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■桜色の日々・中学3年編(7)

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夏休みに入る直前、私たちは韓国に行ってくることになった。
 
市内の中学校から200人ほどの団体で、韓国のJ市を訪れる。J市はうちの市と姉妹市になっていて、この行事は毎年行われており、向こうからもこちらに同程度の人数の中学生が訪問する。
 
人数が多いのでこちらからはB767をチャーターして「出雲縁結び空港」から泗川(サチョン)空港へ運航する。(韓国側はA330をチャーターしたらしい)
 
市内に20ほどの中学校があるので、1校あたり10人である。費用は往復の航空券(チャーター代)と宿泊費は市から出るということで、パスポートなどを取るのと、空港までの交通費、および(公的なもの以外の)食事代が自己負担である。
 
中学3年生の希望者の中から抽選だったのだが、私の名前を勝手に令子が書いて出したので、私、令子、環の3人が当選してしまった。それでパスポートを作らなきゃ!ということで、7月に入ってすぐの月曜日、母と一緒にパスポートセンターに行って申請してきた。
 
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市役所で取って来た戸籍抄本・住民票を申請書類に添付し、本人確認書類として健康保険証カードと生徒手帳を見せる。
 
「はるとさん?はるねさん?」と窓口の人から訊かれる。
「はるとです」と私は答える。ちゃんとそう申請書に書いてるんだけど。
「ああ『晴音』と書いて『はるね』なんですね。あ、ちがった、『はると』
なんですね」
「ええ。署名も HARUTO YOSHIOKA にしてますが」
「あ、ほんとですね!」
 

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書類を受け付けてもらった6日後の日曜日にパスポートを受け取ってきた。翌月曜日に学校に持って行き、やはり週末に受け取ってきた、令子・環と見せ合っていた時、
 
「あれ?ハルのパスポート・・・」と環が《そのこと》に気付く。
「性別が F になってるけど」
「え!? わ、ほんとだ!」
 
「でも、ハル、戸籍や住民票出したんでしょ? ハルって戸籍上も女なんだっけ?」
「男だったと・・・・思うけど」
と言ったが、私は急に自信がなくなった。自分の戸籍なんてしっかり見たことなかったけど、私たぶん三男だよね・・・・?
 
「あ、分かった。申請の時に生徒手帳を見せたよね」と令子。
「うん」
「ハルの生徒手帳、ハルはセーラー服着て写真に写ってるし、性別女になってるじゃん」
「それはそうだけど」
「申請に行った時もセーラー服着てなかった?」
「着てた」
「それで混乱して、 F にされちゃったんじゃない?
「ああ、あり得る、あり得る!」と環。
 
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「うーん。困ったな。訂正してもらいに行かなくちゃ」
「でも間に合う? J市に行くの、木曜日なのに」
「うーん。。。。」
「もう、これは女で通すしかないね」
 
「でも航空券の性別と違ってたら、飛行機に乗れないよ」
 
などと言っていた時、教頭先生が教室に入ってきた。
 
「おお、ちょうど3人揃ってる。君たちの分の航空券が出来てきたから、名前に間違いが無いか確認して」
 
と言って、航空券を3組渡してくれた。教頭先生が今回うちの学校から付き添いで行ってくれる。
 
「名前も年齢も間違いないです」と令子・環。
 
「・・・・先生、私の航空券、性別 F になってます」と私。
「え? あ、すまーん。間違った」
「間違っても仕方無いですよ。ハルは学籍簿で女になってますもん」と環。
「図書館の端末で生徒手帳スキャンすると、3年3組・よしおかはるね・女って表示されるよね」
 
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「いや、生徒名簿を見ながらリスト作ったのだけど、君の性別は気をつけなきゃと思ってて、気をつけたつもりが女にしてしまった。名前はちゃんと『はると』
にしたんだけど」と教頭は申し訳なさそうな顔をしている。
「いや、間違いなく、女の子だもん、ハルは」と令子。
 
「すぐに旅行代理店に持っていって直してもらってくるから」
と教頭が言ったが、その時、環が
「待って下さい。これ、このままでいいです」
と言う。
 
「今、お互いのパスポート見せ合っていたところなんですが、ハルったら、パスポート、間違って女で発行されちゃってるんですよ。ほら、先生に見せてごらんよ」
「おお、ほんとだ!」
 
