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■桜色の日々・中学3年編(8)

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そういう訳で、その日私は環たちの部屋で一緒に寝ることになったのであった。私が部屋に置いていた荷物は荻野君が持って来てくれた。
 
「いや、ごめんな。何か僕も他のふたりも、今夜いっぱい理性を保つ自信が無くって」とほんとに申し訳なさそうに言う。
 
「そりゃ、ライオンの前にうさぎを置いて、このうさぎを食べるなと命令してもライオンは我慢できないよね」と環。
「うん、そういう感じ」と荻野君。
 
荻野君がちょっと照れるような顔をして戻って行った。
 
「じゃ、よろしく」と言って先生も帰って行き、(消灯時間なので)令子も自分の部屋に戻った後、環が私の首に抱きつくようにして、小声で訊いた。
 
「こら、白状しろ、ハル」
「何を?」
「今日、荻野君と何かしたでしょ?」と環が訊く。
「えっと・・・・ちょっとキスしたかな」と私。
 
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「ああ」
「それで、ふだん冷静な荻野君でさえ、もう自分を抑える自信が無くなったんだよ」と環。
 
「でも、ハル、T君とも付き合ってるんじゃなかった?」
「あっと・・・彼とは1学期いっぱいで別れる約束だし」
「おお、それでもう次の彼氏を見つけたんだ。やる〜」
「えっと、別に荻野君とはそういう関係じゃないけど」
「そういう関係じゃなくてキスする訳?」
「頬にしただけだよぉ」
 
「でも、ハルって、そもそも昔から荻野君のこと好きだったでしょ?」とみちる。
「うん、まあ・・・・」
「荻野君とキスしたの、多分初めてじゃないよね?」
「うーんと、5回目くらいかなぁ・・・」
「結構してるじゃん!」
 
「バレンタインとホワイトデーのチョコを交換したこともあると聞いたけど」
「ちょっと、ちょっと、誰がそんな話を」
「あ、もしかしてハルがN高校に行きたいのって、荻野君が行くからじゃないの?」
「えー?それは違うよぉ。家から近いからだよぉ」
 
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「今夜たっぷり時間あるし、ちょっと拷問してみようか?」と環。
「えー? 勘弁して〜! だいたいもう消灯時間だよ」
「拷問は電気消してもできるよね」と美奈代。
「ひー」
 

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韓国訪問の2日目、私たちは市内を色々案内してもらった。観光名所にもなっているお寺や博物館、お城などにも連れて行ってもらった。そのお城は豊臣秀吉による朝鮮侵攻の際の激戦地だったと聞いていたので、私たちは朝の内に用意しておいたお花を捧げた。
 
最後は市内の体育館に行った。ここに今回日本から来た200人と、各々の生徒が訪問した学校の代表200人とが集まっていた。私たちは昨日会った子たちと再び笑顔で握手をした。
 
市の偉い人?がスピーチをし(韓国語でのスピーチだが、文章単位で切って傍に控えている通訳の人が日本語に訳してくれた)、私たちはお互いの友情を誓って式典を終えた。
 
帰りはまた泗川(サチョン)空港からチャーターしているB767-300機で出雲空港に戻る。韓国での出国手続き、日本での入国手続きで、私はまた性別 F と印刷されたパスポートを使ったが、もちろん何か咎められるようなこともなかった。私も完全に開き直ってしまった。
 
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私が無事、ノートラブルで入出国したので、教頭先生もホッと胸を撫で下ろしていた感じだった。万が一バレた場合は、教頭先生も責任を問われる所だったろうから、結構ヒヤヒヤであったろう。
 
学校に戻ってから、校長先生に報告をする。全員レポートを書いて月曜日までに提出するよう言われた。今回の(一応)代表であった2組の重道君は、今回の訪問を文化祭で報告することにもなった(代表は実は10人でジャンケンして決めたが、韓国では移動の際の人数確認くらいしかすることは無かったようであった)。
 

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1学期の終業式が終わった後、私は町でT君と待ち合わせた。
 
「じゃ、今日のデートでお別れね。これからお互い受験勉強忙しくなるだろうけど、そちらも頑張ってね」
「うん。晴音(はると)ちゃんも頑張ってね」
 
彼は私を男名前で呼んだ方が心地良いようなので、彼にはこの呼び方を許している。今日は私も終業式に出たままのワイシャツと学生ズボンの上下だ。傍目にはたぶん男の子2人が友人同士で散歩でもしているかのように見えるだろう。
 
