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■女の子たちの外人対策(2)

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「だけど、こういうの、ビデオじゃなくて生でも見たい気がしますね」
「北海道の中では旭川L女子高や札幌P高校がゾーン展開できる。でも道大会まではあまりそういう手の内は見せないんだよ」
 
「もっと上位の大会を見に行かないといけないということか」
 
宇田先生は少し考えていたが、やがて携帯を広げてネットを見ているようである。
 
「君たち、ちょっと秋田まで行ってみる? 希望者だけでも」
「何があるんですか?」
「新人戦の東北大会決勝があるんだよ。2月の3-4日に。そこにスラムダンクのモデルになった秋田R工業が出場する。男子だけどね。あそこのゾーンディフェンスは美しいよ」
 
「私たちの新人戦道大会はいつでしたっけ?」
「その翌週、9-11日」
「直前練習はせずに、他の地区の決勝を見に行く訳か・・・」
 
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「君たちの目標はインターハイでしょ?」
 
キャプテンの久井奈が言った。
「先生、経済的に厳しい子もいると思うのですが、さっき私が名前を挙げた5人とそのバックアップ要員になると思う何人かは連れて行きたいです。お金が出せない子の分は、他の子で少しずつ出し合って、一緒に行くようにできませんかね」
 
「この分の交通費と宿泊費は大会などと同様、部費から出すよ。いつもと同じように食事代相当だけ自己負担で」
と宇田先生は笑顔で言った。
 

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秋田まで行くメンバーは PG.久井奈(2)/メグミ(1)、SG.千里(1)/透子(2)・フォワード陣が穂礼(2)・暢子(1)・留実子(1)/みどり(2)・寿絵(1)・睦子(1)・夏恋(1)の11人、そして宇田先生が呼び掛けて参加することになった推薦入学予定の中学3年生3人、フォワードのリリカ・揚羽、そしてガードの雪子、という総勢14人である。実際問題として春の大会のベンチ入りのメンバー(15人)とほぼ同じになるものと思われる。
 
これに宇田先生、女生徒たちのお世話係込みで南野コーチ、撮影係として白石コーチも行く。この週末、残留組と男子の練習は北田コーチが見てくれる。
 
なお、中学生3人は「学校見学」の一環という建前である。
 
久井奈がリストアップした中に睦子と夏恋は入っていなかったのだが、ふたりが自費ででも行きたいと志願したので結局そのふたりも部費で連れて行くことにした。彼女たちは実際問題として新一年生の強い子とベンチ入りを争うことになるであろう。留実子のバックアップ・センターである麻樹は留年の瀬戸際なので勉強してなさいということになり参加しない。
 
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今回の行程は費用を安くあげようというので結構な強行軍である。深夜に貸切バスで旭川を出て、道央自動車道を440km走り(運転はバス会社のドライバー2人で交代)、朝6時半に函館に着く。ここで朝一番のスーパー白鳥に乗って青函トンネルを抜け青森から特急《かもしか》で秋田に入る。到着したのはお昼過ぎである。すぐにお目当ての秋田R工業の試合があるのでその会場に入る。
 
能代在住のOG宮越さんが撮影と情報収集のお手伝い役を申し出てくれていて彼女とは現地で合流する。
 

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「・・・・・」
 
「ゾーンを使ってませんね」
「マンツーマンで守ってる」
 
「多分ゾーンは消耗が激しいから、それほど強くない相手にはマンツーマンで行くんだよ」
 
しかしマンツーマンでもR工業は強かった。千里たちは彼らのプレイを食い入るように見ていた。
 
「マンツーマンでも相手チームの外人選手に何もさせてない」
「うん。パスももらえないし、彼自身がボールを運んで来てもスティールされたり、パスを出してもカットされている。シュートは全く撃てない。中にも入れてもらえない」
 
「完全に封じられていますね」
 
「要するに、身体的に負けていても、運動量で上回っていれば、マッチアップで勝てるということかな」
と穂礼が言うと
 
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「正解」
と宇田先生は言った。
 
「ゾーンの方が対抗しやすいというのは、複数のディフェンダーで分散して、相手に対抗できるからだよ。そもそもひとりで相手を封じることができるならマンツーマンでも勝てるんだ」
 
