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■夏の日の想い出・仮面男子伝説(4)

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2014年12月1-7日はKARIONの『皿飛ぶ夕暮れ時』の制作を行ったが、このPVの制作に、千里に協力してもらった。
 
「つまり料理の載った皿をテーブルに向けて投げて、テーブル上で停止すればいいのね?」
「うん。できるかな?」
 
それで「停まりやすいように摩擦係数の大きなテーブルクロスを用意したのですが」とスタッフさんが言ったのだが
 
「それでは皿だけ停まって料理が飛んで行きます」
と千里は言う。
 
「あ、そうかも」
「レースか何かのテーブルクロスがいい気がします」
 
「用意します」
ということで、準備してもらう。それで千里はまずは空の皿を5mほどの距離から投げて感触を確かめていた。1枚だけ飛びすぎて割れたが、他は全部テーブルの中で停まる。更に皿の上にトイレットペーパーのロールを入れて投げてみる。最初ロールが飛び出し、それで調整しすぎたのか2回目は届かずに落ちて皿が割れてしまったが、3回目以降はきちんとテーブル・オンし、向こうにも飛び出さずちゃんと納まっていた。
 
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「行けると思う。料理乗せてみて」
「了解。じゃ、美空そこに座って」
 
それで美空がナプキンを付けナイフとフォークを持ってテーブルに座っていると千里がバミー・ヘーン(タイ風焼きそば)の入った皿を5mくらいの距離から投げる。
 
皿はピタリと美空の目の前で停まり、美空がマジでびっくりする。
 
その様子が全てカメラに納められた。
 
和泉・小風・そして私も交代でテーブルに座り、様々な料理の入った皿が目の前に飛んできては停まる。和泉がやっていた時にトムヤムクンのスープの皿が着地の振動で揺れて汁が少しこぼれてしまった。
 
「完全な汁物は難しいですね。それとろみを付けますよ」
と料理人さんが言う。
「その方がいいかも。お願いします」
 
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ということで。トムヤムクンはとろみを付けてこぼれにくい状態にして飛ばした。
 
撮影は準備や練習も含めて3時間ほど掛けたが、残った料理は千里も含めてみんなで美味しく頂いた。もちろん美空がみんなの3倍くらい食べた。
 

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撮影が終わってから、私は千里を自宅マンションに誘った。
 
政子と一緒に3人でお茶を飲みながら色々おしゃべりをする。
 
「こないだ水戸で会った人ってユニバーシアードの監督なんだって?」
「そうそう。私に『代表候補』に入ってくれないかと言われた」
「代表候補?」
「ユニバーシアードの代表は一応今年の夏に10人ほど選ばれて練習をしていたんだけど、人数が少なすぎて試合形式の練習ができないという声が出ていたんだよ。それで更に10人くらい候補者を追加して20人程度で本番に向けて合宿とかをしようという話になっているんだって」
 
「へー。でも例のFIBAの制裁が解除されないと出られないんでしょ?」
「うん。それで今事態を収拾するための特別委員会を作るべく水面下で動きがあるんだけど、びっくりするような人物がその中心人物として浮上している」
 
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「びっくりするような人物?」
「誰?」
「さすがに言えない。きっと反発も凄いだろうけど、そういう人を使うしかないというのが、今のバスケ協会の混乱を表しているんだろうね。でも彼なら何とかするかもと思ったから、私はその話を受けることにした」
 
「じゃ、千里代表になるんだ?」
「代表候補ね。最終的に選ばれるのは12人。最初に選ばれた10人も状況次第では落選があり得るから気を抜けないね」
「いや、そのくらいの競争があったほうがいいと思うよ」
 

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そのあと若葉が先日赤ちゃんを産んだことを話すと、千里もあとでお見舞いに行ってくると言っていた。しかし千里は更に
 
「私も子供作っちゃった」
などと言った。
 
「千里妊娠したの?」
という問いに千里はただ
「もうすぐ4ヶ月目に入る。私が産む訳じゃないけど」
と答える。
 
「じゃ、千里、父親になるの?」
と政子は尋ねるが
 
「私、その子とお母さんになってあげる約束をしたんだよ」
と千里は答えた。
 

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千里はその付近のことについてはあまり答えないまま、AYAのインディーズ時代の実質的なプロデューサー・アキ北原さんのことを話し始めた。
 
