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■夏の日の想い出・仮面男子伝説(8)
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目次 8
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ローズ+リリーのツアーは、21日には富山公演を行った。この公演ではオープニングに青葉のサックスをフィーチャーした『こきりこロック』を演奏し、前半最後の『苗場行進曲』では彼女たちの軽音楽部の人達に演奏しながらの行進をしてもらった。
「ノーギャラでごめんね〜」
と幕間に着替えながら私は彼女たちに言う。
「薄謝なら歓迎しますよ〜」
「拍手だったりして」
「でも鱒寿司美味しいです。頂いています」
彼女たちは総勢32名である。受験勉強の最中ではあるもののローズ+リリーのライブにゲスト出演するという話を聞いて参加した3年生6名もいる。彼女たちのおやつに、鱒寿司の輪っぱを20個用意していたのだが、あっという間に無くなりつつある。
「明後日は長岡公演でしょ? このまま富山に滞在なさるんですか?」
と質問が出る。
「スタッフの大半は明日1日富山で休暇。でも私とマリは明日朝7時の飛行機で東京に戻って、23日また新幹線で長岡に移動する」
「たいへんですね!」
「そういえば君たち全員女子かと思ったら1人男子もいたのね」
彼は私たちが着替え中なので遠慮して外に出ている。
「あ、翼にもお寿司あげなきゃ」
と言って、2年生の空帆が、ちょうど半分くらい残っている輪っぱを1つ持って外に出て行く。
「でも彼、女子制服を着てたけど、男の子になりたい女の子、じゃなかった、女の子になりたい男の子なの?」
「本人は否定してるね」
「でもだいぶ女装させたね」
「今日も全員女子制服着てるのに、ひとりだけ男子制服がいたら変だよと言ってその気にさせた」
「似合ってると思うけどなあ」
「女声の発声については興味あるみたいで練習してますよ」
「へー」
「でも鈴を割る役で出たアクアちゃんも凄い美少年ですね」
「いや、あの子は美少年という枠を越えている。むしろ美少女」
「あの子、女装すればいいのに」
「女の子キャラでも絶対売れるよね〜」
この手の話が好きなマリがワクワクテカテカな目をしていた。
「知人の息子さんって言ってましたけど、どなたの息子さんなんですか?」
「秘密」
私は翌日22日に東京に戻ると音羽・光帆の新しいマンション選びに協力した。ついでに購入代金も立て替えておいた! このマンション選びには千里にも協力してもらった。
こちらも富山公演と長岡公演の間の谷間だったが、千里も自分のバスケチーム40mimutesが21日,23日に試合があって、ちょうどその谷間であった。私は23日にローズ+リリーの長岡公演をした後、24日は横浜でKARIONのライブをした後、東名・富士五湖道路を走って河口湖でのローズ+リリー公演に出ている(なぜか美空が付いてきた)。
25日は私のマンションに、千里と氷川さんが来ていた。
「千里、40minutes、関東選手権進出おめでとう」
「ありがとう。冬のローキューツも関東選手権には出るから、いよいよ両者の対決があるかもね」
40minutesは21,23日の東京都クラブバスケット選手権が江戸娘に次ぐ2位で関東クラブ選手権に進出したが、ローキューツも12月6-7日の千葉県クラブバスケット選手権で優勝して、同じく関東クラブ選手権への出場を決めている。
「どちらも全国に行けるといいね」
「行きたいね」
関東クラブ選手権は16チームが出るが5位以内に入ると3月に行われる全日本クラブバスケット選手権に出場できる。
その後、各種音楽賞の話や最近の歌謡界の話題などを話していたのだが、政子が「おやつが無い」と言い出す。
