広告:國崎出雲の事情 1 (少年サンデーコミックス)
[携帯Top] [文字サイズ]

■女の子たちの外人対策(8)

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8 
前頁次頁目次

↓ ↑ Bottom Top

「ふと思ったけど、佐藤さん、千里を誰かの仮想敵の代わりに見立ててプレイしている気がする」
と暢子が言った。
 
「愛知J学園の花園亜津子かもね」
と千里が微笑んで答えると、彼女の元同輩のみどりが
「あ・・・そうかも」
と言った。
 
「私たちはP高校に対して必死だけど、向こうはインターハイ優勝が目標なんだよ」
と千里が言うと、暢子も久井奈も引き締まった顔になる。
 
「確かに私たちより格上かも知れないけど、そう簡単にはいかないことを見せつけてやろうじゃん」
と暢子は闘争心を新たにしていた。
 

↓ ↑ Bottom Top

第3ピリオドも激しい攻防が続くが、千里と暢子はどんどん得点する。向こうもセンター佐藤さん、ポイントガード竹内さん、シューティングガード尾山さんといった所がどんどん点数を奪っていく。佐藤さんは背が高いのでセンターのポジションに入っているが、性格的にはむしろスモールフォワード的でかなり器用な選手のようである。スリーも1回決めている。
 
第3ピリオドが終わった所で66対64で2点差の勝負になっていた。
 
どちらも全力勝負なので、あまり交代要員を使っていない。P高校は何度か司令塔の竹内さんを休ませたものの、佐藤さんと尾山さんはずっと出ている。N高校も何度か穂礼さんと留実子を少し休ませて、みどりさんと麻樹さんが少し出たものの、久井奈さん・千里・暢子はずっと出ている。
 
↓ ↑ Bottom Top

「でも久井奈ちゃんのファウルが4つだね」
と南野コーチが心配そうに言う。
 
「平気です。もし退場になったらメグミよろしく」
「はい。その時は私が久井奈さん以上に活躍しますから、思う存分プレイしてください」
とメグミも答える。彼女も出番は無いものの気合いが入りまくりである。
 
「留実子ちゃんもファウル4つ」
「別にそれで消極的にはなりません。後は麻樹さんよろしく」
「あ、うん」
と麻樹さんはいつもの調子だ。
 
「よし。最後の勝負だ」
と気合いを入れて最後のピリオドに出て行く。
 

↓ ↑ Bottom Top

第4ピリオドの始まりでP高校側が猛攻を見せ一時は8点差まで行くものの、その後N高校側も必死の反撃をして5分経った所で78対76と2点差まで戻す。ここで巧みに佐藤さんのマークから消えた千里が、暢子からのパスを受けてスリーを撃ち、78対79と、この試合で初めてN高校がリードを奪った。
 
向こうが速攻で攻めてくる。ドリブルでボールを運んで来た竹内さんがそのまま中に飛び込んで来たが撃つかに見せて後ろに居る尾山さんに、全くそちらを見ずにパス。千里がチェックに行ったが間に合わず。尾山さんがスリーを決めて81対79と再度逆転。
 
N高校の攻撃、暢子が中に飛び込んで行ってシュートするが外れ、リバウンドを佐藤さんが押さえる。彼女がそのままドリブルで走って行く。速攻!そしてそのままゴール下まで走り込んでダンク。これで83対79。
 
↓ ↑ Bottom Top

こちらも速攻で攻めあがる。久井奈さんからのパスを千里が受けて、佐藤さんとのマッチアップ。ここでこの試合で初めて千里はドリブルで中に攻めて行く。佐藤さんに背中を向けながら中に侵入。相手の10番・宮野さんが妨害に来る。完璧に阻まれて普通なら撃てない体勢。
 
しかしここで千里は絶妙のフェイントを入れてきれいに相手のタイミングを外し、シュートを撃つ! 入って83対81。また2点差。
 
竹内さんがドリブルで攻めあがって来る。佐藤さんに暢子がピッタリとマークで付いているのを見て、千里がマークで付いている5番の片山さんにパス。ところが千里がうまく間に入ってパスカット。即久井奈さんにパスする。
 
久井奈さんが攻めあがる。そのままゴール下まで行ってシュートするが外れる!しかしリバウンドを留実子が取り、そのままシュート。しかし外れる!そのリバウンドをP高校の佐藤さんが取る。そして竹内さんにパスするも、これを暢子がカットする。そしてスリーポイントエリアの外側に居た千里にバックパス。即撃って3点!逆転!! 83対84。
 