その言葉に、そのマッチアップ担当として志願している暢子が唇を噛み締めて、コート上で外人選手にマッチアップしているR工業の選手の動きを食い入るように見ていた。
 

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「あのぉ、ウィンターカップ見ていた時から何かずっと感じていた違和感があったのですが」
と千里は言った。
 
「何だね?」
 
「外人選手って、ひょっとして下手(へた)な人が多くないですか?」
と千里は大胆なことを言った。
 
「そうなのよ、実は」
と南野コーチが宇田先生に代わって答えた。
 
「こんなこと余所では言わないでね。外人差別とか思われかねないから。日本って国際的に見て、バスケット強いと思う?」
と南野コーチは千里たちに問いかける。
 
「弱いです」
「弱小ですね」
「欧米には全く歯が立たないです」
 
「そういうバスケットの弱い国に、わざわざ外国からバスケットをするために留学生が来ると思う?」
 
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「あ・・・」
 
「強い子は、みんなアメリカとかに留学するんだよ」
「そっかー」
「じゃ、日本に来ているのは?」
 
「言っちゃ何だけど、アメリカには行けないような子たちだよ」
「なるほどー」
 
「むしろ本人たちは純粋に日本で工業技術とかコンピュータとかを学びたいんだと思う。バスケットはそのついでに参加しているだけ」
 
「だったら、バスケットでは元々強いはずの私たちに、付け入る隙は充分ありますね」
と暢子が言った。
 

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R工業は1回試合に快勝し、第2試合でもゾーンディフェンスは使わず、マンツーマンで相手チームを下して2連勝で翌日の決勝トーナメントに進出した。
 
同じ会場で女子の試合も行われるのでそちらも見た。同じ秋田代表N高校に注目する。
 
「うちと似た名前だね」
「なんかユニフォームも似てるね」
「インターハイでここと当たるとややこしいな」
 
「この学校も女子が圧倒的に強くて男子は弱いんだよね。女子はインターハイ・ウィンターカップの常連だけど、男子はいつも地区大会で1回戦負け」
「うちより極端だな」
 
N高校の対戦相手には長身の外人選手がいたが、こちらもN高校側のうまい子がひとり貼り付いて、仕事をさせないようにしていた。暢子がその子の動きをじっと見ていた。
 
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「私が何をすればいいかが、今日1日だけでかなり分かった気がする」
と暢子は言った。
 
N高校も2連勝で順当に決勝トーナメントに進出した。
 

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その日、とりあえず宿に入る。今日は旅館である。そこで部屋割であるが、女子生徒14人(部員11人・入学予定者3人)と女性の南野コーチで女性15人と、男性の宇田先生と白石コーチということで、まず男組は宇田先生と白石コーチで1室になる。残りの女性15人を5人部屋(本来は4人部屋っぽい)3つに振り分けることになる。
 
ここで久井奈が悩んだ。
 
「ねぇ。病院の先生の診断は診断として、千里はもう性転換手術終わっているんだっけ? ここだけの話」
と久井奈が訊く。
 
「私、手術はしてません」
と千里。
 
「でも千里は女湯に入れる身体」
と留実子。
 
「男湯に入れない身体であることは認める」
と千里。
 
「そのあたりがよく分からん所でさ。るみちゃんは多分男の子の下着だよね?」
「ええ。だいたいいつもそうです」
「おちんちん無いよね?」
「無いけど、今回の旅ではトイレは男子トイレに入って立ってしてます」
「ってか、るみちゃん、新人戦地区大会でも男子トイレ使ってたよね?」
 
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「うむむむむ・・・」
 
結局久井奈は南野コーチとも相談して、千里・留実子・暢子・雪子・南野コーチをひとつの部屋に割り当てた。暢子は千里・留実子といちばん気心が知れているし、雪子は中学で千里・留実子とチームメイトだったから、お互いにあまり遠慮しなくてもいいだろう、という趣旨である。
 

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「ここは、まさか私を強化する部屋ですか〜?」
と荷物を置きに入った時、その雪子が言う。
 
「だって、レギュラースターティングメンバー3人(暢子・千里・留実子)にコーチさんって」
 
「そうだね。多分雪ちゃんは、今年春の大会でのバックアップ・ポイントガード」
「チームの司令塔として成長してもらわないと」
「今夜は特別メニュー用意してるから」
「うっそー」
 
