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■夏の日の想い出・いと恋し(3)

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彼はそのヴァイオリンを取り敢えず8月の公演まで貸しておくということだったので、取り敢えず預かっておくことにした。カラオケ屋さんを出た後、駅まで一緒に歩き、そこで別れた。
 
そしてこのふたりで歩いていた所を見ていた友人が居た。
 
「ね、ね、冬、彼氏出来たの?」
と奈緒は言った。
 
「へ? なぜボクに彼氏ができないといけないの?」
 
「だって、昨日、新宿で冬はセーラー服着て、高校生くらいの男の子と何だか凄く仲よさそうに歩いてたの見たよ」
「昨日・・・新宿・・・? ああ! T君ね」
 
「冬が女の子と歩いていたらただの友だちと思うけど、女装で男の子と歩いてたら、ボーイフレンドかなと思っちゃう」
 
「まさか。彼、中高生を中心としたオーケストラやってて。ちょっと練習見に来ない? って誘われただけだよ」
 
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「いや、そういうお誘いを受けたきっかけは?」
「こないだ新幹線の中で偶然隣の席になって。私は半分寝てたんだけど、彼がひたすらしゃべりまくって。それで半ば強引に連れて行かれたんだけどね」
 
「それって、彼は冬に気があるということでは」
「まさか。純粋に自分たちの演奏を人に見せたいだけだと思うなあ」
 
「ふーん。新幹線ってどこからどこまで?」
「最初、東京から名古屋まで。それで帰りの名古屋から東京までも偶然また一緒になったんだよ」
 
「じゃ往復3時間同席したんだ?」
「こちらは寝ておきたかったんだけどね」
「でも新幹線で3時間女子中生と同席したら、彼としては結構ときめいてると思うよ」
「そんなものかなあ」
 
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「ああ、冬って男心が分かってないからね」
「うん。ボク男性心理はさっぱり分からない」
 
「彼とはそれだけ?」
「それがさあ。8月のそのオーケストラの公演でヴァイオリン弾いてって言われて、彼のヴァイオリン預かっちゃった」
 
「冬、ヴァイオリン弾けたんだっけ?」
「全然。こないだ初めて触った」
「初めて触って、けっこう弾けたんでしょ? 冬って器用だもん」
「自分としては単に音を出したって感じだったんだけどね」
 
「いや、ヴァイオリンは普通、音が出るようになるまでに時間が掛かるよ。それが出せなくて、入門以前の段階で挫折する子も大勢いるのに」
「そんなに難しいんだっけ?」
 
「でも、ヴァイオリンやるんなら、最高の指導者が身近にいるじゃん」
「うーん・・・・」
 
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その話はもう早速翌日にはアスカに伝わっていた。朝7時に電話が掛かって来たので何事かと思うとアスカからであった。
 
「奈緒とアスカって情報伝達が速いね」
「冬の性別に関する研究の協力網だよ。私と奈緒ちゃんと明奈ちゃんと」
「ボク、ふつうの男の子だけどなあ」
 
「嘘付くの、よくない。でも取り敢えずヴァイオリン始めたんなら基礎的なことは教えてあげるよ。今日、学校が終わったらそのヴァイオリン持ってうちにおいでよ」
 
そういう訳で、私はその日、陸上部の練習を休んでアスカの自宅を訪問した。アスカのリクエストによりセーラー服である。
 
「おお、セーラー服の冬ちゃん可愛い、可愛い」
と私を見てアスカは喜ぶ。
 
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アスカの家は閑静な住宅街にあるごく普通の2階建て住宅に見える。敷地面積が60坪、建築面積30坪(延べ面積60坪)くらいであろうか。
 
しかしこの家の地下に防音音楽練習室があるのである。アスカが4歳の時に、この子を将来音楽家に育てようというので、ここに土地を買い、最初から地下室と一体型で家を建てたのだそうである。
 
(なお地下室は延べ床面積の3分の1以下であれば延べ床面積に加えなくてよい。つまり容積率100%の場合、1階・2階と地下を合わせて実質150%の住宅を作ることができる)
 
アスカは幼い頃、ここに何日も実質閉じ込められたままヴァイオリンの練習をさせられたこともあるという。
 
「あの頃は夏休みとかが怖かったよ。学校があってる間は、学校にだけは行かせてもらえるからね」
「わあ。大変だ。でもアスカに才能があるからだよ。それを伸ばしてあげようとお母さんも頑張ってたんだと思う」
 
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「そうかも知れないという気はする。私に才能が無かったら、ああいうレッスンは無かったろうけど、そしたら別の意味でお母ちゃんから冷たくされてたかもね」
 
「ところでこの貸してもらったヴァイオリン、いくらくらいのものだろ?」
と私は訊いてみた。
 
「いくらだと思う?」
「これ、音の響きが良くないんだよね。借りたものに難癖付けるのも何だけど。響きが悪いのは私の腕が悪いというのもあるかも知れないけど、形がアバウト。ここの所とか板の継ぎ目が適当」
「ああ、これはひどいね」
 
