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■女の子たちの修学旅行・高校編(8)

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それでみんなでいったん25Fまで上り、そこで既に待機していた学年主任の寺田先生と副主任の河内先生の所に行って、雨宮先生が急用で蓮菜と千里を3時間ほど借りたいと話した。寺田先生と河内先生は、相手が有名な雨宮三森と知ると驚いていたようであった。展望室のあちこちで雨宮先生に気付いた見物客がこちらを見て騒いでいる。
 
寺田先生は雨宮先生の携帯の番号を確認した上で了承したが、テレビ局というシチュエーションでなきゃ信じてもらえない話だよなと千里は思った。
 
それで蓮菜と千里が他の子と別れて、このテレビ局内のスタッフ専用エリアにあるカフェに入り、曲作りをすることになった。
 
最初に蓮菜が詩を書く。
「お、可愛い詩」
「ノエルちゃんなら、こんな感じでしょ」
「うんうん」
 
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蓮菜は歌詞を15分ほどで書き上げ、推敲に入るが、同時に千里は作曲に入った。正確には最初から頭の中でイメージを探していた。蓮菜の歌詞の雰囲気だけ掴んだ上で、トイレに入る。トイレというのは結構アイデアが浮かぶのである。
 
最初のモチーフをつかんだところで、テレビ局の中庭に出た。ここで千里は京都で自分の龍笛と交換した、不思議な少女の朱塗りの篠笛で、できた所までのメロディーを吹く。すると何度か繰り返すうちに唐突にサビが浮かぶ。よしこれで行けるという感覚で笛をやめるが、ふと周りを見ると何人もこちらを見ている。どうも写真も撮られていたようだ。確かに髪の長い少女が横笛を吹いている様は絵になる。どこかのタレントさんと思われたかな?などと思い、さっと退散してカフェに戻った。
 
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蓮菜はほぼ推敲を終えていたが、まだもう少し調整したいようである。千里は自分が今組み立てたメロディーを五線紙に書いていく。だいたい書き終えた頃蓮菜の推敲も一応終了した。歌詞にメロディーを合わせつけていく。歌詞の文字数に合わせて音符を調整する。
 
歌がひととおり出来上がったのはこのカフェに入ってから1時間半後である。それから蓮菜とふたりで話し合い、更にこの歌に調整を掛けていく。
 
「ここはこうした方がいい」
と蓮菜が直接五線紙に書き込んでいく。
「確かにその方がいい」
というので、修正して行く。2時間近く経ち16時頃、雨宮先生が鮎川さんを連れてカフェに入ってくる。
 
「できた?」
「まだ清書してません」
 
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「ゆま、これ見てMIDI打ち込める?」と雨宮先生が訊く。
「行けると思います」
「どう解釈していいか分からない所はあんたが適当に創作して」
「はい」
「あと、ゆまの感覚で、ここはこうした方がいいと思った所は歌詞も曲も修正していいから」
と言ってから、千里たちに「いいよね?」と訊く。
蓮菜も千里も頷く。
 
「では、そうさせてもらいます」
と鮎川さん。
 
「よし。それじゃそれ打ち込んで、18時までに★★スタジオに持って行って。私はこの子たちを羽田に送ってくる」
「はい」
 

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それで雨宮先生はテレビ局の駐車場に駐めている先生の愛車・フェラーリの後部座席に乗せる。
 
「フェラーリに4シーターもあったんですね」
と蓮菜が言っている。
 
「2シーターでMRのエンツォフェラーリも持ってるけど、結果的にはこちらの4シーターでFRの612スカリエッティばかり使っているよ。スピード出す時はMRがコントロールしやすいんだけど、やはり4シーターが実用性は高い。エンツォフェラーリは飾っておくだけになってる。1億円もしたのに」
と先生は言う。
 
「まあ日本の道路ではフェラーリの性能が活かせるほどの速度を出したら免停くらいそうですね」
と千里は言った。
 
車は羽田に向けて出発した。先生はきちんと制限速度を守って走っていく。下り坂などで速度が一時的に上がっても、すぐに元の速度に戻す。
 
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「先生、きちんと制限速度を守られるんですね?」
と蓮菜が言う。
 
