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■夏の日の想い出・いと恋し(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-04-26

 
中学1年の時、私は学校では「猫をかぶって」普通の男の子の振りをしていた。声もだいたい男声で話していた。
 
私が実は、かなり女の子であること、女の子の声が出せること、実は女の子の服をしばしば着ていることを知っていたのは、ごく少数の人間だけであったし、知っている人もみなその一部だけを見ていて、私の「女の子度合い」の全貌を知る人はたぶんいない。
 
中学1年の時期、私の生活の中心になっていたのは陸上部の活動である。平日は毎日夕方4時から6時くらいまで練習をしていた。しかし土日は練習が無いので、毎週土曜日は小学5年生の時に知り合った津田アキさんの民謡教室に行って、三味線と唄のお稽古、それにアキさんの娘さんの麗花さんにピアノを習っていた。ただし毎月第三土曜には、私は新幹線で名古屋まで行き、伯母の風帆さんがやっている民謡教室で、若山流の三味線を習っていた。
 
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当時私はアキさんの斡旋でしばしば民謡の大会や演奏会の三味線伴奏やお囃子などをして、その謝礼をもらっていたので、その謝礼をこれらのお稽古代や交通費の原資に当てていた。これはいわば私の「裏会計」である。
 
そして私は津田さんの民謡教室や名古屋に行く時は、いつも姉から譲ってもらった中学の女子制服を着ていたのであった。この女子制服は現行の女子制服とデザインは似ているのだが、ラインの形などが少し違うものである。この服は私は近所の奈緒の家に置かせてもらっていて、私は普通の男の子(?)の格好で奈緒の所に行き、そこで着替えさせてもらって、お稽古へと行っていた。それで私はこの服をくれた姉にも女子制服姿はほとんど晒していないのである。(早朝出発する時は公園のトイレなどで着替えたこともある)
 
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ある時、陸上部で親しくなった美枝がうちに遊びに来たことがある。美枝は私が大量のクラシックCDを持っていると聞いて、聴かせて、聴かせてと言って来たのであった。
 
「私も3歳の時からピアノとヴァイオリン習ってたんだけど、小学校の4年生くらいで挫折しちゃったのよね〜」
「なんで?」
「だってそのあたりから弾く曲が結構難しくなってくるでしょ? どうしてもそのレベルに付いていけなかったんだな。やはりそういう難しい曲を弾きこなすには結構な練習が必要だったけど、私あまり練習好きじゃなかったし」
「なるほどねー」
 
「レッスンの度に先生から『全然出来てない』『練習してないでしょ』と叱られるばかりだったよ、当時」
「まあ、どんな天才でも練習せずにうまくなることはないから」
 
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などという話をしていた時、美枝はふと私の部屋の隅に立てかけてあるギターケースに目を留めた。
 
「あれ、冬、ギター弾くんだ?」
「え?ギターは弾かないよ」
「だって、そのギターケース」
「ああ。これ!」
 
私は微笑んで、それを開ける。
 
「三味線!?」
「そうなんだよねー」
 
と言って、私はギターケースの中に入っていた三味線を取り出すと組み立てて調弦し、その三味線で『禁じられた遊び』を弾いてみせた。
 
「三味線でもギター曲が弾けるもんなんだ!」
「そりゃ弾けるよ。特に三味線はフレットが無いから、西洋音律の音も出せるからね」
「でも今のちょっと不思議な世界だった。でもなんでギターケースに?」
 
「うちのお母ちゃんが昔三味線やってて挫折して、今は三味線見るのも嫌だっていうからさ。それで三味線ケースも見たくないらしいから、ギターケースの中に納めている。エレキギターのケースと三味線ケースってほとんど同じサイズなんだよね〜。中は若干加工したけどね」
「面白いことするね〜」
 
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私たちの世代は学校によって違いはあるが、小学校の内から英語の授業を受けていた子たちが結構いる。私が通った小学校は、愛知の方の小学校でも東京の方の小学校でも、週に1回外国人の先生が来て、簡単な英会話を中心にした授業をしていた。
 
またどうせ英語を学ぶなら本物の発音にたくさん触れた方がいいと言って、母が洋画のDVDをレンタルしてくると、英語モードでそれを家の中で掛けていた。それで私は英語の発音に自然に親しんでいた。
 
中学に入って本格的な英語の授業が始まったが、私がきれいな発音でテキストを読むので、英語の担任の花崎先生は褒めてくれたが、2ヶ月もする内に、私の発音に時々首をひねる場合があった。ある時、授業の後で廊下に私を呼び出し訊いた。
 