「だから、バックれちゃいましょうよ、先生」と環。
「しかしバレたら、困ったことになる」
「絶対バレませんよ。ハルとはこないだの修学旅行でも一緒に女湯に入りましたよ」
「え?そうだったの? しかし女湯に入っても大丈夫なら、出入国検査くらい大丈夫か?」
「ええ、絶対大丈夫です。だいたい、ハル、セーラー服着て行く気じゃなかった?」
「うん。それはそのつもりだったけど」
 
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「セーラー服着て、男性名義の航空券持ってる方が、よっぽどトラブりますよ」
「確かに!」
 

そういう訳で、この初めての海外旅行で、私は「性別 F」のパスポートを使うことになってしまった。
 
朝、セーラー服を着て、着替えなどを持ち、パスポートも確認して母に車で集合場所の駅前まで送ってもらった。やがてやってきた令子・環、それからコーラス部とチアリーダーでも一緒の由紗ともハグし合う。
 
空港連絡バスで空港に行く。チェックインし、手荷物検査を経て、出国審査に行く。性別 F と印刷されたパスポートと航空券を提示する。
 
係の人は両者の記載を見比べているようで、こちらの顔も見てから何か訊いたりもせずに
「はい、OKです」と言って、通してくれた。
「ありがとうございます」と返事をしてパスポートと航空券を受け取る。
 
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「ほら、大丈夫だったでしょ?」と環がいう。
「まあ、この格好で性別 M だと、場合によっては別室でゆっくりとお話を、なんてことになってたかもね」と令子。
「うーん。それはそれで大丈夫だと思うけどなあ。私みたいな人、最近多いみたいだし」
 

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泗川(サチョン)へのフライトは、何だか「昇ったらすぐ降りる」感覚だった。私は隣り合った令子・環とひたすら機内でおしゃべりしていた。
 
空港では機内で書いた 性別で FEMALE にチェックを入れた入国カードを提出する。今回は外国でもあるし、さすがに私もドキドキしたが、係の人は特に何も言わずに通してくれる。
 
「カムサハムニダ」と笑顔で言って、私はパスポートを受け取った。
 
「ね。大丈夫じゃん」と環。
「うん。ちょっと開き直ってきた」と私。
「もう開き直りついでに、2学期からは完全にセーラー服で学校においでよ。ハルがこんな中途半端な状態を2年以上続けるとは思ってもいなかった」
と令子。
「ほんとほんと」と環。
 
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韓国ではいくつかのバスに分乗し J市に向かう。学校単位で別れて、J市内の中学を表敬訪問する。私たちの中学の10人(+教頭)は市内の J女子中学という所に行った。日本では女子中学というのは私立の中高一貫校でしか見ないが、韓国の場合、ソウルなどでは共学が一般的になってきたものの、地方では結構男女別学が残っているらしい。
 
校長室で向こうの学校の代表の子たちと対面する。彼女たちが着ている、いわゆる《セーラーブレザー》が凄く可愛い!
 
こちらは「アンニョンハセヨ(男子はアンニョンハシムニカ)」と挨拶し、向こうは「こんにちは」と挨拶した後は、お互いに話しやすい英語で会話した。(私はもちろんアンニョンハセヨと言った)
 
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こんな場で何を話したらいいんだ?とも一瞬思ったが、向こうが「パレーボールでこないだ全国大会まで行った」というネタを振ってくれたので、お互いの学校のスポーツ関係など、クラブ活動の話でけっこう会話が盛り上がる。みんな英語はかなり文法も怪しいし、間違った応答などもあったが、気は心で何とかお互いの気持ちが通じた感じだった。
 
しばらく話してから、音楽室に案内される。ブラスバンド部の人たちが私たちを歓迎して演奏をしてくれるということだった。彼女たちはなんと私たちのために嵐の『WISH』と、ORANGE RANGEの『アスタリスク』を演奏してくれた。
 
すると由紗が「ハル〜、私たちも何かお礼に歌おう」と言い出す。歌えそうな環も誘って、由紗と3人で急いで話し合う。
「BoAとか行けない?」
「Everlasting なら歌えるかも」と環。
「それ行こう」と言っていたら教頭先生が
「君たち、済まないけど、日本語で歌うのは・・・・」と言うので
「ラララで歌いましょう」
「OK」
 
