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■桜色の日々・男の子をやめた頃(8)

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私は母を近くにあるイタリアンレストランに連れて行った。
 
「あのね、お母ちゃん」
「うん」
「私、成人式、振袖で出る」
「・・・・・・まあ、今のあんたなら、それもいいかもね。振袖はレンタル?」
「実は買っちゃった。安いのだけど」
「まあまあ。お金ほんとに大丈夫?」
「うん。買う時、お金持ちの友達に少し借りたけど、月々少しずつ返していってる。まあ、その友達に買っちゃえ買っちゃえ、って煽られたんだけどね」
「なるほどね」
 
「ちょっとトイレ」と言って、私はトイレに立った。
戻ってくると母が
「あんた、トイレも女子トイレに入るのね」
などという。
「そりゃ、この格好で男子トイレには入れないよぉ、というか私、小学6年生の頃以降、高校卒業するまで男子トイレなんて入ってなかったじゃん」
と私は笑って答える。
「そっかー。そういえばそうだった」
 
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「バイト先にも女子更衣室に私のロッカーあるし」
「へー」
「私あんたが男になるなんて言うからさ、この2年、ずっと晴音は男の子だ、男の子だって、自分に言い聞かせてきたのに。女の子に戻ったんなら、さっさと言って欲しかったよ」
「ごめんなさい」
 
「あんた、名前はどうしてるの?」
「もう『はるね』で通してるよ。美容室とかもその名前で登録してるし。そもそも私、昔からその名前で友達からも呼ばれてたし」
「そうだったね」
「これ。私の学生証」
と言って、母に自分の学生証を見せる。
 
「何これ? よしおか・はるね、女、になってる!」
「うん。入学した時に、またまた性別間違えられて、女で登録されてたのよね。一応登録は修正してもらったけど、学生証は再発行してもらうのも面倒だしそのまま使ってたんだ。女という身分証明書があると実は便利なこともあるし」
「あきれた」
 
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「私ね、もう公式に『はるね』になっちゃおうかと思ってる。裁判所とかに行かなくても、単に区役所に届け出すだけで、読み方は変更できるんだ」
「うん。いいんじゃない? 私も中高生時代はあんたのこと『はるね』と言ってたしね」
と母も笑って言う。
 
母とそんな感じで次第に和やかな雰囲気になってきた時、携帯に着信があり、頼んでいた振袖ができたという連絡があったので、母と一緒に呉服屋さんに見に行った。早速着付けしてみますか?と言われる。和装下着セットもサービスするということだったので、着付けをお願いした。
 
「可愛い!」と母が声をあげて喜ぶ。私は母と並んだ所の記念写真も撮ってもらった。
 
「今日はいろいろあったけど、私なんか凄く幸せな気分」と母は言った。
「あんたを産んで良かったぁ、と思った」
「そ、そう?」
「あんたのことはもう諦めてたからね。それが女の子に戻ってくれたので嬉しくなっちゃった」
「私、女の子でいい?」
 
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「もちろん。あんたずっと女の子だったじゃん。それに娘の成人式に振袖着せるって親にとっては凄い夢だもん。それをあんたが中高生の時はちょっと期待してたのに、男に戻るっていうから、もうホントにがっかりしてたんだから。でも、女の子に戻ってくれたから、結局その夢が叶うわ」
「えへへ」
「次はあんたのウェディングドレス姿が拝みたいねぇ」
「それはさすがに無理かも」
 
「でも、この振袖可愛いわねえ。それにあんたに似合ってる」
「ありがとう」
「でも何だか嬉しいな・・・・成人式の時、私また出てきちゃおう」
「別に大した行事がある訳じゃないよ、成人式なんて」
「でも、そのためにこの服を着るんでしょ」
「うん」
 
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母に今の自分の生き方を認めてもらったことは、私にとって大きな勇気の源にもなった。そんな感じで、私の心の進路は次第にしっかりと、女という道を目指し始めた。
 

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10月の深夜ドライブをきっかけにして、私は進平と恋愛関係になっていった。しかし12月の初旬、私は友人からの忠告で進平が二股をしていることに気づき、そのデート現場を押さえることに成功した。
 
半ば賭けでその場でいきなりキスした上で「進ちゃん、行くよ」と言うと進平は「あ、うん・・・・」と言って席を立った。その瞬間私は「勝った」と思った。進平も一瞬迷ったかも知れないが、その瞬時の判断で自分を選んでくれたんだ!
 