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「あのね、あのね、唐本さん、英語の発音、いつもきれいなんだけど、それがふつうにきれいな時と、すごくきれいな時とがあるんだけど、なんでだろ?」
「さ、さあ、なんででしょうか?」
 
私はその理由には若干心当たりはあったのだが、この時期それをバラす訳には行かなかった。「すごくきれい」なのは女の子下着を着けている時なのであるが私が時々女の子下着を着けていることを知っていたのは若葉くらいであった。
 
6月、英検の4級を受けに行った。英検は学校によっては、学校自体を会場にして全員受けさせる所もあるようだが、うちの中学は受けたい人だけ受けようということだったので、会場になっている近隣の※※高校まで行った。私はこの日は奈緒の所に寄って女子制服に着替えてから、同じ日に受ける奈緒と一緒に会場に向かった。
 
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「でも英検の試験会場には冬の中学の子も結構来てるんじゃない?この制服姿を見られたりして」
「うーん。その時はその時だな。でも私、女の子の服でないと調子出ないから」
 
「ああ。冬って、女の子の服を着ている時と、男の子の服を着ている時でパワーが全然違うもんね〜」
と奈緒は楽しそうに言う。
 
「でも女子制服着ててさ、受験票の名前が男名前だったら替玉受験を疑われたりしないかな?」
「あ、それは大丈夫。だって私の受験票、これだもん」
と言って、私は奈緒にその受験票を見せる。
「おぉ! Ms. Fuyuko Karamoto になってる!」
 
と奈緒は嬉しそうな声を挙げた。
 
校舎の途中で別れて各々の受験教室に行く。私はそのまま席に就き、机に伏してあまり他の受験生に顔を見られないようにしていた。そして机に伏したままヨガの呼吸法を使って心を落ち着かせる。
 
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試験の点数というのは、その時の精神状態で、かなり左右されるものなのである。
 

試験はほぼ完璧に解答できた感じであった。やはり、女の子の服を着てると頭の働き方が違うなあ、と我ながら思い、楽しい気分になる。
 
試験時間が終了し、答案用紙が集められて解散となる。私は取り敢えずトイレに行ってから帰ろうと手近のトイレに入った。
 
試験が終わった後なので、列がかなり長くできている。まあ仕方無いよね、という感じで待つ。私は女の子の服を着ている時は、トイレには必ず余裕を持って行くようにはしていたが、こういうイベントの合間の時はけっこう我慢が大変な場合もある。
 
列がなかなか進まないので、できるだけ他のことを考えようと思い、ちょっと後ろを振り向いた時、私よりも5人ほど後に並んでいる女の子と目が合ってしまった。
 
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「あれ?」などと言われるので、私は自分の場所を出て彼女の所に一緒に並んだ。
「お疲れ〜、貴理子ちゃん」
 
それは小学校の時の同級生で、中学でも同じクラスになっている貴理子であった。
 
「・・・もしかして、冬ちゃん?」
「えへへ。今日は運良く誰にも顔を合わせることなく、試験場まで来たと思ったのになあ」
「この服着てるの、初めて見た。セーラー服作ったんだ! あれ?これ私の制服と少し違う」
 
「お姉ちゃんからもらった服なんだよ。3年前にデザイン変わっちゃったからね。念のため学校に電話して確認したら、お姉ちゃんとか先輩とかから譲ってもらったという場合は、この服で通学してもいいらしい」
 
「へー。じゃ、これで通学しておいでよ」
「いや、それがちょっと恥ずかしい気がして」
「冬ちゃんがセーラー服着てても、誰も変に思わないと思うよ」
「そうかなあ」
 
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「それに、冬ちゃん、そんな声も出るのね?」
と貴理子は小さい声で訊く。
 
「うん。学校で使ってる声はなんちゃって声変わり」
と私も小さい声で答える。
 
「へー。冬ちゃんって色々面白い子だなあ。あ、でもその声が出るなら、合唱部に入れるんじゃない?」
「それ、倫代にも言われたんだけどねー。当面は陸上部1本で行こうかなと思ってる」
「ふーん」
 
「貴理子ちゃんはずっと吹奏楽だね」
「うん」
「中学でもベルリラ打ってるんだっけ?」
「ジャンケンに負けちゃったんだよ〜」
「ありゃ」
 
「今クラリネット吹いてる。やっとまともに音が出るようになってきた所」
「凄いなあ。フルートにしてもクラリネットやオーボエにしても、木管楽器って吹ける気がしない。以前雑誌の付録に付いてたプラスチック製の横笛吹いてみたけど全然音が出なかったんだよね〜。クラリネットなんて私が吹いたら音出すのに1年かかりそう」
 
