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■女の子たちの修学旅行・高校編(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-07-11
 
2007年3月。千里たちは3月23日(金)が終業式だったのだか、その少し前の8日から13日まで、修学旅行が行われた。
 
最初千里はこの修学旅行への参加に消極的であった。それはお金が無い!という問題からである。
 
千里は留萌から出て来て旭川の叔母の家に下宿しているのだが、毎月(下宿代込みで)6万円送金してくれるという約束は最初からホゴにされて、5月以降実家からは全くお金をもらっていない。千里は神社の巫女さんのバイトをしているので月々の教材費や参考書代に部活の費用などはこれで何とかまかなうことができていたが、お小遣いまで入れて18万円ほどになる旅行費用を拠出するあてが無かった。
 
もっともこの金額も他の私立高校に比べたら随分安い。
 
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私立高校では海外に修学旅行に行く所も多く、そういう所はカナダ一週間40万とかフランス10日間50万円などという話を聞き千里は「きゃー」と思った。千里たちの高校は私立といっても元々そんなにお金持ちの息子・娘は居ない学校なので、多くの公立高校と同様の、奈良・京都・東京というコースで、それでこのくらいに費用は抑えられていたようである。
 
またこの時期は春分の日の前で春の旅行シーズンの直前であり、航空会社の修学旅行向け運賃(SE運賃)もホテルの料金も安いということもあった。
 

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「18万くらい出世払いで貸しておくから行っといでよ」
と叔母は言ってくれたものの、そもそも家賃を入れていない上に食費も出してもらっているのに、そこまで負担を掛けてはと思い
 
「ううん。私さぁ、お風呂に入れないから行かない」
と千里は叔母に言っていた。
 
「ああ、あんた女湯に入るのか男湯に入るのかって問題があるよね」
と叔母も理解は示してくれたのだが
 
「でもあんたひょっとして既に女湯に入れる身体になってるんじゃないの?」
などと言われる。
 
千里は取り敢えず笑って誤魔化しておいた。
 
それで旅行申し込み締め切りになる2月上旬に千里は参加申込書を提出しなかった。それで女性の学年副主任・河内先生から呼ばれて「参加しないの?」と訊かれたものの、千里は性別問題を理由に参加しないと答えた。
 
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「うーん。確かにそれは千里ちゃんとしては悩むかも知れないけど、お風呂に関しては千里ちゃんだけ個室のお風呂を確保するようにしてもいいよ」
と先生は言ってくれた。
 
そして本来はもう締め切りだけど、多少の人数変動はどうにかなるから2月末までは待つからと言われたのである。
 

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千里が一転して参加することにしたのは、思いがけない臨時収入があったからであった。
 
千里はバスケット部のメンバーと一緒に2月3-4日に秋田に新人戦の東北大会を見に行った。ゾーンディフェンスの美しい学校があるので、その見学だったのだが、その会場で千里は偶然雨宮三森と遭遇し、唐突に「曲を書いて」と言われた。1曲はその場で書いて渡し、もう1曲は月末までと言われていたのだが千里は旭川に帰ったら即着手して、2月7日にはMIDIデータにして送信しておいた。すると、2月28日の夕方になって突然雨宮から千里の携帯に電話が掛かってくる。
 
「こないだの作曲ありがとね」
「あ、いえ。お気に召したでしょうか?」
「うん。まあ少しこちらで修正したけど、概ねそのまま使わせてもらうことにした」
「ありがとうございます」
「それで、こないだ書いてもらった曲の分と合わせて、御礼を口座に振り込んでおいたから」
 
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「もう頂けるんですか!?」
「今回は突然頼んだからね。それとこれ委託、つまり買い取り方式だったから固定額だけど、もし今後も頼むことがあった場合は印税方式で、支払いもこちらに印税が入って来てからでいい?」
「はい、それで結構です」
 
「もっともこないだの『男と女のあいだには』は発売が延期になってしまったんだけど、折角書いてもらったから、こちらも適当な額で買い取りさせてもらっていいよね?」
「はい、むしろ助かります」
 
「JASRACの支払いは毎年3月6月9月12月に締め切って、その3ヶ月後または6ヶ月後に入金されるから、そちらに送金するのはその翌月末ということでいいかな?」
 
「はい、問題ありません」
「今回は言われたH銀行に振り込んだけどさ、これだと振込手数料が高いから、どこか都銀にも口座作っておいてくれない?」
 
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「はい。それでは作ってご連絡します」
「旭川にある都銀ってどこどこだっけ?」
「えっと、都銀はM銀行かな」
「私、そこの口座持ってないや。###銀行か◇◇◇銀行かS銀行か無いの?」
「えっと、札幌まで行けばありますが」
「じゃ、札幌まで行って###銀行の口座作っといて」
「分かりました」
 

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それで千里は金額を聞き忘れたなと思い、部活が終わってから銀行の支店に寄ってATMコーナーで残高を確認する。
 
千里は一瞬桁を数えてしまった。
 
うっそー!!
 
