん、罰として体力測定が終わってから校庭30周」
「えーん」
 
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「でも左手の方が握力あるんだね?千里ちゃん、もしかして左利き?」
「母によると特に矯正はしなかったそうです。私、ピアノとかヴァイオリン弾くから左手を鍛えられているんだと思います。一応左手でも箸とか鉛筆は使えます」
「隠れ左利きかもね」
 
「しかしさすがシューターだね。握力もハンドボール投げも凄まじい」
「私、体力が無い」
「とんでもない。この130って数値はプロバスケットボール選手並みだと思う。凄まじい。やはり年末以降かなり頑張っているからだと思うよ」
と暢子は千里を褒めた。
 

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「でも千里何のために腕力とか誤魔化してるの?」
と校庭30周に付き合ってくれた暢子から訊かれる。
 
「うーん。漁師なんかできないくらい体力弱いことにしておきたかったから」
「なるほどそれでか」
「まだ私を漁師の跡取りにっての、お父ちゃん諦めてないみたいだし」
 
「だけど千里、身長とか体重とかも誤魔化したりしてない?」
「えへ、えへへへへ」
 
「千里、性別も誤魔化してるだろ?」
「えーっと」
「性転換したなんてきっと嘘だ」
などと言われるのでドキっとする。
 
「えっとそれはね、説明すると長くなるんだけど・・・・」
と千里は言いかけたが
「千里、本当は生まれた時から女だろ?」
と暢子は言った。
 
「うーん・・・」
千里はどう答えていいか悩んでしまった。
 
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そしてバスケットの地区大会がやってきた。結局ベンチ入りメンバーはこうなった。
 
PG.久井奈(3) メグミ(2) 雪子(1) SG.千里(2) 透子(3) SF:穂礼(3) みどり(3) 寿絵(2) 睦子(2) PF.暢子(2) 夏恋(2) リリカ(1) C.留実子(2) 麻樹(3) 揚羽(1)
 
結果的には2月に秋田に行ったメンツに、あの時は留年の瀬戸際で行けなかった麻樹が加わる形である。1年生3人が入った分、新人戦でベンチに入っていたメンバーから3人外れたことになるが、3人とも「強い人が入るのが当然。また頑張ります」と言っていた。特に敦子などは
 
「うかうかしてると道大会では入れ替わるからね〜。みんな全力で頑張れよ」
と逆にベンチ入りメンバーに発破を掛けていた。実際、敦子と夏恋やみどりとの実力差は紙一重である。
 
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地区大会はトーナメントで準決勝で敗れた2チームは3位決定戦を行い、3位までが道大会に行ける。千里たちのN高校はこの地区最強の旭川L女子高や友子や橘花の居るM高校とは別の山になった。当たるとすれば決勝戦である。
 
1回戦は昨年は地区大会準々決勝で敗れてシード権を取れなかったものの道大会常連校のチームである。むろんこちらは最強布陣で行く。お互いに「なんでここと1回戦で当たる?」と思う所だが、これもクジ運だ。
 
向こうはこちらを当然研究しているので、千里にマーカーが付き、簡単にはフリーにさせてくれないが、千里は巧みなフェイントで相手との距離を取ったり、相手の一瞬の意識の隙に視界から消えてフリーになってはどんどんスリーを撃って行った。暢子も全開で、このふたりで8割の得点を稼ぎ、30点差で圧勝した。
 
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準々決勝はそれほど強い所でも無かったので、PG.メグミ SG.透子 C.麻樹 にフォワードみどり・寿絵という控組を先発させた。それでも第1ピリオドで20点差がついてしまったので、第2ピリオド以降では残りの5人も少しずつ出して行くが、点差は縮まらず最終的には50点差で大勝した。
 

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