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■桜色の日々・男の子をやめた頃(6)

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週末。私は由美佳たちと一緒にプールに行った。あの付近は水着用のアンダーショーツでしっかり押さえ、おちんちんの形が外には見えないようにした。
 
そして今日選んだのはワンピースタイプの水着でタンクチュニック付きのものである。高校時代は令子やカオリたちと一緒にプールに行く時にビキニタイプを着たこともあるのだが(その写真は先日の夜は涼世に見つからずに済んだ)、やはりAカップのバストでビキニはちょっと恥ずかしいかなと思い、無理せずにワンピースタイプにした。胸はちょっとだけ見栄張って水着用ヌーブラを貼り付けておいた。それでCカップ弱には見える。
 
由美佳もワンピースタイプを着てきていたが、由美佳の友人でビキニを着てきた子がいた。
 
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「わあ、すごーい」と他の友人たちからも言われている。
「ちょっとまぶしいなあ」と私も言った。
 
彼女はGカップということであった。自分もGまで行けなくてもEカップくらいになることができたらビキニを着たいなと思った。
 
その日は、みんなと一緒にスライダーを滑ったり、ボール遊びをしたり、またひとり25mプールで泳ごうと言っていた子がいたので、私も付き合って泳いだ。私は基本的に運動音痴で水泳も得意ではないが、一応クロールの型は覚えてるし、クイックターンもできるので、得意な子からは何往復分も遅れながらも400mくらい泳ぎ切って「頑張ったね」と言ってもらった。しかし400m泳いでも水着用ヌーブラは全然外れなかったし、下の方も無事だった。とりあえず水着を着ていれば、肉体はけっこう誤魔化せるもんなんだな、というのを実感した。
 
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その日はプールの後、みんなでピザの食べ放題のお店に行って女の子1200円の料金を払って、みんなで食べまくった。男の子抜きで女の子だけの気安さで、みんなよく食べる食べる。私も料金分の倍くらいは食べた気がした。これじゃ太っちゃう! とは思ったものの翌日体重計に乗ってみたら50kgで、以前と全然変わっていなかった。たくさん食べたからといってすぐ体重が増えるものでもないのね〜と私は不思議に思った。
 

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8月初旬、伸子から電話があり、夏休みの合宿をするので、また講師をしてほしいと言われた。その時期はもう私は完全に女の子の生活になってしまっていたのだが、まだ出会い系のほうはそんなに忙しくもなかったので、店長に10日間休むと伝え、特に熱心な数人の客については清花にフォローを頼んで出かけていった。スーツはまた伸子から借りた。
 
「なんか、5月の時より女らしさが増してない?」
などと伸子から言われた。
「そうですか? そんなに変わらないと思うけどなあ」
と私は頭を掻いたが、やはり男装生活しているのと女子生活しているのとでは漂わせる空気が違うのかな、という気もした。
 
例によって男女分離方式であったが、今回は中1-2年の女子クラスの英語・数学と、高1-2年の女子クラスの英語を担当することになった。
 
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中学生はやはりまだ無邪気な感じで、授業の内容自体はけっこうハイレベルであってもほのぼのとした雰囲気があったのだが、高校生はさすがにピリリとした空気がある。私はその空気を心地良く感じた。自分の高校時代なども思い出す。
 
自分が3年くらい前に受けた高2の時の夏休み補習授業の時のノリを思い出しながら授業をやったら、生徒たちもいい雰囲気で付いてきてくれた。校長と主任が初日、2日目と見学していたが「あの感じ、とてもいいです」と褒めてくれた。
 
「先生、凄く女らしくなってる。恋でもしてるんですか?」
などと生徒からも言われた。
 
年齢が近いというのは、やはり話しやすいということのようで、中学生の生徒からも高校生の生徒からも、主として恋愛問題で相談を受けた。こちらも恋愛経験って、なんだか失恋の経験ばかりではあるが、その自分の経験も交えながら話していたら、向こうもかなり気持ちの整理がついた感じだった。告白する勇気が無いなどと言っている子には、告白して振られたらそれでまたスッキリするじゃん。悶々としていたらいつまでも苦しいだけ、などと言って煽っておいた。
 
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結理が初日の晩に、私の携帯に電話してきて、相談に乗ってほしいと言った。
 