3秒だけ考えてすぐ学校に電話する。教頭が出た。
 
「1年5組の村山と申しますが、大変恐れ入りますが、河内先生はもうご帰宅なさったでしょうか?」
「ああ、村山君。河内先生は帰ったけど、何の用事?」
 
それで千里は今日まで待ってくれると言われていた修学旅行の申し込みについて、やはり参加したいのだが、間に合うだろうかと教頭に尋ねた。
 
「修学旅行の参加ね。大丈夫だよ。僕から旅行代理店にすぐ電話して人数追加させるから」
「ありがとうございます!」
 
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翌日、3月1日はN高校の卒業式であった。男子バスケ部の黒岩さんや渋谷さん、女子バスケ部の蒔絵さんたちが卒業して行く。千里は他の女子バスケ部員たちと手分けして、卒業生の所に記念品を持って行った。千里は黒岩さんの担当になった。
 
「卒業おめでとうございます。これからも頑張って下さい」
「うん。まあ気楽にやっていくよ」
 
黒岩さんは旭川市内の普通の会社に就職するのだが、市内のアマチュアバスケチームに参加することになっている。実業団とは違い、あくまで趣味の世界だし、仕事が忙しい時は練習どころか試合にも出られない可能性はある。それでもバスケを続ける選択をしたのは大きいだろう。卒業生の多くは卒業とともにバスケをやめてしまう。
 
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「村山、インターハイに行けよ」
「はい。BEST8くらいを目指します」
「優勝を目指すと言え」
「分かりました。全国優勝を目指します」
 

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この日、卒業式が終わった後で、千里は学校から抜け出して近くのATMで修学旅行の代金分のお金を引きだしてきて(昨日引き出さなかったのは時間外手数料を払いたくなかったからである)、河内先生に渡した。すると河内先生は千里を面談室に連れていく。
 
「このお金、変なことして稼いだんじゃないよね?」
「へ?」
「いや、千里ちゃんのお友だちにさ、中学の時に修学旅行で千里ちゃんお風呂はどうしてたって訊いてみたのよ」
と先生。
 
ああ、蓮菜に訊いたんだろうなと千里は思った。
 
「それでお友だちは千里ちゃん、多分女湯に入ったと思いますよと言ってたんだよね」
「えっと・・・」
 
「で、お友だちが千里ちゃんが参加に消極的なのはお金が無いからじゃないかって言って」
「まあ、お金は無いですけどね」
 
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「だから千里ちゃん、援交とかそんなんでお金作ったんじゃないかって心配しちゃって。こういうこと言っちゃなんだけどさ。千里ちゃんみたいな子って、普通の女の子より、かえって高く買う人がいるから」
 
そういう話は留実子の姉の敏美からも聞いたことあるなと千里は思った。
 
「私、いくらお金のためでも好きでもない人とHなことしたくないです」
 
それで千里は、契約上の問題で詳細は言えないが、ある音楽家さんのお仕事の手伝いをして頂いたお金であるということを説明した。
 
「本来はお仕事してから4ヶ月後に入金するらしいんですけど、今回は急に頼んだからと言って、すぐお金を払ってくださったんですよ」
「それは良かったね!」
 
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「千里ちゃん、今実家から毎月いくらもらってるの?」
と先生は心配そうに訊く。
 
「ゼロです。4月に下宿している家の人に3万と私に3万ともらった後は全くもらっていません」
 
「それでよくここまでやってきたね!」
「学校から認めてもらった神社のお仕事で毎月4〜5万頂いているので、それで教材費とか部活の費用とか定期代とか払ってます。下宿しているおばちゃんにも下宿代を少しでも払いたいのですけど、受け取ってくれないんですよ」
 
「それはありがたく居候させてもらっておきなさいよ」
「はい。卒業してから恩返ししたいと思っています」
「うんうん」
 
と言ってから先生は少し考えて言う。
 
「ね、千里ちゃん。学内奨学金の支給を申請しない?」
「それについては、私より大変な子が結構いるみたいだから、そういう子を優先してあげてください。私は授業料を免除してもらっているだけで充分すぎますから」
「分かった。でもバイト無理しないでね。きついと思ったら私とか保健室の山本先生とかに相談して」
 
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「はい、ありがとうございます」
 

面談室から戻ると、その河内先生から相談されていた蓮菜から声を掛けられた。
 
「ふーん。お金が用意できたのね。どうやって作ったの?援交?」
「そんなのしないよぉ。雨宮先生からもらったんだよ」
「雨宮先生と一晩寝たの?」
「寝ないって。作曲の御礼にもらったんだよ」
「ほほぉ」
「それでさ。今回書いたのは曲だけなんだけど、ちょっと歌詞付きの曲を書けたら書いて送ってみてと言われたんだけど、もし良かったら私と組んで書かない?鈴木聖子って歌手なんだけど」
 
蓮菜は少し考える。
 
「鈴木聖美じゃなくて?」
 
「そちらは大歌手。それと全く別人で、雨宮先生の後輩にあたる新島鈴世さんって人が楽曲提供している鈴木聖子って歌手が居るんだよ。あまり売れてないっぽいけど」
「ふーん」
 
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「その人が今度作るアルバム用の曲を書いてみない?と言われたんだよね」
「コンペ?」
 
「実質それに近いと思う。出来が良かったら採用するということ。しばしばレコード会社でやるような大々的なものではないから多分競争率は3〜4倍じゃないかと先生の口ぶりからは感じた。アルバムの発売が6月らしいから、採用されて売れた場合、印税が入るのは10月。それとこの人のCDは過去に毎回数千枚しか売れてないから2000枚出荷したとして、10曲の中の1曲だと印税は3万円くらい。それを私と蓮菜で山分けすることになる」
 
「まあ印税なんて普通そんなものだろうね。でも面白そうだから歌詞書いてみるよ。それに千里が曲を付けるのね」
「うん。曲を書いてからチェックしてくれる?」
 
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「OKOK。でもその人の歌を聴いてみたいな」
「やるなら今出ている彼女のCDをこちらに送ってくれるって。連絡しとくよ」
「うん」
 

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