その場から進平を連れ出し、私は近くのレンタカー屋さんに入った。10月に田代君の友人の川中君のツテで、そこのレンタカー・チェーンの会員証や更にはETCカードも作っていたのだが、どちらも初めての使用になった。
 
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プリウスを借り出して自分のETCカードをセットする。進平と一緒に何度も行っている中央道方面に行こうかとカーナビに河口湖を設定したら、カーナビは御殿場経由のルートを選択してしまった。直し方が分からなかったので、まあいいやと思い、そのまま車をスタートさせる。
 
すぐ近くのICから首都高に乗るようナビされるので、ランプを駆け上がる。ETCゲートを通過する。わあ、自動車学校の高速教習でやって以来だなと思う。
 
運転の方も車の運転は自動車学校以来、1年半ぶりだったが、10月にゴーカートに乗ったのでなんとなく身体がうまく自動車の動きに調和する。うん、何とかなりそうと思いながら車をナビに従って走らせていく。首都高から横浜新道・保土ヶ谷バイパスを通り、横浜町田ICを通って、東名高速の富士方面に乗る。うん。右アクセル・左ブレーキでいいよね?なーんだ。ゴーカートと同じじゃん!
 
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しかしそれで車を走らせながら進平と話していて、私が自動車を運転したのは自動車学校を出てから1年半ぶりだと言うと進平は肝を潰した感じ。
 
「ちょっと待て。どこかそこら辺の脇に停めて。俺、運転代わるから」
とは言われるものの、脇に寄せて停める自信が無い! そんなことしたら横を壁面にこすりそう。ところどころ非常駐車帯はあるものの、あんな短いエリアにきちんと停める自信もない。
 
「じゃ、次の海老名SAで運転交替しよ」
と私は言った。広いサービスエリアの駐車場なら、何とかなりそうな気がする。
 
「あ、うん。慎重に運転しろよ。スピード出し過ぎないように」
「OK」
 
結局海老名SAの路上で停めて、進平と運転を交替し、駐車枠に駐めてもらった。進平は寿命が縮む思いだったようだったが、私はものすごく気持ち良かった。運転って愉しい!と思った。
 
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その年のクリスマスイブとクリスマスは土日であったこともあり、進平やそのドライブ仲間たち8人で過ごした(ただしクリスマスイブの夜中は各カップルのプライベートタイム)のだが、その前日23日のこと。
 
街を歩いていたらバッタリ由美佳と遭遇した。「しばらく会ってなかったね」
「お昼でも一緒に食べよう」などと言って食堂街の洋食屋さんに入る。ビールメーカーの系列のお店だったので、昼間ではあったがビール付きのランチを頼んで乾杯した。
 
「ね、晴音、彼氏できたでしょ?」
「え?分かる?」
「だって、激しく恋愛中って感じのオーラが出てるよ」
「えー、私そんなオーラ出てる?」
 
「出てる、出てる。いつ彼氏できたの?」
「うーんと。10月かなあ。気づいたら恋人になっちゃってたという感じだけど」
「もうHした?」
「したよ。今餌付け中」
「おお、男は餌付けすると、壁も取れるけど本性も顕すから注意ね」
「あ、本性は知られたくない感じで隠してるっぽい。たぶん結婚して10年くらいたって実は・・・とか言い出しそう」
「まあ10年も続いたら、その後は多少問題があっても続くだろうね」
「かもね」
 
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由美佳と別れた後、デパートで進平に渡すクリスマス・プレゼントを選んでいたら、今度は田代君と遭遇した。
 