「私、すごく辛いの」と結理は泣いていた。
「どうしたの?」
「私、もうおちんちん要らない。今すぐ女の子の身体になりたい」
 
「そうだね。結理にはおちんちん要らないよね」
「先生、もう切っちゃいたいよぉ」
「じゃ、切っちゃおうか?」
「え?」
 
「良く切れるはさみかカッター持ってない?」と私は電話越しに結理に訊いた。
「・・・かなり大きな裁ちばさみあります」
「じゃ、それでおちんちん切ろう。私の言う通りにして」
「はい」
 
「血が出てベッド汚しちゃいけないし、何か敷くものがあるといいんだけど」
「レジャーシート持ってます」
「まるでおちんちんを切るセットみたい」
「えへへ。結構そうです」と結理が初めて笑った。
 
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「じゃ最初にその付近の毛をできるだけ切っちゃおう」
「はい」
 
「かなり短く切っちゃった。何か変な感じ」
「だよねー。じゃ、おちんちんの根元にはさみを当てて」
「はい」
 
「行くよ〜。 チョキン」と私。
「えっと・・・・」
 
「結理のおちんちん切っちゃった。これ要らないからゴミ箱にポイ。さあもうこれで結理は女の子になっちゃった」
「あの。。。。。」
 
「あれ? おちんちんまだ付いてる?」と私は訊く。
「ごめんなさい。切り落とす勇気が出なくて」と結理。
 
「いや、結理のおちんちんはもう私が切ってゴミに捨てちゃったよ。だから無いはず。あれ?もしかして、結理って嘘つき?」
「え?」
 
「正直者なら、もうおちんちんが無くなって女の子になっちゃったのが見えるはずなんだけど、嘘つきにはまだ付いてるみたいに見えるんだよね」
「・・・・私、嘘つきかも」
 
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「でもね。嘘つきだとおちんちんがまだ見えてるけど、本当はもうさっき私が切ったので無くなっちゃったの。だから、見えてるのはただの幻」
「幻・・・・」
 
「いわば偽物のおちんちんだね。実は存在しないんだ」
「そうか。これ偽物なんだ!?」
「そうだよ。だから安心して女の子として生きなさい」
「はい」
 
「私もね。小学3年生の時に本物のおちんちんは取っちゃって、それ以来偽物を付けてるんだよ。あと2〜3年のうちには、その偽物も取っちゃうつもりだけどね」
「へー」
 
「少し落ち着いた?」
「なんだか少し落ち着きました」
「結理、しばらく女性ホルモンさぼってたでしょ?」
「え?」
「それを昨日か今日あたりから、また飲み始めたね」
 
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「どうして、そんなこと分かるんですか?」
「女性ホルモンの飲み始めの数日はホルモンバランスがひどく崩れるから精神的にすごく不安定になるの。結理、オナニーもしちゃったでしょ?」
 
「そんなことまで分かるなんて・・・・そうなんです。もう1年くらいしてなかったのに、今日は我慢できなくなっちゃって。トイレの中でやっちゃいました。女子トイレの中で男の子の器官使ってオナニーするの凄く興奮しちゃって。でも終わった後は凄い罪悪感で。私って、どんだけ変態なんだって。自分を女の子として受け入れてくれている友だちにも悪い気がして」
 
「それも、ホルモンバランスが崩れた影響だから、気にしなくていいよ」
「はい」
 
「何か苦しいことがあったら、いつでも電話して。相談に乗るから」
「ありがとうございます」
 
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初日少し元気が無い感じだった結理は私とそんな会話を交わしたおかげか2日目からはゴールデンウィークの時のような元気さを取り戻して、積極的に発言するようになった。
 

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合宿から戻った翌日、私は大学の図書館に行って資料を探していたのだが、そこでばったり同級生の妃冴に会い、一緒にお昼を食べていて、成人式の着物をどうするのかと訊かれた。話している内に振袖を着たい気分になってしまったので、お勧めという呉服屋さんに行ってみた。
 
実は昨年の夏、そこの呉服屋さんの店頭に出ていた浴衣を買ったことがあったのだが、ほとんど通り掛かりに短時間で浴衣を買っただけであったので、さすがに店員さんも私のことは覚えていないようであった。しかし店員さんは和服の知識が皆無の私に、かなり詳しい解説をしてくれた。それで、結局そのお店で振袖を買うことにした。お金は私に「良い振袖を買った方がいい」と勧めてくれた清花が少し貸してくれた。
 
