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■女の子たちの外人対策(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-06-14
 
「登録証を持ってなかったってどういうこと?」
「持ってないというより、提示できなかったのでは?」
「出場資格が元々無かったということですか?」
 
「やはり転校して間もない子だったとか?」
「留年したか何かで年齢を超えていたのか」
 
(インターハイやウィンターカップおよぴその予選は出場回数制限と1つの学年では1度しか出られないという制限のみだが、新人戦には年齢制限もある)
 
「実は退学になっていて在籍してなかったとか」
「実は男だったとか」
「まさか!」
 
「いや、でも女子の試合やってて、時々性別を疑いたくなる選手がいると思わない?」
「ほんとほんと、こいつ男じゃねーのかよって」
 
「ごめーん」
と留実子が言うが
「るみちゃんは間違い無く女の子」
 
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「私、そう思われたりしないかな」
と千里は言ったが
「千里は逆のケースだったね」
 
「うんうん。去年男子の試合に出ていて、相手チームの選手から《こいつ女じゃん》と思われていた」
「というか実際女なわけだし」
 
「私をホールディングした選手がまともに私のおっぱいつかんじゃって『ぎゃっ』
て声あげたことある」
「うーん。それはむしろ千里が悲鳴をあげるべき」
「でも相手選手にむしろ同情したい」
 

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それでやっと決勝が始まるが、これがなかなか良い勝負であった。D高校は特に卓越した選手がいるわけではないが、チームワークで攻めて来て、着実に得点していく。一応ガードとフォワードの別はあるようだが、誰もが起点になり誰もがシュートするという感じで、オールラウンドプレイヤーが多いようだ。役割が固定されていないことで対抗するN高校側もディフェンスの混乱がしばしば生じていた。
 
私とぶつかりそうになったセネガルの子が出てくるかなと千里は思ったのだが、なかなか出番が無いようである。結局第3ピリオドまで行っても60対58という完璧なシーソーゲームの様相であった。
 
第4ピリオドも5分過ぎた所で、とうとうセネガルの子がコートに入る。するとN高校側は、ここまでいちばん得点を取っていた巧い選手が彼女に付き、他の4人が菱形のゾーンを組むダイヤモンド1の体勢を取った。
 
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「よし」
と思わず暢子が言う。
 
セネガルの子は見た感じ、まだバスケを始めて数ヶ月程度ではないかと思った。ドリブルも下手だし、パスもしばしば取り損なっている。しかしゴール下に飛び込むと、高確率でリバウンドのボールを押さえ、味方にパスする。それでD高校は攻撃での得点獲得率が大幅に上昇した感じであった。要するにリバウンド要員ということのようである。それだけひたすら練習させたのだろう。これで一時D高校が逆転した。
 
しかしそこでN高校は普通のマンツーマンに戻してしまった!
 
そしてN高校は攻撃のやり方を少し変えてくる。自分たちの攻撃の時、今まで結構スリーポイントを狙っていたようなケースでもゴール近くまで行ってからシュートを撃つ形に切り替えたようであった。それで再逆転し、むしろ点差を広げていく。
 
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「確実性の高いシュートを使ってますね」
と千里が言ったら、宇田先生が頷く。
 
「外人選手対策のひとつが、実はシュートの精度を高めることなんだよ。ああいう選手が居ると、シュートが外れた場合は、まずリバウンドは向こうに取られると思った方がいい。でもどんなに背の高い選手がゴール下で守っていても、落ち始めたボールを叩けばゴール・テンディングだから、いったん頂点まで上がったボールには手を出せない。手が出せるのは外れてリングより下まで落ちてきた後のボールだ」
 
「つまり正確に放り込めば、長身選手にも手は出せないということですね」
と暢子が言った。
 

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試合は結局92対76と結構な差を付けて秋田N高校が勝利して優勝旗を獲得した。
 
30分ほどおいて男子の決勝だが、その間に千里はさっきもらった五線紙を取り出し、音符を書き込みはじめた。
 
「何やってんの? 何かの楽譜の整理?」
「ううん。作曲してるー」
「へ? こんな場所で作曲するの?」
「だって男子の決勝が終わるまでに書けって言われて、これ渡されたから」
「誰に?」
「ワンティスの雨宮三森先生」
「雨宮さんが来てたの? 何しに?」
「分かんない」
「ってか千里、雨宮さんの知り合い?」
「蓮菜や鮎奈たちと一緒にやってるバンドの音源製作でお世話になったんだよ」
「ほほぉ」
 