「今、筑紫もち、長崎物語、かもめの玉子に、中田屋のきんつばまで食べた気がするのだけど」
「私、イチゴショートかモンブラン食べたい」
「じゃ、マーサ、自分の好きなの買って来なよ」
と言って私は政子に1万円札を渡す。
「よし。行って来よう。冬、フィールダー貸して」
「いいけど、ぶつけないようにね」
「大丈夫、大丈夫」
と言って政子は出かけて行った。
「ひとりで大丈夫?」
と千里が心配して訊くが
「こないだからだいぶ私が助手席に乗って練習させたから、無謀なことしない限りは大丈夫と思う」
と私は答えた。
「ところで、私、こないだから千里や氷川さんに訊きたいと思ってたことがあるんだ」
と私は話を切り出す。
「何?」
「何ですか?」
「マリはデビューした当初から物凄く歌がうまくなった。私はそれをずっと一緒にいて、しっかりと感じていたんだけど、私自身はどうなんだろうと思って」
「冬は歌、うまいよ」
と千里。
「でも私は本当に上手くなっているんだろうか。それとも劣化していたりしないだろうかって、突然不安になったんだ。みんな私は歌がうまい、うまいと褒めてくれるけどさ」
と私は言う。
千里は目をつぶって考え始めた。氷川さんは本棚の方に目をやり、そちらも考えているようであった。
「ケイさん、松原珠妃が目標だって言っておられましたね」
と氷川さんが言う。
「ええ。さっきもその話、少ししたけど、私にとっては姉のような人なんですよ。小学生の頃の私を指導して鍛え上げてくれたんです」
「2008年にデビューなさった時、松原珠妃とケイちゃんの距離が1万kmあったとしたら、今は5000kmくらいだと思います」
と氷川さんは言う。
「まだ、半分かぁ」
と言って、私は目をつぶり、天井を向いた。
しかし千里は目を開けておもむろに言った。
「私の見解としてはさ」
「うん」
「レオナルド・ダ・ビンチと、パブロ・ピカソのどちらが優秀な画家かって議論できると思う?」
と千里は言った。
「それはどちらも凄すぎて比較できるものではないと思う」
と私は言う。
「優秀な芸術家はね。優劣で言えるものではないんだよ。そこには個性があるだけなんだ」
と千里。
私は千里の言葉を受け止めて少し考えた。
「つまり自分の道を究めろということか」
「松原珠妃の後を追っていたら、冬、単に彼女のフォロワーにしかなれないよ」
私はドキッとした。
それって・・・・ずっと以前に松原珠妃からも似たようなことを言われたぞと私は思った。
やがて政子が戻ってきたが、ケーキの箱を4つも抱えている。
「そんなに食べるの?」
と私が訊くと
「もし入らなかったら美空と穂花(シレーナソニカ)を呼ぶ」
と政子は言っている。
「政子、車はぶつけなかった?」
と千里が尋ねる。
「あ、大丈夫、大丈夫。ちょっとDとRを間違って、後ろを壁にぶっつけたけど、お店の人はこのくらい大丈夫ですよと言ってた」
と政子。
「ぶつけたのか!」
と私は呆れて言う。
「特にへこんだりはしてなかったよ。塗装がちょっと剥げてたけど」
と政子。
私は頭を抱えた。
12月29日に放送された『性転の伝説Special』は物凄い反響であった。一部からは非難の声もかなりあったものの「凄い、これレギュラー番組化してください」という要望もかなり寄せられた。
なかでも50点満点を取った4人についてはtwitter上でみんな物凄いツイートが発生していた。
「もう本騨真樹は『まさき』じゃなくて『まき』ちゃんでいいよな?」
「まきちゃんはこのまま女の子キャラということで」
「ヒロシがスカート穿いてるって発言、これ放送して良かったのか?」
「私、ヒロシにスカートのプレゼントしてあげよう」
「まあ、大林亮平もそれなりにきれいだよな」
という感じでこの3人に関するツイートの量は3:5:1くらいであった。しかしアクアに関するツイートは彼らの10倍はあった。
「可愛い!これだけ可愛ければもう男でも構わん」
