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■夏の日の想い出・いと恋し(2)

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「わっ」
「ふふふ。冬ちゃん、女の子が板に付いてるね〜」
「えへへ。うちのお母ちゃんには内緒でよろしく〜。あ、ご結婚おめでとうございます」
「ありがと。ね、ね、でもさ、これ胸あるよね。女性ホルモン飲んでるの?」
「天地神明に誓って飲んでません」
「ほんとかなあ。嘘つくと、閻魔様におちんちん取られるよ」
「それは好都合です。でもホントに飲んでないんですよー」
 
この時間帯にお稽古の入っている生徒さん7人ほどと一緒に、先生の三味線に合わせて演奏をする。美耶も来た以上入れと言われて一緒に弾いている。この中にはとってもうまい人もいるし、まだ初心者という人もいるが、一緒に演奏することで、うまい人にしても初心者にしても、それぞれ学ぶものがある。
 
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「冬ちゃんの三味線、すごーくきれいだよね。ひょっとして私よりうまくない?」
と、この組の中で最上級の人から言われてしまう。
 
「私の三味線はこういう場では先生に合わせようとするから、結果的に先生の三味線を実質コピーして弾いてるんですよね。だから合奏でなくて独奏の時はそれなりに下手くそです」
と笑って答える。
 
先生(風帆)も言う。
 
「そうそう。この子はコピーが物凄くうまいのよ。だから、この子の演奏を聴いてて、私は自分の悪い癖に気付いてしまう。私がお稽古代払わないといけないんじゃないかと思うこともあるよ。でも独奏や伴奏ではまだまだ**さんには遠く及びませんよ」
 
「コピーがうまいということは、新しい楽器なんかもすぐ覚えたりして」
「ああ、行けるかもね。冬ちゃん、胡弓ちょっとやってみる?」
 
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「あ、何か楽しそうとは思って見てました」
 
それで、休憩時間に風帆は胡弓を取り出してきて『越中おわら節』を弾く。
 
「さて、コピーできるかな?」
「えっと。そもそも私、胡弓触ったことないし」
「じゃ、触ってみよう」
 
と言って伯母は自分の胡弓を貸してくれた。
 
「これ、どうやるのかな・・・・」
 
と言いながら取り敢えず弓を引いてみる。
 
「ぎゃっ」
 
ノコギリのような音が出る。弓が物凄く震えて腕に伝わる衝撃が大きく、私はすぐに演奏を中断してしまった。
 
「ああ、さすがに一発では無理か。胡弓本体を斜めにしてるし、弓も曲がってるもん。それ水平に動かさなきゃ」
「あ!そうか。弦に対して弓を直角に動かさないとダメですよね」
「そうそう」
 
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それで私は胡弓をまっすぐ抱えて、弓を弦と直角になるよう水平に動かしてみた。
 
「おお、けっこういい音出るね」
「いえ、まだ不正確ですね」
と私は言いながら、ポジション・角度を調整する。
 
「へー、かなり良い音になってきた。ほんとにちょっと勉強してみない?」
「そうだなあ。ちょっとやってみようかなあ」
 
「やると、三味線と相互にプラスになると思うよ。冬ちゃんの性格って、何かひとつに打ち込むより、色々なことをした方がその各々も良くなっていくでしょ?」
「はい、それは自覚してます。私、基本的に何でも屋で便利屋なんですよ」
 
「じゃ胡弓、1個取り寄せてあげるよ。代金は出世払いで」
「わあ、ありがとうございます」
 
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私はこの時、胡弓はこの教室に取り寄せてくれて、来月のお稽古の時から教えてもらえるものと思っていた。
 

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私はその日、初めて触った胡弓で結構良い音が出たのが嬉しくて、少し楽しい気分で名古屋駅に向かい、新幹線に乗り込んだ。うまい具合に空いていた席があったのでそこに座る。
 
それで頭の中で今日習ったことを再生してみていた時「あれ〜、また会った」
という声。T君だった。
 
「あら、こんにちは」
「ここ、空いてる?」
「はい」
「ラッキー、ラッキー。新大阪から名古屋までは立ってたんだけど、名古屋で結構降りるだろうから空き席ができないかなと思って探してたんだ」
「それは良かったですね。演奏会はどうでした?」
「うん。いい演奏ができた。観客が少ないのが問題だけどね」
「ああ。ああいうの、チケットさばくの大変そう」
 