↓ ↑ Bottom Top

残りは1分ちょっとである。P高校が速攻で攻めて来る。佐藤さんが強引に中に侵入し留実子をほとんど身体で押しのけるようにしてダンクを叩き込む。また逆転。85対84。
 
N高校が攻めあがる。向こうはかなり早い時期からこちらにチェックに来る。久井奈さんが先行している暢子と千里を見た。
 
がその一瞬の隙を付いて竹内さんがスティール。そのまま攻めて来る。そしてシュートを撃つのを留実子が停める。
 
がここでファウルを取られた。
 
留実子は5ファウルで退場になる。麻樹さんが代わりに入る。
 
竹内さんのフリースロー。
 
1本目はきれいに決める。そして2本目は外れたものの、佐藤さんが飛び込んでリバウンドを押さえてそのままダンク。これで88対84。
 
↓ ↑ Bottom Top

残りは30秒。久井奈さんが速攻で攻めて行く。千里には佐藤さんがマークで付いている。が、一瞬の隙を突いて巧みに佐藤さんの視界から消える。「あっ」と声を出して、千里の行方を捜した時にはもう千里はボールをもらっている。チェックしに行く間もなく撃つ。入って88対87。1点差!
 
残り12秒。時間稼ぎをしても勝てるかも知れないが女王はそんなことはしない。速攻で攻めて来る。尾山さんがスリーを撃つ。
 
が外れる。しかしリバウンドを佐藤さんが取って再度シュート。それを久井奈さんが停めようとしたがファウルを取られた。
 
久井奈さんが天を仰ぐ。5ファウルで退場。メグミと交代になる。
 
佐藤さんのフリースローである。残り時間はもう1.2秒しかない。もう勝敗は決してしまった感もあるが、両軍とも気合いが入っている。
 
↓ ↑ Bottom Top

1本目外れる。
 
そして2本目は入った。89対87。
 
暢子がスローインするためエンドラインに立つ。千里は《気配を消して》全力で走る。それに佐藤さんが気付くが千里はもうフロントコートまで走り込んでいる。佐藤さんの声でいちばん近くに居たP高校の尾山さんがチェックに来る。
 
暢子の矢のようなロングパスが飛んでくる。ボールが千里のそばに到達する直前に振り向いてキャッチする。
 
千里がボールをキャッチするのと同時に時計が動き出す。
 
ここはスリーポイントラインにはまだ遠い。しかしもう時間が無い。千里はそのまま撃った。
 
撃つのとほぼ同時くらいに試合終了のブザーが鳴った。千里は自分でも時間内に撃てたかどうか確信が持てなかった。
 
↓ ↑ Bottom Top

そして千里の撃ったボールはバックボードに当たり・・・・
 
そのまま下に落ちてしまった。
 
今度は千里が天を仰ぐ場面であった。
 

↓ ↑ Bottom Top

両軍整列する。
 
「89対87でP高校の勝ち」
 
両者笑顔で握手をする。あちこちでハグする姿もある。千里は佐藤さん・尾山さんとハグした。暢子も佐藤さん・片山さんとハグしていた。
 
「最後のシュートごめーん」
と千里がみんなに謝るが
 
「いや、40分フルに走り回った後だもん。精度が落ちても仕方無いよ」
と穂礼さん。
「あの距離ではさすがの千里も無理だったと思う」
とみどりさん。
 
「撃つタイミングも微妙だったし。私は時計がゼロになったのがボールが千里の手から離れるのより一瞬早かったような気がしたよ」
と透子さんが言う。
 
「ああ、やはり間に合ってませんでした? 自分でも確信持てなかった」
と千里。
 
↓ ↑ Bottom Top

「でも40分というより、今日の試合は120分くらいに感じた」
と久井奈さん。
 
「千里、120分走り回れるように体力付けろ」
と暢子が言う。
 
「うん。頑張る」
と千里は答えた。
 

↓ ↑ Bottom Top

試合が終わって帰ろうとしていた時、ロビーでP高校の佐藤さんから声を掛けられた。
 
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした。優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます。あの、ひとつ尋ねてもいいですか?」
「何でしょう?」
 