「これ絶対男の子だっての嘘でしょ。本当は女の子なんじゃないの?」
「ドラマでは院長の娘役ということでいいじゃん」
「この人の親って誰?」
「アクアちゃんに童貞を捧げたい」
あっという間に本人の個人情報も流出する。学生服姿の写真が広まったものの
「ほんとに男の子だったのか。でも脳内でセーラー服姿に変換するよ」
「これ実は学生服コスプレの写真じゃないの?」
「アクアちゃんのズボンを脱がせて**を**してあげたい」
「アクアちゃんを拉致して女の子に改造したい。ダメなら俺が女に性転換してアクアちゃんに抱いてもらいたい」
と暴走は停まらなかった。本名が田代龍虎というのも流出し「かっこいい名前だ」という声が多かったが、番組でミュージシャンの息子と言われたこと及びケイがライブで知人の息子さんと言っていた話との整合性については、みんな首をひねっていた。彼の父親あるいは母親に関する情報は、彼の友人などからも特に出ず、両親ともふつうの小学校の先生らしいということで、ネット上では、有名人という訳ではなく何か個人的なことでケイとのつながりがあったのだろうという推測に落ち着いたようであった。また母親の担当教科が音楽ということでもしかしたら、そのお母さんが一時期音楽家として活動していたのでは?という説も出たものの、結局詳細は不明であった。
「ところで慎也はあれどうなったの?」
「まあ性転換されちゃうんじゃない?」
「テレビの番組でそこまでしちゃっていいわけ?」
「以前、若手タレントをホモバーに突撃させてた番組あった」
「見た見た。間違いなくやられちゃったよね、あれ」
「しかし性転換はさすがにまずいのでは?」
「いや、ΛΛテレビなら、やりかねん」
「美容整形の番組とかもやってるしね」
年末のRC大賞はワンティスの『フィドルの妖精』(高岡猛獅・FK)が受賞した。
金賞(9作品)のラインナップは
小野寺イルザ『夜紀行』(風間絵美・上野美由貴)
狩野信子『みちのく恋の花』(八雲春朗・海野博晃)
KARION『アメノウズメ』(森之和泉+水沢歌月)
工藤天海『通りすがりの犬』(金浦勝吾・田中晶星)
しまうらら『ギター・プレイヤー』(ヨーコージ)
スカイロード『お寿司万歳』(田宮圭吾・後藤正俊)
ハイライトセブンスターズ『月と雨傘と君』(焙煎公社)
松原珠妃『ナノとピコの時間』(ヨーコージ)
ローズ+リリー『Heart of Orpheus』(マリ&ケイ)
また最優秀新人賞は松川光次が取り、その他の新人賞(4名)は、阪元アミザ・篠崎マイ・遠上笑美子・南藤由梨奈が受賞した。
(各々五十音順)
授賞式は30日に収録されたのだが、私は東京公演の出番前に放送局に入り、KARIONとローズ+リリーの両方で賞状をもらい各々ステージで歌った。(KARIONの時はピンクのドレス、ローズ+リリーでは赤いドレスを着た。メイクも変更した)しかしローズ+リリーで歌うのにスタンバイしていたら、松原珠妃が「ちょっと来い」と言って私をステージに引き上げ
「11年ぶりのナノとピコのツーショットです」と言ったので、会場が
大いに沸き、たくさん写真を撮られた。
後日、蔵田さんからヨーコージ名義の作品の賞状のコピーと賞金、上島先生からはFK名義の賞状と賞金をもらった。RC大賞の賞金で高岡さんの取り分に関しては、高岡さんのお父さんから長野夕香さんの遺族に渡して欲しいという申し出があり、お母さんに全額渡されることになった。
ローズクォーツの『Rose Quarts Plays Sex Change −性転換ノススメ』に企画賞をという話もあったようだが、猛反発もあり凄まじい議論になったらしい。この件に関してはローズクォーツ側から、もしそういうお話があっても辞退したいという意向が伝えられたことから選考委員会は分裂の危機を回避したようである。
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