「わ、ご無沙汰」
「何か結構遭遇するね」
「そりゃ、同じ大学に通ってればね」
「なんか校内では会わないけどね」
 
「何見てるの?」
「彼氏へのクリスマス・プレゼント」
「わあ、彼氏出来たんだ!」
「田代君は何見てたの?」
「彼女へのクリスマス・プレゼント」
「お、彼女できたのね。おめでと」
「実は明日初デートなんだよ」
「ホテルは予約してる?」
「予約した。だって満杯になるもん」
「こちらも彼氏からホテルは予約済みと言われてる」
「おお、お互い頑張ろうね」
「うん」
 
私と田代君はお互いにアドバイスしながら各々の恋人へのプレゼントを選んだ。流れでお茶でも飲もうということになる。
 
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「考えてみると、元カノ・元カレという存在は便利だね。こういう場面をもし誰かに見られても、もう別れた人だから大丈夫だよ、なんて言える」
と田代君。
「ほんと、そうだよね。私は今の彼に夢中だし」
「俺も今の彼女に夢中」
「クリスマス・デートうまく行くといいね」
「晴音は彼とはいつから付き合ってるの?」
 
「田代君たちとゴーカートに行った週の金曜日」
「へー」
「雨の夜に車で送ってもらったのを機会に付き合うようになっちゃった」
「うーん。惜しかったな。その時、その場に俺が行ってたら」
「それは特に進展してないと思うよ」
「あはは」
「その夜、彼とドライブしてた時に、彼の友人カップル数組と遭遇しちゃって。何となく流れで私が彼の恋人みたいに、その場の雰囲気でみなされちゃって。周囲から恋人とみなされてしまったことで、結局ほんとに恋人になっちゃった」
 
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「ああ、そういうのってありそう。Hした?」
「したよ」
「晴音って、どこ使ってHするの?」
「S」
「S・・・・なるほど!」
「Aは私も使いたくないし、彼も使いたくないと言ってるから。お口でもしてあげるよ」
「うーん。晴音にお口でしてもらいたかった気分」
「クリスマスデートする彼女にしてもらいなよ」
「さすがにデート初日にそれは言えないよ」
 
私たちは元恋人という気安さで、その日はけっこうきわどい話もしながら、お互いの恋がうまく行くようにと励まし合って別れた。
 

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年明けてすぐの1月5日。学校はまだ始まっていなかったが、私は莉子と学食で遭遇し、進平とのことで「もっと自信を持て。結婚を目指せ」と励まされたものの、なかなか自信が持てない気分だった。
 
その莉子と会った翌日の金曜日、令子がコンサートのためまた上京してきた。令子は帰省していて、島根から直接飛行機で東京に出てきた。コンサートを見て、私のアパートで1泊してから翌日また飛行機で大学のある大阪に戻るスケジュールである。東京−大阪間はチケットの取り方次第で、飛行機の方が新幹線より安くなる。
 
コンサートが終わってから、うちのアパートに来た令子はリクエストされていたので用意していたビールを飲みながら、コンサートの感想を興奮気味に語った。
 
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私は月曜日の成人式で着る予定の振袖を取り出して取りあえず袖だけ通してみせた。
 
「可愛い! いい振袖じゃん。高かったでしょ?」
「セット価格で75万だったよ」
「おお。凄い。でもこれ手染めでしょ。よくセット75万で買えたね。生地のみで75万でもおかしくないと思うよ」
「えー、そう? やはり現金で払ったお陰かなあ。令子は成人式は?」
「お母ちゃんと半分ずつ出し合って、セット価格85万の振袖を買った」
「わあ、じゃ今度大阪に行くから見せて」
「うん。いつ来る?」
「そうだなあ・・・」と私は手帳を見ながら考える。
「28日の土曜日とかどう?」
「うん。いいよ。晴音も振袖持って来て、一緒に着てお好み焼き食べに行こう」
「お好み焼きはまずいよ!」
 
