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■女の子たちの修学旅行・高校編(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2014-07-12
 
バスで嵐山に移動し、バスで渡月橋を渡った後、お昼御飯を食べる。その後、班単位でマイペースで嵯峨野を散策することになっていた。
 
班は一応定めてあるのだが、最初から混線気味である。結局千里は、鮎奈・蓮菜・京子・花野子・梨乃と6人で歩き回ることになる。最初は天龍寺だったのだが・・・・
 
「天龍寺って何があるんだっけ?」
「石庭のある所?」
「それは龍安寺。金閣寺の割と近く」
「仁和寺からも割と近くだよね」
「ああ。お坊さんが鼎をかぶって踊って取れなくなった所か」
 
「こちらは?」
「龍の絵とお庭が有名なんだって」
「どこから入るのかな?」
「あれ? なんかお寺から離れてない?」
 
などと言って歩いている内に、黒い鳥居が見えてくる。
 
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「あそこ?」
「まさか」
「お寺に鳥居は無いでしょ」
「そうなんだっけ?」
「鳥居は神社。お寺は山門」
 
「あれは次のポイントの野宮神社では?」
「行き過ぎた?」
「戻る?」
「いいや、パスして行こう」
 
ということで、最初から迷子気味である。この中に方向感覚の良い子が入っていないというのも問題だ。千里も、何か目的があればそれを見つけるものの、こういうルートを辿っていくのはあまり得意では無い。
 
伊勢神宮に赴く斎王が決済した場所で、源氏物語の舞台にもなった所である。お参りして、縁結びの御守りなど買っていく。
 
「あんたたち縁結びの御守りなくても既に彼氏いるじゃん」
と若干3名ほどが言われているが
 
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「彼と法的に結婚できるとは思えないし」
「彼とはただの友だちだよ」
「まだキスもしてないよ」
 
などと各人の弁。
 

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若干歩いた所に大河内(おおこうち)山荘がある。
 
「ここは何だっけ?」
「おおかわちでんじろう、という人の別荘だって」
「誰だっけ?」
「確か昔の有名な俳優さんだよ」
「見る?」
「いいや。次行こう」
 
ということで、あまりまじめに見て歩く気は無い。
 
結構歩いた所で常寂光寺である。
 
「少し疲れたね」
「休んでいこう」
 
ということで寺の中に入る。
 
歩いて行っていたら、ベンチがあり、たまたま空いていたので座って取り敢えずおしゃべりである。
 
「疲れたね」
「もう帰っちゃおうか」
「嵐山付近で時間を潰していればいいよね」
「レポートは適当に書いておけばいいし」
 
などとサボる相談が進む。しかししばらくおしゃべりしていたら、みんな体力が回復してきたので
 
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「もう少し行ってみようか」
 
ということで、少し奥にある有名な多宝塔も見ないまま常寂光寺を出てしまう。
 

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落柿舎に入る。
 
「ここは何だっけ?」
「向井去来の住んでた所だって」
「あれ、その人聞いたことある?」
「詩人か歌人だっけ?」
「江戸時代の俳人だよ」と蓮菜が言う。
 
「俳人って俳句を書く人?」
「俳諧ね。俳句は明治時代に俳諧から生まれた新しい文芸」
「え?松尾芭蕉とか俳句書かなかったの?」
「松尾芭蕉が書いたのも俳諧。向井去来はその弟子だよ」
「ほほお」
 
そこから少し歩いて二尊院がある。
 
「横向きの仏様がいる所だっけ?」
「それは永観堂」
「昨日行った知恩院より少し先にあったんだよ」
「ここは釈迦如来と阿弥陀如来の2体の本尊が祭られているから二尊院」
「ふむふむ」
 
落柿舎は一応中まで入ったのだが、ここでは入る前に入口の所でおしゃべりが始まる。
 
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「なんか如来(にょらい)とか菩薩(ぼさつ)とか色々いるよね、仏様にも」
「本当の意味での仏様というのは如来だけ。菩薩は如来になるための修行をしている人たち」
「へー」
「他に明王とか天とかもいるけど、説明すると長くなる」
「アシュラとかカルダとかは?」
「そのあたりまで説明しようとすると多分本が1冊書ける」
「ふむふむ」
 
