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■夏の日の想い出・いと恋し(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-04-27  
その水曜日にはソプラノクラリネットを調達できたという連絡があった。その日は日中は陸上部の練習があったので、練習が終わった後、夕方にリーダーさんと落ち合って楽器を受け取った。
 
「ごめんね。忙しいみたいなのに。ちょっとだけお茶飲まない?おごるから」
 
というので近くのスタバに入る。リーダーさんは大学生である。わあ、大学生だとやはりスタバか、などと思う。私が友人達と「お茶を飲む」というと100円でコーヒーやドリンクが飲めるバーガーショップだ。
 
「キャラメルマキアート美味しいよ」
と勧められて頼んだが凄く甘い! 美枝とかこういうの好きそう、などと思った。
 
「唐本さんって、Tと付き合ってる訳じゃないよね? あ、これここだけの話にするし、付き合うのは個人的なことだからこちらは干渉しないけど」
 
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ああ、干渉しないとは言ってはいるけど、実際団員間の恋愛問題にはセンシティブになるだろうなと私は思った。
 
「全然です。私、ほんとにたまたま新幹線で隣同士の席になって、私半分寝てたんですけど、彼がひたすらしゃべりまくって。ついでに練習見に来て来て、と連れてこられただけで。私、他に好きな人いますから」
 
「ああ、Tってそういう所あるかも知れないなあ」
とリーダーは笑っていた。
「あいつ色々強引でさ。それで他の団員と摩擦が起きがちで困ってるんだよね」
 
自分の楽団のコンマスを私という一応外部の人間の前で卑下するのって、どうなんだろうと私は少し不快に感じた。あるいはT君と相性が悪いのだろうか。T君もリーダーのことをあまり良く言ってなかったし。
 
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「ところで、EさんやAさんとも親しくしてるみたいね」
「そのあたりは女の子同士のネットワークで」
「Eさん、Aさん、って彼氏いそう?」
「ふたりともそれはいないみたいですよ。いたら結構女同士で分かっちゃうんですけどね.同じ学校に片想いというより憧れている人はいるみたいだけど、ボーイフレンドとかいうレベルまでも到達してないみたいです」
 
「そうか。じゃ杞憂だったかなあ・・・・」
 
その時、リーダーは辞めたクラリネットの人がEさん、Aさん、あるいは私と恋愛関係にあり、その恋愛上のトラブルで退団した可能性も考えて探りを入れてきたのかもということに思い至った。恐らく8月の公演までは不問に伏すものの、それを過ぎたらこの問題をきちんとするつもりでいるのだろう。
 
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その日リーダーからクラリネットの本体を受け取りはしたものの、その週は私はひたすらマウスピースだけを吹いていたので、管をマウスピースに取り付けてみたのは、土曜日の夜のことだった。取り敢えず音階程度は吹けるようにしておいた。
 
そして日曜日。公演の一週間前。
 
結局クラリネット奏者の調達はできなかったということだった。
「唐本さんの方はどう?」
 
「まだこの程度です」
と言って『クラリネットをこわしちゃった』を吹いてみせる。
 
「おお、できてる!」
「しかしぶっそうな曲を」
 
「音が出たというだけのことです。吹きこなすにはまだかなりの練習が必要です」
「それでも一週間でここまで吹けるようになるってすごい」
「ほんとに初めての楽器に強いね」
 
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マウスピースをバスクラに付け替えて、鉄琴のEさんと合わせてみる。
 
「少しずれたけど、これは一週間あれば何とかなる気がする」
 
そこで引き続きクラリネット奏者は探すものの、見つからなければ私が吹くという線で進めることになった。楽団所有のバスクラも借りていき練習することにする。
 

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帰り道、T君が話しかけてきた。
 
「唐本さん、良かったら僕と少し練習しない? そちらが空いている日に僕の家に来てくれたら、僕がピアノか何かでチェレスタパート弾くから、それにバスクラを合わせてもらえたら」
「そうですね。水曜と木曜にはEさんと会ってカラオケ屋さんで合わせてみることになってるから、火曜と金曜の午前中なら」
 
「うん。それで行こう。**線の**駅まで来てくれたら、迎えに行くから」
「ありがとうございます」
「あ、じゃバスクラは僕が持って帰ろうか? ヴァイオリンとソプラノクラリネットにバスクラリネットって楽器を3つも持つの重そうで」
「じゃ、ヴァイオリンもいったんお返ししますね。ヴァイオリンよりクラリネットの方の練習を優先した方が良さそうだし」
 
