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■夏の日の想い出・仮面男子伝説(10)
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「千里、確か囲碁は強かったね?」
と私は尋ねる。
「そんなでもないよ。初段の免状しか持ってないから」
と千里。
「初段は充分世間的には超強い人の感覚」
と氷川さんが言う。
「囲碁とか将棋ができる人は俯瞰力のある人ですよ」
と雪豊さんは言ってから
「実は私もプログラム苦手なんですよ。多少の調整はできるけど」
と付け加える。
「へー!」
「私も英文科の出身だし。人とのコミュニケーションは好きですけどね」
「いや、コミュニケーション能力は結構重要ポイントだと思いますよ。でもシステムの操作しておられますよね」
「操作の仕方は、このシステムのプログラムを実際に組んでくれた人に教えてもらいました。電話やメールでやりとりしながら多少のプログラムやデータの修正もしました。でも教えられた通りに修正しただけで」
「そういえば結構電話掛けてあれこれ訊いておられたような」
「私、機械にも弱いんですよ。初日はコードのつなぎ方が分からなくて」
と雪豊さんがいうと
「私も機械音痴。カメラでもまともに写真撮れないし」
と千里。
「あ、私もカメラだめです。旅行に行っても記念写真が全滅なんですよね」
と雪豊さんは言っていた。
しかし千里はこの日の雪豊さんとの会話で、自分がSEになることに関する不安を少し解消できたような様子であった。
1月1日のお正月番組で、ハルラノが出てきていたが、慎也が女装しているので司会者から突っ込まれていた。
「あんた女になったの?」
「実は29日の年末番組で、強引に性転換手術を受けさせられちゃったんです。仕方ないから、今後は俺は女ということでやっていきますから」
と慎也。
「へー。じゃ、あんたら夫婦漫才?」
と司会者。
「夫婦になるつもりはないです」
と慎也。
「結婚は別として、慎也、女になったんなら、やらせろよ」
と鉄也。
「そのあたりは今後、個別交渉で」
ふたりは男女ペアならではの漫才のネタを披露し、かなり受けていた。
「いや、マジ面白かった。あんたら、その男女ペアという路線でいいよ。それで定着しなよ」
と司会者のベテラン・コメディアンが言っていた。
ネットでは
「慎也、マジで性転換手術受けさせられちゃったの?」
「まさか」
「そもそも29日に性転換手術を受けて、今日テレビに出てこられるわけない」
「いや、29日の放送を録画したのは実際は12月初旬らしいよ」
「だったらギリギリで可能性ある?」
などといった会話がなされていた。
「だけどあいつら男女漫才というのが結構ハマってた」
「うんうん。もう慎也は女キャラってことでいいと思う」
と慎也の性転換という「路線転換」?は視聴者の間でも好評だったようである。
1月2日は私たちは朝一番の便で東京に戻り、年始参りをした。政子とふたりで振袖を着て、最初明治神宮に初詣した後で、レコード会社、プロダクション、放送局や、上島先生・下川先生・などの自宅も訪問する。
東郷先生の自宅も訪問したが、訪問客が多数いたので、うまい具合に短時間で脱出することができた。(この先生につかまると24時間コースである)
雨宮先生の所を訪問すると、先生は何だか不機嫌だった。
「どうしたんですか?」
「千里が勝手に一般企業に就職とかするからさ」
「私もびっくりしました」
「あんた卒業したら、たくさん仕事してもらおうと思ってたのにと言ったらさ、それはそれでちゃんと頑張りますから許して下さいと言った。それで私も一応許すことにした」
と雨宮先生。
「だから千里にはこれまでの2倍の仕事を渡す。とりあえず今月中に書けと言って10曲分のタイトルを渡した」
「可哀想!」
「だけどできるんですか?ソフトハウスなんて凄く忙しそうなのに」
「まあ何とかするんじゃない?」
「これまでも千里の仕事量は信じられないです。だってファミレスの夜間バイトを週に3回、土日には巫女さんのバイト、それでバスケットもやってて、全国レベルの大会まで行ってる。一方で学生も一応やってて、それで作曲家としての活動もしていて、かなり良質の曲を生み出している。どう考えても時間が足りない」
と私が言う。
「だから千里は3人くらい居るか、あるいは千里の1日は48時間くらいあるかどちらかだよね」
と雨宮先生も言った。
1月2日深夜。
12月29日の「性転の伝説Special」で予告された「ハルラノの慎也の性転換手術」の様子をレポートする「これが性転換だ!」が深夜24:30(1月3日0:30)からという枠で1時間半にわたって放送された。
(なお「性転の伝説Special」内で、アクアが「性転換手術の権利は視聴者の方に」と言ったあとで、司会者が「こちらの宛先まで」と言った所では実際のテロップは『ごめんなさい。倫理委員会の許可が出なかったので性転換手術のプレゼントはありません』というのが流れていた)
番組は「性転の伝説Special」で慎也が女装させられている所から始まる。この様子を慎也だけ撮影していたのが全く計画的である。それから「性転の女王」が発表され、慎也が警備員に拉致されていく。救急車に乗せられてやがて病院に到着する。それで血圧やら心電図やら測定されている様子。
「ね、ね、これジョークだよね?」
と本人は言っているが、医者や看護師は無言である。
やがて病室に運ばれていき、女性看護師に剃毛される。さすがに性器は映らないようにぼかしが入っているが、毛が剃られていく様子はしっかり映っていた。