「高岡がさぁ、馬鹿なことやって死んじゃったから、私も上島も含めて残ったメンバーで誓い合ったんだよ。どんな時でも速度遵守、飲酒運転・疲労運転は厳禁ってね。それ守ってるから私も上島もゴールド免許だよ」
「あれは悲惨な事故でしたね」
「あんたたち覚えてる?」
 
「中学生の時でしたけど、覚えてますよ。あの日朝から母の車で札幌まで行く所だったんですけど、カーラジオのニュースで聞いてびっくりしたんです」
「あいつがしばしば飲んでから車を運転していたのは知ってはいたんだけどさ、それ危ないからやめなよと注意はしてたけど、私たちも若かったから、あんな事故になるとまでは思ってなかったんだよ」
と先生。
 
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「あ、そうだ。そっちの作詞者さんもさ、###銀行の札幌支店の口座作ってこちらに口座番号連絡してよ。印税振り込むのに使うから」
 
「はい!」
と蓮菜が返事する。
 
「そういえばあんた名前なんだっけ?」
「琴尾蓮菜です」
「どんな字?」
「楽器の琴に尾っぽの尾、睡蓮とかの蓮(はす)に、ナッパの菜」
と蓮菜は説明する。
 
雨宮先生は5秒ほど考えていたが
 
「じゃあんたのペンネームは葵(あおい)で」
と言う。
 
「えーーー!?」
「蓮(はす)も葵(あおい)も似たようなものよ」
「似てますか!?」
 
「じゃ、葵作詞・醍醐作曲ということで木ノ下先生の事務所のシステムには登録するから」
 
木ノ下先生は大量のゴーストライターを使っているので、それぞれの曲を本当は誰が書いたのかが膨大なデータベースになっていて、それで印税の計算と支払いをしているらしい。あとで聞いた話では、ゴーストライターをしている内に有名になってしまい、孫請けに出している人、複数の作曲家から孫請けしている人までいて、そのマージン計算まで代行しているので、かなり複雑らしい。印税や著作権使用料はレコード会社やJASRACから入金したら即日、その人の口座に振り込むシステムということであった。
 
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「この曲今月26日ダウンロード開始だから印税が入るのが6月末。木ノ下先生の仕事の場合、即日そちらに入金されるはず」
「ありがとうございます」
「って今月26日発売の曲を今から制作するんですか!?」
 
今日は3月13日である。
 
「本当は1月制作の予定だったんだよ。木ノ下先生の都合で遅れに遅れたけどタイアップとかの関係もあって発売日は絶対にずらせなかったんだ」
 
「こんなのよくあることなんですか?」
「さすがに滅多に無い」
「ちょっと安心しました」
 
車はほんの20分ほどで羽田空港のターミナルビルに到着する。元々のお台場が羽田にかなり近いからであるが、東京の地理に不案内な蓮菜と千里は「あれ、もう着いたんですね」と驚いていた。
 
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「これで間に合うかな?」
「間に合います。ありがとうございます!」
 
それで蓮菜と千里は雨宮先生と別れて、集合場所に移動した。
 

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最後に羽田空港の出発ロピーでまたクラス単位の記念写真を撮った。記念写真は結局、根本中堂・金閣寺・伏見稲荷・法隆寺・ディズニーランド・皇居・羽田と7箇所で撮ったことになる。
 
千里はむろん全ての写真に女子制服で写っている。ディズニーランドのみショートヘア、それ以外の写真ではロングヘアのウィッグを使っている。
 
乗った機体は来た時と同じA300-600Rで、座席も来る時と同じ並び、蓮菜・千里・鮎奈・京子であった。この4人の場合、こういう並び方がいちばん自然な感じになる。
 
「旅行が終わったら、すぐ振り分け試験だね」
「それで2年のクラスが定まる」
「特待生や学内奨学金を受けてる人にとっても気の抜けない試験」
「旅行中も単語帳持ち歩いて歩きながら見ていた子や、宿で問題集やってた子もいたみたいね」
「受験の緊張感に慣れる意味合いもあるみたいね、振り分け試験って」
「予備校のクラス分けでやってるのも半分はそういう意味だよね」
 