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というので、私たち3人はアカペラで 韓国人歌手 BoA が日韓両方でヒットさせた曲『Everlasting』(日本では『TVのチカラ』のエンディングテーマに使用された)を「ラララ」で歌い出す。すると、ブラスバンドの子たちが音を出してくれたので、私たちは彼女たちと一緒にこの曲を歌った。向こうの案内役の子が一緒に韓国語で歌ってくれる。私たちは4人並んで歌った。演奏が終わると、みんな拍手。私たちは一緒に歌ってくれた子、そしてブラスバンドの子たちとも握手して、この交歓を楽しんだ。
 
その後、私たちはお昼を食堂で向こうの生徒たちと一緒に食べた後、教室で授業風景を見学させてもらったり、あちこちの部活の練習風景などを見学した。最後は、むこうの代表の子たちと全員握手して、訪問を終えた。
 
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その日の晩御飯は J市風ビビンバであった。「ここのは普通のビビンバと少し味付けが違うんですよ」とガイドさん。
 
「これ、乗ってるのユッケ?」
「そうみたいね」
などと言っていたら、「ユッケが苦手な人は加熱しますからと」とガイドの人が言うので、令子は加熱したものにしてもらっていた。私や環は生のまま美味しい、美味しいと言って食べたのだが、令子は「私、馬刺しとかも苦手だから」と言う。
 
ホテルの部屋は、私、令子、環の3人で1部屋である。10人の内(私も入れて)女子が6人なので、3人ずつ2部屋になっていた(男子は4人で一部屋)。
 
「ハルが男装とかしてきていたら、無理矢理脱がせて女の子の服を着せる所だけど、今日は最初からセーラー服だったから、手間は省けるけど、ちょっと私の楽しみが無くなった感じだな」と環。
 
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「環はハルを女装させることに燃えてるよね」と令子。
「それは令子も同じじゃない?」と環。
「ハルが女の子になっちゃうと、こういう遊びできないな」
「お手柔らかにね」と私は笑って言った。
 
「でも教頭先生からうちの親に電話あったんだよ。今度の韓国行きで、ハルを私と令子と同室にしてもいいかって」と環。
「ああ」
「うちの母ちゃんもハルのことは分かってるから、全然問題無いですと答えてた」
「うちにも同じ電話あったよ」と令子。
「修学旅行の時もハルは女子部屋で寝たんですよ、と付け加えておいた」
 
「ああ、教頭先生も大変ね」と私は他人事のように言う。
 
「そもそも、ハルはもう男の子じゃないしね」と令子は微笑んで言った。
 
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私たちはちょっと修学旅行の時のことを思い出して、その話でも盛り上がった。
 
結局あの日、私が環たちに「解剖」された後、(着衣で)かなりおしゃべりをして消灯時間になり、森田君や荻野君たちの部屋に戻ろうとした時、環たちの部屋に4組の海老原先生が入ってきた。
 
「ああ、吉岡さん、ここにいた」
「あ。はい。済みません、ちょっとおしゃべりしてました。ちゃんと男子部屋に戻りますから」
「あ、そうじゃなくて、こちらであなた今夜は寝てくれない?」
「はい?」
 
「さっき男子部屋の荻野君たちから申し出があってね。吉岡さんがあまりにも色っぽすぎて、自分たちは冷静さを保つ自信がないし、可愛い女の子がそばに寝てると思うと、とても落ち着いて寝られないから、吉岡さんを女子部屋の方に変えてくれないかって」
 
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「ああ、やっぱり」と環。
「浴衣着てるから、色っぽさがストレートに出てるよね」
 
「ねぇ、福沢さん(環)、幸坂さん(美奈代)、平野さん(みちる)、どうかしら?あなたたち3人、吉岡さんとかなり仲が良いわよね。ちょうどこの部屋は3人で、あと1つお布団が敷けるから。あるいは、我妻さん(令子)たちの部屋でもいいのだけど。あちらの部屋の4人もみんな吉岡さんと仲の良い子ばかりよね。4人部屋だけど、少し工夫すれば5つお布団敷けるかなと思って」
 
「こちらで大丈夫ですよ」と環。
「ええ。私たち、過去に何度かハルの裸も見たことあるけど、裸にしてみても女の子にしか見えないの確認してるし」とみちる。
「あれ?吉岡さんって、そんな状態なんだっけ?」
 
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「さっきも、私たちと一緒に女湯に入ってきたんですよ」
「へー!」
 

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