医師がやってきて診察した上で「手術は明日行いますから、本日は飲食禁止です」と言って引き上げる。
不安そうな顔の慎也だが、やがて消灯時間になり、いつしか慎也は寝てしまう。その熟睡しているところが暗視カメラで撮影されていた。
ここで国内で性転換手術を多数手がけている、東京の有名医院の医師が出演して性転換手術の術式に関して説明をする。このあたりの視聴率は深夜の放送なのにかなり高かったらしい。
「性転換手術といえば、基本的には男性器除去と、女性器形成の手術を同時にあるいは連続しておこなうことを言うのですが、人によっては女性器の形成まではしなくてよいとおっしゃる方もあります。その場合、睾丸を除去して陰茎を切断するだけという方もあります」
と医師は説明する。
「陰茎の切り方も、先端の亀頭部分だけ切って欲しいとか、単純に外に見えている部分を切って欲しいという方もあります。この場合、排尿は普通の男性と同様に立ったまますることも可能です。もっとも陰茎の見えている部分全部切ってしまうと、ズボンとパンツは下げないと無理ですが」
「しかし排尿も女性と同様になりたいという方も多くて、その場合は陰茎の体内に埋まっている部分まで掘り起こして完全に除去します。そして尿道を女性の尿道口と同じ位置に開口させますので、そうするとおしっこは座ってすることになります」
「なんか聞いてるだけでお股がむずかゆいんですけど」
とインタビューをしている古屋疾風さんが言う。
「更にはこの時に大陰唇・小陰唇を同時に形成して欲しいという方も多いです。ここまですると、股間の外見は完全に女性と同じになります」
と医師。
「女湯に入れる身体ですね?」
「そうですね。完全な性転換手術の場合は、この他、亀頭の一部を利用して陰核を形成し、また陰茎や陰嚢の皮膚、尿道壁などを使用して膣を形成します。陰茎や陰嚢が長年の女性ホルモン投与で萎縮していて足りない場合、大腸の一部を切り取って使う場合もあります」
医師の説明に対して古屋さんが尋ねる。
「そういう手術をした場合、女の快感が得られるものなんですか?」
「まず陰核を作る時に、神経もちゃんとつなぐようにしますので、陰核を刺激されるとちゃんと性的な快感が得られます。性的に興奮するとカウパー腺から分泌液が出ますが、これは女性のバルトリン腺と同じものなので、ちゃんと湿潤する女性器になります。特に陰茎に付いていた尿道の壁を膣を作る時に取り込んでおくと濡れやすくなるようですね。また、女性が膣で感じる性感というのは実はGスポットで感じているのですが、女性のGスポットというのは男性の前立腺の残存したものなので、人工的に作った膣に男性の陰茎が挿入されると前立腺が刺激されることから、むしろ天然女性より大きな快感が得られる場合もあるようです。実際女になったあとの方がセックスが気持ち良くなったとおっしゃる方もあるんですよ」
「みんなそうなるんですか?」
「そのあたりは個人差もあるようで、不幸なことに全然快感を感じられない方もあるようです」
「じゃ、そのあたりは運ですかね」
「まあそうですね」
番組はその後、豊胸手術に関しても古屋さんが医師に質問し、これも色々なやり方があることを医師は説明した。
「おっぱいに詰める詰め物ですが、今は生理的食塩水を使うんでしたっけ?」
「一時期シリコンが危険だと言われて、生理的食塩水が使用された時期もあるのですが、やはり感触が悪いんですよ。それで最近は丈夫なシリコンバッグを使用するのが主流です」
「万一バッグが体内で破裂したら?」
「その場合でも中身が飛散しないように加工したシリコンジェルを使用していますので、すぐに手術すれば安全に取り出せます」
「だったら安心ですね」
「古屋さんもおっぱいだけでも大きくしてみます? いつでも自由に触れるおっぱいがあるっていいですよ」
古屋さんは答えに一瞬詰まってから
「そんな、迷っちゃうようなこと言わないで下さい」
と言った。
その後番組では、性転換手術を経験している人にインタビューする。「性転の伝説Special」にも出演した花村唯香は顔出しでインタビューに応じていたが、その他4人ほどの性転換者に顔は映さず、Vネックの服から豊かなバストの谷間が見えている所だけ映しながら会話したり、1人の女性はビキニの水着姿を映して、特に股間のスッキリしたラインにズームアップしたりしながらあれこれ質疑応答していた。花村唯香は国内で手術しているが、他の4人の内国内で手術したのは1人だけで、後の3人はタイで手術したと言っていた。
またインタビューを受けていた中のひとりは(法的に)結婚しているということで、顔出しはしていないものの夫とふたりで出ていた。ふたりは夜の生活もふつうにしているし、お互い満足していますよと語っていた。結婚式で多数の友人たちに祝福されている写真も見せていた。
このあたりもかなり視聴率が高かったようである。
番組は場面が切り替わって朝5時である。慎也が入院している病室に医師が入ってくると、腕に注射したようである。
「今慎也さんに麻酔を打ちました」
と小さな声で古屋さんが言う。
「これから手術室に運び込みます」
と古屋さんが言うと、看護師が2人でベッドのキャスターのロックを外し、静かにベッドを廊下に運び出す。エレベーターを降りて2階の手術室に運び込んだ。そして「手術中」のランプが点灯した。
ここでローズクォーツのスペシャルライブが入る。
オズマ・ドリームの2人を含むローズクォーツが演奏している中、女装のタカ子が『美少女製造計画』『胸を膨らませる君』『取っチャオ』の3曲を熱唱した。
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