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「うーん。冬ちゃんって器用だし他人の動作をコピーするのがうまいから、人の演奏を聴いた上で、集中して練習すればひょっとしたら一週間で音出るようになるかも」
「まさか!」
 
「いや、あれ個人差があるんだって。オーボエは本当に難しくて、みんな、音が出るまでにかなり掛かるんだけどさ。フルートやクラリネットって、すぐ出るようになる子とかなり時間が掛かる子がいるんだよ」
「へー」
 
「私は特に要領悪いと先輩から言われた」
「うーん。。。」
「冬ちゃんって凄く器用だからね」
「そうだねー。器用貧乏とは言われるけど」
「きっとほんとに短期間で音が出るようになるよ」
「そうかなあ」
 
「ね、ね、合唱部は女子だけだけど、吹奏楽部は男女混合だからさ、私と一緒にクラリネットやらない? 1年女子はクラリネット担当が最初3人いたのに、辞めちゃってさ。今私ひとりだけなのよ」
「1人ってのは辛いね〜」
 
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彼のことはT君と書いておこう。
 
最初に彼に会ったのは6月中旬に新幹線に乗って名古屋にお稽古に行く時であった。
 
その日はかなり混雑していた。まだ東京駅で発車を待っていた時のこと。私はふたり掛けの席の窓側に座っていたのだが、私の席の近くでも席を諦めて立って乗る態勢の人たちがポツポツと出始めていた。私の隣は空いているものの、女子中生の隣というので、男の人などは遠慮している雰囲気であった。
 
そこに
「すみません、ここ空いてますか?」
と訊いてきた、高校生くらいの男の子がいた。
「はい、空いてます。どうぞ」
と私は女声で答える。
 
「助かった。失礼します」
と言って彼はそこに座ってきた。
 
彼は小さな楽器ケースを持っていて、それを席の上の棚に乗せた。その隣には私のギターケースが置いてある。
 
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「そのGibsonのギターケース、君の?」
「あ、はい」
「へー。エレキギターするんだ?」
「いいえ」
「あ、エレキベースだっけ?」
「いえ、私は三味線です」
「三味線? それ、Gibson製の三味線?」
「いえ、岐阜県で職人さんが手作りしたふつうの三味線ですね。ケースは中身とは無関係です」
 
「へー、ギブソンじゃなくてギフケンか。でもギターケースに三味線入れるって変わってるね」
「ええ。ちょっと事情があって」
「ふーん、面白い」
 
それがきっかけで彼は私にどんどん話しかけてきた。
 
「僕はヴァイオリンやってるんだけどね。今日は友人のオーケストラにエキストラで参加しに行くんだよ」
「どちらまでですか?」
「大阪。それで8月のこちらの公演には彼が東京に来てエキストラ参加してくれることになっている」
「いろいろ大変なんですねー」
 
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「どこの楽団もけっこうメンツ足りないからお互いに協力しあってやりくりしている感じかな」
「へー」
 
「君、ヴァイオリンとか弾かない?」
「触ったこともないです」
「ヴァイオリンは面白いよ〜。三味線弾けるんならヴァイオリンも弾けそうだけど」
「全然違う楽器という気がしますけど。胡弓なら分かるけど」
 
「君の『胡弓』の発音、変」
「ああ、『胡弓(こきゅう)』の『きゅう』にアクセントを置いて息を吸う方の『呼吸』みたいに発音なさる方もおられますね。少なくとも私の流派では『こ』の方にアクセントを置きます」
「へー!」
 

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私は名古屋まで少し寝ておきたかったのだが、彼は1時間半しゃべりまくっていて、私は寝ることはできず、その間ずっと彼の話に付き合うことになった。
 
ちょっと疲れたので、名古屋駅で降りて駅裏の地下街で30分休憩してから地下鉄で教室へと行った。
 
「すみませーん。少し遅くなりました」
「許容範囲、許容範囲。まだお稽古スタート時間の10分前だし」
「お稽古前のお掃除できなかった。後片付けで頑張ります」
「うん、頑張って」
 
急いで練習用の和服に着替えたが、着替えている最中に教室に顔を出していた従姉の美耶に突然後ろから抱きつかれた。
 
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