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「このメンツはみんな理系志望?」
 
2年では文系志望と理系志望でクラスが分けられる。
 
「取り敢えず私は東大理3のまま」と鮎奈。
「同じく理3」と蓮菜。
「私は理1」と京子。
「私は取り敢えずC大学理学部のままで」と千里。
 
「千里、今の成績なら東大理1狙ってもいいし、C大にするなら医学部を狙える」
と鮎奈が言う。
「千里って本番に強いしね」
と蓮菜も言う。
 
千里は特待生待遇を維持するために頑張って勉強しているので、この1年間、学年で20位以内をキープしているし、10位以内に入ったこともある。
 
「私、大学では今よりもっとたくさんバイトしないといけないと思うんだよね。東大とかあるいは医学部みたいな所に入って、バイトしながら勉強を続ける自信が無い」
と千里はこのメンツだから言える本音を言う。
 
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「千里はやはりお金の問題がいろんなもののネックになっている」
 
「それに医者って私の性格には合わないよ」
「ああ。千里もかなりのムラ気だもんなあ」
「調子のいい時は名医になって、調子が悪い時は患者をたくさん殺すかも」
「いや、名医と呼ばれる人の中にはそのタイプがしばしば居る」
 
「千里って10日間あったら8日間ぼーっとしてて、残りの2日で他人の30日分くらいのことをしてしまうよね」
「不断の努力とかいう言葉とはいちばん遠い性格」
「バスケの練習でさえ、かなりサボってる」
「あはは」
 
「確かに医者には向かないかもね」
という声も出るが
 
「そういう性格はむしろ研究者向きかも。千里、医学部に行って医者じゃなくて医学の研究者になる道を選んだら?」
と京子。
 
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「研究者への道は研究そのものよりライバルとの戦いが物凄く厳しい。大企業や中央官庁の出世競争と似た世界だよ。私、対立したらすぐ譲ってしまう性格だから無理」
と千里は言った。
 
「ああ、千里って他人とあまり喧嘩しないよね」
「バスケの試合中の闘争心が、普段の生活では全く出ない」
「へんな所で女性的なんだよなあ」
「研究者として大成する女性は、やはり闘争心も凄い人たち多いもん」
 
しかし蓮菜は言う。
「でも千里ってさ。貴司君に寄ってくる女の子は徹底排除してきたよね」
「うんまあ」
「千里は戦闘モードになれば割と平気で他人を蹴落とせるんだよ」
「ほほお」
「千里ってもしかすると車のハンドルを握ると性格が変わる人かも」
「千里の運転する車に乗ってみたいような怖いような」
「千里っておとなしく、ミラとかアルトに乗るタイプじゃなさそう」
「うん。千里はきっとNSXかGTR」
「あるいはポルシェかアウディか」
「そんなお金無いよ!」
 
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「でもそしたら千里、将来何になるのさ?」
「私の性別では学校の先生とかは無理だろうしね。システムエンジニアかなあ」
 
「確かにその分野は仕事さえできれば性別はあまり問題にされないかもね」
「私たちみたいな子が仕事させてもらえる分野って、多分基本的に男社会ではあっても女性が多く進出している職業分野」
「あ、そうかも」
 
「でもシステムエンジニアなんて30歳までだよ。その後は体力がもたない」
と京子は言う。
 
「その後はお嫁さんになろうかなあ」
「ああ、それは良い手かも知れない」
 

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旭川空港に着いて手荷物を受け取り、そこで集会をして一応解散とする。その後、バスに乗り込み、旭川駅と学校で降ろす。千里は駅で降りてから路線バスで帰宅した。
 
「あれ?女子制服を着てたの?」
と美輪子から訊かれる。
 
「初日の朝に男子制服を没収されちゃって」
「まあ、その方が問題は少ない気がするね」
 
などという会話を交わしてから
「あ、しまった! 男子制服を返してもらってない! 明日どうしよう?」
と千里は今になってそのことに気付いて言う。
 
今日は火曜日である。明日も一応学校がある。
 
「その女子制服で出て行けばいいんじゃない?」
と叔母は言った。
 
 
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女の子たちの修学旅行・高校編(8)

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