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ということで、私はバスクラとヴァイオリン(T君から借りたもの)を渡し、ソプラノクラリネットのみ持ってその日は帰宅した。
 

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月曜日は学校に陸上部の練習に出ていった際に、吹奏楽部にも立ち寄って貴理子に声を掛け、クラリネットを見てもらった。
 
「うん。マウスピースだけでの音出し、ちゃんと正確な音で出てるね」
「それで管も接続して吹いてみたんだけど指使いが怪しくて怪しくて」
 
と言って、問題の『金平糖の踊り』の所を吹いてみせる。
 
(ソプラノクラリネットとバスクラリネットの指使いは同じである。これらは移調楽器になっている。特にソプラノクラリネットとバスクラリネットは丁度オクターブ違いで同じ音である)
 
「ああ、確かに怪しげな指使いだ。取り敢えず私が吹いてみせるね」
と言って貴理子が正しい指使いで吹いてみせる。
 

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「管楽器って同じ音を出すのにも色々な指使いがあるからね。試行錯誤的に探してたら標準と違いすぎる指になっちゃうかも」
「確かに」
 
「今回、特に大事なのは低い音域だよね」
「うん。記譜上で真ん中のファ#からオクターブ下のファ#まで」
 
(クラリネットは「移調楽器」なので記譜上のファ#は標準のソプラノクラリネットでは2度下のミの音になり、バスクラリネットならその更にオクターブ下の音になる)
 
「そういう低音域はシャリュモー音域というんだけど、わりと音自体は出やすいんだよねー」
 
と言ってその付近の音を再度出してみせる。
 
「これより上、記譜上でファからシ♭くらいまでがスロート音域といって、ちょっと難しいんだよ。私もまだ下手」
 
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と言って貴理子がその付近を吹くがちょっと音が不安定である。
 
「あ、今回私が吹くのはその音域入ってない」
「さすがに初心者には辛いよね。この上はクラリオン音域といってきれいな音が出る」
 
と言って、貴理子が吹くとクラリネットは美しい音を出す。
 
「あ、『金平糖の踊り』以外で私が吹くのはほとんどその付近だよ。もう1回吹いてみせて」
「OK、OK」
 
と言って再度吹いてくれるので運指を頭に叩き混む。
 
「この上はアルティッシモ音域というんだけど、これは指使いだけじゃなくて息づかいも重要だから、さすがにまだ冬には無理かな」
 
「ああ、その付近は譜面に書いてあっても無視しよう」
「実は私もこの付近はピアニッシモで吹けと言われたらできませんと言う」
「高い音を弱く出すのは難しいよね」
 
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火曜日。私は**駅まで行き、駅の公衆電話からT君の携帯に電話した。すると駅のすぐ近くで待機してくれていたようで、彼はすぐ来てくれた。
 
T君の自宅は駅から歩いて5分ほどの所にあるマンションであった。
 
「マンションで楽器の音出して大丈夫なんですか?」
「昼間は大丈夫だと思うけどなあ。夜間はピアノとかも音を小さくして弾くけどね。マンションって天井と床の間の防音性がいいから」
「へー」
 
私が「お邪魔します」と言って中に入って行くと、T君のお母さんは驚いたような声を挙げた。
「どうかしましたか?」
「いや、Tが女の子の友だちを連れてくるなんて珍しいと思って」
「お母ちゃん違うよ。ガールフレンドとかじゃなくて、楽団の今度の公演に臨時に参加してもらう人だから。セッション部分を合わせておきたいから連れてきたんだ」
「ああ、そうでしたか。ちょっとびっくりした」
 
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それでもお母さんは私を歓迎してくれて、美味しい紅茶を入れてくれたし、「10分ほど買物に行ってくる」と言って出かけて、ケーキを買って来てくれた。
 