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「うん。楽団員を集めるのも大変だけど、チケット売るのが更に大変なんだよ。しかも実はチケットを全部売ったとしても1公演あたり10万くらいの赤になるんだけどね」
「あらあら」
「今日行った楽団にしても、うちの楽団にしても補助が出てるからそれで何とかなってるんだ」
「大変なんですね」
 
それで結局彼は名古屋から東京までもひたすら1時間半、しゃべりまくった。えーん。帰りも寝られなかったよぉ。家に帰ったら仮眠しよう。
 
などと思ったら
 
「ね、ね、今日これからうちの楽団の練習があるんだけど、ちょっと見に来ない?」
などと彼に言われた。
 
私は眠たいしと思ったので何とか断ろうとしたのだが、押しの強い彼の誘いに負けてしまい、東京駅で自宅に電話を入れた上で、彼に付いて練習を見に行くことにした。
 
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練習場所は地域の公民館であった。
 
「あ、こちら見学者の・・・あ、ごめん名前なんだったっけ?」
と彼は私を紹介しようとしたが、私の名前は忘れていたようであった。
 
「唐本です。初めまして。みなさんの練習見学させてください」
「わあ、可愛い。中学生?」
「はい」
「楽器何かするの?」
「あ、ギターケース持ってる。エレキギターするの?」
「いえ、これ中身は三味線です」
「えー!?」
 
集まっている楽団員は12〜13人ほどであった。楽器ごとの人数を数えてみた。ヴァイオリン3人、ヴィオラ・チェロ・コントラバス各1人、フルート、クラリネット、オーボエ各1 トランペット・トロンボーン・ホルン各1人。ヴァイオリンはどうもT君が第一ヴァイオリンで、残りの2人が第二ヴァイオリンのようである。会話を聞いていると、どうもT君はその第一ヴァイオリン首席、つまりコンマスのようである。
 
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室内楽編成に近いが、本来はヴァイオリンがもう少しいるのだろうし(第一ヴァイオリンが1人しかいないというのは有り得ない)、この他にファゴットあたりが入るのではという気がした。
 
この編成でその日はヴィヴァルディの『四季/春』第一楽章、アルビノーニの『アダージョ』、チャイコススキーの『くるみ割り人形』から『金平糖の踊り』
と『花のワルツ』を演奏した。
 
『金平糖の踊り』では、ホルンの人(女性)が鉄琴を弾き(本来チェレスタだろうが高価なので鉄琴で代用しているのであろう)、クラリネットの人(男性)がバスクラリネットに持ち替えて、鉄琴とバスクラで高音と低音の呼び合いを演奏する。
 
『花のワルツ』冒頭の本来はハープで演奏する部分は、『金平糖の踊り』で鉄琴を弾いていた女性が更に電子キーボードに移って演奏した。この編成に電子キーボードというのは変なのでおそらく本番ではグランドピアノを使うのであろう。
 
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「本当はあと第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンにチェロが1人ずつ、ホルンがあと1人、それにファゴットとティンパニがいるんだけど、今日は来てないんだよね」
 
とT君は説明した。それでも全部で19人。室内楽団としても小規模な部類になる。
 
「以前は学校の部活だったんだけど、人数が足りなくて楽団の体を成さなくなってしまって、3つの高校と2つの中学の管弦楽部が合同で去年この楽団を結成したんだよな。建前的には各々の学校の管弦楽部が合同で練習しているということになっていて、各々の学校から部費は支援されている。一部OBやそれ以外のも入っているのは形式上は協力者」
 
などと言っている。5つの楽団が合同して20人ということは元々の各楽団は4〜5人ずつだったということか??
 
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「ブラスバンド部とか軽音部とかは人が集まるみたいだけど、管弦楽はなかなか集まらないみたいで」
 
「ヴァイオリンのパートって第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンですよね。今日来ておられる人が1人+2人。であと2人おられるとしても2人+3人。少なくないですか?」
 
「そうなんだよ。本当は第一に6人、第二も4人くらい欲しいんだけど、勧誘できる人がいなくて。一応8月の演奏会にはあちこちから頼んであと3人加わることになっている」
「大変ですね」
 
「そうだ!唐本さん、ほんとにヴァイオリンやってみない?三味線弾けるってことはさ、耳で音程を確認しながら音を鳴らせるってことでしょ?ヴァイオリンも行ける気がするんだよね」
 
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「そんな無茶ですよー。ヴァイオリンなんて触ったこともないし」
 
「じゃ、ちょっと僕のを触ってみない?」
と言って、T君は私に自分のヴァイオリンを渡した。
 
私はちょっと困ったものの、とりあえず見よう見まねでヴァイオリンを肩と顎で支えると、今日の民謡のお稽古の時に胡弓でやったのと同じ要領で、弓を弦に対して垂直になるようにしっかり持ち、音を出してみた。
 