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そんなことを言っていた時、令子が、ふと壁に掛かった洋服に目をとめた。
 
「あれ? 男物の服があるぞ。まさか、また男装始めた?」
「違うよ。それは彼氏のだよ」
「おお、彼氏ができたとは聞いていたが、じゃ、よく泊まって行ってるんだ」
「うん。週に2回くらいは泊まっていくかな。今夜は彼は夜通しのバイトなんだけどね」
「ふーん。同棲になっちゃうのも時間の問題だね」
「うん。結婚できるとは思ってないけど、行ける所まで行きたい」
 
「ハル、性転換手術するつもりでしょ?」
「もちろん」
「じゃ、戸籍の性別も変更するんだよね」
「当然」
「じゃ、結婚できるじゃん」
「向こうのご両親に絶対反対されるよ」
「理解のあるご両親なら許してくれるかもよ」
「うーん。自信無いなあ」
 
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「じゃ、晴音が結婚できるかどうか占ってあげよう」
「令子、占いとかするの?」
「こないだ習ったのよ。何か本無い?できるだけ厚いの」
「これどうかな」
と言って、私は令子に本棚から英和辞典を取って渡した。令子はそのページをパッと開き、ページ数を読み上げた。
「333ページ。凄い。ぞろ目だ」
 
「ぞろ目だといいことあるの?」
「うん。さい先いいよ。これを64で割ったら・・・えっと」
「5あまり13だね」と私が答える。
「お、さすが暗算得意だね」
「中学時代に鍛えたのが今でも使えるんだよね」
「凄いなあ。13なら天下同人。一緒にやっていけるってこと。結婚できるよ」
と令子は何かの一覧表のようなものを見ながら言った。
 
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「ほんとに?」
「自信を持ちなさい」
「うん」
 
その当時は進平との将来について、更には自分自身の性別についてもまだ若干の心の揺れがあった。しかしこの夜の令子の「占い」で、私は少し自信を持つことができた気がする。
 
高校3年の秋の失恋を契機に揺れ始めた自分の方向性はこの年の年末頃、やっと定まったのだと思う。2年間にわたる迷走だったが、小学4年生の頃から女の子としての自分を生きて来た私にも、やはり迷いの時期は必要だったのかも知れない。
 

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ある時、うちの母は言っていた。
 
「あんたさ、中学・高校の頃って、ほとんど女の子していたから、この子はきっと、こういう子なんだろうな。娘と思ったほうがいいんだろうな、と思っていたのよね」
「うん。お母ちゃんから随分女の子の服、買ってもらったし学校に来て先生にこの子はうちの娘ですからと言ってもらったし。女の子としての行儀とかも教えてもらったし」
 
「あの頃も、あんた女子制服着たり男子制服着たりしてたね。やっぱり性別意識が揺れてたの?」
「自分の中では揺れてなかったけど、世間とのインターフェイスの試行錯誤はあったよ」
 
「あれ見て私は結構ハラハラしてた。だから、あんたが大学入るのを機に女の子はやめると言った時は、そっちに落ちちゃったのかなと思って残念な気分だった」
「うん。そんな顔してたね。お母ちゃん」
 
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「この子が女の子になってくれたら『娘の成人式に振袖を着せる』なんてのを体験できるんだろうかとか期待もしてたし。でも無理だったかなって思うと残念で。でも元々男の子だったんだから仕方ないかな、って諦めようと自分に言い聞かせたりしてたけど」
「ごめんね。混乱させて」
 
「そんな気持ちだったから、よけい、あんたが大学2年の秋に、突然女の子に戻っちゃったのは、ほんとにびっくりしたし、私自身も心の整理をするのに時間が掛かった」
 
「でも、あれでお母ちゃんに認めてもらったから、私、性転換手術する決断ができたんだよね」
「まあ、あんたは実質小学生のうちに性転換しちゃってたんだろうけどね」
「うん。最終的な手術を引き延ばしてただけだよね」
 
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桜色の日々・男の子をやめた頃(8)

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