「村山さんって、去年N高校の男子チームに居た村山さんとは別人ですよね?」
「あ、私ですよ」
 
「えーー!? どうしたんですか?」
と佐藤さんは驚いたような声。
 
「ああ。この子、自分は男ですとか主張して頭も丸刈りにして無理矢理男子チームに入ってたんですよ」
と近くに居た暢子が言う。
 
「だけど協会から性別を疑問視されて、病院で精密検査を受けさせられたら、やはり女子だというので女子チームから出ることになったんです」
と暢子は続ける。
 
↓ ↑ Bottom Top

「いや、精密検査も何も女子にしか見えませんよね」
「ですよねー」
「私なんか随分男じゃないかって疑われたけど」
と佐藤さん。
 
「あ、私も男ではって疑われて精密検査受けさせられました」
と近くに居た留実子。
 
「ああ、そちらも? 私も中3の時、精密検査受けさせられましたよ」
と佐藤さん。
 
「いや、去年インターハイやウィンターカップの予選で男子の方にどう見ても女の子にしか見えない子が入って、しかもシューターとして活躍してるってんで、なんで男子チームに入ってるんだろうね?とか言ってたんですよねー。それで今回の新人戦でその丸刈り女子のシューターさんがN高校男子には出てなくて、今度はN高女子に秋の大会までは見なかった凄いシューターがいて、名前を確認すると同じ村山千里でしょ。それで意見が別れてたんですよね。性転換説・同姓同名説・襲名説・双子説・従兄妹説などなど」
 
↓ ↑ Bottom Top

「まあ性転換手術なんてしたら療養で半年くらいは稼働できないだろうから、性転換は有り得ないでしょうね」
と千里は言う。
 
「ですよねー。そもそも性転換しても女子の身体付きになるまでには2年くらい掛かるとかいう話ですしね」
「ああ、そうでしょうね。男性ホルモンの影響が消えるのにそのくらい掛かるでしょうからね。確か女性的な身体付きになるまでは出場出来ないはずですよ」
 
と千里は平然と答えるが、暢子は少し呆れているような顔。
 
「この子は中学3年間もちゃんと女子バスケット部に在籍してましたから」
と留実子。
 
「やはりね〜」
「千里とは合宿で何度も一緒にお風呂入ってますから、女子であるのは間違いないですよ」
と留実子は更に付け加える。
 
↓ ↑ Bottom Top

「なのに男子チームで出るって無茶では?」
と佐藤さん。
 
「うちでもみんな言ってました」
と暢子。
 
「自分では男でもいいかなとも思ったんですけどね。お医者さんが君は女だと言うし。でも男子チームの中で半年くらいプレイして、あのパワーとスピードに曝されたのは良い経験になりました」
と千里は言う。
 
「ああ。うちもよく男子チームと練習で試合しますけど、確かにパワーは凄い」
「いや、P高校さんの女子チームは男子チームにパワーで負けないでしょう」
「でも全国で闘うためには男子くらい圧倒できるようでないとかなわないんですよ」
「ああ、そうでしょうね」
 
夏は一緒に佐賀に行きたいですね、と言って別れた。
 
↓ ↑ Bottom Top


新人戦が終わってから、また春の大会に向けて練習をしていたら、宇田先生が何だか背の高い外人女性を連れてやってくる。
 
「あのぉ、まさか留学生ですか?」
 
「ノンノン。彼女はセネガル出身の大畑マリアマさん。26歳で日本人男性と結婚している。旭川市内のソフトウェア会社で働いている。お仕事が忙しいけど、木曜日以外の夕方からならうちの女子チームの練習に協力していいということ。彼女にちょっと入ってもらって、この高さに少し慣れてもらおうと思ってね。会社側ともその時間帯はこちらに来てよいということで話が付いている。実はそこの会社の社長の奥さんがうちのOGなんだよ。マリアマさんは日本語はできるから安心して下さい」
 
↓ ↑ Bottom Top

「木曜日はお忙しいんですか?」
という質問が出るが
 
「安息日ですよね?」
と穂礼が言う。
 
「何教だっけ?」
「イスラム教でしょ?」
「イスラム教って木曜日が安息日?」
 
「金曜日だけど、1日の始まりは日没からだから、日本式に言えば木曜の日没から金曜の日没までが安息日」
と穂礼が説明する。宇田先生もマリアマさんも頷いている。
 
「ああ、だから木曜日の夕方はプレイできないんだ!」
 
「バスケットうまいですか?」
という質問に
 
「やったことありません」
と流暢な日本語でマリアマさんが答える。
 
「えーー!?」
という声が出るが
 
「むしろその方が多くのセネガル留学生の実態に近いと思う」
と宇田先生。
 
↓ ↑ Bottom Top

「確かに素人っぽい選手が多いですよね」
と久井奈が言ったが
 
「但し彼女はバレーボールではアフリカ選手権のセネガル代表候補になったこともあるらしいから」
と宇田先生が付け加えると
 
「全然素人じゃないじゃないですか!」
と声があがった。
 
 
↓ ↑ Bottom Top

前頁次頁目次

[*前頁][0目次][#次頁]
1  2  3  4  5  6  7  8 
女の子たちの外人対策(8)

広告:リバーシブル-2-特装版-わぁい-コミックス