「この made in Italy という刻印もなんか怪しい気がして。でもイタリア製といっても、ピンからキリまでありそうだし」
「まあ、キリだろうね」
とあっさりアスカは言う。
「それか実は中国製で産地偽装してるかだよ」
「やはり」
「それにこれ接着剤で板をくっつけてあるじゃん。問題外」
「ああ」
 
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「ねえ。そんなヴァイオリンで練習していたら変な癖付くよ。私がヴァイオリン貸してあげるから、練習はそれでしておいて、そのオーケストラに行く時だけ、そのヴァイオリン使いなよ」
「そうだね。じゃ遠慮無く借りようかな」
 
「これちょっと弾いてみる?」
と言ってアスカは棚から1台のヴァイオリンを取ってくれた。
 
「・・・これはかなり高価なものでは・・・雰囲気が上品」
「貸し賃は、8月に名古屋で一緒にお風呂に入ること、ということで」
「あはははは」
 
それでそのヴァイオリンを借りて試しに弾いてみると、物凄く豊かな音が出る!
 
「凄い、このヴァイオリン素敵」
と私は言ったが
「いや。いきなりそれだけの音を出せる冬ちゃんが恐ろしい。そんなにその子が弾きこなせるなら、ほんとにしばらく貸しとくよ」
とアスカに言われた。
 
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「そうだ。日付を聞いてなかった。従姉さんの結婚式はいつ?」
「あ、そうそう。あれね、8月はどうもみんなの都合が付かないということで9月25日になった。土曜日。だからナガシマスパーランドは26日」
「9月26日・・・・うん。OK。時間取れる」
と言ってアスカはしっかりダイアリーに予定を書き入れていた。
「遊園地の後、プールと温泉ね」
「あはは」
 

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T君から借りた教本は、アスカも「その教本は良い本」と言うので、アスカから借りたヴァイオリンで、最初からまた楽譜を演奏してみる。
 
「あ、そこは違う」
とか
「ここはこういう感じで」
 
などとアスカが模範演奏を見せてくれる。それで私がその通りに弾いてみせると
「冬って、以前自分でも言ってたけど、コピーが凄くうまいね」
 
「そう。でもそれがボクの使える所でもあり、困った所でもある」
「コピーすることで、その水準までは行けるけど、そればかりしていたら、やがてコピーできる上位者がいなくなった時に、どうにもならなくなるからね」
とアスカ。
 
「うん。それがボクのおばあちゃんのボクへの遺言だったんだよ」
と私。
 
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「ふーん」
 
アスカも自分の練習で忙しいので、私は今週だけ後1回見てもらい、来週からは週1でアスカの家を訪問して練習を見てもらうことにした。またアスカは今の教本をあげた後、次にやるべき教本を教えてくれた。
 

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金曜日にまた陸上部の練習を休んでアスカの所に行き、2回目のレッスンをしてもらってから帰宅すると、母が
 
「風帆姉ちゃんから、あんた宛てに荷物届いてるよ」
と言う。
 
「へ?」
と言って開けて見ると、ケースに収められた胡弓だ!
 
「うそ。。。取り寄せてくれるとは言ってたけど、こちらに送ってきたんだ!」
 
「あんた三味線以外に胡弓もするの?」
「いや、やってみようかな、と言ってみただけなのに」
 
「これ、いい胡弓だね」
「うん。値段を聞くのが怖すぎる。出世払いって言ってたけど」
「じゃ、頑張って稼がなきゃ」
 

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母は三味線に対してはわだかまりがあるものの、胡弓にはそれほど嫌な思い出が無いらしく、弾き方を少し教えてくれた。
 
「持ち方、ちょっと違う。こうやって、こんな感じ」
「あ、この方が弾きやすい」
「ね?」
 
私に教えているうちに、母も乗ってきて、模範演奏まで見せてくれた。
 
「15年ぶりくらいに弾いたけど、身体が覚えてるな」
「弾いてる姿が美しいと思った」
「そうそう。胡弓って、腕で弾く楽器じゃなくて、全身で弾く楽器だから。うまく弾けてる時は美しく踊るように見える、と言われた。でも冬、コピーするのは得意だろうけど、弾いている姿勢や仕草をそのままコピーするんじゃなくて、その雰囲気とか心とかに学ばないといけないよ」
「うん」
 
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「でも、冬、今アスカちゃんにヴァイオリン習ってるんでしょ?忙しいね」
 
「なんか同時進行になっちゃったね。どちらも擦弦楽器ではあるけど」
「混乱しない?」
「しそう。ヴァイオリンで『おわら』弾いたり、胡弓で『G線上のアリア』
弾いてしまいそう」
「それ弾けそうだけどね。私はよく胡弓でビージーズとか弾いてたよ」
「へー!」
 