「凄い! ちゃんと音出るじゃん」
「今のは少し濁ってましたね。引き方が甘かったかな」
 
と言って私はその場で多少の試行錯誤をして、きれいな音の出る弓の引き方を見つけた。
 
「凄い。あっという間に音がきれいになった」
「正確に音程取ってるね。絶対音感持ち?」
「君、才能があるよ」
「いや、いきなりこんなに弾けるって天才だ」
 
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などと他の楽団員にまで言われる。
 
「ほんとにヴァイオリン触ったことなかった?」
「ええ。初めてです」
 
「ヴァイオリンは触ったことないけど、ヴィオラやチェロはやる、なんてことは無いよね?」
 
「そんなのもっとないです。ただ、私コピーの天才とか物真似の天才って言われるんですよ。他人がやっているのを見て、その通りにやってみるのが得意で。音も私絶対音感は無いですよ。たださっきの音を覚えていただけです」
 
「それも凄い」
「ああ、だから僕らが弾いてるのを見て、それと同じように弾いてみたんだ!」
「ええ、そんな感じです」
 
「それなら、僕らの演奏を見てたら、すぐ楽曲も覚えてしまわない?」
「うんうん。ヴァイオリン奏者、ひとりでも多くしたいし」
「自信が無ければいちばん後ろで弾いてもらえば、ミスっても目立たないよ」
 
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「うんうん。それで8月の公演に出ない? チケット売ってとかは言わないし。純粋に演奏するだけでいいから」
 
「ヴァイオリンは僕のを貸してあげるよ。僕ヴァイオリン3丁持ってるから、今度別のを持ってくる」
とT君が言っている。
 

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そういう訳で、なんだか、なし崩し的に、私はこの楽団に8月の公演までの限定で、加わることになってしまったのである。
 
休憩時間には楽団の女性メンバー、フルートの人とホルンの人の所に寄って行き「お疲れ様ですー」などと言って、言葉を交わしておいた。こういう場で女性同士仲良くなっておくことは、短期間ではあっても集団に溶け込むのに必須である。ふたりとも近隣の高校に通う高校2年生ということであった。
 
取り敢えず握手して。私たち3人の間では「冬子ちゃん」「Eさん」「Aさん」
と名前で呼び合うことになる。
 
「でもEさん、ホルン吹いて鉄琴弾いて、ピアノも弾いてって忙しいですね」
「そうなのよ。3種類の楽器で練習しなきゃいけないから大変。もっともホルンなんて自宅では吹けないから、自宅では鉄琴の所も含めてクラビノーヴァで弾いてみているだけだけどね」
 
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「でもEちゃんは器用だよ。やはりこういう小さな楽団ではEちゃんみたいな便利屋さんがいないと、なかなか回らないから」
とフルーティストのAさんも言う。
 
「ところで、冬子ちゃんってT君のガールフレンド?」
「違いますよ〜。ただ新幹線で隣の席に乗り合わせただけです。何かあの人強引で、半ば拉致されてきました」
「ああ、ありがちありがち」
「無茶苦茶押しが強いからなあ」
「それが長所でもあり欠点でもあるけどね」
「でも、やっぱりT君が女の子と付き合う訳無いよね」
 
Aさんのその言葉を後で思い出して私は愕然とすることになる。
 

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取り敢えず翌日、私はT君と待ち合わせてカラオケ屋さんに行き、そこでT君が持って来たヴァイオリンを借りて音を出してみた。
 
彼はいきなり楽曲を弾かせようとするのではなく、入門者用の教本を見せて、そのステップに沿って教えてくれた。私が課題をどんどんクリアするので、その日、教本の半分まで終わってしまった。
 
「君凄いね。学校の部活では何かやってないの?」
「私、部活は今は陸上部だけです」
「すごーい! スプリンターなんだ!」
「いえ、短距離じゃなくて長距離の方なので」
「へー。じゃ肺活量とか凄いんじゃない?」
「肺活量はこないだ測ったら6000ccでした」
「すごー! あ、そうか民謡で鍛えてる分もあるんじゃない?」
 
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「そうですね。蝋燭を前に立てて、その火を消さないようにずっと声を出し続けるとかやってますよ。ブレス無しでだいたい3分間は発声できます」
「すげー!! 3分も。だったら、管楽器とかもできそうだなあ」
「管楽器で吹けるのはリコーダーくらいですね」
「フルートとか吹かないの?」
「吹いたことないです」
 

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