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■夏の日の想い出・いと恋し(6)

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そして金曜日。コンサート前日。
 
午前中、陸上部の練習に出てから、いったん家に戻りお昼を食べて、午後からT君の家に行き、またT君がチェレスタのパートを弾いて私のバスクラと合わせる。昨日・一昨日とEさんと、さんざん合わせていたので、今日はかなり良い感じで合わせることができた。
 
「すごーい。ほんとに二週間でものにしちゃったね」
「うーん。何とか弾けたというだけで、所詮は間に合わせですから。リーダーさんのクラリネット奏者捜しが上手く行けば、専門の方にお願いして」
「いや、あの人実際問題として探してないと思う」
「ああ、やはり」
 
「唐本さんなんかはノリでロハでやってもらっちゃったし、僕の大阪の友人なんかもお互い様ということで交通費も無しで無償で来てくれるけど、楽団として正式にエキストラお願いしたら交通費込みで5000円から1万円くらいは払わないといけないから、たぶん予算無いよ」
「なるほどねー」
「だいたい突然唐本さんにクラリネットをお願いすることになって、普通ならマウスピースくらい楽団の予算で買ってあげてもいいじゃん」
「いえ、いいですよ。マウスピースは個人専用だから、自分で買いますよ」
 
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「このソプラノクラリネットとかも、実はあの人の後輩というか彼女に頼んで高校のブラスバンド部の備品を無断持ち出しさせたみたいだし」
「えー!?」
 
「あの人、ポリシーが無い上に、行動力とか計画性とかも弱いからなあ。あの人がリーダーしている限りこの楽団の未来は無い気がする。まあ今回の公演で何とか支援継続をしてもらっても1年もたない気がするな。この1年でメンバー半分辞めてるし」
「はあ」
 
私はこのふたり本当に仲が悪いんだな、とあらためて思った。
 
その時、お母さんがこちらの部屋にやってきて
「ごめーん。会社から急用が入って。2時間ほど外出してくるから。夕飯は何か買って帰るね。冬子さん、ゆっくりしていらしてね」
「あ、いえ。私はそんなに長居せずに帰りますので。お気を付けて行ってらっしゃい」
「うん、ありがとう」
 
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お母さんが出かけた後も、私とT君は練習を続けた。そして1時間ほどして
「これだけ吹けたら全然問題無いよ。うちと同程度のアマチュアオーケストラで今の唐本さんより下手なクラリネット奏者もかなりいるよ」
などと言われる。
 
「うーん。それあまり褒め言葉になってない気がします」
 

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それで今日の練習はこのあたりまでにしようということになり、私が帰り仕度を始めた時のことだった。
 
「ね、やはり唐本さん、公演の後もうちのオーケストラに残ってくれないかなあ」
「それは無理だというのは最初からお伝えしています」
「今回は緊急事態でクラリネット吹いてもらうけど、唐本さんのヴァイオリンが捨てがたくて」
「評価してもらえるのは嬉しいですが、無理なものは無理なので」
 
「そうか・・・・ごめんね」
「いえ」
「ね・・・・」
「はい」
「僕、実は唐本さんのこと好きになっちゃって」
「は?」
 
「もし良かったら、僕と恋人になってくれないかな」
 

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男の子から告白されたことは初めてではなかったが、こんな唐突なシチュエーションからの告白は初めてだった。私は最初相手の言っている意味が分からなかった。
 
「そんな冗談言うと、私なんかだと大丈夫だけど、どうかした子は本気にしますよ」
と私は笑って言うと
「じゃ、失礼します」
と言って立とうとした。
 
「待って」
と言って彼は私の腕を掴む。
 
「本気なんだ。実は新幹線の中で会った時から、僕にとって理想の人だと思った」
「そんな話はお受けできません。聞かなかったことにしますから」
「いや聞いて欲しい。僕の恋人になって欲しい」
 
「ごめんなさい。私好きな人がいるの。片想いなんだけど、今は他の人のこと好きになれないから」
「君が好きになってくれるまで待つから、取り敢えず恋人として付き合わない?」
 
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うーん。なんて強引なんだ!
 