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振袖を買うことにしたことで、私の心の中の「和服スイッチ」が入ってしまって、私はその月の下旬に行われた花火大会に、昨年買った浴衣を着て出かけた。
 

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昨年は浴衣は買ったものの、うまく帯を結べなくて、結局兵児帯で適当に結んで出かけたのだが、今年は頑張って練習して、ちゃんと文庫で結ぶことができた。
 
電車に乗って会場の近くまで行く。けっこう浴衣の女性がいて、何となく心強い気持ちになった。不思議な連帯感のようなものさえ感じてしまう。
 
かなり会場に近づいた感じのところで立ち止まり、風の通りやすい場所を探して立ち止まって眺めていた。
 
打ち上げ場所までここは500mくらいだろうか。かなりの迫力だ。打ち上げの音も響いてくる感じ。でも、きれい!
 
しぱし見とれていた時、声を掛けてくる男性がいた。
 
「あれ?」
「あ、こんばんはー」
「久しぶりだね」
 
それは昨年自動車学校で一緒になった、田代君だった。
 
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「今日は彼女と一緒じゃないの?」
「ああ。。あの娘とは結局別れたんだよ。今年の5月なんだけどね」
「へー。でも念のため言っておくけど、私も交際NGだからね」
「うん。分かってる。彼氏できた?」
「ううん。今の所フリーだけどね」
 
「復縁は無しか。その方がすっきりするかもね。でも今夜はこのまま一緒に花火見てていい?」
「まあ、移動するのもお互い面倒だしね」
「そうだね」
 
私はずっと花火が終わるまで田代君と話していたが、話していて、彼と話している時の感覚と、寺元君と話している時の感覚が違うのを、昨年感じていたその正体がやっと分かった。田代君は会話しているとき、女の子が話しやすいように、そういう話題を振ってくれているし、こちらが出すファッションとかジャニーズとかの話題を、彼はうまくフォローしてくれる。つまり田代君は「女の子と話す」のがうまいんだ! でもその状態ではこちらも相手に対して異性として身構えてしまう。
 
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それに対して寺元君と話している時は「友だちと話している」感覚。涼世や令子などと話している時と似た感覚で話せる。だから寺元君との会話はストレスが無いし、リラックスできる。寺元君自体が女の子とまるで同性の友人ででもあるかのように会話する。ひょっとしたら彼って「女の子の心」を持ってるのかもね、という気もした。だからきっと、出会い系でも、あんな可愛い、どう見ても18〜19の女の子が書いたとしか思えない文章が書けるのでは?という気もした。
 

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花火が終わった後、そのまま別れるのも少し寂しい気がしたので、食事でもしようということになり、夜のファミレスに行った。
 
「ねえ、大事なこと、私ずっと言いそびれていて」
「うん?」
「私ね。実は男なんだよね」
「へ?」
 
私はバッグの中から健康保険証を出して、田代君に見せた。
 
「うっそー!? じゃ、男の娘とかいうやつ?」
「あ、そうかも。女装してなくても、私って女の子と思われがちなんだよね、子供の頃から。去年田代君と会った頃は自分では男装していたつもりが、男装になってなかったみたいで」
「今まで女の子じゃないなんて、思ったこと無かったよ」
 
「中学や高校も女子の制服で通ってたしね。でも高3の秋に失恋して女としての自分に自信を失って、やはり男として生きようかなと思ってもみたけど、無理だったみたい。結局また女の子に戻っちゃった」
「今日みたいな浴衣姿見てると、すごい美人だしね。自分は女の子だと思ってていいと思うよ」
 
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「去年はね、自分では男のつもりだったし、田代君とも男同士の友達のつもりでいたら、いつの間にか、あれ?ひょっとして恋人っぽくなってない?と気づいて。でも何となく自分の性別のこと言いそびれている内に遊園地での事件になって」
「なるほど」
「でもあの後、私泣いちゃったよ」
「ごめんね」
 
「じゃさ、取りあえずふつうに友達同士ということにしとかない?」
と田代君は言った。
「うん、いいよ」
と私は答えて、改めて携帯の番号とアドレスを交換した。
 

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