「音楽系の高校を出たあと、大学の法学部に入り、司法試験の短答式までは合格した。でも卒業すると司法試験の勉強はせずにバンド活動を始めた」
 
「よく分からない生き方だ」
「雨宮先生があいつは迷走人生だって言ってたよ」
 
そして千里はアキ北原さんについて衝撃の事実を語る。
 
「性転換してもう女の身体になっていたんだ。でも彼女が性転換していたなんて誰も知らなくて、私も雨宮先生も、他の姉妹弟子とかも、みんな北原さんは普通の男性だと思い込んでいた。仮面男子ってのかな」
 
その時、私は先日あきらが語っていた、性転換手術をしたのに男装して運転手をしていた人がいたという話を思い出していた。やはり変更後の性別で社会的に活動することに物凄い壁があるので、そういう妥協をしている人もあるのであろう。
 
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あの時、そういう人は性転換手術はしていても「性転換した」とは言えないのではと、あきらさんたちとは話したなと、私は思い起こしていた。
 

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12月12日金曜日。ローズ+リリーの今年の冬のツアーが始まった。
 
初日は那覇で、例によって麻美さんと友人の陽奈さんを招待している。麻美さんは「私もう治ったのにいいのかなあ」などと言いながらも来てくれるということであった。
 
今回のツアーの伴奏はスターキッズ&フレンズに何人か追加の演奏者をお願いしており、一部の人を除いて全公演に付き合ってくれる。
 
ローズ+リリーのライブは毎回オープニングには色々趣向を凝らしているのだが、今回は地元の三線(さんしん:いわゆる蛇皮線)の演奏者に入ってもらい、以前沖縄に来た時に書いた『サーターアンダギー』という曲の沖縄方言版を歌うことにしていた。
 
1ベル、2ベルが鳴り、スターキッズの伴奏が始まる。三線の音も気持ち良く響く。まだ幕は上がっていないが私たちは歌い出す。
 
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その時、私は「あれ?」と思った。
 
幕を開ける前に演奏を始めるのは、わりとよくやる演出なのだが、その場合たいてい演奏が始まった時点、あるいは前奏が終わって歌に入った時点で結構な拍手が客席から聞こえてくる。
 
ところがこの日の観客は静かに聴いているようで拍手がなかった。
 
まあその時によっていろんなお客さんがいるしと思って私とマリは歌っていく。1コーラスを歌い終えて、間奏が入り、2コーラス目に入るのと同時に幕がゆっくりと上がり始めた。私たちは幕の向こうにいるお客さんたちに手を振りながら歌い続けたのだが・・・・。
 
え?
 
幕があがった向こうには誰も観客が居なかった。
 
嘘!?
 
正確には、客席の前の方でホウキを持って掃除をしている青い制服を着た掃除のおばちゃんがひとり居るだけである。
 
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私とマリはその状況に戸惑いながらも歌い続ける。マリが混乱している。こちらを見るが私はしっかりと見返して、力強く歌い続けた。それでマリも一緒に最後まで歌ってくれた。
 

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終曲。
 
私は掃除のおばちゃんが1人居るだけの客席に向かって
 
「ありがとうございました」
と言った。
 
「ケイ、お客さんがいないよぉ」
とマリが泣きそうな顔で言っている。
 
チラっとステージ後方に目をやると、三線の演奏者さんもかなり戸惑ったような表情。しかしスターキッズ&フレンズはみなポーカーフェイスだ。プロの演奏家として、どんな場合にでも自分の仕事を全うしなければならないことを彼らは認識している。
 
「マリ、アーティストはね、ギャラをもらってステージに立った以上、観客が1人でも0人でも歌うもんなんだよ」
と私は言った。
 
「そういえば、私たち酔いつぶれた人ばかりの公園で歌ったことあったね」
「そうそう。全員観客は寝てたよね。XANFUSの音羽なんて、アマチュアバンド時代に、猫1匹という状態で歌ったこともあるらしいよ」
 