適当にバラバラと食堂に行って食事をする。節分だというので夕食に大豆の福豆が添えてあった。「よし後で豆まきしよう」と言って久井奈さんは福豆をバッグに入れていた。
 
夕食から戻って、お風呂に行く。南野コーチは宇田先生たちと打ち合わせがあるようだったので、千里・留実子・暢子・雪子の4人で大浴場に行った。
 
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女湯と染め抜かれた暖簾をくぐる時に暢子が少し千里を気にするのはお約束である。留実子・雪子は中学の時に合宿で千里と一緒にお風呂に入ったことがあるので今更である。そして千里が服を脱ぐと
 
「やっぱり女の子の身体じゃん!」
と暢子が言うのもお約束の展開である。
 
「僕は今まで何度も千里と一緒にお風呂入ってるから」
と留実子が言う。
 
「そうだねー。私も女湯に入るのが普通になっちゃった。私、本当は男の子の身体なのに」
と千里が言うと
「どこが男の子だと言うんだ?」
と暢子は突っ込んだ。
 

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「だけど、この丸刈り頭で女湯に入るのは初めて〜」
と千里は言う。
 
「去年の夏はインターハイに行けなかったから合宿も無かったからね」
と暢子が言う。
 
「それ少し伸ばしても誰も文句言わないだろうに、丸刈りをキープしてるよね」
と留実子。
 
「N高校に入る時の、教頭先生とうちの父ちゃんとの約束だから。教頭先生は伸ばしてもいいよと言ってくれてるけど、父ちゃんの手前、3年の1学期くらいまでは約束を守る」
「その後は伸ばす?」
 
「うん。卒業前はなしくずし的に」
と千里も言う。
 
「だけど丸刈りから普通の女の子のショートカット程度の長さになるまで、どのくらい掛かるかなあ」
 
「1年以上掛かると思うよ。髪の毛って1ヶ月に1〜2センチしか伸びないから。普通の女の子のショートカットの髪の長さって15pくらいかな? でも途中で毛先はカットしないといけないもん」
と留実子が言う。
 
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「千里先輩、小学校卒業する頃は胸くらいの長さだったと言ってましたよね?中学卒業する頃は腰くらいの長さだったから、たぶん3年で30cmくらい伸びてますよ。だから10cm伸びるのに1年掛かると思います」
と雪子も言う。
 
「すると3年生の夏に伸ばし始めたら、大学1年の冬くらいに女の子に戻れる感じかな」
と暢子。
 
「3年生になったらというか、2年生のウィンターカップが終わったら伸ばし始めた方がいいよ。大学に入ったら、もう完全に女の子になるつもりなんでしょ?」
「うん。そうだなあ」
 

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「るみちゃんは、高校卒業したら完全に男の子になっちゃうの?」
 
留実子は少し悩んでいる。
 
「もし彼氏と別れていたら、そうなっちゃう気がする。ずっと我慢してる男性ホルモンとかも飲んじゃうかも。でも彼氏と続いてたら、結婚して赤ちゃん2人くらい産むまでは、男半分・女半分でやっていくよ」
 
「産むまでというか最後の子供の授乳が終わるまではホルモンやれないよね?」
「うん。面倒くさいなあ」
 
「母親教室に男装で行ったら追い出されそう」
「痴漢と思われたりして」
 
「でも結婚して奥さんになってから男になっちゃったら、彼氏が戸惑わない?」
「彼はヴァギナとおっぱいは残してくれと言ってる。ちんちん付けてもいいけどHする時は取り外してくれって」
 
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「そんな簡単に取り外せるんですか!?」
と雪子。
 
「私、よく取り外してるけど」
と千里が言うと
 
「それって要するにフェイクなのね?」
と暢子からツッコミが入る。
 
「でもそれじゃ、るみちゃんは性転換する訳にはいかないか」
 
「うん。まあ結婚している限り、実際にはちんちん付ける訳にはいかないだろうなとは思う。でも男装して暮らすのは構わないと言ってくれてるからそういう生活になるかもね」
 
「ご近所的にはホモ夫婦と思われちゃうのかな」
「彼は自分はどうせずっと仕事に出てるから近所の評判とかまでは気にしないとは言っているけどね。ただ、子供が友だちから何と言われるかというの考えると少し悩んじゃう」
 
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「子供はたくましいよ。どうやってでも乗り越えていくと思うよ」
と暢子は言った。
 

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