そのまま彼としばらく押し問答をしていたが私
「とにかく私帰ります」
と言って強引に帰ろうとしたが、彼は強引に私を座らせ、勢い余って押し倒す形になった。キスしようとするので平手打ちする。
 
「私、怒りますよ」
「でも君のこと好きなんだ」
 
私はこうなったら、そのことを告知するしかないと思った。
 
「Tさん、ごめん。私どうしてもTさんの愛を受け入れられない事情があるの」
「何?」
「ショックかも知れないけど聞いて。私、本当は女の子じゃないの。私男の子なの」
 
私としてはいわば切り札のつもりだった。ところがT君はとんでもないことを言った。
 
「知ってるよ。だから好きになった。僕、女の子には興味無いから」
「へ?」
「唐本さんが男の子だというのは最初から気付いてたよ。過去にそういう子と付き合ったこともあったし」
「えーー!?」
 
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「僕は男の子にしか興味無いけど、筋骨たくましいタイプとかはダメなんだ。優しい男の子、むしろ女の子っぽい男の子が好き。君みたいな男の娘はもう理想なんだ」
「ちょっと待ってーー!」
 

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こういう展開は予想だにしていなかったので、私は頭の中が混乱した。それでつい抵抗する力が弱くなってしまった。するとその隙に彼は私のスカートの中に手を入れてきた。パンティの上からあそこを触られる!
 
「ふふ。やはりちゃんと付いてたね。ここに何も無い子には僕は興味無い」
 
と言って、彼は下着の上からそれを弄び始めた。私は彼に押し倒されたままの状態である。
 
「ほら、大きくなって来た。ね、少し気持ちいいことしない?」
 
私自身、それが大きくなってしまったことに驚いた。でもちょっと待て。男の子と気持ちいいことって何するの〜〜〜〜!?
 
「パンティちょっと下げていい? 舐めてあげるよ」
 
舐める〜〜!?
 
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そして彼はほんとにパンティを下げてしまった。直接触られる!彼がそれを右手で掴んで上下させる。
 
「ほら、自分でもスカートやショーツ穿いたままこれこんなことしてるんでしょ?いけない娘。もうこんなに硬くなってきた」
 
それまでは正直な話、私自身、T君にちょっと憧れの気持ちが無かった訳でもない気がする。しかし、この言葉で私は完全に冷めてしまった。
 
オナニーなんてしないもん! 
嫌だ!こんなことされるのも!! 
 
私の中に、全てを拒否する気持ちが猛然と起きた。ちょうど左手が彼のヴァイオリンケースに触れた。私はそれを握りしめるとそれで思いっきり彼の側頭部を殴った。メキっという音がしたのでケースが壊れたかも? 本体まで壊れてたりして?
 
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彼はもう私が抵抗しないものと思い込んでいたようで、虚を突かれたようだ。彼が一瞬崩れる。私は全力で起き上がると、楽器は全部そこに置き去りにし、もう脱がされ掛けているパンティも脱ぎ捨てて、自分の荷物だけ持って部屋から飛び出した。
 
靴を履いている時間が惜しいので靴を手に持ち、ダッシュでマンションのエレベータホールに走る。
 
ちょうどそこにT君の母が登ってきた所だった。
 
「おばさん、お帰りなさい。失礼します」
と言ってお母さんと入れ替わりにゴンドラに飛び込む。お母さんがびっくりした顔をしているが、構わず私は1階のボタンを押してすぐに閉のボタンを押す。ふっと大きく息をつき、服装の乱れを直し、靴を履いた。
 
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心臓がドキドキしていて、ノーパンで少しスースーするのも気にならなかった。
 

電車に乗って、自分の家の最寄り駅まで来てから、公衆電話でリーダーの携帯に掛けた。
 
「済みません。ほんとに申し訳無いのですが、私今日限りで辞めますので」
「えーーーー!?」
「では短い間でしたがお世話になりました。失礼します」
「待って、待って。何があったの?」
「T君にレイプされかかりました」
「うそー。彼は男にしか興味無いから大丈夫だろうと思ってたのに、あいつバイだったのかな!」
 
何〜? それみんな知ってた訳??
 