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「猫か! それもいいなあ」
 
マリが気を取り直すことができたようだったので、私はMCをする。
 
「みなさん、こんにちは。ローズ+リリーのケイと」
と私。
「マリです」
とマリ。
 
「ここの所寒いですね。沖縄に来たら暖かいかと思っていたのですが、昨夜到着して寒さにびっくり。セーターやコートを念のために持って来ていて良かったです。昨夜はマリと一緒に町食堂に行って、ゴーヤチャンプルーを食べたんですよ。マリは3皿食べて、私のも半分食べたんですけどね」
 
そんなことをマイクに向かって話していたら、掃除のおばちゃんがこちらに向かって
 
「あんたたち、何やってんの?」
と言った。
 
「ローズ+リリーのライブなんですよ。今から2時間ほど演奏しますので、もし良かったら作業の傍らでもいいので聴いてください」
 
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「そんなライブなんてあったんだ? ホールに誰もいないから、掃除でもしてようと思ってたんだけど」
とおばちゃん。
 
「はい。こちらもお仕事の邪魔はしませんので、どうぞ掃除していてください。それでは次の曲に行きます。一昨日発売したアルバムの曲から『花の里』。聴いて下さい」
 
と私が言って、近藤さん・七星さんを見ると頷く。
 
前奏が始まったところで、掃除のおばちゃんはステージに登ってきた。
 
「ちょっと、ちょっと、あんたたち観客がいなくても構わないの?」
 
私はその時、そのおばちゃんの正体が分かってしまった。
 
「プロの音楽家はステージを頼まれた以上、たとえ客が誰もいなくても最高の演奏をするもんなんですよ、ヨナリンさん」
 
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その私の言葉にヨナリンは「参った!」という感じのポーズをした。そしてホールのいちばんステージ側のドアから「芸能人ドッキリショー」というプラカードを持った放送局のスタッフさんが入ってくる。
 
「あ、ドッキリだったのか!」
とマリが驚いたような声で言った。
 
近藤さんや七星さんが笑っている。三線の演奏者は手を口に当てて驚いている様子だ。
 
「ケイちゃん、どこで分かった?」
とヨナリン。
 
「ステージに登ってこられた時に分かりましたよ。一瞬、のど仏が見えたし」
と私。
 
「参ったなあ」
「でもヨナリンさん、けっこう女性っぽい声出してたじゃないですか? その女装もあまり不自然さが無いし」
 
「まあこれは芸よ。ゲイの芸というか」
「そうですか。ちなみに私はゲイのケイですけど」
 
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「あんた、私と組んで漫才やらない?」
「50年後に考えます」
 
「でも良かったぁ。ローズ+リリーの人気無くなっちゃったかと心配した」
とマリ。
 
「マリちゃんは全然気付かなかったのね?」
「気付きませんでした!」
 

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このやりとりは、ロビーに置かれたモニターで、ホールの外で待機している観客にも伝えられていた。
 
あらためて幕を下ろし客を入場させる。そして公演は20分後に仕切り直しすることになった。
 
「昔、西城秀樹がやはりこのドッキリ仕掛けられたことあったよ」
と仕切り直しを待つ間に、初日なので沖縄まで来てくれている★★レコードの加藤課長が言った。この仕掛けは加藤さんも知らなかったようだ。氷川さんが「伝えてなくて済みません」と謝っている。知る人を最小限にしておきたかったのであろう。
 
「やはり古典的なイタズラなんですね?」
「西城秀樹がやられた時は、前半はふつうにやって、休憩をはさんで後半を始めた時に客が居なかったんだよ」
「ああ、そういうのもありですかね」
「でも大がかりなドッキリですね」
「うん。これだけの人数を動かさないといけないからね」
「でもお客さんが楽しんでくれたらいいですよ
 
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やがて時間になる。私たちはステージに立ち、また幕を下ろしたまま『サーターアンダギー』の沖縄方言版から始める。今回は歌が始まるのと同時に物凄い歓声と拍手が来た。マリがその歓声に感激した様子だったので、私はすばやくキスをした。それでマリはとても嬉しそうな表情で、しっかりと歌い始めた。
 
やがて間奏が終わり2コーラス目に入った所で幕が上がり始める。またまた歓声が凄い。私たちは那覇マリンセンターの3200人・満員のお客さんに手を振りながら、その曲を歌っていった。
 
 
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