私たちはマクドナルドでジュースを飲みながら話し、それから城址公園を散歩して、芝生に座っていろいろ話した。
 
「でも、僕、この2ヶ月くらい、晴音ちゃんのこと、男の子だと思い込もうとしたんだけど、結局ダメだった」
「そう?」
と言って私は小首を傾げる。
 
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「ああ、そんな感じのちょっとした動作が全部女の子っぽいんだよね」
「そうかもね!」
「やっぱり、晴音ちゃんって、ほんとに女の子なんだなあ」
「あまりまじめに男の子として生活したことないから」
 
「今まで恋人とか作ったことなくて。。。。晴音ちゃんみたいな子となら付き合えるかなと思ったんだけど、高校入ったら、やはり男の子の恋人作ってみる」
「ああ、T君はたぶんその方がうまく行くと思うよ」
 
「晴音ちゃんは、ふつうの男の子か・・・・あるいは、自分も女の子になりたいと思ってる男の子となら、うまく行く気がする」
「ああ・・・私と同族の子か・・・話が合うかも知れないね」
「彼氏とふたりで女装したりとか」
「ああ、それも楽しいかもね」と私は笑いながら答えた。
 
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城址公園で2時間くらいおしゃべりしてから、そろそろ帰ろうかということになる。
 
「じゃ、ほんと頑張ってね」
「そちらもね」
「ね・・・・最後にキスしていい」
「うん、しよう」
と言って、私たちは木の陰で抱き合い、唇を合わせた。T君とは何度もキスしていたが、この時のキスだけはなぜかドキドキしてしまった。
 
私たちはそれから手を握って城址公園の入口の橋の所まで行き、手を振って笑顔で左右に分かれた。
 

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まあ、お互いの恋愛対象があまりかみ合ってなかったし、継続できる恋ではなかったなと思いつつも、それでも交際自体は楽しかったなと思い返していた。
 
そのまま家に帰る気分じゃなかったので、町に出て、本屋さんに寄り立ち読みしていたら、通路を通る人とぶつかってしまった。
 
「あ、ごめんなさい」
「いや、こちらこそ」
 
「あれ?」
「あ、ハルちゃん」
「荻野君!」
 
「なんかハルちゃんとは不思議とよく町で会うなあ」
「ああ、私たちけっこう行動範囲が重なっている気がするよ」
「図書館とか本屋さんとか」と荻野君。
「ブックオフとか文具店とか」と私。
 
私は小学校の時に凄く熱心に言い寄ってきた男の子と1度だけのデートをした直後にも荻野君と遭遇したな、というのを思い出した。
 
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「お茶でも飲まない?」と荻野君が誘う。
「そうだね」と言って、私たちは本屋さんで問題集を買った後、本屋さんでもらった割引券を使い、本屋さんの片隅にある喫茶コーナーに行き、紅茶を注文した。
 
「ハルちゃん、デートでもしてきた?」
「よく分かるね」
「ハルちゃんの色気が凄いから」
「えー!? そんなに色気ある?」
「うん。僕がハルちゃんをデートに誘いたくなるくらい」
「ふふ。映画くらいなら付き合ってもいいよ」と私は答える。
 
「トランスアメリカでも見る?」
「ごめん。あれは話題が身近すぎて見たくない。多分見てたら辛くなるから」
「ああ、そうかもね。じゃカーズ」
「うん。私、ピクサーのアニメ好き」
 
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そういう訳で、その日私は荻野君と一緒に『カーズ』を見に行った。映画館に行く前に、私は本屋さんのトイレで、ふつうのポロシャツとスカートに着替えた。
 
「ああ、ハルちゃんは、やはりこういう服装の方がしっくりくるよ。さっきまでは男装女子中学生にしか見えなかったから」
などと言われた。ワイシャツと学生ズボンを入れた紙袋を荻野君が持ってくれた。
 
映画は純粋にエンタテイメントに徹しているので、楽しく見ることができた。私たちはひとつのポップコーンのバケツを分け合って食べながら観覧した。
 
「3Dって、最初にトイストーリー見た頃は違和感あったけど、だいぶ慣れてきた」
 
私たちは映画の後、近くのロッテリアに入り、少しお腹が空いたので、ハンバーガーを食べながら話していた。ポテトをLサイズを頼んでふたりで分けて食べる。荻野君とは「ふつうの友だち」感覚なので、こういうのが気兼ねない。
 