あ。そういえばEさんがT君のことを「安全パイ」だと言っていたのを思い出した。そうか。女の子には興味無いから「安全パイ」だったのか。そういえばAさんも「T君が女の子と付き合う訳無いとは思った」などと言ってたぞ。うむむむむ。
 
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「そういう訳で、楽器は全部彼の所に置いてきましたので後で回収して下さい。それでは」
「待って。今辞められるとマジ困る」
 
「それは困るかも知れませんが、こういうことがあった以上、私はもうここにはいられません」
 
「ちょっと待って。Tと話し合うから1時間後に君の所に電話させてもらえないか?」
「分かりました。でも私の結論は変わりませんよ」
 

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1時間後。私はもう自宅に戻っていたが、電話してきたのはT自身であった。
 
「切りますよ」
「待ってくれ。少しだけ僕の話を聞いて欲しい」
 
彼はさきほどの事件のことを謝った。その上で私のことを好きなのは本当だと言った。それで大好きな私が目の前にいて、もう明日限りでこんな時間も持てなくなりそうというので、つい感情が暴走してしまったと言った。
 
「実は**とトラブル起こしたのも僕なんだ、春先まで、僕彼と恋人関係にあって」
「えー!?」
「それで僕が最近、唐本さんに目移りしているみたいだというので彼カリカリしていて。で喧嘩しちゃったんだよ」
「そんな恋人がいたら、その人だけを見つめてあげれば良かったじゃないですか」
 
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「うん。だから今回のことは全部僕が悪い。リーダーにその件も話して、僕はこの公演が終わったら退団することにした」
「それで私に公演に出ろと言うんですか?」
 
「厚かましいお願いだというのは承知の上で頼む。みんなこの公演のためにずっと何ヶ月も頑張ってきたんだ。自分のためじゃなくてみんなのために頼む。公演が終わったら僕を殺してもいいから」
 
私はふっと大きく息をついた。
 
「私まだ殺人で捕まりたくないから。分かりました。公演には出ます。でもTさんとお付き合いすることはないですし、公演の後は二度と顔も見たくないですから」
「分かった。とにかく明日だけ頼む」
 
私は電話を切った後、リーダーに電話し、明日の公演にだけは出ることを伝えた。
 
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「でも彼のヴァイオリンを借りたくないから、他の友人から借りたので明日は弾いていいですか?」
「うん、それはもちろん構わないよ」
 

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翌8月14日。私はセーラー服を着て、アスカから借りたヴァイオリンを持ち、公演の行われる公会堂に行った。リハーサルをするが
「唐本さん、そのヴァイオリン凄くいい!」
などと第二ヴァイオリン首席のNさんや、エキストラで来ている第一ヴァイオリンのKさんから言われる。
 
「音大のヴァイオリン科を目指している従姉が小学生の時に使っていたものを借りてきました。彼女、今はこれの10倍くらいの値段がするヴァイオリンを使ってますよ」
と言うと
「この弓だけでも、僕のヴァイオリンが2〜3個買えそう」
などと言われた。
 
私がT君の顔を見ないようにしていたことに気付いたEさんが
「何かあったの?」
と小声で訊いた。
 
「昨日T君にレイプされかかった」
「えー!?」
「私もう辞めますってリーダーに言ったんだけど、今日の公演だけは頼むと泣き付かれたから、とにかく今日までは頑張る」
「うん。悪いけど、今日だけは頑張って」
「だからT君も今日限りで退団するというし」
「へー。しかしT君って男の子専門と思ってたのに」
「バイなのかもね」
「でも潮時かも。T君とリーダー、どう見ても合わない感じだったもん」
「ああ、それは私も感じてた」
 
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リハが終わった所でミーティングが行われ、臨時参加の状態であった私が今日までであることを再確認するとともに、また突然だが、この公演を最後にT君が事情によって辞めることが告知された。
 

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客の入りは観客席の3割という感じであった。この公会堂は800人入るのだが、多分250人くらいであろう。その最前列に何だかお偉いさんという感じの人たちが並んでいる。この人たちが、学校とか自治体とかの関係者なのだろう。
 
リーダーが何だかほっとした表情を見せていた。
「どうかしました?」
「あ、うん。客の入りが良いから」
「これで良いんですか〜?」
「頑張って動員掛けたからなあ。今日の観客が200人未満だったら即支援中止ということだったんだけど、220人ほど入ってる」
「はあ・・・いつもはもっと酷いんですか?」
「この楽団を結成して最初にやった公演は40人くらいだった。3月にやった公演は30人くらいだった」
 
「30人って、ステージにいる人の方が客席にいる人より多かったりして」
「うん、そんな感じだった」
 
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