ただの楽団関係と言ってはいるものの、私が彼女になる可能性ありと見て親切にしてくれているのかな?と思えて、ちょっとくすぐったい気分だった。
 
その日は彼とはそんな恋愛的な要素は無しで、ひたすら練習を重ねた。
 
「唐本さん、ほんとに飲み込みが速い。どんどんうまくなっていく」
「でもこんな素人の演奏をお聴かせしていいのかなとちょっと後ろめたいんですけどね」
 
「唐本さん、楽器は三味線以外は全然したことないんだっけ?」
「エレクトーンとピアノを自己流で少し弾きますよ」
「へー。ピアノ、ちょっと弾いてみてよ」
「そうですね」
 
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私はT君のアップライトピアノを借りると『くるみ割り人形』の『行進曲』
を弾いてみせた。
 
「すごーい! 僕よりうまいじゃん。ほんとにそれ自己流なの?」
「お友だちに教えてもらったりはしたけど、きちんと教室とかに通ったことは無いです」
「それでそんなに弾けるって凄い。やはり唐本さん、楽器の天才だよ」
 

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その水曜日も先週に続けて陸上競技場が取れないというこで陸上部の練習は学校になったので、練習の後、吹奏楽部に出てきている貴理子にクラリネットの演奏自体を見てもらった。そして夕方、今度はカラオケ屋さんで待ち合わせて Eさんと演奏を合わせてみる(何だか忙しい日だった)。Eさんは折畳み式の鉄琴(グロッケンシュピール)を持って来ていた。
 
「へー。これ横折りなんですね」
「うん。縦折りのはよくあるけどね」
 
小学生用の木琴などには、2オクターブの音域の半分の所で左右に折りたたむものがよくあるが、これは幹音と半音で前後に折りたたむ方式になっていた。
 
「でも済みません。練習に付き合ってもらって」
「ううん、こちらこそ。そもそも見学に来ただけだったのに、唐突にヴァイオリン弾いてとかクラリネット吹いてとかごめんねー。でも凄いね。クラリネットなんて音出るまで普通1ヶ月かかるなんていうのに」
 
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「えー!? そうだったんですか?」
「ヴァイオリンだって、まともな音が出るようになる前に挫折する人も多いしさ」
「ああ、それはよく聞きますね」
 
しかしその日学校には学生服で出て行ったし、周囲の目があったので貴理子とも男声で話した。夕方はEさんが私のことを女の子と思っているので、セーラー服を着て出て行き女声で話している。頭の中が混乱して、学校で1度女子トイレに入りそうになり、このカラオケ屋さんでは逆に男子トイレに入りそうになった。トイレ問題に関してはマジで自分の頭が付いていかない。
 
女の子2人でカラオケ屋さんにいると練習はしているものの、おしゃべり部分もついつい長くなってしまう。私たちはおやつを注文して食べながらおしゃべりを随分していた。
 
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「へー。じゃ去年結成した時は50人くらいいたんですか」
「そうそう。だから普通の小規模なオーケストラだったのよ。でも自分の学校でやるならいいけど、あの公民館、交通の便が悪くて辿り着くのがけっこう大変だし、今部費が月5000円だし。週1回の練習で月5000円払うならヤマハの教室にでも通った方がマシじゃないかという感じもあって。それで辞めていく子も多くて、私も正直いつまで続けるか、悩んじゃう」
「大変ですね−」
 
「私が辞めたらAちゃんも辞めちゃうだろうし、Aちゃんが辞めたら私も辞めちゃうだろうね」
「女の子ひとりでは寂しいですよねー」
「まあ、ホルンやるなら、オケじゃなくてもブラスでもいいしね」
「確かに」
 
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彼女とは楽団員ひとりひとりの噂話などもした。
 
「チェロの**君は女の子に手が早いから気をつけてね。お茶とかに誘われても行っちゃだめよ。気がついたら翌朝彼と一緒にベッドの中だった、なんてことになりかねないから」
「わあ、生臭い話」
 
「そういえば冬ちゃん、T君とも練習してるんだよね」
「うん。昨日はT君の家まで行って彼にチェレスタパートをピアノで弾いてもらって合わせる練習した」
「へー。まあ、彼は安全パイだからなあ」
「ふーん」
 
私がこの時「安全パイ」の意味を追求しなかったことが後で悔やまれた。
 
彼女とは翌日もカラオケ屋さんで会って「練習」をしたが、私の演奏技術がかなり上がってきていたこともあり、練習は2割くらいで残り8割はひたすらおしゃべりをしていた。
 
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最後に1度合わせて
「うん。完璧。じゃ土曜日は頑張ろうね」
と言って別れた。
 

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