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「でも僕はアニメは2次元の方が何となく落ち着くよ」
「私も!」
「なんか不自然なんだよね。男装してるハルちゃん見てるみたいで」
「えーっと」
「あと、特殊な眼鏡掛けて見るタイプは凄く疲れるよ」
 
「ああ。そういえば何か話題になってたね」
「チキン・リトルの立体映像版をちょうど東京に行った時やってたんで見たんだけど、二度と立体映像では見たくないと思った」
「へー」
「来月公開予定のスーパーマンがまた別の方式で立体映像版をやるみたいだけどね。やはり東京だけの公開になるみたいだけど」
 
「なんかそんな映画ばかりになったら映画見たくなくなるかもなあ。。。。」
「たぶん、本来の3次元空間と違って不自然だから、人間の視覚が混乱するんだろうね。だから、技術が進歩すると、その内、見ても疲れないものになるのかも知れない。今は多分技術発展期なんだよ」
「ああ、その可能性はあるね」
 
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私たちは映画のことから、学校でのこと、勉強の話題など、いろいろな話をしたが、会話は楽しく、とてもリラックスできた。
 
「N高校はでも凄いみたいね。毎日授業が0時間目から7時間目まであって、3年生になると9時間目まであるとか」と荻野君。
「わあ。かなり鍛えられるね」
「塾に行く必要が無いよね。って、田舎じゃあまりまともな塾も無いけどね」
「確かにね。見学とかしてきた?」
「うん。こないだ行ってきた。僕は東大行きたいから、そういう凄く鍛えられるところというのは大歓迎だけど、今から武者震いがする思い」
「東大か・・・・私も東京のどこかの大学に行くと思うから」
 
「じゃ、東京でも友だちでいれるかな」
「そうだね」
「たぶん・・・・僕たち『友だち』なんだろうね」
「ふふ。そんな気がする。まあ、1回くらいはセックスしても良いよ」
「・・・・その言葉、僕忘れないからね」
私は微笑んだ。
 
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「高校出たら、性転換するんでしょ?」
「うーん、どうしようかな」
「大学1年生のうちにやっちゃったら?」
「お金貯めないと手術受けられないよ」
「あ、そうか。高いんだよね?」
「うん。100万くらい」
「大変だ!」
「バイト頑張らないといけないなあ」と私は独り言のように言った。
 

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ロッテリアで1時間くらい話していたら、近くのテープルに環・美奈代・みちるが来て、私は彼女たちと目が合ってしまう。
 
「あ、ごめーん。デート中だよね? 私たち奥の方のテーブル行くね」
とみちるが言ったが
「あ、デートじゃないから気にしないで」と荻野君が言う。
「うん。一緒に話そうよ」
と私も言うので、結局テーブルをくっつけて5人でおしゃべりすることになる。
 
「今日、ハルはT君とデートすると言ってなかった?」
「デートしたよ。それで予定通り、きれいに別れてきたよ」
「へー」
「その後で、バッタリ荻野君に会っちゃって」
「それで一緒に映画見てきた」
 
「・・・デートの掛け持ち?」
「だから荻野君とはデートじゃないよ」
 
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「そもそもハルは今日はカッターとズボンで学校に出てきてたのに」
「T君とのデートが終わってから、この服に着替えた」
「なるほど。男の子としてT君とデートした後、今度は女の子として荻野君とデートしたのか」
「だからデートじゃないって」
 
その日、私と荻野君は、けっこう環たちから、その付近を追求された。
 

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「でもさあ。ハルが1学期の間、結構学生服を着てたのは、T君がその方がいいと言ってたからでしょ? もう別れたのなら、2学期はもう完全にセーラー服にしちゃいなよ」とみちるが言う。
 
「同感、同感」
「やはり、ハルの家まで行って、男物を全部没収してこないとダメだなあ」と環。
「ちょっと、ちょっと」
「だって、ハルは男物なんて持ってる必要ないじゃん」と美奈代。
 
「あ、それ、僕も思うよ」と荻野君まで言う。
 
「ほら、ボーイフレンドからも言われてるんだから、ちゃんと女の子になろうね」
とみちるも楽しそうに言った。
 
「環。どうせ没収するなら、服じゃなくて、おちんちん没収しちゃえばいいよ」
「ああ、それイイネ!」
 
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「でも没収したおちんちんどうするの?」
「令子がよく男になりたいって言ってるから、くっつけちゃおう」
「なるほど」
 
「それ、私と令子が小学1年生の頃、よく言われてたよ」
と私も笑って言った。
 
 
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