「でもギターとかピアノとか無くてもそういうの書けるもんなの?」
「歌詞があるから書けるよ。歌詞があれば、その歌詞の持つ自然な流れを音の高低に変換すればいいんだよ」
「へー!」
 
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「言葉の持つイントネーションを音の高低に変換するの?」
と南野コーチが訊く。
 
「違います。確かにそういう理論はありますけど、私がやってるのはむしろ、この歌詞の持つ波動のようなものを音に直しているんです」
「ふーん。波動かあ。チャクラとかオーラみたいな?」
「似たようなものですね」
 
「でも何か変な歌詞」
と暢子が言う。
「ちょっとHだよね」
とメグミ。
「ってか女子高生にこういう歌詞を渡すのが信じられん」
と南野コーチ。
 
「ええ。でもかなり推敲されてる歌詞ですよ」
「これで!?」
「歌う人によっては売れるかも」
「どんな人が歌ったら?」
「そうだなあ、具体的な人は思いつかないけど性別が曖昧な人」
「ああ。それはあり得るね」
「千里歌手デビューする?」
「バスケ辞められないから歌手にはならない」
「よしよし」
 
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千里は男子の試合が始まる前にその楽譜を書き上げ、雨宮さんの所に持って行った。
 
「雨宮先生、書き上げました」
「・・・・・」
「どうかしました?」
「私がここに居るってよく分かったね」
「だって会場を見渡せば分かります」
「こんなに広いのに?」
「雨宮先生、オーラが強烈だから」
 
「そうか。あんた占い師だった。でもよくこの短時間で書いたね」
「試合からは目が離せないから、さっきの試合が終わってから、次の試合が始まるまでに書かなきゃと思って頑張りました」
 
「さっきの試合が終わった後で書き始めたの?」
「はい」
 
雨宮さんは無言で譜面を受け取ると読み始める。
 
「凄いね。じゃ20分くらいで書いたの?それにしてはよく出来てる。何かストックでもあった?」
「いえ。先生の歌詞が持つ波動をそのまま曲にさせてもらっただけです」
 
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「ふーん。面白いこと言う子だね。でも歌詞に凄くマッチした曲だよ。これは」
「マッチするように付けましたから」
 
「でもここはちょっとこう直そうかな」
と言って雨宮さんは赤ボールペンで修正を加える。
 
「ああ、なるほど。その方がもっとよくマッチします」
「ここはこうした方がいい」
「ああ。確かに」
 
雨宮さんはそうやって5分ほど掛けて楽曲全体に修正を掛けた。
 
「よし。後はアレンジャーにスコア作らせてその後で調整だな。ありがとね」
「いえ」
 
「そうだ。あんたの携帯の番号、持ってなかった。教えて」
「はい」
 
それで千里は自分の携帯番号とメールアドレスをメモして渡す。
 
「念のため鳴らしてみよう」
と言って雨宮さんが空メールを送信すると千里の携帯のバイブが鳴った。
 
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「OK。じゃ、また何かあったら連絡するよ」
「はい・・・・・」
 
「どうかしたの?」
「いえ。その歌詞は先生がお書きになったんですか?」
「そうだけど」
 
「先生、もしかして去勢なさいました?」
「ふふふ。面白いこと言う子ね」
「済みません。立ち入ったこと訊いて。その歌詞から性別を放棄したかのような波動が感じられたので」
「そうだなあ。私は性別はとっくに捨ててるけど、セックスは捨ててないよ。一度私と寝てみない?」
「遠慮しておきます」
 
「でもまあ取ったのは1個だけね」
「は?」
「右を取ったか左を取ったか分かる?」
「えっと・・・右です」
 

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「ほんと、あんたは面白い。そうだ。さっきの女子の決勝戦さ、何で揉めてたか聞こえた?」
「いいえ」
「最初G高校側が『その人、本当に女なんですか?登録証見せてください』と言ったんだよね」
「え?G高校がですか?」
 