「阿弥陀如来(あみだ・にょらい)も修行していた頃は法蔵菩薩(ほうぞう・ぼさつ)という名前だった」
「へー。修業時代があったのか」
「それ何年前?」
「五劫くらい修行したらしい」
「なに?五劫のすり切れ?」
「それそれ。160km四方の巨大な石を100年に1回ずつ薄い布でさっと拭いていくというのをずっとやっていった時、摩耗して石がなくなってしまうまでの時間を1劫というらしい」
「それが五劫のすり切れの意味だったのか!」
「それって何億年くらい?」
「1億年の1億倍の更に1億倍くらいって聞いた」
 
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「そんな古くから仏教ってあったんだっけ?」
「その辺は誰かお坊さんに訊いてみてよ」
 
たいがいしゃべった所で「面倒くさくなった。次行こうか」「仏像が2つ並んでたとレポートには書いておけばいいよね」などと言って、結局中には入らずに次へ進む。
 

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また少し歩いた所に滝口寺と祇王寺が並ぶように建っている。
 
「どちらから見ていくの?」
「滝口寺からかな」
 
と言って滝口寺に入ったつもりが、入ってみたらなぜか祇王寺である。
 
「あれ?ここ祇王寺みたい」
「まあいいや。その後反対側に入ればいい」
 
京子が代表して拝観券を買ったが、よく見たら大覚寺とセットの券だ。
 
「あれ〜?ごめーん」
「いや、後で大覚寺にも行けばいいよ」
「近くだっけ?」
「分んないけどセットで券を売ってるから近くでは?」
 
千里はどうも《介入》されているなと思った。
 
ここは平清盛の愛人・祇王ゆかりの地である。平清盛が祇王という白拍子を愛していたが、やがて仏御前という白拍子が現れると、そちらに寵愛は移ってしまい、祇王は放置されてしまう。そこで祇王は妹の祇女、母の刀自と3人でここに庵を結んでひっそりと暮らす。やがてそこに仏御前もやってきて自分も入れてくれと言い、女四人で静かな暮らしを送ったという。
 
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「これって要するに男って浮気もんだってことだよね」
「まあ、そういう話だよね」
 
「清盛は奥さんの親族の力でビッグになったようなものだから、奥さんを捨てる訳ないのであって、愛人になってもそうなる運命だよ」
などとクールな花野子は言う。
 
そばで
「高岡智照さんが亡くなられてから何年ですかね?」
と庵の人らしき人に訊いている初老の女性観光客が居た。
 
「昨年十三回忌だったんですよ」
と尼さんが答えていた。
 
「誰だろう?」
と梨乃が言ったのを聞いて、その観光客が言う。
 
「以前、この庵に高岡智照さんという名物庵主様がおられたんですよ。98歳で亡くなったんですけどね」
「長生きですね!」
 
「その方自身が若い頃、男に愛されては捨てられてって浮き沈みの激しい人生を送ってね。なんか政財界の大物何人かの愛人だったこともあるけど、海外で放置されて帰国するのにも苦労したりとかあったみたい。それで40歳頃に頭を丸めて尼さんになって、それから半世紀ほどこの庵で暮らしては、観光客に祇王の物語を語ってくれていたんですよ。智照さんにとっては祇王の話は他人事(ひとごと)じゃなかったんでしょうね。私も智照さんの解説3回聞いたけど、いい風情の方でした」
とその女性観光客は言っていた。
 
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祇王寺を出る。
 
「昔の男も現代の男も、やはり女は飽きたらポイなのね」
「それは男の習性だから仕方無いよ」
「現代では女もけっこうしたたかだけどね」
 
などという話も出る。
 
千里は考えていた。貴司って浮気性だよなあ。今まで何人貴司とデートしようとした女を排除してきたのだろう・・・。でもその内、貴司が自分より好きな女性と巡り会ったら自分はどうなるのだろうか。。。私って子供産む機能が無いから、誰かが貴司の子供を妊娠しちゃったら、貴司はその人と結婚するんだろうしなあ。。。
 