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週末、オーケストラの練習に出ていった私は
「すごーい。物凄く上達してる」
「もう普通に弾けてるじゃん」
と言われた。
 
「弾き方が派手だね。第一ヴァイオリン向きって感じ」
「うんうん」
「今第一がT君1人だけで、第二が2人だから、唐本さんに第一に入ってもらうと音に厚みが出るな」
 
などということで、私は第一ヴァイオリンのパートに入れられ、T君と並んで、同じ譜面台を見ながら弾くことになった。
 
「第一がひとりって、もう一人おられると言ってませんでした?」
「ああ、あいつはもう3ヶ月出てきてないから、計算対象外」
「あはは」
 

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練習が終わってから、何となくT君と一緒に駅まで歩いた。
 
「一週間でここまで弾けるようになるって凄いね。本番までには僕よりうまくなってそう」
「私の演奏って、けっこうハッタリがあるから」
「そういう性格も第一ヴァイオリン向き。というよりソリスト向きかな」
 
「うーん。そういうのは物心付くか付かない頃からやってる人にはかないませんよ」
 
「そうかなあ。1年もやってたら差が無くなりそうだけど。もし気が向いたらずっとこの楽団に居て欲しいくらいだ」
「ごめーん。それはさすがに無理」
「そうだね・・・・そもそもこの楽団が存続できるかという問題があるし」
 
「何かあるの?」
「実は、8月の公演に、楽団をサポートしてくれている学校や自治体の関係者が見に来ることになってて、その評価が悪ければ支援が打ち切られることになってて」
「ああ、それは頑張らなきゃね」
と私は少し突き放すような言い方をした。同情するのは簡単だが、私はその結果を引き受けきれない。
 
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「あ、そういうドライな反応が好き」
「そう?」
「ここで『私もできるだけのことするね』とか無責任に言う子は嫌い」
「私は何もできないから。私、できないことはできないと言う性格だし、できないと分かっているのに努力しますとか言うのも嫌い」
 
「つまり、君が『やってみようかな』とか言う時は自信がある時なんだ?」
「そうでもないけどね」
 

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陸上部の練習は6月中旬から毎週水曜日は学校から少し離れた所にある陸上競技場で行われることになった。9月にある大会を見据えて400mトラックという長さ、そして全天候型というトラックの舗装に慣れることが目的であった。実際私は普段の土のグラウンドとのクッションの違いに最初の内、結構戸惑ったものである。
 
この陸上競技場での練習では私は毎回「居残り練習」をさせてもらっていた。みんなでやる練習が終わった後、更に競技場の回りを10周(約6km)走ってから帰るようにしていたのである。それは、ひとつにはやはり自分がとっても遅いので他人よりたくさん練習して少しでも速く走れるようになろうということと、もうひとつは、最後にひとりだけで帰るようにして、帰り道スカートを穿いて帰りたいという屈折した気持ちがあった。正直1日「男」を装って学校生活を送っていると、それだけで結構なストレスがあるので、少しでも女の子の服を身につける時間を取りたかったのである。
 
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しかし暗い夜道を女の子がひとりで帰るというのは実は危険な訳で、実際に7月の中旬には一度、痴漢に襲われ掛けて、私を心配して密かに見守ってくれていた加藤先生に助けられるなどということがあったのであるが・・・・
 

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それはそんな事件が起きる前。7月初めのことであった。
 
いつもは陸上競技場での練習は水曜日だったのだが、その週だけは金曜日に行われた。そしてこの日は翌日にこの競技場を使ってロックバンドのコンサートが行われるということで、フィールドにはそのための舞台が設置され、また椅子が並べられていた。そのためこの日はフィールドは使えず、トラックだけを使って私たちは練習していた。
 
私たちが練習している横で、その設営作業が行われていたのだが、音響を確認するためであろうか、出演するロックバンドとは違うメンツでギターやベースなどの音を出してスピーカーなどの設定や設置位置自体を調整していたようであった。演奏しているのは、この音響確認のために呼ばれたバンドであろうか、あるいは音響会社のスタッフであろうか・・・・
 
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私はトラックを走りながら、ああこんな広い会場で演奏するの、気持ち良さそうなどと思っていた。
 
やがて自分たちの練習が終わり、整理運動、ミーティングの後解散になり、私は部長に断って居残り練習を始める。競技場の外側を10周すれば30分以上掛かるので、その間にみんな帰ってしまい、私ひとりだけになる。
 
走り終わってから、再度自分だけで整理運動、柔軟体操などをしてから、他人の目が無いのをいいことに密かに女子更衣室に入って、汗を掻いた服を脱ぎ、着替用の下着(もちろん女の子用!)に着替え、上はワイシャツ、下はスカートという、中途半端というか優柔不断的な服装になる。
 

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■夏の日の想い出・いと恋し(3)

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