「でN高校は大会始まる時に確認してもらっているから今更見せる必要無いと言ってそれで少し揉めてたけど、N高校の監督が疑念があるなら全員分再度審判に提示します。そちらも全員再度提示してくださいと言って、審判もそれを認めたんだよね。それでN高校は全員の登録証を審判に確認してもらって、全員女子であることが確認された」
 
「へー」
 
「それでG高校側も提示しようとしたんだけどさ」
「はい」
「登録証を持ってない子が3人もいたんだわ」
「あぁぁぁ」
「昨日は大会初日で提示しないといけないというので、ちゃんと持ってたらしいんだけど、今日はホテルに忘れてきたみたいなのよね。取りに戻るのは大会の進行上認められないというので辞退」
 
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「自爆ですか」
「でも登録証持ってないのが悪い」
「ええ。求められたらいつでも提示できなければなりません。車の運転免許証と同じです」
 

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「でも登録証ってどんな奴? 私見たことないわ」
 
「これですよ」
と言って千里はウェストポーチから取り出して見せた。
 
「あれ?あんた、女子チームに入ってるの?」
「そうですけど」
「入れるんだ! でも個人の性別は書いてないのね」
「個人idの先頭の数字が性別です。5が男、6が女」
「・・・あんた6じゃん」
「女ですから」
「女なの?」
「だって女でなきゃ女子チームには入れません」
「性転換したんだ!」
 
「いづれするつもりですけど、まだしてません。協会から私の性別のことで検査を受けてくれと言われて病院に行って検査されたら、お医者さんの診断書を見て、協会が私を女子と認定したんですよね」
 
「ふーん。確かにあんたなら女子でいいかもね」
「そういえば、先生はお仕事でこの大会にいらっしゃったんですか?」
 
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「実は今年のインターハイ・バスケットのテーマ曲を書いてくれと頼まれたのよ。それでバスケットの試合を見ながら考えようと思ってさ。ちょうど私がプロデュースしてるバンドのコンサートが昨日秋田であったから居残りして今日はずっと見てた」
 
「ああ、カレーブレッドのライブですね」
「ふーん。好きなの?」
「いいえ」
「それでよくライブの日程が頭に入ってるね」
「秋田駅にポスターがあったので」
 
「観察力あるね! まあこのテーマ曲はLucky Blossomに演奏させるんだけどね」
「ああ、いいですね!」
 

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雨宮さんはしばらく考えているようだった。
 
「ね、あんた書かない?」
「はあ? だって雨宮先生が頼まれたんでしょ? 雨宮先生の作品でないとまずいのでは?」
「名前だけ私にすればいいわよ。印税は半分あんたにあげるからさ」
「ゴーストライターですか」
「期限は今月いっぱいなのよ。それにバスケットボールなんてルールもあやふやな私が書くより、バスケットの現役選手のあんたが書いた方がいい曲になると思うんだ」
 
千里はそれは確かにそうかも知れないと思った。自分だって突然ラクロスの曲を書けなどと言われても何を書いたらいいのか分からない。
 
「いいですよ。書きます」
「代わりにあんた自身のクレジットでもう1曲次のLucky Blossomのアルバムに入れてあげるから」
 
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「つまり2曲書くんですね」
「そういうこと。出来る?」
「書きます。どちらも歌詞無しですよね?」
「うん」
「今月中に送ればいいですか?」
「最悪月末でも間に合うけど、2月26日月曜日までに送ってくれると助かる。手書きだと入力するのに手間が掛かるからMIDIにしてデータでメールしてくれない?」
「済みません。パソコンを持ってないので」
 
「MIDIは触ったことある?」
「中学の時にパソコン部で何度か既存曲の入力をして五線譜をプリントしたことあります。XG worksってソフト使いましたが」
 
「ああ。だったら大丈夫だな。そのXG worksの後継ソフトのCubaseってのをインストールしたノートパソコンをキーボード付きであんたんちに送るよ。それで入力して。メールアカウントも適当なの取って設定しておくから」
「分かりました。お願いします」
 
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それで千里は自分の下宿の住所を書いて雨宮さんに渡した。
 

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