自分が祇王あるいは仏御前であるのかも知れない。でもきっと自分に勝って貴司の恋人の座に納まった人も、いつか他の女性からその座を追い払われるのかも。そうなったら、貴司に振られた女で集まって共同生活なんてのも悪くないかも知れないなぁ。。。。
 
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今日の千里の妄想は少し後ろ向きだった。
 

隣の滝口寺に入る。ここも平家物語絡み。ここは滝口入道と横笛の悲恋の場所である。
 
滝口は平家一門の武士だったが、身分の低い女性・横笛と恋をして、ふたりは盛んに文のやりとりをする。しかし彼の父はその恋を認めなかった。悲嘆にくれた彼は出家してしまう。その報せを聞いた横笛は驚き、滝口に会おうとお寺を訪れてくるが、彼は寺の人に「そのような人は居ません」と言わせて会おうとしなかった。横笛は
「山深み思ひ入りぬる柴の戸の、まことの道に我を導け」
という歌を残して悲しみながら去って行った。彼女はそのまま亡くなってしまったとも言う。
 
「私なら男に捨てられたら次の男探すけどなあ」
という意見が出て、同意する子も多い。
 
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「でも源平の時代の女って、そういうものだったのかもね」
「今みたいに女が自立して生きていける時代とは違うよね」
「巴御前とか北条政子みたいなのは、きっと例外的な存在」
「逆に言うと、今の時代は女がみんな巴御前になっちゃった」
「それで千里みたいな子が代わりに古風な女になる」
などという意見も出るが
 
「いや。千里も今の彼を失ったら、すぐ次の彼を見つけると思う」
と蓮菜は言った。
 

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「次はどこ?」
「15分ほど歩いて化野(あだしの)念仏寺」
 
それで歩いて行くのだが、なかなか辿り着かない。
 
「もう20分歩いているよ」
「道に迷った?」
 
そんなことを言っている内に大きなお寺に辿り着く。
 
「ここ?」
「いや、これは違うと思う。化野念仏寺は確かもっと小さなお寺だったはず」
 
というので確認すると、そこは大覚寺であった。
 
「ちょうど良かったんじゃない? せっかく大覚寺の切符も買ったんだもん」
「うん。拝観していこう」
「その後、念仏寺に行けばいい」
「ここは念仏寺に行く途中?」
 
などという意見が出るが、地図を見ていた京子は
「全然違う方向に来ている」
と言う。
 
「えーー!?」
「どうする?」
「なんか、もう結構歩いたし、ここ見たら嵐山に戻ろうよ」
「うん。そうしようか」
 
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ということで化野念仏寺はパスすることになってしまった。
 
「でもこの後帰ったら早すぎない?」
 
途中本来寄るところを結構パスしてしまったので時間があまっている。
 
「嵐山でお茶でも飲んでればいいよ」
「そうだねー」
 

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大覚寺に入り、ぐるぐると回廊を歩く。すごくきれいに整備されているというのを感じる。
 
「あれ? ここ時代劇によく出てくる所じゃない?」
「あ、そういえばよくクレジットに出ている気がする」
 
いろいろ見て回った後、写経をする所に辿り着く。
 
「どうする?」
「やっていこうか?」
「そだね。結構歩いて疲れたし。休憩」
 
というので全員その部屋に入り、般若心経を1枚書いた。
 
「みんな字がきれいだな」
「いや、この筆が凄く書きやすい」
「うん。私も普段以上にきれいな字が書けた」
「これ1本買っていこう」
などと言っている子もいる。千里もその筆を3本買った。この手の物は量産品と違って《当たり外れ》があるのである。
 
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「私はいい筆使ってもダメなんだな」
などと言っている子もいるが、恐らく《外れ》の筆に当たったのではと千里は思った。
 

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